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ストレングス・ファインダーは採用の武器になるのか? 認定コーチに聞く“強み”とチームの関係性

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ストレングス・ファインダーというツールを聞いたことがあるだろうか? これは個々人の強みや資質を知るためのビジネスツール。ベストセラーになった書籍「さあ、才能に目覚めよう(日本経済新聞社)」で取り上げられたことから、ご存知の方も多いだろう。

言わずもがな、チームの総合力は所属するメンバーの能力で変わる。ストレングス・ファインダーを使って個々の強みを活かせば、より強いチームを形成できるだろう。今回は、米ギャラップ社認定 ストレングス・ファインダー・コーチの資格を持つ中村珠希氏に、同ツールの使い方を伺った。どうすれば採用やチームビルディングに同ツールを活かせるのか、その秘訣を探る。

INDEX

ご存知の方もそうでない方も、改めて知りたい「ストレングス・ファインダーとは?」
個々の強みを知ることで諍いを減らす、イノベーション形成にも効果あり
他己評価で強みを理解する、実践から学ぶ「強みの開発法」
強みの開発には、「for us」と「PDCA」が必要だ
人事担当者は必見、ストレングス・ファインダーは採用に活かせるのか?
ここがポイント

中村珠希
米ギャラップ社認定 ストレングス・ファインダー・コーチ
慶應義塾大学総合政策学部卒。在学中にスタンフォード大学d.school へ短期留学したことをきっかけに、2013年7月に一般社団法人デザイン思考研究所(現:一社Eirene University)を共同創業。在職中はスタンフォード大学の講師とともに日本人向けのデザイン思考講座開発を実施するほか、講師・コンサルタントとして大企業や教育機関にてデザイン思考を活用したイノベーション教育、およびイノベーション活動の支援に従事する。2018年独立後は、デザイン思考研修やコンサルティング業務を通したイノベーション活動を中心としながら、投資会社にてベンチャー投資も行っている。

ご存知の方もそうでない方も、改めて知りたい「ストレングス・ファインダーとは?」

この記事で話題にしているストレングス・ファインダーとはそもそもどのような診断ツールなのだろうか? ご存知ない方はもちろん、すでにご存知の方にも改めて内容を紹介したい。筆者は「さあ、才能に目覚めよう」に目を通したことがあるが、中村氏の話を聞いて新しい発見があった。再確認の意味で、今一度復習していただきたい。

中村:ストレングス・ファインダーはアメリカの教育心理学者、ドナルド・クリフトンが設計指揮を行った「人の強み」を診断するツールです。回答者が数百の質問に答えることで、その人の持つ強みを導き出すことができます。ツールの設計には、200万人以上のデータを取り、40年以上の歳月が費やされたそうです。

その特徴は個人の強みを「達成欲」「共感性」「収集心」などの34の資質に分けて、それをどう活かすかに注目していること。逆に短所にはフォーカスしません。

34の資質は「人間関係構築力」「影響力」「実行力」「戦略的思考力」の4つのグループに分けられる。個々の強みは、ギャラップ社が提供しているWebテストで診断が可能だ。テストを行えば、個々人が持つ強みを上位から順番に知ることができる。

ここで言う「強み」とは、具体的な能力ではなく個々人が持つ資質に近い。資質は開発によって能力へと昇華する。開発具合は各自まちまちなので、知るだけでなく、強みを活かすトレーニングが必ず必要だという。

ところで、同ツールでは、なぜ「弱点の克服」ではなく「強みを活かす」ことに注目しているのだろうか。その理由を聞くと、中村氏はこう答えてくれた。

中村:米ネブラスカ州の教育研究機関が、資質と能力の成長の関係性について調査をしたこと(*)があります。この調査では、3年間で1,000名以上の学生が速読訓練を行いました。訓練後の能力を比べてみると、「もともと読書が得意な生徒」が350→2900語/分まで伸びたのに対して、「読書が苦手な生徒」は90→150語/分までしか成長することができませんでした。この調査のように、強みを活かした方が能力は伸びやすく、パフォーマンスも上げやすいのです。資質=強みと誤解されている方が多いのですが、「強み」として活用するためには、それぞれの資質の特徴(才能)に着目して開発しなければなりません。それなりの投資をして、強みへと昇華させるのです。

*出典 ©️2012-2014 Gallup, Inc

個々の強みを知ることで諍いを減らす、イノベーション形成にも効果あり

ストレングス・ファインダーはセルフマネジメントだけでなく、チームのマネジメントにも活かすことができるという。

中村:ストレングス・ファインダーを使えば、メンバーの強みを把握して、チーム内で何が起こっているかを把握できます。また、マネージャーが自らの資質に気づけば、固有の長所に沿ったマネジメントをすることもできるでしょう。

中村氏がこのように話すのは、様々なチームで同ツールを活用した実績があるからだ。

中村:私は2013年に社団法人を共同創業しました。チームは10名に満たないので成果を出すためには個々人の特性を最大限活かさなければいけません。そのために、ストレングス・ファインダーをチームマネジメントに取り入れ、個々の強みをチーム内に共有しました。

結果起きた変化として、まずメンバー同士の諍いが減りました。個々の強みを活かして成果を出してくれますし、できない部分は他のメンバーがカバーしよう、という風にチームがまとまっていくんです。個々人も「●●はできないけれど、〇〇の部分でパフォーマンスを上げればいい」と考え、短所を気にしなくなるのでストレスが溜まりにくくなりました

現在はフリーランスとして、ギャラップ社が認定するストレングス・ファインダー・コーチとして日本企業のイノベーション支援をしています。企業に研修を行うと、私たちのチームと同じ現象が起こり、パフォーマンスが上がる企業が増えました。

チームの円滑化だけではなく、同ツールはイノベーション形成にも役立てられるという。

中村:2004年に、ハーバードビジネススクールのリー・フレミング准教授が特許を取った17,000件のチームを研究しました。その結果、画期的な特許を開発したチームは、いずれもダイバーシティが高い集団であることが分かりました。メンバーの専門領域が多様であるほど、ブレークスルーを起こしやすくなるのです

弱点を克服しようとすると、個々人の個性が失われ、メンバーの均一化が進んでしまいます。多様性を高め、イノベーションを起こすためには、メンバーの強みを活かすことが重要なのです。

あなたの会社では、メンバーの弱点克服にリソースを割いていないだろうか。もし思い当たる節があれば、イノベーションの芽を摘み取っているかもしれない。

他己評価で強みを理解する、実践から学ぶ「強みの開発法」

ここまでストレングス・ファインダーをおおまかに紹介してきたが、まだイメージが掴みきれていない人もいるかもしれない。また、強みを能力へと昇華する方法も気になる。ならば実践してみよう。
というわけで、本ウェブサイトの運営メンバーが中村氏に自らの強みの活かし方を伺ってみた。

運営メンバー:それではよろしくお願いします。まず私の強みを上から5つ挙げると……。
・コミュニケーション:言葉で人を納得させたがり、表現力が高め
・社交性:人との出会いを求め、人とつながりたがる
・回復思考:業務プロセスの問題や人の苦手分野を見つけ、解決したがる
・調和性:対立を解消し、チームの歩調を合わせたがる
・収集心:情報を集めたがり、知らないことをそのままにしておけない
という結果になりました。

中村:なるほど、全体的に人間関係を円滑に進められそうな強みですね。ストレングス・ファインダーでは強みを能力に進歩させるために、
・知る:強みの特徴を知り、納得できているか確かめる
・理解する:当てはまる箇所、そうでない箇所を書き出して、腹落ちさせる
・活用する:強みをチームのためにどう活かせるかを考える
という3つのステップを踏みます。資質はそのままでは能力にはできません。「知る」「理解する」のステップでは、自己分析だけでなく、他己評価も有効です。周りの人から、どのように評価されているのでしょうか?

運営メンバー:思い当たることとして、「人脈おばけ」と呼ばれることがありますね。社内外問わず「こんな人とも知り合いなの!?」と言われることが多くて。福岡転勤時には、「歩く食べログ」と言われていました。お店を開拓するのが好きで、遠方の友人が遊びに来る時には、プランを2〜3つ作って提案していたことからだと思います。

中村:人脈は「社交性」や「コミュニケーション」が、お店の開拓には「収集心」が活かされていますね。さらに、強みを活かせたと思う経験を教えてください。

運営メンバー:昔、プライベートで若手の異業種交流会をしたことがあります。初回の参加者は50名で、2回目には100名近くを集めることができました。その時にはスポンサーを募って景品を募集し、セッティングやゲームの企画をして、集客も担っていましたね。

中村:それって、他の人から見たらすごい行動力ですよね。でもご自身はそれほど負担に感じずに動いていませんでしたか?

運営メンバー:言われてみれば、割りと楽しく準備を進めていたと思います。

中村:それが強みなんです。普段通りに動いているだけで成果が出てしまうのが資質です。「社交性」を持つ人は、「世の中がみんな知り合い」という感覚を持っていて、飛行機で隣の人と仲良くなってしまったり、ホームパーティに見知らぬ人を連れてきても平気だったりします。その資質が異業種交流会に活かされたのではないでしょうか。

個々人の強みは、自分には当たり前すぎて気づきづらいんです。だから「知る・理解する」のフェーズでは、周りの人と強みをシェアして、資質が活かされた経験を話してみるといいですよ。話すことで、メンバーの思考プロセスも理解できますから。

強みの開発には、「for us」と「PDCA」が必要だ

運営メンバー:「知る」「理解する」方法は分かりましたが、「活用する」ためにはどうしたら良いのでしょうか?

中村活用するためには「for us」、つまりチームでどう活かすかが重要です。なぜかというと、目的が明確になるので、強みを活かす道筋が立てやすくなるからです。

運営メンバー:とはいえ、シチュエーションによっては、活かし方が見つからない場合もありますよね。

中村:そういう時はアプローチを変えてみると良いでしょう。たとえば、「社交性(人との出会いを求め、人とつながりたがる)」が低く、「競争性(競争に勝ちたがり、そのためにモチベーションを発揮する)」が高い人が異業種交流会に参加したとします。その人は上司から「名刺を50枚集めて来なさい」と命じられました。

その人にとって、見知らぬ人がたくさんいる場所は苦手な場だと思うんです。でも競争性が高い人は成果を出したがるので、「人と交流しよう」ではなく「名刺をいかに早く集めるか」にフォーカスすれば意欲が高まると思います。

保有する強みが変わると、何に注目し、どうアプローチするかが変わります。何のために何をするかが明確になれば、いかようにも活かすことができるのです。

運営メンバー:なるほど、捉え方を変えればいいんですね。思ったんですけど、強みの活用って能力開発のプロセスと似ていますよね。PDCAを回すことも重要なのでしょうか?

中村:するどいですね。おっしゃる通りで、資質に対してどう動き、何が起きて、次は何を挑戦するかを考えることが重要です。その繰り返しが能力の開発に繋がります。

運営メンバー:まず強みを理解し、チームの中でどう活かすかを考えて、検証を繰り返す、という流れですね。これから意識してみようと思います。

人事担当者は必見、ストレングス・ファインダーは採用に活かせるのか?

実演から強みを活かすイメージが掴めただろうか? ここでテーマを変えてみよう。果たしてストレングス・ファインダーは採用に活かせるのか? 面接で個人の資質が分かればその情報を活用できそうだが、中村氏は意外にも「採用には向いていないかもしれない」と答えた。

中村:もちろん使えなくはないんですが、あまりおすすめはしていません。なぜかというと強みはあくまで資質で、開発状況は人それぞれだからです。「〇〇な強みを持っているなら、●●ができるだろう」という考えで配属すると、望む成果を出してくれない場合もあります。

また、採用プロセスでテストを行うと、回答者は採用側の「〇〇な性格の●●なポジションが欲しい」という要望に影響されてしまいます。無意識に回答へバイアスがかかり、正確な強みを出すことができません。回答する際は「〜でありたい」ではなく「〜普段はこうである」をもとに、直感的に答えていくことが重要です。

一方で中村氏は「入社後の人材教育には活用できる」と話を続けた。

中村:ストレングス・ファインダーの真価は、先述したようにチーム形成において発揮されます。創業間もないスタートアップだとメンバーも少ないので、些細なことで衝突してしまうことがありますよね。でも、「そもそも一人ひとりが異なる資質を持っていて、それは利点なんだよ」と考えられれば、衝突は減ります。

また、人材開発の際には、どこを伸ばせば良いのかが明確になります。紹介した速読の実験のように、強みを活かした方が、効率的に能力を伸ばすことができます。

チーム形成において気になるのが、資質の配分だ。ストレングス・ファインダーでは34の資質を4つのカテゴリーに分けている。多様性を担保するためには、やはりバランスよく人材を揃えた方が良いのだろうか?

中村:もちろん「バランスよく」が理想的ですが、現実的には難しいと思います。社風やカルチャーがあるので、既存メンバーと同じ強みを持つ人が集まりやすいですし、資質は個人に備わったものなので、無理やり変えることはできません。偏っていたらダメということではなく、ストレングス・ファインダーには「資質ダイナミック」という考え方があり、資質と資質が組み合わさることで、異なる強みを出せることもあるんです

強みを活用する際には、「必ずこれをしなければいけない」というルールはありません。まずは、弱点にフォーカスせず、メンバーの強みを活かすこと。そして「知る・理解する・活用する」のプロセスを回し、チームのためになぜ、何をするのかを考え続ければ、強みを活かした強固なチームが作れると思います。

「人は一人ひとり違うもの」と頭では理解していても、それを実践するのは難しい。毎日顔を合わせて仕事をするからこそ、自分と同じ価値観を求めてしまいがちだ。

中村氏が紹介してくれたように、ストレングス・ファインダーは個々の違いを理解し、各々が持つ資質を再認識できるツールだ。チームを円滑に運営し、ダイバーシティを高める助けになってくれるだろう。成果を出せるチームを作るために、まずはメンバー全員の「強み」を知ることから始めてみたい。

ここがポイント

・ストレングス・ファインダーは「人の強み」を診断するツールで、その資質をどう活かすかに注目したツール
・「強み」として活用するためには、それぞれの資質の特徴(才能)に着目して開発していく必要がある
・チームマネジメントに取り入れると強みを活かして成果を出しくれ、短所を気にしなくなるのでストレスが溜まりにくくなる
・普段通りに動いているだけで成果が出てしまうのが「資質」で、当たり前過ぎて自分では気づきづらい
・活用するためには「for us」、チームでどう活かすかが重要
・強みはあくまで「資質」で、開発状況は人それぞれだから採用には向いていない
・資質と資質が組み合わさることで、異なる強みを出せることもある

企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木雅矩
撮影:小池大介