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事業立ち上げに必須となる“ニーズの喚起”とは?「防災×ギフト」KOKUAのマーケティング戦略

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事業は「需要」のある場所で展開するのが定石だが、需要を喚起するのが難しい市場も存在する。「防災グッズ」もそこにあてはまる。災害が起きれば誰もが求める防災グッズも、日々の生活で意識している人は多くない。災害大国である日本ですら、防災グッズを売るのは至難の業と言えるだろう。

そんな中、防災グッズを「カタログギフト」と組み合わせることで、爆発的に知名度を上げているのがKOKUAだ。「防災×ギフト」という組み合わせは決して目新しいコンセプトではないものの、同社はなぜ市場に受け入れられたのだろうか。

今回は代表の泉勇作氏にインタビューを実施し、起業した経緯からコンセプトを作るまでの過程を語ってもらった。


泉勇作
株式会社KOKUA 代表取締役
幼少期に神戸市にて阪神淡路大震災で被災。大学の入学式直前に発生した東日本大震災をきっかけに、NPOで災害ボランティアを始める。2019年に一般社団法人防災ガールのアクセラレータープログラムに参画し、防災事業の立ち上げに向けて取り組む。一人の力ではなく協力し合うことで防災を解決することを信念に、協力するという意味がある「KOKUA」という名前で創業。事業企画や全体の意思決定を担う。

ポイント

・KOKUAが防災グッズのカタログギフトに取り組むのは、ギフトとして防災グッズを送り合う文化を作ることで、防災意識が高くない人の防災意識を高めるのが目的。
・カタログギフトの形にすることで、キャッシュフロー上は先に入金があるため、急に何千冊という注文があっても資金がショートするリスクが減り、資金の問題を解決できた。
・“モノ”としての価値ではなく「なぜ送るか」という“意味”としての価値を感じてもらうサービスを作りたいと考え、防災ではなく“ギフト”について徹底的に調べ上げた。
・事業を立ち上げるうえでは、ユーザーインタビューは何よりも大事しており、定量データと定性データの繋ぎ合わせを意識した。

INDEX

救援活動での出会いが起業のきっかけに
コロナ禍でピボットを余儀なくされて生まれた“ギフトサービス”
“機能”よりも“意味”に価値をもたせる新しいギフトの形
「インタビューと市場調査」サービスが伸び悩んだ時期に徹底したこと

救援活動での出会いが起業のきっかけに

――まずは現在の事業内容を聞かせてください。

:私たちは防災グッズとカタログギフトを組み合わせた「LIFEGIFT」というブランドを展開しています。防災意識が高くない人は、自分で防災グッズを買う機会が少ないため、ギフトとして送り合う文化を作ることで、防災意識を高めるのが目的です。

カタログの中から防災グッズを選ぶ過程で、どんな防災グッズが世の中にあるのか知れますし、自分たちにどんなグッズが必要なのか考えるようになります。これまで防災を意識したことがない方に、防災グッズとの接点を作るサービスとなっています。

――なぜ防災をテーマに起業したのでしょう。

:私は幼少期に阪神・淡路大震災を経験しまして、毎年1月17日が近づく度に家族で震災について話しながら育ってきました。さらに大学の入学式の1ヶ月前に東日本大震災が起こり、それを機に災害救援活動を始めるようになったのです。

それから災害との接点が増えるようになり、毎年のように救援活動に参加していました。就職したのは防災と関係のない広告会社だったのですが、社会人で培ったスキルで防災に貢献できないかと思い起業に至ったのです。

――起業に至った経緯も詳しく聞かせてください。

:起業のきっかけになった共同代表との出会いは、学生時代に参加した救援活動のバスの中でした。彼も防災とは関係のない業界に進んだものの、お互い社会人になっても有給をとって救援活動に参加し、災害がある度に顔を合わせていました。

救援活動で彼と会う度に「こんな防災の仕組みがあったらいいよね」とバスの中で議論したのが起業の種になりました。もしも一人だったらボランティアで終わっていたと思いますが、お互いに別の業界で働いたからこそ、違う視点でアイディアを出し合い議論が白熱していったのです。

コロナ禍でピボットを余儀なくされて生まれた“ギフトサービス”

――どのように事業モデルを考えていきましたか?

:最初は企業の新人研修に防災を組み込むような事業を考えていました。防災にはいくつかフェーズがあって、その最初かつ最も重要なのが、どんなリスクがあるのか知ってもらうことです。

一方で、単に防災について啓蒙活動をしても、防災について興味のある人しか聞いてもらえません。そこで防災との接点を作るために研修サービスを始めようと考えました。起業する前にピッチをしていたところ、思いのほか反響がよくて。

企業研修に飽き飽きしている人も、災害について学びながらの研修は新鮮ですし、企業としても社員の防災意識を高められます。加えて研修サービスは利益率も高いため、独立する見込みも立てやすかったのです。

――なぜ研修サービスから防災グッズにピボットしたのでしょうか。

:独立した直後にコロナ禍になってしまったからです。それまで進めていたプロジェクトも全て中止になり、再開できる見通しも立てずピボットせざるを得なくなりました。新しい収益源を見つける必要があり、目をつけたのが防災グッズです。

起業当初から、いつかは防災グッズで事業をしようと考えていたのですが、防災グッズを作るとなるとまとまった資金が必要になります。研修事業が軌道に乗ってからの第二の矢として考えていたのですが、先んじて立ち上げることにしました。

――なぜ防災グッズに目をつけていたのでしょう。

:一つは日本の防災グッズはレベルが非常に高いからです。世界でも、こんなに高品質でデザイン性に優れたグッズを作っている国は他にありません。その事実を多くの人に知ってもらいたいとずっと思っていました。

また、私たちの事業のゴールは、多くの人たちに防災との接点を作ることで、その役割を担ってくるのが防災グッズだと思っていて。防災グッズを事業化するにあたってネックになる資金の問題も、カタログギフトと組み合わせることで解決できたのは大きいですね。

――カタログギフトだとどうして資金の問題を解決できるのですか?

:カタログギフトならキャッシュフローを回しやすいからです。カタログギフトは、まずはお客様にカタログを買ってもらってから注文が入り、その後にメーカーが商品を発送するためお金が先に入ります。商品はメーカーから発送してもらうため在庫を持つ必要もありません。仕入れのお金は準備しておく必要はありますが、キャッシュフロー上は先に入金があるため、急に何千冊という注文があっても資金がショートするリスクがありません

また、自身の経験からもギフトには大きな可能性を感じていました。独立前に勤めていた会社では同僚に誕生日プレゼントを渡し合う文化があったのですが、毎年同じ物を渡すわけにはいかないので年々難易度が上がっていきます。そんな時に、その人にあった防災グッズを見繕ってプレゼントした時にとても喜んでもらえて。いざという時に役に立つため、もらって困る人はいないだろうと思いました。

“機能”よりも“意味”に価値をもたせる新しいギフトの形

――“防災×ギフト”というアイディアは過去に存在しなかったのでしょうか。

:防災とギフトを組み合わせるアイディアは、決して目新しいものではありません。実は業界大手の中にも、ギフト事業を展開している企業は何社かあります。しかし、世に認知されるほど成功したサービスがないのも事実です。

それら過去の事例を徹底的に調べながら、事業作りの参考にさせてもらいました。

――どのように既存の“防災×ギフト”サービスとの差別化を図ったのか教えてください。

:私たちが当時深掘りしたのは、防災ではなく“ギフト”でした。ギフトについて徹底的に調べ上げて、たとえば人がギフトを送る時にどういうパターンがあるのか分類したのです。相手によく思ってもらいたいパターンや、真心で送るパターン、見返りを求めるパターンなど様々なパターンに分類していきました。

また、徹底的に考え抜いたのは“ユーザー目線”です。私たちは「防災を広げたい」という気持ちがあるものの、それを前面に出すほどユーザーは離れてしまいます。いかにユーザーが求めるサービスを作りながら、その中に防災を組み込めるか徹底的に考え抜きました。

――調べ方で意識していたことはありますか?

:経済的な市場の話だけでなく、ギフトというものが文化的にどのように成り立っているのか調べました。人にものを送るという行為である「贈与」が、人類史の中でどのように発生し、どのように変化してきたかということです。

自分たちが「どうありたいか」を追求するのもいいのですが、そこに偏ってしまうと世の中の流れにマッチしないこともよくあります。過去にギフトについてどんな挑戦がされてきたのか、どんなサービスが生まれてきたのか知ったうえで、自分たちが目指すサービス像を考えてきました

――ギフトという文化の中で、どのようなサービスを目指しているのか聞かせてください。

:「何を送るか」という“モノ”としての価値ではなく「なぜ送るか」という“意味”としての価値を感じてもらうサービスを作りたいと思っています。相手のことをよく知っているなら、その人が欲しがるようなものを送ればいいですが、時には背景や価値観をよく知らない相手にプレゼントするケースもありますよね。

何を送れば喜んでもらえるかわからないけど、相手のことを大切だと思っている気持ちは伝えたい。いざという命を助けてくれる防災グッズは、そんな気持ちを表すのに最適だと思うのです。

「インタビューと市場調査」サービスが伸び悩んだ時期に徹底したこと

――実際にサービスを作ってみて、市場からの反応について聞かせてください。

:初速はクラウドファンディングの反応が大きくて、1日で100万円、最終的には約370万円の寄付金が集まりました。ただし、そこには知り合いや身内からの応援も含まれていたため、その時点では「市場に受け入れられた」とは思えませんでした。

一方で、もう一つ幸運だったのがメディアからの受けがよかったことです。多くのメディアから取材が殺到し、特にNHKで取り上げていただいたことで大きな反響があって。

実は、メディアで取り上げてもらえたのは、偶然ではなく戦略によるものです。私は広告業界にいたので、メディアがサービスの機能よりも、その背景にあるストーリーを好んで取り上げることを知っていました。そのためSNSやブログを発信する際も、サービスの内容よりも自身が被災し、救援活動で知り合った仲間と創業したストーリーを積極的に発信していたのです。

――サービスをリリースしてからは、順調に伸びていったのでしょうか。

:いえ、メディアから大きな反響があった一方で、広告の成果はあまり芳しくありませんでした。リリースしてから数カ月間は、広告費だけが垂れ流しの状態が続いたのです。

当時は成果をあげるために地道にサイトを改善していきました。奇をてらった施策を行うのではなく、ユーザーの事例をサイトに載せ不安を解消し、ユーザーの声に耳を傾けながらサービスの使いづらさを一つひとつ解消していったのです。

また、当時行ったのが市場の見極めです。それまではギフト市場全体を見ていましたが、その中にも様々な市場があります。例えば「引っ越し祝い」や「退職祝い」など、ギフトを送るシーンにも様々あり、その中でどんなシーンが自分たちと相性がいいのか見極めていったのです。その結果、結婚祝いや出産祝いとの相性がいいことが判明し、セグメントをかけながら広告を出稿していきました。

――結婚祝いと防災グッズの関連性があまりイメージできないのですが。

:これは私も驚いたのですが、結婚祝いで贈る方が多かったのです。結婚祝いというのは、多くの人からギフトが届くため、他の人と内容が被ってしまうと迷惑になることもあります。その点、防災グッズは他の方と被るリスクが低いですし、いざという時に役に立つため、もらって困るものでもありません。あとは、新郎新婦のどちらかのことはよく知っていても、相手方のことをよく知らないため、贈るものに困るケースもあるようです。

特に私たちが扱っている防災グッズはデザインも優れているため、結婚祝いに選んでくださる方が多かったのです。

――市場をセグメントすることで、広告での反響も増えていったのですね。

:そうですね。同時に法人市場に参入したのもこの時期です。法人のギフト市場があることは以前から知っており、いつかは参入したいと考えていました。メディアにも取り上げられ、サービスの認知度が広まってきたタイミングで、新しくチャレンジしようと思いました。

法人のギフト市場は、4兆円もの規模があると言われていますが、実はメインプレーヤーがいません。そのため、私たちのようなスタートアップでも、しっかりとニーズに刺さるサービスを提供できれば十分に勝機があると思っていました。

――法人ギフトにどのようなニーズがあるのでしょう。

:私が会社に勤めていた際に、とある会社の周年行事に携わる機会があり、そこでは担当者が社員たちに何を渡すか悩んでいました。従業員が欲しいものはそれぞれ違いますし、下手なものを選んだら「給料に還元してくれ」と不満を持たれ兼ねません。無難なものを選んでも喜ばれませんし、ありきたりなものを選んでも上司に「面白くない」と言われてしまいます

カタログギフトであれば、そのような負を解決できると思ったのです。特にギフトを選ぶ総務部門は防災も担当しています。私たちのサービスを使えば、ギフト選びに悩まなくてすみますし、防災への意識向上という大義名分も掲げられます。家族がいる方であれば、カタログギフトをきっかけに家族で防災について話し合う機会も作れるため、会社にも喜ばれるはず。

――法人へはどのようなアプローチをしたのでしょうか。

:泥臭くテレアポをしていました。それまでの社会人経験で学んだのは、BtoBのマーケティングに魔法の杖は存在しないということ。地味で辛いテレアポこそ、一番の近道だと思ったのです。

会社の設立年を調べながら、10周年や20周年など節目を迎える会社をセグメントしてリストを作り、私自ら電話をしながらアプローチしていました。

――最後に、事業を立ち上げるうえで大事にしていた考えを教えて下さい。

:ユーザーインタビューは何よりも大事にしています。事業を考える時にアンケートを使う方は多いと思いますし、私たちも使いますが、そこでとれるデータは平均値や傾向値でしかありません。

実際にユーザーの方がどんなシーンで、どんな気持ちでサービスを使うのかは実際に話を聞いてみなければ分かりません。話している内容だけでなく、何を強調して伝えたいかによっても情報の受け取り方は違うため、今でもインタビューは重視しています。自分たちのサービスが一番刺さる人たちはどんな人たちなのか、そのイメージが明確になるまで徹底的に行なってきました。

――インタビューをする人はどのように絞ればいいのでしょうか。

:最初はある程度インタビューする層を絞っていました。たとえば私たちのサービスは大学生には刺さらないと思っていたため除外しましたが、あとはインタビューをしながら少しずつ絞っていきましたね。

インタビューを繰り返しながらコンセプトを練っていくのですが、その時に意識していたのは定量データと定性データの繋ぎ合わせです。私たちは定性データを大事にしていましたが、定量データを無視していたわけではありません。定量データと定性データが違和感なく繋げる作業を何度もしてきたと思います。


企画:阿座上陽平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:鈴木光平
撮影:阿部拓朗