TO TOP

丸の内を進化させる仕組み 企業というソフトと土地というハードの両方を巻き込む方法

読了時間:約 8 分

This article can be read in 8 minutes

イノベーションの創出には企業や官民の連携が欠かせないが、放っておいても連携は進まない。人と人が繋がるためにはコミュニティが必要だろう。日本有数のオフィス街、大手町・丸の内・有楽町エリア(以下、大丸有エリア)で役割を担うのが、「TMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform)」と「一般社団法人 大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会」だ。

両団体はエリアの多様なステークホルダーと街のビジョンを共有しながら、イノベーション創出に向けたサポートを行っている。2020年にはスマートシティプロジェクトの一環として、電動マイクロモビリティを提供するスタートアップ「LUUP」と公道における実証実験を行った。

国内ビジネスの中心地、大丸有エリアはどのような街に変化していこうとしているのか? 今回は両団体の担当者2名に、TMIPや協議会の役割や、大丸有エリアの将来像を伺った。

※上部の写真はイメージとして撮影したもので、走行は行っておりません

INDEX

大丸有のステークホルダーをまとめ、旗振り役になる
「やりたいことを投げかけて欲しい」調整と支援が私たちの仕事です
ステークホルダーの意見を取りまとめる秘訣は「プロセスを共に踏むこと」
ここがポイント


山下聡一
三菱地所株式会社に2010年入社。オフィスビルの管理運営統括業務等に携わった後、東北支店にて多種多様な不動産の運営・開発に従事する。2019年よりTokyo Marunouchi Innovation Platform(TMIP)の立ち上げ、運営を実施。大丸有エリアのイノベーション・エコシステム形成に向けて、大手企業とスタートアップ・官・学・街の連携をサポートする。


荒木孝純
大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会スマートシティ推進委員会
三菱地所 都市計画企画部 兼 エリアマネジメント企画部
2017年三菱地所株式会社入社。大手町・丸の内・有楽町地区のスマートシティビジョンの構築及び、ビジョン実現に向けた各種取り組みを推進。

大丸有のステークホルダーをまとめ、旗振り役になる

――まずは、TMIPとまちづくり協議会の役割をお聞かせください。どのような目的で、何を行っているのでしょうか?

山下:TMIPは、大丸有エリアのオープンイノベーションを支援する団体です。
大丸有エリアは超高密度にビジネスマンが集まる、世界でも有数の地域です。4,300箇所の事業所があり、コロナ禍以前は1日に28万人のワーカーが通っていました。
イノベーションとは「知と知の結合」と言われますが、人と人がつながる立地的特徴を活かし、大丸有エリアだからできるビジネスがある、と考えています。組織同士をつなげ、イノベーションエコシステムを創出することが私たちのミッションです。

――どのようにエコシステムを形成しているのでしょうか?

山下:規模の大小を問わず、企業同士を繋ぐことが重要だと考えています。大丸有エリアは、意外と大手企業同士の横のつながりが少ない。かといって、大手企業同士を繋げるだけではエコシステムは形成できません。そのため、スタートアップも巻き込みながらプロジェクトを進めています。
幸い、大丸有エリアにはVCの方々が多数いらっしゃいますから、力をお借りして大手企業とスタートアップの連携に動いています。
エコシステムを作るためには、行政とのリレーションシップも必要です。先日より開始した電動キックボードの実証実験では、電動マイクロモビリティのシェアリングサービスを運営するスタートアップ「LUUP」とエリア行政である千代田区との官民連携を進め、実施のきっかけを作りました

――かたや、まちづくり協議会はどのような役割を担っているのでしょうか?

荒木:私たちは大丸有エリアの地権者によって構成されている団体で、大丸有エリアの様々なステークホルダーの方と一体となって、まちづくりを推進することがミッションです。
活動は多岐に渡りますが、一例を挙げると千代田区・東京都・JR東日本・当協議会の4者で構成される大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり懇談会で公民協調の下、街の将来像などを示した「まちづくりガイドライン」の更新やガイドラインに基づくまちづくりを推進しています。街のビジョンを考え、発信して、LUUPのような新しい試みにもチャレンジしていくことで、街のアップデート、国際競争力強化を推進していくことが協議会の役割です。

――なるほど、大丸有エリアのビジョンを取りまとめ、関係者の旗振り役になっているのですね。TMIPと協議会はどのように関わり合っているのでしょうか?

山下:私達は共に大丸有エリアのビジョンを描くパートナーです。オープンイノベーションの創出にはさまざまなステークホルダーが関わっていますから、協議会にも提携をお願いして会議に参加いただいています。大丸有エリアで起こるプロジェクトは幅広く、政府が関わる大規模なものも存在します。協力者はできるだけ多い方が良いんです。

「やりたいことを投げかけて欲しい」調整と支援が私たちの仕事です

――ここからはLUUPの電動キックボードの実証実験を例に、実証実験における両団体の役割を教えてください。このケースでは、実証は公道で行われ、道路交通法の規制緩和も狙っていると聞いています。

山下:公道での許可に関しては警察庁との協議が必要で、そこはLUUPが折衝を行っています。我々はTMIP会員である三菱地所関係部署を巻き込み、駐輪用ポートの設置をサポートさせていただきました。
規制緩和の節目を関係者に見ていただくことで、その後の動きもスムーズになっていくはず。今回の実証実験では、LUUPが行政との折衝を中心に行いましたので、TMIPとしてのケイパビリティ(行政との繋がり)を発揮できたわけではありませんが、リリース時のマスコミに向けたお披露目会では、丸の内警察署の方々にも出席いただけるよう調整を行いました。

――なるほど、関係者の間を取り持ち、報告をサポートしているのですね。

山下:その通りです。TMIPが関わることで、実証実験のハードルを低くできると思っていて。TMIPが窓口になることで活動を支援していけますし、関係者にも話を通しやすくなります

――「ビジョンややりたいことはあるけれど、そもそも誰に相談していいか分からない」、そんな時に役立てると。

山下:丸の内エリアは実証実験の敷居が高いと思われがちですが、新しい試みには積極的です。「大丸有エリアで〇〇を行いたいのですが、できますか?」とお声がけいただければ、「意外とできますよ」と言えることもあります

――ここまでTMIPや協議会の活動を聞いて、「相談したい」と考えている読者さんもいらっしゃると思います。「ここまで話をまとめてもらえると協力しやすい」などの条件はありますか?

山下:動きやすいのは1〜2年くらいの動きが描けているご相談です。それくらいの期間であれば、何をお手伝いできるかがイメージしやすい。LUUPのケースでは、「サービスをローンチするために、大規模なビジネス街で走行データを取りたい。」と目的が明確でした。

――かなり具体的ですね。

山下:そうですね。LUUPは相談に乗りやすい案件でした。

荒木:LUUPの件は協議会のビジョンに沿っていたんです。そのため、関係者にも話が通しやすかった。
協議会では千代田区・東京都とスマートシティコンソーシアムを組成し、スマートシティ化に向けたビジョンを描き、そのなかで都市の再設計を目指しています。会員の方々に「電動マイクロモビリティが街にインストールされると、ラストワンマイルの移動が便利になり、街がより便利に変わっていきますよね」とビジョンを元に提示でき、スムーズに事が運びました

山下:我々としてもローンチ事例を作り、実証実験も増やしていきたいと思っています。LUUPはすごく上手く行った事例ですが、まずは構想を私たちに投げかけてください。「大丸有エリアで〇〇したい」とか、「TMIPや協議会の枠組みを使って〇〇を議論したい」とか。それをいかに実現するかが、私たちの役割ですから。

ステークホルダーの意見を取りまとめる秘訣は「プロセスを共に踏むこと」

――ここからは話を変えて、関係者の取りまとめについて聞かせてください。大丸有エリアのビジョン策定には様々な関係者が関わっています。企業や組織が異なれば、それぞれに利害があり、調整が難しくなりがちです。TMIPと協議会はどのようにステークホルダーを巻き込んでいるのでしょうか?

荒木共にビジョンを描くプロセスが重要だと考えています。たとえば、協議会は2020年に有識者の方々や協議会の会員の方々にご協力いただき、ビジョン策定委員会を3回開催しました。その結果を取りまとめて街の地権者と方向性を共有しています。

――なるほど、構想段階からステークホルダーの方々に参加してもらい、ビジョンを示すから反対が起きづらいと。

山下:そうですね。共にプロセスを踏む意義は大きいと思います。TMIPでも委員会を開催していまして、2020年度は「サーキュラーエコノミー」「スマートモビリティ」「ヘルスケア」の3テーマで協議を行いました。テーマがなければ何を話せば良いか分からなくなってしまうので、「こういうテーマで話し合いませんか?」と場を作ることが重要です。

議論・実証・検討のサイクルを回し、新しい大丸有をつくりたい

――最後に大丸有エリアが目指す街の姿を教えて下さい。

山下:TMIPは、イノベーションプラットフォームとして街を盛り上げていきたいです。人が集まり、新しいビジネスが生まれる。様々なステークホルダーが存在しながらビジネスの循環が生まれ、イノベーションが大丸有エリアから生まれていく。これがTMIPの目指す状況です。

荒木:TMIPが形成したエコシステムは、協議会が後押ししていきたいですね。テクノロジーやデータの活用は社会的な機運になっていますので、スマートシティを実現するチャンスだと捉えています。ハードを充実させてIoTでデータを取得すれば定量的に評価ができる。街の評価が高まれば付加価値となり、投資家や企業を呼び込みやすい風土が生まれます。

――その構想を実現するためには、何が必要なのでしょうか?

山下:やはり、コミュニティづくりが必要だと思います。2020年は、コロナ禍の影響もあり、リアルなイベントを開けませんでした。イノベーションを起こしていくなかでフランクな横の繋がりはすごく重要です。他の地方自治体を見ても上手くいっているところは、綿密に話し合える場を作っています
コロナ禍以前は大丸有エリアでもランチ会や飲み会をしていましたから、状況が落ち着き次第、腹を割って話せるコミュニティづくりを進めていきたいですね。

荒木:あとは、データの活用も必要です。スマートシティ化が進めばビッグデータが集まり、これまで見えなかった課題も見えてきます。課題の発見・課題解決・街の価値向上と、循環をうまく作っていきたいですし、地場の課題を活かして解決するノウハウを他エリアでも展開できたらと考えています。

山下:民と民、官と民の出会いを創出することが私達プラットフォーマーの役割です。今回のLUUPが、手触り感のある事例になるはず。
単発で終わると次に繋がりませんが、実装のなかで街の課題が見えてくると思います。見えた課題を適切に解決して、発信していけば次の実証にも繋がっていく。単体で「失敗」「成功」と捉えるのでなく、議論・実証・検討のサイクルを回し続け、新しい大丸有を作り上げていきます

ここがポイント

・TMIPは、組織同士をつなげ、イノベーションエコシステムを創出することを目指す
・まちづくり協議会は、大丸有エリアの様々なステークホルダーと一体となって、まちづくりを推進することを目指す
・LUUPの電動キックボードの実証実験の例では、関係者の間を取り持った
・TMIPが窓口になることで活動を支援し、関係者にも話を通しやすくなる
・1〜2年くらいの動きを描き、「大丸有エリアで〇〇を行いたい」と声がけがあれば役に立てる
・ステークホルダーを巻き込みに重要なのは共にビジョンを描くプロセス
・議論・実証・検討のサイクルを回し続け、新しい大丸有を作り上げていく


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木雅矩
撮影:小池大介