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東大松尾豊教授が語る“越境者”の思考法 | 政策現場から見る『官民共創のイノベーション』vol.9

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今や人工知能(AI)はテクノロジーの域にとどまらず、国家の競争力や経済成長の命運を握る「新時代の基幹インフラ」へと進化を遂げています。

今回のゲストは、AI研究の第一人者である東京大学の松尾豊教授です。松尾教授は、基礎研究、講義(AI講座)、企業との共同研究、インキュベーション(起業家支援)の4つの活動から成る「松尾研エコシステム」のファウンダーとして、社会変革を牽引されてきました。

「越境」をキーワードに、未来をつくるフロントランナーに迫る、シリーズ『官民共創のイノベーション』。なぜ、松尾教授は、研究者の枠を超えて、ビジネスから国家政策の現場まで縦横無尽に駆け抜けてこられたのか。そして、日本経済が再成長するための方策とは。

「境界」というもののとらえ方から、原点にあるスタンフォードでの経験、GDPを押し上げる全国規模の「AI版QCサークル」構想、ASEAN・アフリカ、国連とグローバルに広がる活躍の舞台まで、ダイナミックで刺激的なお話を伺いました。いずれも、指数関数的な成長を実現するための“システム”を前提に、今なすべき「What to do」であることが通底していました。聞き手は、政策・共創領域で数々のプロジェクトを推進してきた経済産業省の池田陽子です。

松尾豊
東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻/附属人工物工学研究センター 教授
1997年 東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年 同大学院博士課程修了。博士(工学)。産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学客員研究員、東京大学准教授を経て、2019年より、教授。専門分野は、人工知能、深層学習、生成AI。人工知能学会論文賞ほか複数受賞。2012-14年 人工知能学会編集委員長・理事。2020-2022年、人工知能学会、情報処理学会理事。2017年より日本ディープラーニング協会理事長。2021年より新しい資本主義実現会議 有識者構成員。2025年より日本成長戦略会議 有識者構成員。2023年よりAI戦略会議座長。2025年より人工知能戦略専門調査会 座長。2019年よりソフトバンクグループ社外取締役。2025年よりパナソニック ホールディングス株式会社 社外取締役。2024年より一般社団法人AIロボット協会理事、東京都AI戦略会議 座長。2026年より国連のAI国際科学パネル メンバー。

池田陽子
経済産業省 競争環境整備室長/経済産業研究所コンサルティングフェロー
長野県出身。2007年東京大学卒業後、経済産業省に入省。専門分野は、創造性とイノベーション、ルール形成、グローバルガバナンス。内閣官房では政府全体のスタートアップ政策を統括。近著に『官民共創のイノベーション 規制のサンドボックスの挑戦とその先』。これまで携わったスタートアップ政策、対GAFAのデジタルプラットフォーム規制、出版の実績を評価され、官僚として唯一、Forbes JAPAN「Women in Tech」に選出(なお、本連載において、事実関係に関する記載以外の部分は、コンサルティングフェローの立場による)。

INDEX

「境界」は人間が勝手に作った概念にすぎない
スタンフォードで目撃した産学が「結託」する最強のエコシステム
システムとして設計するかぎり指数関数的に成長する
日本経済を押し上げる「AI版QCサークル」構想
ASEAN・アフリカと描く、AI「活用」の新機軸
「What to do(何をやるか)」に徹底的にこだわれ

「境界」は人間が勝手に作った概念にすぎない

池田:松尾先生の帯文『しかし法律は変えられるのだ。』が印象的な拙書『官民共創のイノベーション』と同名の連載機会をいただき、「越境」をテーマに、第一線で活躍する経営者やクリエイターの方々に貴重なお話を伺ってきました。実行委員長を務められるDCON(全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト)については、事務局長の岡田隆太朗さん、MCのヒャダインさんから、すでに得がたいお話をお聞きしています。

それで今日は、松尾先生と初めてお会いしたのは11年前ですが、ずっと止まらぬ成長を続ける「松尾研エコシステム」の「ファウンダー」のお立場で、インタビューさせていただきます。研究者の枠にとどまらず社会変革を八面六臂に牽引されるお姿は、まさに「越境者」(Boundary Spanner)とお見受けしますが、最初にそのマインドセットを教えてください。

松尾:そう言ってもらえて光栄です。「越境」という言葉を聞いて僕がまず思うのは、そもそも「境界」というのは人間が勝手に作った概念にすぎないということです。人間は物事をカテゴライズするために線を引きますが、そうすると必ずその中間にあるものが漏れてしまう。そうした「縦割り」の目線ありきで世界をとらえるから、弊害が出るし、わざわざ「越境」と言わなければならなくなるんです。この認知のズレを逆手にとることで、「アービトラージ」の機会が生まれるわけですが。

池田:なるほど。境界というのは、あくまで便宜的につくられたカテゴリーなのであって、それにとらわれてはいけない。ある意味、最初から境界など存在しないということですね。

松尾:ええ。たとえば渡り鳥は、寒いから暖かい場所へ、暑いから涼しい場所へと移動しますよね。彼らはただ生きるために最適な場所へ動いているだけなのに、人間は「国境を跨いでいるから越境だ」とラベルを貼る。僕の活動も渡り鳥と同じなんです。「本来こうあるべきなのに、そうなっていない」という社会の不自然な点、いわば「バグ」を見つけたら、それを直しに行く。その過程で、たまたま大学というアカデミアから、産業界、政府、地方自治体といった領域、あるいは国境を跨いでいるだけにすぎません。

スタンフォードで目撃した産学が「結託」する最強のエコシステム

池田:その「バグを直す」という感覚の原点は、どこにあるのでしょうか。

松尾:2005年から2年間過ごした、スタンフォード大学での経験が大きいです。言葉だけの「産学連携」なんて生ぬるいものではなく、大学と産業界がいわば完全に「結託」してイノベーションを生み出している環境を目の当たりにしました。

例えば、Googleの社員が大学に来て、欲しい人材を育てるために自ら検索エンジンの作り方を講義し、学生はそのままGoogleへ入っていく。そこでは計算資源やデータが潤沢なので良い研究ができる。アンドリーセン・ホロウィッツなど世界的VCが集まるサンドヒルロード(Sand Hill Road)は大学のすぐ隣にあり、カフェでは守秘義務もお構いなしの勢いで技術論を戦わせている。「君はすごいことを考えているね、$1 millionあげるからやってみなよ」といった感じでスタートアップが生まれエグジットしていく。大学には多額の寄付金が集まる。このように、シリコンバレーでは、地域全体が「イノベーション創出会社」として機能していたのです。

池田:シリコンバレー流を目の当たりにして、もう、「結託」しないと勝てないゲームのルールになっていると。

松尾:はい。つまり、研究者として最高の環境でAI研究をしようとすると、周囲に強力なインダストリーが必要ということになります。でも日本にはそういう仕組みがなかったし、他にやる人もいなかった。だから「じゃあ僕が作りますよ」と言って、信頼関係を重ねながら多くの企業と共同研究を進め、そこから生まれるスタートアップを支援し、教育プログラムを広げ、最近では「街づくり」まで考え始め、それが今の「松尾研エコシステム」になっています。

システムとして設計するかぎり指数関数的に成長する

池田:松尾研エコシステムの現在地と設計思想を教えてください。

松尾:現在、松尾研発のスタートアップは42社に上ります。時価総額は合計3000億円超、2社が上場、3社がM&Aでイグジット済みです。近い将来には、年間100社輩出を目指しています。また、GCI(データサイエンス入門講座)を中心とする教育プログラムの受講生は、今年度は年間20万人を目指しています。東大生にとどまらず、地方の大学や高専、高校生や中学生の受講も増加しています。これらはすべて「指数関数的な成長」を前提に、「システム」として設計しています。

池田:具体的にどのような指標に基づいているのでしょうか。

松尾:「システム」として設計しているかぎり、ふつうに真面目に仕事をしていれば、指数関数的に成長するはずだと思っています。松尾研の場合は、「前年比1.4倍で成長」して当たり前という基準をもってみんな動いています。何かに依存して、別の何かの活動が決まり、それに依存してもとの何かの活動が決まる、という「システム」があったとき、普通は等比級数的になるはずです。そこに何かのボトルネックがあれば、成長が飽和していくわけですが、そのボトルネックを前もって外すような努力を続けていけば、物事は複利計算で必ず指数関数的に成長すると思っています。

池田:システム思考ということですね。

松尾:ええ、そうです。日本はどうしても成長しない、できないということが暗黙の前提になっていますが、前年比+5%を目指すのと前年比+50%を目指すのではやはり発想が変わってきます。大きく成長すると思えば、もっと大きな変化を生み出さないといけないし、試行錯誤をたくさんしてそのなかから「当たり」を見つけなければいけない。発想と基準を変えるだけで、多くのことが可能だと思っています。

たとえば、東大本郷キャンパスのまわりの大学街は、学生向けのラーメン屋さんが目立ちますよね。でも、東大が世界に伍するイノベーションの拠点になりたいと思うのであれば、東大をとりまく本郷全体も、VCやスタートアップがひしめくだけでなく、豊かな食文化やファッション、音楽、芸術などにあふれた、機能とカルチャーを備えた拠点になってもいいのではないかと。それで最近、「街づくり」まで考え始めたのですが、いずれにしても日本全体でできること、成長の余地は至るところにあると思っています。

日本経済を押し上げる「AI版QCサークル」構想

池田:松尾研は、大企業との共同研究を数多く積み重ねてこられました。年間30件のプロジェクトが常時進行しているそうですね。そうした中で、成功するケースとそうでないケースの違いはどこにあると見ていますか。

松尾:やはり一番成功しやすいのは、創業社長が自らコミットしている場合です。あるいは、担当の部長や課長が主体性を持ち、自分の言葉で語り始めたプロジェクトは強いですね。日本社会の大きな問題の一つは、PDCAが回っていないこと、つまり「意思決定をして成功なり失敗なりを経験する機会が圧倒的に少ない」ことだと思います。役所でも大企業でも、40代になってようやく意思決定の場に立てるようではあまりに遅すぎます。

池田:日本の大きな組織では、若い世代が意思決定を下す経験を十分積めていないと。

松尾:はい。五分五分の状況において、自分で動いて何らかの「決断」をして勝負する。それこそが本来の仕事です。しかし大企業に入ると、そもそもそうした機会は少ないですし、1、2年で「大企業病」にかかって自ら決断する機会をなかなか持てなくなってしまう。

一方、松尾研では、学生であっても、実力があれば企業との重要なプロジェクトのマネージャーを任せることもあります。仮にそこで何か失敗してしまったとしても、失敗こそが重要な経験です。まさにAIの機械学習と同じで、ネガティブなサンプルにきちんに「失敗」というラベルを貼って学習しなければ、次の成功には繋がりませんよね。

池田:なるほど、失敗こそ資産であると。日本経済全体の成長についてはどのようにお考えですか。

松尾:僕の私論では、日本が成長していない理由は、やること(What to do)を間違えているからです。これだけみんな優秀な人が真面目に働いているのに、30年間経済成長しておらず、イタリアよりも1人当たりGDPが低いというのは、そもそも努力の方向が違っているのではないでしょうか。「What to do」のこだわりよりも、「How to do」のこだわりが強すぎる。多くの人が間違ったこと(やる必要のないこと)を、非常に丁寧に正確にやってしまっていると思います。逆に言えば、やること(What to do)さえ正せば伸びるポテンシャルがあるということです。そのために、前述のように、発想と基準を変えるということが大事だと思っています。

ところで、経済全体でいうと、ちょうど今、僕が提唱しているのが、「日本中でAIをちゃんと使ってGDPを1%ポイント上振れさせる」という計画です。

池田:2025年度の日本の実質GDP成長率は1.0%、世界全体では3%水準の見通しです。GDPの1%ポイント上振れ、くわしく教えてください。

松尾:1%というと小さな話に聞こえるかもしれませんが、このところ日本の実質GDP成長率が1%前後ですから、2倍の成長にするということですよね。かなり大きいことです。そのためには、全国の50%の企業が、主要業務でAIを活用し、作業時間を10~20%減らすことができれば達成可能であると試算しています。普及度合いに応じて、実質GDP成長率を0.5~1.6%ポイント押し上げる効果があると見込んでいます。

これは、かつての日本の製造業を支えた品質管理=クオリティコントロール(QC)の取組と同様に考えることができます。ISO9000(品質マネジメントシステムの国際規格)のように誰でもわかるフレームワークを作り、全国津々浦々の中小企業まで含めた大きなムーブメントにしていこうと。現に、QCサークル(品質改善を目的に、現場で働く社員が自発的に集まり、問題解決に取り組む小集団活動)は80%近い企業で行われており、裾野を支えるQC検定などもあります。僕の計画は、いわば令和の「AI版QCサークル」なのです。

池田:まさに標準化を行き渡らせる発想ですね。国際標準課時代、よく考えていました。

松尾:ええ。この話をすると、特に地方の金融機関は乗り気になってくれます。AI導入で生産性が上がるのであれば、それを前提とした融資制度も考えられます。各地の金融機関が中核となり、こうしたエコシステムを全国に広げていくことが、日本経済を再成長させるための、まさに「What to do」だと考えています。

ASEAN・アフリカと描く、AI「活用」の新機軸

池田:最近、松尾先生は、ASEANやアフリカなど、グローバルな舞台でも精力的に活動されています。そうした地域で、AI教育や政策支援に注力されている理由を教えてください。

松尾:グローバルに本腰を入れたのは2025年からで、昨年だけでも20カ国を訪れましたが、驚くほど手応えを感じています。僕らが提供しているGCI(データサイエンス入門講座)のグローバル版には、2万6000人を超える受講申込みがありました。先日も、ASEAN各国のAI政策担当者が松尾研に来られましたが、やはり人材育成やインキュベーションの仕組みを渇望されています。

池田:米中がAI覇権を争う中で、日本はどのような立場で貢献できるとお考えですか。

松尾:米中が目指しているのは、人間並みの知性をもつAGI(汎用人工知能)の開発によるWinner-takes-all、勝者総取りの戦いです。より巨大なモデルを、より巨大なデータセンターで、より巨大な電力を使って開発するという投資競争が繰り広げられています。

一方、多くの国々が実際に求めているのは、「自国の経済を伸ばすためのAI活用」なんです。話を聞いてみると、ナイジェリアも、ガーナも、ベトナムも、AIを使って自国の農業や製造業をどう底上げしていくかということに腐心しています。日本は、こうした国々とともに、米中とは異なる「活用」を主軸とした「第3極」を形成できるはずと考えています。

池田:なるほど。各国のローカルな産業にAIを適用する、つまりフィジカルAI、バーティカルAIにこそ価値があると。

松尾:まさにそうです。これも「What to do」を間違えないという話で、「Think Globalで世界を獲る!」と息巻いてみんなで同じようなことをやったところで本当に勝てると思いますか、と。むしろローカルの産業にAIを活用していくプレイヤーとしてのスタートアップを各国でしっかり育てていきたいのです。

池田:それは、受託開発型のAIスタートアップということですか。

松尾:はい。「受託」することと「スケール」することがなかなか結びつかない人が多いのですが、実は日本の建設会社やメーカーも受託開発の割合が高いのです。だからこそ、この認知のギャップを「アービトラージ」できる余地があるとも思っています。

その上で、現地の商慣行や業界特性に精通しているローカルが、グローバル大手に勝てる領域は必ずあります。また、各国が個別にデータセンターを作ると計算資源のGPUが余ってしまうという課題もあるので、域内でシェアして最適化するような枠組みも構想しています。こうした中で、アジア全体で「経済圏」ができるのではないかと。

池田:そうすると、産業政策はもちろん、外交戦略も大切になってきますね。ある国連機関の国際選挙の業務に携わり、アフリカ各国に出張した経験があります。

松尾:興味深いですね。今年から、国連の「AIに関する独立国際科学パネル」のメンバーを務め、国際舞台での振る舞いや外交の重要性を痛感しているところです。日本がリーダーシップを取るためには、経産省が持つ「経済を強くする論理」と、外務省が持つ「国際社会での流儀や交渉の作法」を融合させなければなりません。

池田:先生ご自身が、省庁の垣根をも超える「越境」を体現されていますね。

松尾:これまで経産省の方々と「同志」としてやってきましたが、最近は外務省や総務省などともどんどん連携を深めています。ASEAN議長国であるフィリピンへの提言など、具体的なアクションを通じて、アジア全体を一つの経済圏として活性化させるような、新しいAI戦略の取りまとめに挑戦していきたいと思っています。

「What to do(何をやるか)」に徹底的にこだわれ

池田:AIが急速に進化する中、仕事の価値が二極化するという「スマイルカーブ現象」にあてはめ、「自分の仕事がなくなるのではないか」との不安の声も聞こえてきます。ご著書『相対化する知性 人工知能が世界の見方をどう変えるのか』もおありですが、これからの時代、人間に求められる役割はどこにあるとお考えですか。

松尾:AIが論理武装や事務作業を代替していく中で、人間に求められるのは「ステークホルダーと対話して、物事を良い方向に進める力」です。引き続きコミュニケーション能力は大切ですし、それを支える、たとえば歴史や文化に対する深い理解も必要になってきます。そして何より「決断して、責任を取ること」が人間の仕事になります。AIがどれだけ高度になっても、最終的な意思決定とその結果に対する責任を負うのは人間にしかできません。

池田:ロジック作りはAIが助けてくれても、現場の空気感の中で人を説得して巻き込んでいく力や、正解がない世界で問いを立て、最後に「これをやる」と決めて責任を引き受けることこそが人間の価値になると。

松尾:そうです。同時に、年齢や職業、経歴といった「外形」にとらわれないことも重要になります。実際、松尾研ではグローバルチームのリーダーを22歳の学生が務め、2万6000人の受講生を束ねることもあります。大学の学部を新設して特定の18歳だけに機会を与えるような、外形的なフィルタリングはナンセンスです。

機会を全員に提供して、成果を出した者、勝ち上がった者がさらに次の機会を得る。そうした純粋な実力主義の仕組みこそ、これからの時代には不可欠です。そのため、要件は「自分の人生を変えたい」という意志だけ、という学歴や環境にとらわれない学びの機会を提供する「才能開花プログラム」も始めました。

池田:最後に、この変革の時代を生きる読者のビジネスパーソンや若い世代に向けて、メッセージをいただけますか。

松尾:僕が常に言っているのは、「What to do(何をやるか)」に徹底的にこだわれ、ということです。日本人は非常に真面目で「How to do(どうやるか)」は得意なのに、やるべきこと自体を間違えているんです。僕の推定では、8割、9割方間違っている可能性があります。

池田:私自身、あらためて総点検したいと思います。

松尾:意味のない仕事にもかかわらず「やった気になっているだけ」というのは、社会にとって損失ですらあります。それならいっそのこと休んで英気を養っている方が、まだ次につながると思うくらいです。もう一つは、自分の行動が、「システム」としてどうレバレッジされて大きくなり、社会に還元されていくかを考えることです。常に「指数関数的な成長」を意識して、システム思考で動いてほしいです。

池田:先生ご自身が、研究者という枠を超えて、「街づくり」や「AI版QCサークル」「外交」までシームレスに手がけられているのは、いずれも、「システム」の「バグ」を直すために必要な「What to do」だからなのですね。すべてはつながっていて、松尾研エコシステムはどんどん大きくなっていきますが、本当に、結果としての「ファウンダー」であられるのだなと。

松尾:はい。他の人が誰もやらないから、僕がやっているだけです(笑)。自分が関わることでボトルネックが外れ、物事が複利計算で自動的に大きくなっていく。そんな仕組みを一つでも多く作っていくことが、今の僕の使命だと思っています。

池田:境界を意識せず、最適解を求めて動き続ける。境界に対する認知のズレは「アービトラージ」する。変革の時代においてむしろ新しい境界(概念)を作り出す。松尾先生の生き方そのものが、これからの「越境」のロールモデルと感じました。流れで私自身のキャリアパスにも少し言及しましたが、ちょうど経産省の採用向けコンテンツで似たお話をする機会がありましたので、よろしければご笑覧ください。本日はありがとうございました。

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