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TMIPビアナイト~事業創造を活性化する「場」の価値とは〜 イベントレポート

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丸の内を舞台に、多様なパートナーとの連携によるイノベーションの創出を支援する
TMIP*が開催する、ビールを片手にゆるくつながる交流の場、「TMIPビアナイト」。

今回は2023年9月7日(木)に兼松株式会社(以下、兼松)の本社に新設された交流を生み出すスペース『CAFE THE Perch(以下、Perch)』にて開催された。

「事業創造を活性化する『場』の価値とは」をテーマに、「30年後を見据えた兼松の成長を支えるワークスペースを構築する」を掲げ実施された本社の移転プロジェクトの中で考えられた新しいオフィスの在り方や、シリコンバレーとの比較で考えられる自然な会話やつながりが生まれるコミュニティについて語られた。

*TMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform)は、一般社団法人 大丸有環境共生型まちづくり推進協会が運営する組織で、丸の内エリア(大手町・丸の内・有楽町)のイノベーション・エコシステム形成に向けて、大企業とスタートアップ・官・学が連携して社会課題を解決することでグローバルなマーケットに向けたイノベーションの創出を目指すオープンイノベーションプラットフォーム。会員、パートナーを含めると150社を超える組織。本取り組みでは、プロジェクトの企画・実行をサポートしている。

■登壇者
梶内尚史
兼松株式会社 総務部 総務課長
総合化学メーカー、専門商社の新規事業担当を経験後、2008年兼松株式会社入社。バイオガスビジネス事業等に携わった後、ジャカルタに駐在。帰国後、総務に異動し、本社移転を担当。社員が出社したくなるオフィス、イノベーションを生み出すオフィスの構築に日々奮闘中。

西川真史
兼松株式会社 車両・航空統括室長 
2017年よりシリコンバレーに赴任し、2018年にKanematsu Venturesを立ち上げ、赴任期間中は社長を務める。Kanematsu Venturesでは先進技術やスタートアップの発掘を行い、本社・グループ営業ユニットへの橋渡しとその後の事業開発における伴走役を担う。2021年7月に帰任、12月より車両・航空統括室長。

INDEX

イノベーションの創出には、前段階として出会いが必要
30年後に若い社員が活躍出来る場を作りたい
場所は「人」がつくる
関係性をつなぐマジックワード、「キャッチアップ」
イノベーションには雑談が自由にできる雰囲気・仲間づくりが必要
きっかけが生まれる「場」

イノベーションの創出には、前段階として出会いが必要

TMIPは、大丸有エリアを中心とした、大企業とスタートアップ・官・学の連携による社会課題解決や事業創出に向けた取り組みを支援するオープンイノベーションプラットフォームで、112社(23年10月時点)の会員を有している。

イノベーションの創出には、その前段階として、人と知り合ったり課題を共有したりといった人間関係の起点が重要となる。「TMIPビアナイト」は、この人間関係の起点となるカジュアルな出会いを目的としている。

今回で第6回となる本イベントには、約40名が参加。その顔ぶれは、メガバンク、大手鉄道会社、大手リース会社、機械メーカー、官公庁、OA機器メーカー、総合商社、スタートアップ、地方自治体、大手法律事務所など多様な業種で、担当業務もCVCや新規事業、オフィスに関わる業務など多岐に渡った。

開催場所を提供してくれた、兼松はオーストラリアの羊毛の取引から始まった、1889年創業の老舗総合商社。現在は、車両・航空、電子・デバイス、食料、鉄鋼・素材の4部門をメインとしている。また、新しい事業領域として、石川県加賀市とのドローンデリバリーや、大分県との宇宙港を目指す取り組み、空飛ぶクルマの社会実装、バイオリサイクルによるGXへの取り組みなども行っている。

30年後に若い社員が活躍出来る場を作りたい

兼松は、2022年11月に東京本社を浜松町から丸の内に移転。その移転を担当した梶内氏は、2018年から進められた「本社移転プロジェクト」のビジョンについてこう語る。

梶内「兼松は、最初に東京本社を丸の内に構えてから約30年後に京橋の宝町に移転しています。その後も宝町に30年、浜松町に30年とおおよそ30年周期で拠点を移しているのです。今回も30年を一つの指標として考え、新本社のビジョンとして『30年後を見据えた兼松の成長を支えるワークスペースを構築する』を掲げました。

移転先として丸の内を選んだ理由もここに通じていて、プライム上場企業をはじめとした世界の名だたる企業が集積しているこのエリアは、兼松が成長スピードを加速させるために最適だと考えたのです」

梶内「私と一緒に本社移転プロジェクトを推進した中井は入社3年目ですが、30年後は彼女たちが管理職として兼松の屋台骨を支えているはずです。そんな若い社員が活躍できる場とは、常に変化を続け、部門を超えた付加価値を生み出すファシリティだと考えています。

付加価値を生むには、自ら事業を構築できる環境づくりや、プロフェッショナルを生み出す環境づくりが重要。一方で、兼松は来年で135周年を迎える歴史ある企業でもあるため、新規事業創造の際に兼松“らしさ”を継承することも重要です。そこでこれらを体現し、世界から注目される最先端のワークプレイス構築を目指しました」

場所は「人」がつくる

最先端のワークプレイスを考える上で、コンセプトとして「be.(ビードット)」を採用したという。

梶内「”be.”には従業員一人ひとりが『成りたい自分を持ち続ける事』を大切にしてほしいというメッセージが込められていて、ワークショップで若い社員からの提案を受けて決定したものです。オフィスのデザインコンセプトもこれを受け『なりたい』をデザインする“besign”と定めました。

場所は空間ができれば完成ではなく、働く『人』がいることでつくられます。そのため、これまでの島型の固定席を廃止し、ABW(Activity Based Working)の考え方に則った、完全フリーアドレスを採用しました。その日にあった自由な働き方ができる環境を整備しており、キャンプファイヤーの様にワイワイと話をしながら働くスペースや、知の集積や共有を行うライブラリ、オープンなプレゼンテーションを行う場所などが設けられています。ただ、管理職が自分の周りに自部署のメンバーを座らせたがるなどがあるため、管理職のマインドチェンジは課題です。フリーアドレスになったことで、私自身は総務メンバーと話すためにオフィスを端から端まで行き来するので1日1万歩ぐらい歩くようになりました(笑)」

様々な用途のスペースがある中でも、偶発的な出会いの場となっているのが本イベントの会場でもある「Perch」だ。

梶内「コラボレーションの場として設けたのがカフェ・社食の機能も持つPerchです。ただ、嬉しい誤算というか想像以上にコラボレーションが生まれる場となっています。当初から一般的な社食を作るつもりはありませんでしたが、ここまで様々な用途に活用されるとは思いませんでした。

最初こそ総務中心にイベントの仕掛けなどを行ったものの、気づいたら自然発生的にイベントごとが開催されるようになっていました。食品部門、畜産部門などが輸入した食材を使ったお弁当を、取引先と一緒に食べることで営業サポートになったり、社員向けにお肉の販売会が行われ従業員の満足や事業理解につながったりと、想像以上の効果を生んでいます。それこそ、この後話す西川と中井が交流するようになったのもPerchでのWBC放映イベントがきっかけでした」

関係性をつなぐマジックワード、「キャッチアップ」

トークセッション後半では、シリコンバレーへの赴任経験がある西川氏を交えて、自然な会話や繋がりが生まれるコミュニティについて語られた。

西川「コロナ前のシリコンバレーでは、色々な人が主催するミートアップが頻繁に開催されており、そこに行けばネットワークを広げることが可能でした。ミートアップは、アメリカ系の企業だけでなく、日系企業が実施するものもありましたし、自社の紹介だけでなく、『仲の良いスタートアップの人が話すからおいでよ』というものもありました。このあたりが、日本とシリコンバレーの違いかもしれませんが、自分がやっていることを知ってもらうのではなく、色々な人がやっていることをみんなで共有していく文化がありました。

現地で言われて印象的だったことに『Give and Takeではなく、Give and Give and Give and Takeぐらいでないと、評価されなくなる』というものがあります。ミートアップにおいてもそれは共通していると感じます。現地のVCなどと話す際も、最初に聞かれるのは『あなたは何をやってるの?私に何が手伝える?』というもの。だからこそ私も、現地のスタートアップを日本側に紹介し、だめだった場合は何がだめだったかをフィードバックすることで、Giveすることを心がけていましたね」

西川氏は新しいオフィス環境と、シリコンバレーとGiveの文化はリンクする部分があるとする。

西川「フリーアドレスになり、Perchができたことで、様々な部署の人が自由に会えて知らない人同士がぶつかる環境はシリコンバレーとリンクします。実際、飼料部の人が輸入のために穀物を載せた船がいつ頃入港するという話をしていると、同じ船の名前が近くの別の席でも挙がっていて。聞いてみるとそっちはエネルギー部で同じ船に燃料給油していたことがありました。だったらお互いの部署がやっていることを情報共有しようと、それまでなかった部署間の交流が生まれた事例があります」

たまたま出会ったり、知り合ったりしたあとの関係性の構築に対しては、キャッチアップの文化を提案する。

西川「シリコンバレーで驚いたのが”キャッチアップ”の文化です。向こうで名刺交換した後は、とにかく会ってお互いやっていることの情報交換をしようとなります。ほぼ100%ですね。その際のマジックワードが『キャッチアップしよう』です。明確なアジェンダを持たずに、お互いに『何にやっているか?どんなコラボできるか?』みたいなことをじっくり話すのです。日本に戻ると、名刺交換やイベント後の発展が少ないので、これは取り入れてみてもいいと思います」

イノベーションには雑談が自由にできる雰囲気・仲間づくりが必要

場の持つ可能性に話が及ぶと、梶内氏は「オフィスとしての執務エリアはなくなっても社員が気軽に交わるカフェのような場所は残るだろう」と述べた。

梶内「バーチャルやオンラインはどんどん進歩しているので、30年後はメタバース上で仕事をしているのかもしれません。だから、オフィスの機能としていわゆる執務エリアは存在していないかもしれないと思っています。一方でPerchのような交流の場は30年後、さらには50年後でもあり続けているのではないかと思います。社員が気軽に交われる場所ですし、大切にしてバージョンアップをしていく必要性を感じています」

西川「やっぱり、顔を合わせて、膝を付き合わせて話すことから色々生まれてくると思っています。私達のような商社は一人では何もできません。パートナーや支えてくれる人がいてそこに価値を提供できていると思います。だからこそ、いろいろな知恵をかりたいですし、そういうものは、おしゃべり・雑談から始まることも往々にしてあります。梶内がバーチャルについて触れましたが、やっぱり、顔を合わせて、膝を付き合わせて話すことから色々生まれてくるのだと思っています」

きっかけが生まれる「場」

トークセッションの後は、兼松のオフィスを見学するオフィスツアー、交流会が実施された。

本イベントは、西川氏からの「イベントは、イノベーションのきっかけが生まれる“場”である」という言葉で締められた。

西川「イベントなどでの出会いはきっかけです。そしてそのきっかけを生むのが“場”の持つ価値です。今回のTMIPのイベントで、名刺交換をしたら積極的に情報交換をしてほしい。そして、プラットフォーマーとしてTMIPがそれらの活動をよりサポートしてくれることを期待しています。そこから、イノベーションの種が生まれてくると信じています」

交流会中は至るところで名刺交換が行われ、話に花が咲いていたため、この言葉の通り、後日複数の「キャッチアップ」が行われるはずだ。

兼松が本社移転プロジェクトにより起こそうとした社内の事業加速や交流促進、西川氏が語ったシリコンバレーのコミュニケーションは、イノベーション創出の前段階としてTMIPが企図する“偶発的な出会い”とも共通しているという。“偶発的な出会い”や“きっかけ”づくりは、イノベーションの創出には必要なプロセスであり、重要なのはオープンマインドを持った人が、適切な距離感で、偶然出会える「場」があると言うことだろう。兼松の本社移転プロジェクトによって実現した本イベント。イノベーション創出に欠かせないプレーヤーがますます集積する東京・丸の内に今後も注目していきたい。