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中国トップシェアのサーバーベンダー「Inspur」が注目する日本市場。 成熟市場への参入方法とは

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今年3月、中国国内シェアトップ、グローバルシェア第3位を誇るサーバープロバイダー浪潮集団(Inspur、インスパーグループ)は、ディープラーニングや先端AI技術、膨大なデータ処理で高いパフォーマンスを発揮する「AIサーバー」を日本市場に投入した。このAIサーバーを導入する中国国内パートナーには、世界的な影響力を及ぼす百度(バイドゥ)、腾讯(テンセント)、阿里巴巴集团(アリババ)、その他全国家的な情報管理システム金盾(グレートファイアウォール)などがある。「中国のプロダクトは15年前とは比べものにならない」と語る、INSPUR JAPAN代表の王遠耀(オウ・エンヨウ)氏に、日本市場の参入の背景や参入障壁の高い市場での戦い方、中国系IT企業のプロダクトの現状について話を伺った。

王遠耀(オウ・エンヨウ)
INSPUR JAPAN代表
1966年中国福建省生まれ。高卒後、私費留学生として来日。関東学院大学卒。
2019年5月中国最大手のサーバーメーカーInspur(浪潮集団)の日本代表に就任。

INDEX

中国系テック企業の今昔
新規参入市場で、ステークホルダーと良好な関係を築くために
ここがポイント

中国系テック企業の今昔

――今、勢いのあるInspurグループの来歴を教えてください。

:Inspurは1945年に中国で設立した古参IT企業のひとつです。ネットワーク機器や通信機器を中心に開発から販売までを手掛け、80年台後半からはパソコンやLinuxベースのサーバー開発に着手、90年台からはサーバー開発に特化するようになりました。

――90年台初頭に中国初のマイクロサーバーの開発を主導し、長年にわたる中国国内の外国サーバーメーカーによる独占状態に風穴を空けた、と伺っています。また、中国国内における技術力や信用度の高さの象徴として、1970年に打ち上げられた中国初の衛星「東方紅1」に使用されたトランジスタもInspur製だったと。

:そうですね。現在ではハードウェアのベンダーとしてだけでなく、ソフトウェア開発も得意としています。情報テクノロジーを扱う合弁会社を4社設立し、それぞれネットワーク機器に携わるCiscoとの合弁会社シスコ・システムズやIBMのパワーシステムを搭載したサーバーを製造するIBMとの合弁会社、その他にもEricssonやLGなど様々なグローバル企業と提携を結んでいます。

――まさに業界最大手とのパートナーシップを結んでいるわけですが、それはさらなるグローバル展開を見据えた上での取り組みということなのでしょうか。

:実のところ、我々は海外でのシェアが非常に低いんです。最新のデータでは中国国内のシェアは約89%、一方アメリカは5%で、その他の地域を総合しても5〜6%にしかなりません。言い方によってはグローバル企業と言えるかどうかも微妙なところですから、これから強化していきたいところです。

――アメリカでは現地でMicrosoftとの共同研究開発や生産体制を構築し、その他の大手検索エンジンを運営する複数の企業とも協業されているとのことですが、その展開の流れから今年の日本法人の設立及び日本市場への参入を決められたのでしょうか。

:日本の経済規模は世界第3位で、ITインフラ需要も非常に大きい。日本全体で見ると、年間のサーバー市場は50万台前後を推移し続けています。マーケットとして見過ごすことはできません。
もともとInspurは日本製の部品を調達しており、私自身が長年日本でビジネスをしていたこともあり、日本のマーケットをよく知っていましたが、参入障壁は非常に高いものでした。例えば品質の問題もそうですし、IBMやHPなどの大手外資企業、NECや富士通、HITACHIなどの日本大手企業など強烈な競合他社が何十年も前から市場に定着しています。
それに日本の官公庁や地方自治体からのお声がけは我々のところには来ないでしょう。そう考えると、民間企業の中でも一部のネット関連企業やゲーム会社、配信事業関連会社など見込み顧客も限られてきます。

――そのなかで戦略的に市場を参入する新たな武器として「AIサーバー」を投入されたと。

:そうですね。汎用サーバーで日本のシェア獲得を目指す場合には、価格勝負するしかありません。だったら、世界NO.1シェアを獲得(*)し、世界最強と我々が自負する「AIサーバー」すなわちGPUサーバーで打って出ようと。グローバル企業への導入事例も数多くありますし、量産体制が整っているのでデリバリーも早く、コストパフォーマンスもいい。我々Inspurの強みを前面に打ち出してやっていこうと思っています。

*2019年度NVIDIAのDC市場におけるGPU収益貢献度 世界No.1

新規参入市場で、ステークホルダーと良好な関係を築くために

――いざ日本市場に参入するとなった際に、商習慣の違いなどがボトルネックになることもあったのではないでしょうか。

:そうですね。私自身来日して33年、IT業界に25年いた感覚からすると大手企業との取引実績の重要度がかなり高いように思います。どうしても他社と比較されてしまいますから。

――中国企業と比較すると、そうした企業のスタンスはどのように異なるでしょうか。

:まず中国企業の場合、性能と金額がよければひとまず使ってみる、という感覚があるところでしょうか。あとは中国メーカーが今なお敬遠されがちなところですね。確かに15年前であれば粗悪品も多く出回っていましたが、今はもうそんな時代ではありません。ほとんどのブランドメーカーが国際標準のプロダクトで、デザインも品質もよく、高い評価を受けている事実があります。そう言った意味で、誤解が払拭されていないように思います。もうひとつは、政治的な問題。日本の大手企業は、国家間の問題に非常に敏感ですから我々に不安を抱く企業もあります。そこについては、我々がターゲットとする品質重視で、万全のサポート体制に安心していただけるパートナーさんと組んでいけたらとも思っています。

――そうした理解のあるパートナーとの良好な関係を気付くために意識されていることはあるのでしょうか。

:パートナーである販売代理店のみなさんとの信頼関係をしっかり築くことです。当然のことながら、信頼されなければ当然売る気にもならないし、お客さんにも説明ができないわけですよね。そうした信頼を獲得するためには、Inspurの製品がマーケットフィットすることをしっかり理解いただくことと、インスパーの企業と製品についての共通認識をもっていただかなきゃいけないと思います

――共通認識をもつ、という点についてもう少し詳細をお聞かせいただけますか。

:今は社会情勢の関係から行き来できませんが、中国サイドの人間を日本に連れてきたり、逆に代理店のトップマネジメントを中国へ連れてご案内する。それから現場のエンジニアが製品を実際に触ったり検証したりして、製品の性能を実感してもらっています。そういったコミュニケーションをかなり密にしてますね。

――「百聞は一見にしかず」の通り、実際に現場の温度感や製品の性能を体感していただくことがなにより大事だと。

:そうですね。そういう意味では、ステークホルダーとの信頼関係を構築できれば、日本は本当に仕事のしやすい快適な環境だと思います。

――最後に今後の目指すあり方をお伺いさせてください。

:はい、Inspur全体としては2020年中に世界第2位、さらに2023年の3月期には世界1位を目指そうとスローガンを掲げています。INSPUR JAPANとしては、まずは直近2〜3年の間で日本法人の認知度を高めることに注力し、3年後には100億円企業を目指しますと。現在はソフトバンククラウドをはじめ大手の顧客も増えてきています。それでも日本の大手サーバーメーカーとは比べものにならない微々たる市場ですが、まずはそこからだと思います。

――ありがとうございます。

ここがポイント

・現在の中国のプロダクトは15年前とは比べものにならない
・InspurはCiscoやIBMと合弁会社を設立しているが、中国国内のシェアは約89%で海外比率は低い
・日本市場では世界最強と自負する「AIサーバー」で勝負する
・日本で重要になるのはパートナーである販売代理店
・信頼を獲得するために製品を理解してもらうことと、共通認識を持ってもらう必要がある
・ステークホルダーとの信頼関係を構築できれば、日本は本当に仕事のしやすい快適な環境
・直近2〜3年の間で日本法人の認知度を高めることに注力し、3年後には100億円企業を目指す


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:小泉悠莉亜
撮影:戸谷信博