鉄くずの山に眠る、日本の資源問題。 “昭和のまま”回り続ける鉄リサイクルに、画像AIで光を当てるEVERSTEEL
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日本で廃棄される鉄スクラップの行方を、ご存知だろうか。解体されたビル、廃車になった自動車——それらは産廃業者の手を経て、20トン単位でトラックに積まれ、鉄鋼メーカーへと運ばれていく。スクラップの買い取り価格を決めるのは、今もなお「担当者の目」だ。積み荷の全貌は見えない。ごまかしも横行する。それでも業界は回り続けてきた。
この「昭和のまま」の業界に、画像認識AIを持ち込もうとするスタートアップがある。EVERSTEEL代表・田島圭二郎氏は言う。「環境課題を解くには、ちゃんと儲かる仕組みとセットでないと広がらない」——林業家の家に生まれ、鉄くずの山に飛び込んだ男の、静脈産業変革への挑戦に迫る。

田島圭二郎
株式会社EVERSTEEL CEO
東京大学工学部マテリアル工学科修士課程卒。1994年大分県に生まれ、家業である林業を見て育ち、自身も環境課題の解決を決意。東京大学で鉄鋼材リサイクルを研究した後、スイス工科大学で鉄スクラップの画像解析技術を確立。2021年にEVERSTEELを創業。
ポイント
・爆発物や銅を部品形状の学習で見抜く危険物AIと、厚み・砂の混入率から自動査定するAIによる検収業務の代替。
・熟練度の差が1台5万円・1工場あたり年間1億円規模のコスト差を生む目視査定と、「ミルフィーユ式」など業界慣行。
・データの乏しい「静脈産業」に、画像認識AIの一般化が溶かす前のスクラップを可視化する技術的転換点をもたらす現状。
・7年かかる熟練の目をAIへ継承し、新人育成の短縮と離職率低下、流通額連動のマーケットプレイス型モデルへの転換。
・林業の原体験に根ざす、環境課題の解決と「儲かる仕組み」を両立させ、理想と経済性を繋ぐプロダクト哲学。
INDEX
・AIで、20トンの鉄くずの山から「危険物」を見つけ出す
・鉄鋼メーカーの現場では、今も「目視」で年間1億円規模の差が生まれる
・なぜ誰も手をつけてこなかったのか。「静脈産業」という、データのない世界
・世界で最も環境課題を解消している、あの人たちのために
・7年かけて育つ熟練の目をAIに継承し、昭和の商流を新たなマーケットプレイスへ
・正論より、儲かるプロダクト——環境とビジネスを「繋ぐ」という哲学
AIで、20トンの鉄くずの山から「危険物」を見つけ出す
――スクラップはそもそも、どこから出てきてどのように鉄鋼メーカーまで届くのですか。
田島:量が一番多いのはビルや住宅、橋梁といった建築物の解体から出てくるもので、次が自動車です。ただ、これらは鉄鋼メーカーに直接届くわけではなくて、産業廃棄物の中間処理業者さんを経由します。鉄だけでなくコンクリートやアルミなど、あらゆる素材が混ざった状態で集まってくるので、そこから鉄だけをより分ける作業が発生します。
大型のものは油圧のギロチン機で切断して細かくしていきます。握り拳大まで粉砕するシュレッダー処理もありますし、ガス切断という手法もある。細かくすれば磁石で鉄だけを吸着して選び出せるので、細かくするほど選別の精度が上がる。そうして選別された鉄をトラックに積んで、鉄鋼メーカーへ運ばれていくわけです。
鉄鋼メーカーでは、そのスクラップを買い取り、電炉で溶かして再び鉄として再利用します。
――EVERSTEELはどのようなプロダクトを開発しているのですか?
田島:EVERSTEELは鉄のリサイクルに関わるAIを開発しており、大きく2つの機能があります。1つが危険物を検知するAI、もう1つがスクラップ買い取り価格を決める査定AIです。
鉄鋼メーカーの検収現場では、20トンのトラックに積まれたスクラップが次々と搬入されてきます。今はそれを熟練の担当者が目視で確認して危険物を見つけたり、価格を決めているわけですが、私たちが開発しているのは、その仕事を代替するAIです。

――危険物の検知とは、具体的にどういうものですか。
田島:スクラップの中に混じってはいけないものが2種類あります。1つはスプレー缶やガスボンベ、消火器といった爆発リスクのあるもの。もう1つが銅の含有物です。銅は鉄と相性が非常に悪くて、混入量が0.4%を超えると出来上がった鉄の表面が割れてしまって製品として使えなくなります。住宅を解体するとエアコンの配線など銅がたくさん使われているので、混入しやすい素材なんです。
ただ、銅は鉄で覆われた状態で存在していることがほとんどで、マグネットにも引っかかるので直接検出するのが難しい。そこで、銅を含みやすい「部品の形状」をAIに学習させる方法を取っています。例えばモーターの中には銅線が入っていることが多いので、様々な種類のモーターの形状を数万点単位で学習させて、どんなモーターでも検知できるようにしていく。配電盤やエアコンの室外機なども同様です。部品の形で間接的に銅の存在を検知する仕組みです。
――査定AIについても教えてください。
田島:スクラップの価格は大きく2つの軸で決まっています。スクラップの厚みと、砂の混入率です。厚みについては、薄いものほど安く、厚いものほど高くというルールがあります。小型家電は素材が薄くて鉄以外の配線なども多く使われているので不純物が混ざりやすい。
一方で鉄道のレールのように分厚いものは他の素材が絡んでいることがほとんどない。業界全体として、これ以上細かく定義するのが難しいので、まず厚みで大まかに判断しましょうという前提になっているんです。そこに砂の混入率を掛け合わせて価格を決める。その両方を、積載されたスクラップ全体をAIでスキャンして自動的に算出します。
鉄鋼メーカーの現場では、今も「目視」で年間1億円規模の差が生まれる
――そもそも、なぜ今も人の目視で検収しているんですか。
田島:スクラップというのは、一つひとつ形が違います。工場で均一に作られた製品とは違って、切り方もへこみ方も全部バラバラ。しかも20トンの積み荷ですから、全体を確認するのは物理的に不可能です。大型マグネットで吸着しながら荷下ろしをしつつ、見える範囲で判断していくしかない。そういう性質なので、長い間「人の目でやるしかない」という前提で業界が回ってきました。
トラック1台の平均的な買い取り価格は100万円ほどです。熟練の担当者と経験の浅い担当者とでは、同じ積み荷を見ても5万円ほど査定額に差が出ることがある。鉄スクラップ業者の粗利率は大体1%程度ですから、1台あたり5万円のズレは死活問題に近い。しかもこれが毎日のように起きているので、年間で積み上がると1工場あたり平均1億円規模のコスト差になってくるんです。
――搬入する業者側は、査定額を上げるために積み方を工夫しそうですね。
田島:それが業界では当たり前になっていまして。品質の良いスクラップと悪いスクラップを交互に重ねる積み方を、業界では「ミルフィーユ式」と呼んでいます。マグネットで一度に吸着できる厚みは大体決まっているので、その厚みのサイクルでうまく良し悪しが混ざるよう積んでいく。さらに間に砂を挟んで、マグネットで検出されにくくするような工夫まであります。
これは一部の悪質な業者だけがやっていることではなくて、業界全体の慣行として定着しているんです。産廃業者さん側も、自分たちがゴミを仕入れる段階から似たようなやり取りがあって、誰が悪いというよりは、それぞれのプロセスでいたちごっこになっている。真面目にやっている業者ほど損をする構造が、長い間放置されてきました。

なぜ誰も手をつけてこなかったのか。「静脈産業」という、データのない世界
――これだけ大きな課題が、なぜ長い間放置されてきたんでしょうか。
田島:誰も全容を把握できなかったからです。業界には「動脈産業」と「静脈産業」という概念があります。原料から製品を作って消費者に届ける側が動脈産業、廃棄物がゴミになってから処理・リサイクルされる側が静脈産業です。この静脈産業がとにかくデータのない世界で、どこで何がどれだけ流通しているか、データがほとんど取れていないんです。
アルミ缶を集めて回る自転車の方や、不用品回収の軽トラックがありますよね。許認可も整備されていないグレーな部分も含めて、ああいった人たちが機能して初めて社会からゴミが集まってくる。誰がどこから何を集めてきたかの記録など残るわけがない。国の法整備も、不法投棄が社会問題になった廃棄物の側から先に進んで、鉄や銅のように価値があって売買されているスクラップの領域はまだ規制が追いついていない。そういう状況が長く続いてきました。
――技術的な面での障壁もあったんですか。
田島:鉄リサイクルの研究は長い歴史がありますが、ほとんどの研究機関が取り組んできたのは「溶けた後の鉄からどう不純物を除去するか」という材料科学の領域でした。溶かす前の、雑多なスクラップの山をどう扱うかというところには、そもそも手が届かなかった。画像認識のAIが一般化してきたここ数年で初めて、溶かす前の段階でカメラで撮って検知できるんじゃないかという発想が出てきました。技術がようやく追いついてきた、と言ってもいいかもしれません。
――今がまさにその転換点だということですね。
田島:そうですね。日本製鉄やJFEスチールといった国内大手が、国内に新しい鉄リサイクル工場を建設しています。例えば八幡製鉄所のように鉄鉱石から鉄を作っていた工場をリサイクル向けに転換するような動きが始まっています。これまで日本を支え続けてきた巨大業界の商流が大きく変わる転換点で、データの基盤もマッチングの仕組みも、今まさに必要とされているタイミングです。
環境の観点から見ても、日本は鉄鉱石を海外から輸入して大量のCO2を出しながら製錬して、そのスクラップを海外に輸出してしまっている。CO2排出の責任だけを負いながら、資源としての恩恵は一部を海外に渡している構造を変えていくことが、国にとっても急務になっています。
世界で最も環境課題を解消している、あの人たちのために
――田島さんがこの領域に関わるようになったきっかけを聞かせてください。
田島:実家が林業をやっていまして、森を守ることを軸に経営している家系だったため、自然と環境課題を解いていきたいという意識が自分の中にありました。大学でリサイクルの研究室に入ったのもその流れです。「あらゆる産業で広く使われる鉄のリサイクルを促進すれば、ほぼ全ての素材のリサイクルが促進できる」という仮説のもと、鉄の研究を始めました。
ちょうど画像認識のAIが台頭してきた時期に学生だったので、AIと鉄リサイクルをかけ合わせた研究をやっていく中で、荒川沿いの鉄スクラップ業者さんにずっと通うようになりました。
――スクラップ業者に通って、どんなことをしていたんですか。
田島:危険物のデータを集めていました。スクラップに混じってはいけない危険物は、通常はほとんど混入しないのでデータが存在しない。だから現場で実際に集めておいてもらって、1点ずつ写真を撮ってデータにしていく作業を毎週繰り返していました。
グリーンバックを背景に置いて撮影すれば、切り抜いていろんな画像に合成できると思って、グリーンバックを持参して撮影を始めたんですが、3枚目にはもう汚れて全然グリーンじゃなくなっていて。そんなことをするために、毎週通い続けていました。

――毎週通い続けて、何か変化はありましたか。
田島:3〜4ヶ月くらい経った頃に、現場の熟練の方々が「毎週来る変な人」として認知してくれるようになりまして。そのうち興味を持ってもらえるようになって、行くたびに缶コーヒーをくれる関係になりました。話してみると、現場気質な方々ばかりなんですが、すごく人として温かくて。
毎日地道に選別作業をしている方たちなので、ある意味この世界の中で最も環境課題を解決している人たちです。一方で、本人たちは自分たちがそういうことをやっているという自覚が全くなくて。どちらかというと3Kの職場で、なかなか誇りを持ちにくい仕事だという意識でやっている方も多くいました。
それを変えたいな、と思うようになったのが、起業の大きな動機になっています。市場の大きさとか技術的な可能性が最後の決め手になったというよりも、あの現場の人たちの存在が一番大きかったですね。
7年かけて育つ熟練の目をAIに継承し、昭和の商流を新たなマーケットプレイスへ
――AIを導入することで、鉄鋼メーカーはどんなメリットがあるんですか?
田島:検収の熟練者になるまで、大体7年かかると言われています。しかもスクラップは製品の変化に合わせて常に変わっていくので、一度覚えたら終わりではなくて永続的な学習が必要です。今だとEVのバッテリーがどういう形状でスクラップになるか、というのも新しく覚えないといけない。
そういう変化を楽しんでやれる方ほど業界に残りやすいんですが、なかなかそういう人材ばかりではありません。熟練のノウハウをデータとして残す手段がなかったので、人が辞めたら終わり、という状況がずっと続いていました。AIが入ることで新人の立ち上がり時間を短縮できますし、離職率を下げることにも繋がると考えています。
――事業の戦略についても聞かせてください。
田島:鉄鋼メーカーは国内に数十社しかないので、社数単位の課金モデルだとどうしても限界があります。海外への事業展開や、流通金額に対して手数料をとるマーケットプレイス型のモデルが相性いいと考えていて、今まさにその転換点が来ていると見ています。
これまで業界の商流は、スクラップ業者と鉄鋼メーカーが飲み会で繋がって「あの時お世話になったから買って」というようなウエットな関係で成り立っていた部分が大きかった。これは談合や価格の吊り上げが起きやすい構造でもあります。でも今、日本製鉄やJFEが新しい革新電炉工場を建てていく中で、これまでの昭和から続く商流が変わる。そこにマッチングの仕組みを作ることができれば、業界の構造ごと変えられると思っています。
グローバルの展開も視野に入れていて、鉄のリサイクル構造は基本的にどの国でも同じです。産廃業者がゴミから鉄を選別して鉄鋼メーカーが溶かしてリサイクルする流れで、人の目で価格査定しているのも同じ実態がある。しかも検収の自動化に特化したプレイヤーは海外でもほぼ存在しない。国内で実績を作れれば、そのまま横展開できる可能性があると思っています。
正論より、儲かるプロダクト——環境とビジネスを「繋ぐ」という哲学
――レガシーな業界に入っていくうえで、どういうことを意識してきましたか。
田島:業界の方々も、「この業界おかしいな」と感じながらも、他に手段がないから回っている、という状況はみなさんどこかでわかっているんです。だから理想だけお伝えしても動かなくて。
まず「このプロダクトを入れるとコストカットできます、利益に直結します」というところから入って、使っているうちにデータが溜まりトレースできるようになって、本来あるべき業界の姿に近づいていく。理想と経済性を繋ぐプロダクトを作ることを、いつも意識しています。
実家の林業がその教訓を与えてくれていて。林業は環境にはいいんですが、なかなか儲からないので苦しい産業になってしまっている。環境課題を解決しようと思うと、ちゃんと儲かって皆が賛同してくれないと広がらない。インパクトが出ない。その両立を大事にしているのは、そういう原体験があるからです。

――目指しているビジョンも聞かせてください。
田島:静脈産業を動脈産業と同じ状態にしたいと考えています。動脈側では、欲しい品質のものを欲しい量だけ発注して買えるのが当たり前ですよね。でも静脈側では、鉄鋼メーカーが発注しているわけではなくて、門を開けておいたら入ってきた量がその日の購買量、という状態なんです。
業界のどこに何トン、どういう品質のスクラップがあるかをリアルタイムで把握できて、必要な人が適切にアクセスして買える基盤を作ることができれば、業界全体の構造が変わっていく。最終的には鋼材の単価自体を引き上げて、静脈産業全体の価値を底上げしていくことを目指しています。それこそがサプライチェーン全体が得をする構造への転換だと思っています。
企画:阿座上陽平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:鈴木光平
撮影:河合信幸