※本稿は「C4BASE」の記事を転載したものです。
東京の象徴的なオフィス街である丸の内。その“大家さん”とも呼ばれる三菱地所は、コロナ禍で逆風にさらされている企業のひとつだろう。
しかし逆風であるが故に新しい挑戦を行うチャンスでもある。スマートシティは従来の不動産ビジネスの枠を大きく広げる可能性もある取り組みであり、同じく通信インフラ企業から都市生活全体を支えるプラットフォーマーへの事業拡大目指すNTTコミュニケーションズにとってもそれは同様と言えるだろう。今回は伝統ある両社のスマートシティというフィールドへの挑戦について三菱地所株式会社DX推進部ユニットリーダー篠原靖直氏とNTTコミュニケーションズ株式会社ビジネスソリューション本部スマートワールドビジネス部スマートシティ推進室 室長 塚本広樹氏の二名の最前線で活躍するリーダーによる対談を行った。
D4DR代表取締役社長 藤元健太郎氏
野村総合研究所を経てコンサルティング会社D4DR代表。広くITによるイノベーション、新規事業開発、マーケティング戦略、未来社会の調査研究などの分野でコンサルティングを展開。江戸の仕組みがポスト工業化社会のヒントという「超江戸社会」を提唱。PLANTIOを始め様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画。関東学院大学非常勤講師。日経MJ,Newsweek日本版でコラムを連載中。近著は「ニューノーマル時代のビジネス革命」日経BP
藤元:まずみなさんの自己紹介と会社の取り組みを簡単にご紹介下さい。
塚本:私はこれまで鉄道会社の決済プラットフォームや住宅メーカーのホームネットワークなどを担当し、現在スマートシティを担当しています。
NTTコミュニケーションズでは現在7つの分野におけるスマートワールド[1]を提案していますが、その中でもスマートシティはNTTグループ全体としてもとても重視している分野です。スマートシティ推進室は、デジタルツイン[2]を活用した人々が幸せになるまちづくりを目指し、ヒトやモノ、コミュニティ、建物、街をつなぐプラットフォーム(Smart Data Platform for City)の提供を開始し、街におけるデータ利活用を促進しております。
またスマートシティ推進室は、デジタルツインを活用した人々が幸せになるまちづくりを目指し、ヒトやモノ、コミュニティ、建物、街をつなぐプラットフォーム(Smart Data Platform for City)の提供を開始し、街におけるデータ利活用を促進しております。街区でのデータプラットフォーム活用については、来年度以降商業ビルで稼働する予定です。
篠原:私はこれまで資本参加による子会社化業務を担当したり、不動産の流通ビジネスの再建のために関連会社に出向したりと、スマートシティやDXとはまるで違う畑を経験してきました。
現在私の所属する部署では、従来の情報システム部としての”守り“とデジタル起点でのビジネスデベロップメントという“攻め”の両面を展開しています。攻めの例としては2019年には「スペースモーション」というエレベーターの中のサイネージに表示する広告ビジネスなども始めています。
三菱地所のような会社の役割としては都市OSなどの基盤はNTTコミュニケーションズのような会社に入っていただき、上位のサービス開発に注力することが大事かなと思います。やはりオフラインの接点が何よりも一番強いので、OMOのようにオンラインとオフラインがシームレスにつながる体験設計をしていきたいと考えています。
今、丸の内は危機的な状況にあり、新型コロナウイルス感染症の影響でオフィス需要が激減しています。これまで大丸有(大手町・丸の内・有楽町の3町域を合わせたエリア)は全体で就業人口28万人の街で、オフィスワーカーは毎日8時間を平日5日過ごし、週40時間過ごすのが当たり前でした。しかし、緊急事態宣言中は街全体で二割以下の就業人口です。緊急事態宣言が出ていなくても40%程度ですからもう戻らないかもしれません。
三菱地所株式会社DX推進部ユニットリーダー 篠原靖直氏
現在商業施設は歩合賃料ですが、もはや顧客は決済を店頭で行う必然性はありません。店はショールームとして使い、決済はスマホかもしれません。そうなるとマネタイズの仕組み自体を大きく変えていく必要があります。
しかし、オフラインで人と会う体験は決してなくならないでしょう。そのため我々はこの街ならではの体験価値を模索しなければいけないのですが、必ずしも新しいサービスである必要はありません。シュンペーターの言うニューコンビネーション(新結合)[3]のように、これまで持っているアセットやサービスのポートフォリオをいかにうまく組み合わせていくかが大事になります。
藤元:これまではビジネスマン中心で毎日固定的な都市生活者が大半を占めていましたが、これからは来街者が流動性のある街に変わるということになりますか?
篠原:現在の40万人を大きく越えて、100万人の人々が使ってくれる街に変わりたいと思っています。
藤元:多様な人が来街すると街の雰囲気も随分変わりますね。
篠原:今後は居住スペースも拡充するので住む人も増えますし、ホテルもさらに増えるでしょう。また丸ビル、新丸ビルなどの商業施設もまもなく竣工から節目の年を迎えるため、大幅リニューアルを計画しています。
藤元:色々な人が来訪するとセキュリティニーズも高まると思いますが、いかがでしょうか?
塚本:これまでは決められた一箇所のカメラの画像だったのが、複数のカメラを組み合わせて面として捉えることができるようになりつつありますので、人流の密度などを把握したり、物体を画像で認識してロボットと連動し、すぐに清掃することなども可能になります。
また物理的な接触を避けたいニーズも高まっているので、顔認証だけで何も触れずにゲートやエレベーターの出入りを可能にするようなことも実現しつつあります。
NTTコミュニケーションズ株式会社 ビジネスソリューション本部
スマートワールドビジネス部 スマートシティ推進室 室長 塚本広樹氏
藤元:街の流動性が高まると初めて訪れる人も増えると思いますが、そうした人々の移動のニーズへの対応はどうなっていくと思いますか?
篠原:昨年度から電動キックボード、シェアサイクルのステーション設置などは取り組んでおり、ゆくゆくは定額で乗り放題なども検討していきたいと考えています。また、街の特性上ロボットの公道走行もやりやすいのでどんどん実験していきたいです。東京駅での買い物した後、有楽町でも楽に買い物できるようにバトラーのように買い物の重い荷物をのせて追随してくれるようなロボットもあると便利ですね。
藤元:そのように複数のロボットが街を動くようになると制御機能も必要になってきますね。
塚本:そういった需要に対しては、個別ロボットのプラットフォームと我々の提供する都市OSが連動して管理するようなアプローチができると考えています。
後編では、データ活用や推進のための共創の取り組みなどについて伺っていく。
[1]スマートワールド:ICT(情報通信技術)を駆使して多種多様なデータを蓄積し、それらを利活用して既存の方式を改善したり、新たなシステムや技術、サービスを構築したり導入したりすることで、社会が直面しているさまざまな課題を解決し、よりよい環境を作り出していく取組みのこと。
[2]デジタルツイン:モノやヒトをデジタル表現することによって、現実世界(リアル)のツイン(双子)をデジタル上に構築すること
[3]ニューコンビネーション(新結合):『イノベーションの本質は「知」と「知」の組み合せであり、今ある既存の「知」と別の既存の「知」の新しい組み合せがイノベーションの源泉であるということ』を経済学者シュンペーターが唱えている
●転載元記事:https://www.ntt.com/business/lp/mirai_biz/people/interview_22.html