道路を変えれば、エネルギーが変わる。走行中ワイヤレス充電で”地産地消型EV社会”を目指す2DCの構想
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EVが普及しても、「どこで充電するか」という問いはまだ解かれていない。充電スタンドの整備、バッテリーの大型化などの解はあるが、あくまでも「止まって充電する」という前提の上に成り立っている。
その前提を見つめ直しているのが、2DC代表取締役の増田祐一氏だ。走行しながらEVに充電できる「走行中ワイヤレス充電」の実現を目指し、さらにその先には「道路が発電して、地域のEVに電気を売る社会」という大きな絵を描いている。研究者から起業家へ転じた3年間の軌跡と、ぶれない構想を聞いた。

増田祐一
株式会社2DC 代表取締役
東京大学 篠田・牧野研究室にて博士号取得後もワイヤレス給電に関する研究を続け、2022年に株式会社2DCを創業。
ポイント
・道路に送電パネルを敷設し、走行しながら非接触で給電する、止まらない「走行中ワイヤレス充電」技術。
・パネルを並べるだけで直線もカーブも工場通路も丸ごと充電エリア化できる、既存方式にない柔軟性。
・こまめに止まるフォークリフトでの実証と、小型バッテリー化によるコスト削減という現実的な事業の入口。
・ワイヤレス充電と太陽光発電のパネルを組み合わせ、地域の電気を走行EVへ直接届ける地産地消型エネルギーの構想。
・規格適合の見通しを足がかりに研究者から起業家へ転身。リスクの高さゆえスタートアップが挑む意義。
INDEX
・「走行中に充電できる道路」2DCが描く、インフラ再設計のビジョン
・「できるはずがない」と思いながら試した。研究者が起業に踏み切った理由
・ワイヤレス充電が「刺さる場所」と「刺さらなかった場所」。3年間のユースケース探索
・道路を発電所にする。太陽光×EV×走行充電が合体する未来
・事業リスクも技術リスクも高い。それでも走り続けられるわけ
「走行中に充電できる道路」2DCが描く、インフラ再設計のビジョン
――まずは2DCがどのような技術を開発されているのか聞かせてください。
増田:私たちが取り組んでいるのは、電気自動車(EV)が走行しながら充電できる「走行中ワイヤレス充電」の技術開発です。現在のEVは、充電スタンドに止まって充電するのが前提ですが、私たちはその前提を変えたいと考えています。
イメージとしては、電車のパンタグラフに近いかもしれません。電車は架線から電気を受け取りながら走りますが、私たちの技術はそのパンタグラフを無線化したようなものです。道路の下に送電用のコイルを埋め込み、車両側に受電コイルを搭載することで、走りながら非接触で電気を受け取ることができます。接触している電車との違いは、数十センチ離れていても電力を送れる点です。
――その技術は、既存のワイヤレス充電技術とどのような点が異なるのでしょうか?
増田:既存のワイヤレス充電との最大の違いは、送電用のパネルをつなぐだけで、充電エリアを自由に広げられる点です。
一般的なワイヤレス充電は、決まった場所に設置した充電器の上に車両を止めて充電する方式です。一方、私たちの技術はパネルを並べていくことで、好きな経路や場所を丸ごと充電エリアにすることができます。直線でも、カーブでも、工場の通路でも、パネルを敷いたところがそのまま充電ゾーンになる。この柔軟性が、私たちの技術の一番の強みです。

――道路で充電する構想を実現するためには、道路側にも大きな変化が必要になりますよね。最終的にはどのような形を目指しているのでしょうか?
増田:最終的には、道路の作り方そのものを変えることが必要だと考えています。現在の道路はコンクリートを敷いてアスファルトで固めるという、高度経済成長期に固まった作り方のままです。ただ、そこにワイヤレス充電や太陽光発電のパネルを組み込んでいこうとするとメンテナンスが課題になります。「埋めて終わり」の道路では点検も交換もできないですから。
そこで私たちが目指しているのは、ブロックを並べるようにパネルで構成された、交換・点検が容易な道路です。車通りが多い場所にはワイヤレス充電のパネルを、日当たりの良い場所には太陽光発電のパネルを置く。劣化したパネルは取り外して交換する。そういった柔軟な道路インフラを作っていきたいと考えています。

増田:実際、国土交通省も2020年頃から路面へのワイヤレス充電導入に向けたルール整備を始めており、社会的な機運も少しずつ高まってきています。もちろん、これは10年・20年単位の話になりますが、インフラの老朽化が深刻化していくタイミングに合わせて、道路の作り方を根本から見直す機会が必ず来ると思っています。
「できるはずがない」と思いながら試した。研究者が起業に踏み切った理由
――増田さんの経歴についても聞かせてください。
増田:もともとは、無線通信の研究者でした。ワイヤレス充電とは、直接関係のない領域です。
転機になったのは、博士課程を修了する頃のことです。ある企業から「あなたが研究している無線通信の技術を使えば、EVで走りながら充電できるんじゃないか」という話をいただいたんです。最初は「できるはずがない」と思いました。ただ、試しにやってみると「これはできるかもしれない」という感触があって。
広い意味では、無線通信とワイヤレス充電は同じ「電波でエネルギーを送る」という原理の上にあります。スマートフォンが電波塔から電波を受け取るのも、突き詰めれば一種のワイヤレス充電です。自分が積み上げてきた技術が、全く別の領域で使えるかもしれないという驚きが、この研究を続けるきっかけになりました。
――研究室で技術開発を続けるのではなく、スタートアップという形を選んだのはなぜですか?
増田:スタートアップを選んだのは、研究室にいるだけでは、技術が社会に出ていかないと痛感したからです。
大学や大企業が手を組んで進める共同研究という、いわば王道の社会実装の道があります。ただ、その道はすでに実績のある先生方が担っていました。では自分にできることは何かと考えたとき、スタートアップというリスクの高い形で、この技術の事業化にトライすることだと思ったんです。技術単体がうまくいっても、それがそのまま社会実装に繋がるわけではありません。その現実を研究室の中で感じていたからこそ、外に出ることを選びました。

――研究者としてのキャリアを歩んでいた中で、リスクを取る選択に踏み切れた理由はありますか?
増田:踏み切れたのは、技術的な確信が持てたからだと思います。
ワイヤレス充電は、規格の統一がとても重要な世界です。スマートフォンの充電コネクタがUSB Type-Cに統一されてきたように、ワイヤレス充電にも世界共通の標準規格があります。私たちの技術が、その既存の規格にうまく適合できそうだという見通しが立ったとき、「これはトライする価値がある」と思えました。自分たちで新たな規格を世界に広めなければいけないとなれば、さすがに非現実的すぎる。でも、すでにある規格の延長線上に入っていける可能性が見えたことで、踏み出す勇気が生まれました。
もう一つ、背中を押してくれたのが、東京大学のアントレプレナー講座での経験です。そこで「研究者こそ、自分の技術を世の中に広めるために起業すべきだ」という話を聞いて、正直驚きました。それまでは、大企業との共同研究が技術を社会に届ける唯一の道だと思い込んでいたので。「どうせいつか死ぬし、やってみるか」――後先をあまり考えず、そんな気持ちで踏み出したのが正直なところです。
ワイヤレス充電が「刺さる場所」と「刺さらなかった場所」。3年間のユースケース探索
――現在、どのような場所・用途での活用を想定して実証を進めているのでしょうか?
増田:現在、最も手応えを感じているのが、物流現場でのフォークリフトへの活用です。
広島県の助成金プログラムを通じて、地元の物流企業にご協力いただき、フォークリフトにワイヤレス充電システムを取り付けた実験を行いました。
実はフォークリフトの半数以上はすでにEV化されています。特に食品や精密機器を扱う屋内作業では排ガスが出ないEVでないと使えないんです。そこで気づいたのが、フォークリフトの動き方とワイヤレス充電の相性の良さでした。フォークリフトは少し動いては止まり、また動いては止まるという使い方をします。
この「こまめに動いて、こまめに止まる」という特性が、ワイヤレス充電と非常に相性が良いんです。駐車のたびに自動で充電できるので、車載バッテリーをずっと小さいもので済ませられる可能性が見えてきたんです。
フォークリフトのバッテリーは1台あたり数十万円から百万円超とかなり高額で、5〜8年で交換が必要です。小型のバッテリーに切り替えられれば、そのコストを大幅に下げられる。実験の中で初めて「これ、いくらで買えますか」という声をいただいたとき、ようやく現実的なビジネスの入口が見えた気がしました。
――逆に、検討したけれど難しいとわかった用途はありましたか?
増田:難しいとわかった用途もいくつかあります。
一つは、完全無人のロボット倉庫です。Amazonの倉庫をイメージするとわかりやすいと思います。そういう環境では、すでに非常に優秀な独自の充電システムが組まれていて、わざわざワイヤレス化する必要がない。「ロボット向けにどうですか」というお声はよくいただくのですが、意外にも刺さらないケースが多かったです。
もう一つはシェアサイクルです。充電を自動化できても、ポートごとに車体の偏りが生まれるので、結局人が回収・再配置する作業は残ります。ポートをいかに素早く増やせるかがシェアサイクルのビジネスモデルの肝なのに、そこに電源工事や充電設備の設置という手間を足すことになってしまう。ワイヤレス充電の技術だけを見ると面白そうでも、実際のユーザーの目線で考えると「本当にそれが必要か」となるケースが、この3年間で何度もありました。
この経験から見えてきたのが、「ロボット優位な世界か、人間優位な世界か」という軸です。ロボットのためなら専用設備をいくらでも整えられますが、人間が使う環境では設備変更に限界がある。そういった人間側の環境に、後付けで馴染みやすいのがワイヤレス充電の強みだと気づきました。

――そうした経験を踏まえて、今後特に可能性を感じているユースケースはどのあたりでしょうか?
増田:可能性を感じているのは、物流施設や工場の床面への展開です。
フォークリフトの実験で、薄いパネルを床に置くだけで充電できたことが、一つの大きな発見でした。大がかりな工事をしなくても、通路にパネルを敷いておけば、そこを通るたびにこまめに充電できる。そのシンプルさが、現場には受け入れられやすいと感じています。
もう一つ、少し先の話になりますが、ヒューマノイドロボットへの応用も面白いと思っています。ヒューマノイドは人間と同じ環境で動くため、専用の充電設備を大げさに整えることが難しい。しかもバッテリーを大きくすると重心が悪くなるという制約もある。現場の床の一部をワイヤレス充電パネルに置き換えるだけで、ヒューマノイドが踏むたびに充電できる仕組みが作れるかもしれない。まだ構想段階ではありますが、こういったユースケースを一つひとつ見つけていくことが、今の私たちの最大のテーマです。
道路を発電所にする。太陽光×EV×走行充電が合体する未来
――先ほど「道路で発電する」というお話がありましたが、具体的にはどのような仕組みを考えているのでしょう。
増田:道路で発電するというのは、ワイヤレス充電パネルと太陽光発電パネルを、同じ道路の上に組み合わせるイメージです。
先ほどお話しした、ブロックを並べるようなパネル式の道路が実現すれば、場所に応じてパネルの種類を使い分けられます。車通りが多い場所にはワイヤレス充電のパネルを、日当たりが良く車通りの少ない場所には太陽光発電のパネルを置く。太陽光パネルが劣化したら取り外して交換し、余生を別の場所で使う。そうやって道路全体が、発電と充電を同時にこなすエネルギーインフラになっていく姿を描いています。
さらにその先には、道路沿いの民家や田んぼに置いた太陽光パネルで発電した電気を、走るEVに直接売れる仕組みも作れると考えています。EVは動きながら電気を必要としているので、送電ロスの少ない近距離での売買には高い値段がつきやすい。地域で発電した電気を、地域のEVにそのまま届ける。税金に頼らず、メガソーラーにも頼らない、健全な地産地消型のエネルギーシステムが実現できると思っています。
――太陽光発電が普及していく中で、充電のあり方はどのように変わっていくとお考えですか?
増田:太陽光発電が主力になっていくと、「いつ充電するか」の設計が根本から変わってくると思っています。
今は夜寝る前にプラグを挿して充電するのが当たり前ですよね。でも太陽光がメインになると、電気が余るのは昼間です。本来は夜間の充電量を抑えて、昼間の余剰電力で充電し、夕方には満タンにしておく、という使い方が理想になります。ただ、それを既存の充電方法でやろうとすると、ユーザーが意識的に充電タイミングをコントロールしなければならず、なかなか現実的ではありません。
走行中ワイヤレス充電であれば、充電のタイミングをこちら側でコントロールできます。昼間に電気が余っているときだけ道路から送電するようにしておけば、ユーザーは何も意識しなくても自然と余剰電力を使って充電できる。動かしながら充電できるからこそ、太陽光の余剰電力と充電のタイミングをぴったり合わせられる。これは既存の充電方法にはない、走行中ワイヤレス充電ならではの価値だと思っています。
事業リスクも技術リスクも高い。それでも走り続けられるわけ
――この事業の難しさについて、率直に教えてください。
増田:率直に言うと、この事業はとんでもなくリスクの高い領域だと思っています。創業して3年が経ちますが、それは今も変わりません。
一番難しいのは、技術の価値が出るまでに、非常に大きな規模が必要だという点です。ワイヤレス充電のエリアがごくわずかな面積しかなければ、わざわざ導入する意味がない。広いエリアに展開されて初めて、本当の価値が生まれる。でも、大きな規模にするためには時間も資金も必要で、その手前の段階でビジネスとして成立させるのが非常に難しい。事業のステップを刻みにくい構造的な難しさが、この領域にはあります。
加えて、この技術が真に価値を持つのは、EVがもっと普及して、太陽光などの再生可能エネルギーが社会の主役になったときです。世の中の変化に価値が左右されやすい。事業リスクも技術リスクも両方が高い、とんでもないスタートアップを始めてしまったというのが、この3年間の正直な感想です。ただ、裏を返せば、そのリスクの高さゆえに大企業では取り組みにくい領域でもある。スタートアップにしか踏み込めない場所だからこそ、自分たちがやる意味があるとも思っています。

――それでも3年間走り続けてこられたのは、何がモチベーションになっているのでしょうか?
増田:それは、目指しているゴールが正しいという確信があるからだと思います。
太陽光発電は、発電コストが安く、炭素の排出も少ない。エネルギーとして非常に優れています。ただ、発電する場所と使う場所が離れていたり、発電のタイミングと使うタイミングがずれたりと、うまく活用するのが難しい。そのギャップを埋める最もシンプルな答えが、地域で発電した電気を地域のEVにそのまま届けるという仕組みだと思っています。そしてその最終形に最も近いのが、走行中にEVへ充電できる道路だと。
売上がまだ立っていないという現実は、当然なんとかしなければいけない話です。ただ、目指しているところは脱炭素モビリティの理想形として間違っていないという確信はある。途中で自分が倒れても、この思想だけはどこかに残るくらいのつもりで走っています。
――最後に、この記事を読んでいる方々に向けて、「こういう方にぜひ声をかけてほしい」というメッセージがあればお聞かせください。
増田:最もお声がけいただきたいのは、工場や物流施設を持つ大企業の方々です。
「この通路にパネルを敷いたら面白いかもしれない」「うちのフォークリフトで試してみたい」くらいの感覚で構いません。私たちも広島の物流企業への営業は、ワイヤレス充電の説明をしても最初はきょとんとされていました。それでも「よくわからないけど、一回来てみれば」と言っていただいて、実際に試してみたら思わぬ発見がありました。「うちの床で充電できたら面白そうだ」と少しでも思った方は、ぜひ気軽に声をかけていただければと思います。
企画:阿座上陽平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:鈴木光平
撮影:小池大介