TO TOP

FINOLAB での出会いから金融大手同士の業務提携が締結。出島組織でイノベーションを生み出すには

読了時間:約 9 分

This article can be read in 9 minutes

今や多くの大企業がイノベーションを起こすために実行している「出島戦略」。新規事業のための部署や会社を立ち上げることで、スピーディに最先端技術を取り入れるのが狙いだ。時間のかかる大企業同士のオープンイノベーションも、出島組織同士であればスムーズに話が進むため、新しいチャレンジがしやすくなる。

金融インフラの開発・運用を支援する「FINOLAB」に入居するニッセイプラス少額短期保険と会計バンクも大手企業グループの出島組織。それぞれ日本生命とソリマチグループという大規模な経営母体を持っており、最先端のFinTechを取り入れるためにFINOLABに入居している。

今回はFINOLABを介して提携を決めた両者に、大企業の出島戦略や「場」の価値についてインタビューを実施。大企業同士のオープンイノベーションをいかにして形にしてきたのか話を聞いた。

写真右)西村洋輝
ニッセイプラス少額短期保険株式会社 経営企画部 兼 マーケティング部 渉外担当部長
大学卒業後、2010年に日本生命保険相互会社に入社。総合企画部や法人営業企画部等の企画セクション等で経営計画の策定や新商品開発等に従事。2023年からニッセイプラス少額短期保険に出向し、経営方針の策定、提携先開拓、マーケティング戦略の立案・実行等、多岐にわたる領域を担当。

写真左)吉井清将
会計バンク株式会社 取締役 営業・マーケティング責任者 
大学卒業後、監査法人を経て2004年ソリマチ株式会社に入社。品質管理からマーケティング、金融機関とのアライアンスを担当。2018年には電子決済等代行業のライセンス取得、全国の金融機関とのAPI連携の契約締結にも従事。
2021年9月より会計バンク株式会社に参画。アライアンス営業・顧客獲得のマーケティング責任者として2023年より現職。

INDEX

「会計サービス」×「スマホ保険」意外な相性の良さとは?
最先端技術を取り入れたい大企業たちの「出島戦略」
常にパートナーを探していたからこそスムーズに進んだオープンイノベーション
「長期的なビジョンを描くこと」出島組織のオープンイノベーションを成功させるコツ
出会いと繋がりを加速する「場」の価値とは
ここがポイント

「会計サービス」×「スマホ保険」意外な相性の良さとは?

――今回の取組の概要を聞かせてください。

吉井:今回は会計バンクとニッセイプラス少額短期保険(以下、ニッセイ少短)が手を組み「FinFinスマホ保険」というサービスを開発しました。会計バンクのFinFinシリーズ「スマホ会計」「スマホインボイス」をご活用頂いているお客様に、ニッセイ少短の「スマホ保険」を3ヶ月無料でご提供するという内容です。

月額200または400円で、スマホが故障した際の修理代や交換費用を補償してくれる「スマホ保険」の保険料を会計バンクが負担することで、FinFinシリーズ利用者への付加価値向上を図るのが目的です。

西村:私たちとしても会計バンクと組むことによって、顧客接点を作るのが目的です。両社が持っているコンテンツなどを使いながら相互に事業成長を図っていきたいと思っています。

――なぜ会計サービスと「スマホ保険」を組み合わせたのでしょうか?

吉井:会計バンクではパソコンではなくスマホの接触時間が長い業種の人、スマホのリテラシーが高いようなフリーランスをターゲットにアプリを提供しています。実は私たちのお客様の2割は建設業の方で、スマホを落とすと壊れやすい環境で働いています。スマホ保険の存在を知った時に私たちのビジネスと相性がいいとは思っていました。

そんなタイミングで、ニッセイ少短がスマホ保険を開発していることを知り、「スマホ」つながりで今回の提携に至ったのです。

最先端技術を取り入れたい大企業たちの「出島戦略」

――両者ともに大企業の出島組織ですが、どのような経緯で立ち上げられたのか聞かせてください。

西村:日本生命には「Nippon Life X」という様々な先端技術を調査発掘するための組織があり、様々なFintechサービスに出会うためFINOLABに入居していました。そして、Nippon Life Xが見つけてきた技術を使って保険を作って運用しようとして生まれたのがニッセイ少短です。

日本生命はこれまで対面で保険商品を提供してきましたが、どうしてもデジタル化の流れに逆らうことができません。よりスピーディにデジタルを取り入れ、多様化するニーズに応えられる保険をデジタルで提供するための出島として立ち上げられたのです。

――社名に入っている少額短期保険は、どのような市況なのでしょうか。

西村:少額短期保険の市場は年々成長しており、参入する企業も増えています。これまでは不動産会社や損害保険会社が家財保険などを作るケースが多かったのですが、最近では大手の保険会社がデジタルを活用する場として参入するケースが増えてきました。

特に最近は生活様式の変化によって、既存の保険商品だけではお客様のニーズに応えられません。核家族化が進めば生命保険のニーズは下がりますし、自動運転の登場や車離れによって自動車保険も変化が求められています。

ニーズが多様化している現代において、より機動性の高い保険を開発するには少額短期保険、それもスマホで気軽に入れるサービスが大きく注目されているのです。

――会計バンクの立ち上げ経緯も聞かせてください。

吉井:私たちソリマチグループは、新潟県長岡市の会計事務所を母体に「会計」をキーワードとして全国にビジネスを拡大し、今年で70年を迎える老舗企業です。1970年代から会計システムを開発しており、Windows95に対応する会計ソフトを日本で最初に出したのがソリマチでした。

その後、競合企業が続々と現れ市場がセグメントされていき、その中で私たちがターゲットにしていたのが中小企業・小規模事業者でした。市場やニーズを探し、新たにターゲットにしたのがフリーランスです。現在、開業届を出している300万人の個人事業者を始め、副業・複業をしている方も含めると約1600万人にもなり、今後もフリーランス人口が増えると予想されています。

そしてフリーランスの一番の困りごとが「お金」だと言われており、その悩みに応えるサービスを作るために金融機関やFintech企業との接点を増やしたいと思っていました。そこでFintech企業と連携するために会計バンクを設立し、多くのFintech関連会社が入居しているFINOLABに拠点を構えたのです。

普段、自分たちが「出島組織」という意識は持っていないのですが、FINOLAB自体がFintech企業や金融機関、グローバル企業が行き交う長崎の出島のような存在ですよね。入居当初、外国人の方も多くて驚きました。

常にパートナーを探していたからこそスムーズに進んだオープンイノベーション

――提携に至った経緯を聞かせてください。

吉井:FINOLABでは、もともとニッセイ少短と当社はオフィスが隣同士でした。しかし、面識があるわけではないので、最初は挨拶をする程度の関係で。毎週木曜夕方のミートアップをきっかけに、FINOLABの会議室でビジネスの意見交換をするようになりました。

私たちが「スマホ会計」のローンチを控えている時に、メディアを通して「スマホ保険」というものがあるのを知りました。「スマホ会計とスマホ保険って名前が似てるね」という冗談で盛り上がっていると、ニッセイ少短でもスマホ保険を開発していると聞いて。

当社の顧客であるフリーランスにもスマホ保険を知って欲しいと思い、すり合わせを何度か経て提携に至りました。常にビジネスパートナーを探していたことが提携につながっていると思います。

――普段から提携を意識していたからこそなんですね。西村さんはいかがですか?

西村:普段から意識していたこともあると思いますが、結局はタイミングがよかったのだと思います。これまでも様々な企業と提携の話がありましたが、どんなに理屈がよくてもタイミングが合わないとうまくはいきません

その点でいうと、今回は私たちも会計バンクも新しいサービスをリリースしたばかりで、プロモーションをしなければいけませんでした。同じニーズを持っている両者が出会ったからこそ、スムーズに提携が進んだのだと思います。

「長期的なビジョンを描くこと」出島組織のオープンイノベーションを成功させるコツ

――オープンイノベーションを成功させるためのポイントを聞かせてください。

西村ファーストコンタクトで提携しようとするのではなく、話を温める期間が必要だと思います。今回も、イベントで出会ってすぐに提携が決まったわけではありませんし、その後商品の説明をする機会を頂いても、すぐに話がまとまったわけではありません。

それでも最終的に提携に結びついたのは、継続的に話をしてきたことと担当が変わったことです。担当が変われば提案できる引き出しも変わりますよね。今回も担当が私に変わったことで、提案できる内容が変わったのが大きなポイントとなりました。オープンイノベーションを成功させるには、時間をかけて様々な角度で話をする機会を持つのが重要だと思います。

――吉井さんはいかがですか?

吉井:当社は「肩書ではなく人を信じる社会になろう」というパーパスを掲げています。組織の成功において売上・利益も大事ですが、まず自分たちが顧客や社会に対してどう貢献できるか、自分たちの存在意義を重要視しています。ニッセイ少短との意見交換を通じてお互いに歴史のある企業グループという立場から、社会意義に目的を持って長期的に取り組んでいるという接点を感じたのもポイントだったと思います。

――出島組織同士でオープンイノベーションをする上でのポイントはありますか?

西村:より未来を見据えてパートナーシップを組むことが大事だと思います。たとえば今回も、単に営業パートナーとして付き合いだけでなく、次のステップを考えながらビジネスを進めています。

例えば、将来は会計バンクが持っている会計情報と保険を組み合わせて、新しい保険を開発していくなどです。エンベデッド・ファイナンス(組込型金融)という考え方で、様々な領域で新しい金融サービスが誕生しているのです。

出島組織の企業は新しい可能性を探るのが目的なので、目先の利益だけでなく将来の可能性を広げることを常に考えることが重要になるのではないでしょうか。

吉井:同じような話ですが、いかに本業のビジネスに影響を与えられるかを考えることが重要だと思います。たとえば私たちも、確定申告以外でフリーランスの方たちとの接点を作りたいと思っていました。多くのフリーランスは年度末に確定申告をする時以外は、まずはビジネスが優先で、会計のことなど考えないのではないでしょうか。

そこに保険を組み合わせれば、会計を考えるタイミングを作れると思っています。たとえば最近は、車の運転の仕方で保険料が安くなる自動車保険などがありますよね。もしも毎月の経営の仕方に応じてフィットするような保険を作れれば、定期的に会計にふれる機会を作れると思うのです。

そのように新たな融合を模索しながらオープンイノベーションを進めていくのが、出島組織の役割ではないでしょうか。

出会いと繋がりを加速する「場」の価値とは

――場の価値についてどう考えているか聞かせてください。

西村:リアルに出会える場というのは非常に重要だと思っています。ニッセイ少短はそもそも、対面で会うことを非常に重要視してきました。オンラインでも会議はできますが、そこからは雑談が生まれず、新しいアイディアも生まれづらい。会社全体でそのような考えを持っているため、時代に逆行してでもオフィスに集まるのをとても重要視しています。

ただし、自分たちのオフィスだけでは、他社との交流は生まれません。FINOLABのように、社外の方々と日常的に会える場というのはとても貴重ですし、新しい価値が生まれる場所だと思います。

吉井:私も対面で会える場というのは、非常に重要だと思いますね。どんなにWebが便利になっても、直接会うことでその後のやり取りが非常にスムーズになるんです。対面で会うから人柄が分かりますし、人柄が分かると「こういう人だからこういうメッセージをくれるんだな」と背景が見えてきます。

特に企業間での交渉では、繊細なやり取りも多くなるものです。相手の表情を直接見える対面でのコミュニケーションが重要ですし、それが可能なFINOLABのような場所というのは非常に価値があると思います。

――最後にオープンイノベーションを考えている企業にメッセージをお願いします。

西村:今は時代の変化が早く、昨日の常識が明日の非常識になるのも珍しくありません。そのような時代に自分たちのネットワークだけでビジネスをしていても、考えが固まって時代に対応できなくなります。FINOLABのような場でもいいですし、ミートアップイベントでもいいので、いかに社外の人たちとのつながり作るかが、これからのビジネスには必要だと思います。

そして、日本の大企業にはそれができる社員が少ないようにも感じます。ぜひオープンイノベーションの必要性を少しでも感じた人は、外の世界に触れて繋がりを作ってほしいと思います。

吉井:新規事業というのは10個中1個ヒットすればいい世界です。しかも、事業に失敗したからといって、戦国時代のように命を奪われるようなこともありません。そう思えば、新規事業にチャレンジするのも怖くなくなるのではないでしょうか。

その上で、長期的な視点で同じ方向を見ている他社と組めば事業を成功する確率もいくばくか上がるかもしれません。ぜひアクティブな姿勢で外の世界に目を向け、どんどんと新しいことにチャレンジしてほしいと思います。

ここがポイント

・提携は顧客接点を作るのが目的で、両社が持っているコンテンツなどを使いながら相互に事業成長を目指す
・お互いが出島組織で、常にビジネスパートナーを探していたこととタイミングが良かったことで提携に至った
・オープンイノベーションを成功させるには、ファーストコンタクトで提携しようとするのではなく、話を温める期間が必要
・オープンイノベーションのポイントは、目先の利益だけでなく将来の可能性を広げることを常に考えること
・社外の人と日常的に会う場は新しい価値が生まれる場所になりうる


企画:阿座上陽平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:鈴木光平
撮影:阿部拓朗