東京大学から様々な専門分野の教員をお招きして、大手町・丸の内・有楽町のカフェやレストランでドリンクを片手に“最先端の知に触れられる”講演を楽しむ『東大Week@Marunouchi』。イベント初日である2023年8月8日(火)にはGARB Tokyoにて、3名のスピーカーによる『AIがもたらす幸福とは。〜人工知能がもたらす未来の明と暗〜』をテーマとしたトークセッションが開催された。
技術進化がめざましいAIによって、我々の生活や企業、大学はどう変わるのだろうか。人類はそれをコントロールできるのか。AIは人間のような感情を持てるのか。ここ数年の間に私たちの生活を激変させるだろうAIについて、様々な角度から議論された90分。トークセッションを通して、AIが幸福の未来をもたらすには何が必要なのかを考えてみてほしい。
イベント登壇者
横山 広美
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構教授
専門は科学技術社会論。科学と社会に関して広く関心がある。AIの倫理、理系と女性、ビッグサイエンス、科学者の社会的責任論などを研究。東京理科大学理工学研究科物理学専攻博士課程修了、博士(理学)。東京大学理学系研究科准教授等を経て現職。独立行政法人高等専門学校機構理事、国際物理オリンピック2023協会理事。
松尾 豊
東京大学大学院工学系研究科教授
2002年東京大学大学院博士課程修了。博士(工学)。2007年より、東京大学大学院工学系研究科准教授。2019年より同教授。専門分野は、人工知能、深層学習、ウェブマイニング。2017年より日本ディープラーニング協会理事長。2019年よりソフトバンクグループ社外取締役。2020~2022年人工知能学会、情報処理学会理事。
鎌田 富久(モデレーター)
TomyK Ltd. 代表
東京大学大学院理学系研究科情報科学博士課程修了。理学博士。在学中にベンチャー企業ACCESS社を設立し、世界初の携帯電話向けウェブブラウザを開発するなどモバイルインターネットの技術革新を牽引。2001年に上場。2012年にTomyKを設立し、DeepTech Startupを多数支援。東京大学大学院(情報理工)特任教授。医療AIのLPIXEL代表取締役も務める。
藤井 輝夫
東京大学 総長
1993年東京大学大学院工学系研究科 博士課程修了。博士(工学)。同生産技術研究所や理化学研究所での勤務を経て、2007年東京大学生産技術研究所教授、2015年同所長。2018年東京大学大学執行役・副学長、2019年同理事・副学長(財務、社会連携・産学官協創担当)を務め、2021年より同総長に就任。専門分野は、応用マイクロ流体システム、海中工学。
INDEX
・東京大学の総長が指南する、「これからのAI時代に大事なこと」
・ChatGPTが日本でも類に見ないスピードで普及した理由
・重要な意思決定の場面で、AIを利用する際の注意点とは
・AIが教育現場にもたらす、本質的な変化とは
・AI誕生によって、創作の世界では「文章の上手さ」が関係なくなる
・AIが幸福をもたらすかは、いま世界中が同時進行で検証している
・AIをどのように使っていくべきか?幸福な社会のために考え続ける
・ここがポイント
東京大学の総長が指南する、「これからのAI時代に大事なこと」
鎌田:2022年11月を皮切りに各メディアで目にしない日はない程に生成AIが話題になっています。東京大学でも「生成AIを今後どのように活用していくべきか」という点が議論されているとお聞きしました。まず最初に、東京大学 総長である藤井先生に「東京大学で生成AIに対してどのように向き合っていくか」をお聞きしたいと思います。
藤井総長:東京大学では、学内の事務業務など生成AIを有効活用できる業務には積極的に導入していきたいと考えています。まだトライアル段階ではありますが、AIを導入することで圧倒的な時間短縮ができたという例も出てきました。そういった中で、学生に対しては「生成AIを積極的に活用していこう」と伝えています。入学式の挨拶でも「今後AIやロボット技術などのデジタルテクノロジーが日々進化していく中で、どのようなことを学んでほしいか」ということをお話ししました。
今後AIが社会にどのような影響を及ぼすのかを考えて指示するのは人間ですし、それを行うのは、これから大学で学んで社会に出ていく学生たちに違いありません。きっとこれからの社会ではAIでは判断できないようなことも必ず出てくると思います。その際に必要となるのが、自身のリアルな体験や現場での経験です。
東京大学ではフィールドスタディ型政策協働プログラムを導入しており、学生の皆さんに自治体などのプロジェクトに参加いただき、課題の抽出から解決策の提示、実施・実装などを体験できる機会があります。このようなリアルな経験がこれからのAI社会では重要になってくるとお伝えしました。知識や情報などはネットで検索すれば簡単に出てくる時代ですので、現場での経験や学びが今後もっと活きていく時代になるでしょう。ノースイースタン大学学長のジョセフ・E・アウンさんも『ROBOT-PROOF:AI時代の大学教育』という書籍の中で同じようなことを述べられています。
鎌田:学生時代というのは「何にでも果敢に挑戦して失敗できる特権」があるようにと思いますが、今の時代はAIがなんでも教えてくれるので、失敗したことがない学生が多くなってしまうのではないかと少し心配しています。この点はいかがでしょうか?
藤井総長:その通りだと思います。だからこそ学生に対して、スタートアップ・アントレプレナーシップのような機会にぜひ参加してほしいと伝えています。大学在学中は、自分がやりたいと思うことに積極的に挑戦してもらいたいですよね。簡単には成功しないかもしれないですが、仮に失敗したとしても次のことに挑戦してほしい。挑戦の結果次第で、アントレプレナー志向ではなくなって研究職に興味が出るかもしれませんし、企業への就職の道を選択するかもしれない。いろいろなことに挑戦できるのが在学期間の特権ですので、大学としてはさまざまなことに挑戦できる環境を今以上に整えていきます。ぜひ失敗を恐れずに新しい一歩を踏み出してほしいと思います。
鎌田:藤井総長からのメッセージでした。ありがとうございました。
ChatGPTが日本でも類に見ないスピードで普及した理由
鎌田:本日は生成AIの話を中心に、これからの私たちの生活や企業、大学でどのように使っていくべきなのか。どのような影響を与えてくれるのかという点を深めていければと思います。
現在日本における生成AIの現状について、政府のAI戦略会議の座長もされている松尾先生に伺いたいと思います。
松尾:今、日本中で生成AIが盛り上がっているのは、とても良い状態だと思っています。かつて日本がこれほどまでに早く新しいデジタルテクノロジーに対応したことは無かったんですよね。ChatGPTが世界に公開されたのが2022年11月30日ですので、現時点でまだ1年も経っていない中で、国もそうですし日本中の多くの企業でいろんな議論がされて利用されている状況は極めて異例なことなんです。とてつもなく速いスピード感で世界の動きとシンクロしています。今のスピード感を保ちつつ、国として企業として「AIをいかに有効活用していくのか」という次のステップにつなげていくのが現状の課題かと考えます。
鎌田:企業で生成AIの活用がスピーティに進んでいるとのことですが、この背景にはどのような要因があるのでしょうか。
松尾:世界中でChatGPTが流行したことで、大規模言語モデル(大量のデータと高度なアルゴリズムを活用して人間の言語を理解し、解釈し、生成する高度な AIシステム)の威力が一般の人たちにも知れ渡り、大勢の人を魅了しています。この人気の要因は、おそらく“言葉を取り扱うこと”に起因していると思います。
人間の能力には、反射神経や身体能力、計算能力などいろいろありますが、一般的には20代〜30代がピークでその後は能力が落ちていくものなんですね。しかし、言葉の能力に関してそうではありません。言葉の能力は生涯上がり続ける数少ない能力の1つです。言葉の重要性は年配の人ほど良く分かっているし、年配の人ほど言葉を使うのが上手です。人や組織を動かすには言葉が大事なことを理解しています。
だからこそ今回ChatGPTの登場で言葉に関するテクノロジーのイノベーションがインパクトのあることだというのが直感的に分かるのです。会社では組織のリーダーである年配者が若い人達に指示を出すことが多いはずですので、この重要性を非常に強く理解しているのです。
これまでに登場した新しいテクノロジーのほとんどは、若い人が先にキャッチアップして、その後に年配の方が利用し始めるという流れだったんですね。ところが今回は全く逆でした。意思決定権を持つ年配者が率先してChatGPTに関心を持っていることが、今の日本企業でのとてつもなく速い導入スピードに繋がっているのだと考えます。
重要な意思決定の場面で、AIを利用する際の注意点とは
鎌田:横山先生にお聞きしたいのですが、AIを重要な意思決定の場面で活用しようとすると、注意しなければいけないことは多数あると思います。特に、人の人生を左右してしまうような「採用」や「人事評価」などでは細心の注意が必要ですよね。その点に関して、企業がAIを使用する際に注意すべきことは何でしょうか。
横山:AIは非常に多くの意思決定の場で使用されています。軍事においては、あらゆるレイヤーでAIが使われており、AIから自由な判断というのはすでにないと言ってもよいでしょう。ChatGPTでも倫理的に問題がある事象を、人の判断でタグ付けをしています。この作業をしたケニアの人々の心的ダメージについては大きく報道されました。また、マイノリティの方がさまざまな場面でバイアスを受ける問題も継続して指摘をされています。
この点に関しては世界中でいろいろな研究が日々行われているのですが、人を評価することや、医療や虐待からの保護など命に関わる場面では、AIを非常に慎重に扱っていかなければいけない。科学論を研究する立場としては、「新しい科学技術が世の中に出たときは、過信しすぎずに細心の注意を払っていかなければいけない」ということを伝えたいです。AIに関して世の中で発表されているデータをすべて鵜呑みにするのではなく、どのように活用していくべきかを私たち自身が日々考えないといけません。考え続けるということが、新しい技術が世の中に出てきた時に最も重要な、私たちの関与の仕方であると感じています。
鎌田:AIの結果は参考にはするけど、どういうロジックでAIがその結果を導き出しているのかなど、情報の透明性や説明能力の話になってきますね。とはいえ、AIの利用を規制しすぎると使いづらくなってしまいますし、その塩梅が難しいのかなと思います。そんな点は政府のAI会議でも論点になっていると思いますが、松尾先生いかがでしょうか?
松尾:「広島AIプロセス」というものがあり、ChatGPTを含むAIの活用や開発、規制に関する国際的なルール作りを推進するため、G7の関係閣僚が中心となり議論を行っています。
ヨーロッパは非常に強い規制案を出しています。AIの透明性や説明性もそうですし、偏見や人権の問題にも対応していくという考えです。一方で、アメリカは先日バイデン大統領が有力なAI事業者を集めて、自主規制することを求めました。ですが、これは言い換えれば「あまり規制しない」という意味合いです。アメリカはAIの利用に関してどんどん進めていこうという考えなんです。その中で、日本が今後どういう立ち位置をとるかというのは、結構重要な論点になっています。
個人的には、日本企業はモラルが高いので酷いことにならないイメージがあります。果敢に挑戦していってほしいところです。今、生成AIの利用に関して、ホワイトな点はホワイトだと明示してルール化する動きが法務省から出てきているため、今後スタートアップ企業も今以上にAIを利用したサービス創出がやりやすくなっていくと思います。
鎌田:今後は企業にとってAIサービス創出の良い環境になっていくということですね。とは言っても、企業も倫理的な側面を事業上で考えていかなければいけない時代になってきたと思います。哲学者のマルクス・ガブリエルが「企業は倫理学者を雇うべき」ということを言っているのですが、企業がそのような機能を取り入れるためには、どうしたらいいのでしょうか。横山先生、いかがでしょうか。
横山:企業に倫理学者をという提案は、私も賛成です。倫理とは社会のルール作りなので、日々皆様のご判断で間に合う点も多いとは思いますが、経験上にない新しい事象については、議論に時間が必要ですし、迷いますよね。倫理の専門家が皆さんの会社にいらっしゃれば、一緒に議論をして決めることができる。合意したものについては、安心してAIを使うことができると思います。
あまり知られていませんが、大学でも倫理委員会や倫理審査を担当してくださる専門の教員がいます。研究をする際に「こうした調査をやっていいのか」「これは大学のお墨付きをもらって大丈夫か?」ということを大学内で倫理委員会にかけます。多くの論文誌で、研究論文にも大学の倫理審査を受けた番号を書かないと論文発表できないルールになっています。
そのような専門家が近くにいることは心の支えになるし、安心してAIの開発・利用をしていく原動力になる。規制や倫理は研究開発の邪魔をするものではなく、「安全運転をするためのシートベルト」だと思っていただければ良いかと考えます。
AIが教育現場にもたらす、本質的な変化とは
鎌田:教育や大学における、生成AI利用の観点でお聞きします。生成AIが誕生したことで、これからの試験は大変ですよね(笑)。試験やレポートで生成AIを使うことが増えていくと思います。そんな中で、これからの学生に期待することや、どういう風に教育が変わっていくかについてお聞かせください。松尾先生、どうですか。
松尾:これからの試験のやり方を短期的に工夫しないといけないことは、間違いありません。レポート課題は意味がなくなりますし、難易度を上げていく必要も出てくると思います。ただ、教育における「AI誕生によるインパクト」とはそういう話ではなく、もっと本質的な所でいろいろあるはずです。
以前に大学内で教育に関する生成AIのシンポジウムをやらせていただいた時に議論したのですが、今の学校教育で「成績がいい子」というのは、褒められることが嬉しい子なんですね。褒められると嬉しくて怒られると嫌っていう子が、勉強にそんなに興味ないけど真面目にやると成績が伸びるという風になっているようなんです。
しかし教育学を専門とする先生に言わせれば、これは全体の半分位で、残りの半分は自分が興味あることには興味あるし、興味が無いことには全く興味が無いと。人が褒めようが褒めまいが関係ないみたいなのです。たとえば、バイクが好きな学生がいた際に、世界史の授業で産業革命の話になったときに「君が乗っているバイクも産業革命の時にできたんだぞ」と教えれば、非常に興味を持って授業を聞いてくれるようになるんですね。一人ひとりが興味のある事柄で授業を進めていけばいいかもしれませんが、今の学校教育はマスで教育しないといけないので、それは不可能な話。
でも、ChatGPTみたいな対話型AIがあれば、それぞれの子の興味関心をベースにもっと引き出してあげながら、世の中のことや学ばないといけないことを広げていってくれるかもしれない。これは教育における大きな変化だし、そういうことが、AIが教育にもたらす変化の本質だと思います。
また、ChatGPTをツールとして上手に使えば、コミュニケーションがもっと良くなるはず。人間は人から話を聞く方が理解を深めやすいし、何か質問すると答えてくれる方が頭に入ってきやすい。そんなコミュニケーションの形態が増えてくるんじゃないかと考えています。
AI誕生によって、創作の世界では「文章の上手さ」が関係なくなる
鎌田:生成AIが誕生したことによって、クリエイティブな分野ではどのようなことが起こるのでしょうか。生成AIを使えば誰でも相当なレベルまで出来てしまうので、オリジナリティのレベルが上がらないと価値を生まなくなるのでは?と思っています。
松尾:まさにその通りです。佐渡島庸平さんという有名な編集者と議論して教えてもらった話なのですが、これから世界観が重要になると思います。例えば、TVドラマにもなった人気作品である「白い巨塔」は、病院の世界のことを作家さんが勉強して書いています。もしかしたら、お医者さんの中にもっといい作品を潜在的に作れる人はいるのかもしれない。しかし、そんな人がいたとしても文章を書く能力が無かったので、この世の中にはそんな作品は生まれなかった。政治漫画のジャンルでも、もしかしたら漫画家が政治家に取材して書くよりも、政治家が生成AIを使って書いた方が面白い作品が生まれるかもしれない、と。
これまでは文章がうまい人が評価されてきたのですが、生成AIが誕生したことで「世界観を持っているかどうか」が今後は重要になってくるかもしれません。自分はこういう世界を表現したいという思いを持っている人の方が、生成AIを使っていろんな良い作品を作れるようになるということを仰っていて、まさにそうだと思いました。
鎌田:文章力があれば書いたのに……という人がたくさん出てくるということですよね。それは面白いですね。横山先生にもお聞きしたいのですが、生成AIにどんどん役割を任せていくと、人間にしかできないものは何が残るんだろうかと思うんですけど、その辺はどう想像されますか。
横山:過去から学べない、新しい事象に対して、未来を想像して考え、行動するところではないでしょうか。それに、人の心を理解して尊厳ある対応をとることは人間ならではでしょうね。「こんなふうに思うと相手はきっとこう思うんじゃないかな」と、言語を含むコミュニケーションを重ねることで「私はこれを大事にしたい」と意思決定が成されるのは、人間ならではかもしれません。
しかしながら、ChatGPTのように、人間の思考を模倣するものは表面上、とても人間的に見えます。そうしたものを見ていると、「人間の感情とはなんなのか」「思考とはなんなのか」「責任をとれるのか」「これはAIとどう違うと説明できるのか」という点について、考えざるを得ないですね。日本でも哲学や倫理学、科学技術社会論などいわゆる人文社会科学分野でも議論が活発化しています。
AIが幸福をもたらすかは、いま世界中が同時進行で検証している
鎌田:今日は「AIがもたらす幸福とは」というのがテーマなのですが、AIがより使えるような時代になった時に、人間は今以上に幸せになれるのでしょうか。
横山:幸福、ウェルビーングに関する研究は、これまでに世界中でいろいろとされてきました。たとえば「病気をしないで健康でいられる幸福」や「家族と仲良く過ごせていることの幸福」など、幸福に関する研究は、随分わかってきています。AIはそうした幸福を増強したり、新しい幸福を生み出すかもしれません。一方で、科学技術の常として、戦争や破壊的行動にも使われます。そんな可能性や危険性は新しい技術が誕生した際には生じるものなのです。これを見ぬふりをするのではなく、しっかり考えた上でガバナンスを構築することが必要です。
生成AIの進化は、これまでの科学技術と比較しても、ものすごく速いのですね。一昔前であれば、新しい科学技術が研究室の中で生まれて、社会に出ていくまで10年や20年がかかりました。ところが今は、生成AIが開発されながら同時にオープンにされ、我々は同じタイミングでこれを経験しています。そして、作品や記事が無断で使われているとアーティストやメディアの方々などは、すでに非常に心配をされているわけです。
民主主義社会で、これをどうやって使っていくか、ルール作りはいまの私たちに委ねられている。科学論の観点で言えば、このスピード感は新しいチャレンジですが、基本的な構造は同じです。今はアップストリームエンゲージメント、つまり上流からの社会の関与が重要な時期です。社会全体の幸福がキープし増進できるか、その際に困る人がでないかに目配りして調整するなど、広い目で見ることが大事です。
AIをどのように使っていくべきか?幸福な社会のために考え続ける
鎌田:今回はお時間をいただき、ありがとうございました。これからAIを活用した社会になっていくと思うんですが、今後のヒントになるようなことや目指すべきことについて、最後にお二人から一言お願いできますでしょうか。
横山:私からのお土産の言葉としては、「レスポンシブルリサーチノベーション」という言葉を共有できたらと思います。RRIと私たちは呼んでいるんですが、責任あるリサーチとノベーション開発という意味ですね。RRIは研究開発をしている人だけではなく、もちろん使う皆様、社会全体がそれぞれ責任の一端を担っていると考えます。私たちはその責任を感じながら、より良い幸福な社会に向けて活動していく必要性があるのです。
AIが誕生して、今こういう状況で社会全体が一緒になって経験していることでもありますし、ぜひ皆さま個人個人がAIをどういうふうに使っていくべきかということを考えていただき、今回のような意見交流の場が増えていけば、社会全体のためになるのかなと思ってるところです。今日はどうもありがとうございました。
松尾:ぜひAIをいろんな場面で使ってほしいです。もしChatGPTをまだ触ったことない方がいらっしゃいましたら、ぜひ触ってみてください。
Microsoft Azure Open AIを使えば、会社組織の文章を検索可能にしてChatGPTに答えさせるという機能があります。ChatGPTに自身が所属する会社の情報や文書を検索可能にした状態で質問すると、その文章を検索・考慮して質問に答えてくれるようになります。そうすることで、あなたの会社に特化したChatGPTにアレンジすることができるんです。この使い方は、AIの次なる利用方法として大変有効的だと思いますので、ぜひチャレンジしてみてください。
鎌田:会場の皆様も最後までご参加いただきまして、はありがとうございました。これから生成AIをどのように使っていくかという観点は非常に大事ですし、 日本は先端技術を応用するのが得意という点もありますので、AI応用において世界をリードする存在になれる可能性も非常に高いんじゃないのかなと思います。ぜひ、皆さんと一緒にそういう可能性を開拓していきたいですね。
ここがポイント
・東京大学では、これからのAI社会においては自身のリアルな体験や現場での経験を学生にしてほしいと考えている
・ChatGPTが日本でも類に見ないスピードで普及したのは、“言葉を取り扱うこと”に起因している
・重要な意思決定の場面でAIを利用する際は、技術を過信せずに慎重に扱うべき。しかし臆するのは良くない。倫理審査の部門を設けるのも良い方法である
・教育現場でのAIは、個々人の興味関心にあった新しい教育方法を生み出す可能性がある
・クリエイティブ分野では、AIが誕生したことによって、新たなチャンスが生まれている
・幸福の社会づくりのためには、ルール作りは今が大事。アップストリームエンゲージメントで、社会がこのルール作りに参加することが大事
・科学技術の開発、使用には責任が伴う。レスポンシブル・リサーチ・イノベーションという考え方が大事
編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:VALUE WORKS