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組織づくりのプロが語る「企業が急成長する上でぶつかる壁」と乗り越え方

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企業にとって、永遠の課題である「組織づくり」。10人の組織でも100人の組織でも、成長や変化に応じて組織の問題は生じる。それぞれのフェーズで次々と問題が発生するため、組織づくりにゴールはない。

そんな終わりのない命題に取り組んでいる会社が事業人だ。創業したてのスタートアップから、社員が数千人を超えるような中堅・大手企業まで多種多様な企業や団体の組織づくりをサポートしている。今回はスタートアップの組織づくりについて、共同代表の宇尾野彰大氏にインタビューを実施。

「100人の壁」とも言わるように、スタートアップが一つの目標に掲げる100人の組織を作るために何が必要なのか聞いた。

宇尾野彰大
株式会社事業人 共同代表/Co-Fonuder
早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。営業、人事企画、事業開発、経営企画など、複数事業で複数職種を経験。その後、ゲーム開発会社にて開発部門の統括・PMOを担当。2018年より株式会社ユーザベースで人事統括を経て、株式会社ニューズピックスの人事責任者・HRBPを担う。並行して、2019年より事業人を複業起業。複数社で組織顧問も担う。2022年より経営に集中し、現在に至る。株式会社インバウンドプラットフォーム(東証5587)社外取締役兼任。ISO30414認定(人的資本コンサルティング)

INDEX

「人事のKPI」をテーマに始めた取組が起業のきっかけに
組織崩壊の危機!?社長が採用から離れてしまう弊害とは
組織の成長を止めないために。エージェントの“賢い”活用方法
上場が見えてくると発生する致命的な課題
いい人材がいたら“とにかく声をかけろ”
ここがポイント

「人事のKPI」をテーマに始めた取組が起業のきっかけに

――まずは宇尾野さんのキャリアを聞かせてください。

宇尾野:私はこれまで複数の上場前後のユニークな会社で働いてきました。たとえばユーザーベースは上場直後でのジョインでしたし、その前の会社は上場N-2期にジョインしました。リクルートは上場前に働いていたので、周りはアントレプレナーシップに溢れた人ばかり。各企業特有のモメンタムがあるフェーズを渡り歩いてきたと思っています。

事業人の立ち上げ経験も含めれば、これまで様々な組織フェーズを見てきました。それらの経験を活かし、現在は2〜3人の立ち上げ直後の会社から、ユニコーンを見据える企業、誰もが名前を知る大手企業まで携わっており、その中で更に学習させてもらっています。

――どのような経緯で事業人を設立したのでしょうか。

宇尾野:もともと様々な会社で人事している人たちが隔週で集まり、勉強会をする取組から始まりました。それも、メンバーたちはみんなずっと人事というわけではなく、事業責任者や経営企画など事業作りをしてきた経験があり、結果的に組織作りに舵を切ったメンバーばかり。

そのような経験をもとに、みんなで「人事のKPIを決めよう」という話になったのです。要は、組織がどのような状態になったら事業が成長するのか定義を定め、事業を成長させるための変数を可視化しようという取り組みです。

しかし、どんなに話し合っても絶対解は見つからず、100組織あったら100通りのKPIがあるという結論に至りました。そこに並行して、とある企業から組織づくりの依頼がくるようになり、それであればチームでやろうということで法人を立ち上げることになったのです。

――宇尾野さんから見て、従来の人事にどのような課題があったのでしょう。

宇尾野:これまでの一般的な人事のイメージというのは、とても管理的かつ形式的で、しっかりしたフローを組みながら行われているものでした。そのような人事のあり方はとても官僚的で、人事の仕事は“味気ない”と思っている方も多いでしょう。他のコーポレート職と比べても、決して憧れるような職種ではなかったと思います。

しかし、これからのビジネスシーンでは、そのような人事のあり方では通用しません。特に労働人口が減少している日本では一人ひとりのパフォーマンスの重要度が上がり、いかにそれぞれのパフォーマンスを引き出せるかが大きな経営課題になっています。だからこそ、人事や組織づくりの仕事はとてもクリエイティブで、これから価値が上がっていくと思っています。

――サービスを提供する上で大事にしていることはありますか?

宇尾野:創業当初から今も変わらず大事にしているのは、オーダーメイドで会社の思想や事業、ビジネスに合わせて組織文化や組織構造を作っていくということ。最初は「どんな企業にも当てはまるKPIを見つける」という目標から始まりましたが、結局組織は事業の変数や人の感情や関係性から生まれてくるものであり、実態は十人十色。

人だって朝と夜で気持ちが違うように、日常の会議をひとつとっても同じ会議は二度となく毎回が一発勝負です。この多くの変数を取り扱う感覚がとても面白く機械的に判断できない奥深さがあると感じ、人生の探求テーマとして考えています。

組織崩壊の危機!?社長が採用から離れてしまう弊害とは

――今回のテーマである「100人の組織」を作るために必要なことを教えてください。

宇尾野:まずは社長や経営者がしっかりと組織づくり、特に採用活動に関わることです。多くの場合、組織が小さいうちは社長が採用にコミットするのですが、組織が大きくなるにつれて人事や各部門に丸投げになってしまうケースが少なくありません。

そのため、社長のスケジュールが確保できずに、最終面接が数週間後になってしまうケースも見られます。そうなってしまうと、候補者の熱も下がり採用できなくなってしまうのです。これはほんの一例に過ぎず、しっかり組織を作り上げるまでは社長も採用にコミットした方がいいでしょう。

――社長が採用にコミットしないと、どのような問題が起こるのでしょうか?

宇尾野:候補者に対して動機づけするのが難しくなります。10人ほどの小さな組織では、創業者が面接して会社のビジョンを伝えたり、判断をしたりすると思います。しかし、組織が50~100人と成長していくと、権限を移譲して役員や事業部長が面接することが多いです。

どうしても社長が直接面接するのに比べて、候補者への動機づけが難しくなり採用に難航するケースにも多く出会います。社長としても、創業初期は「自分と一緒に働く人」を採用していたのに、途中からは「事業部長の下で働く人」を採用するので、意識も変わってしまうのは仕方ありません。成長をし続ける企業である以上「自分を超える人を採用する」は鉄則ですが、放っておくとその意識も次第に薄れていきます。

もちろん、様々な経営スタイルがありますので、あくまで一般的なケースとして捉えてください。

――採用のためには社長のコミットが欠かせないのですね。

宇尾野:社長がコミットしなくても採用はできますが、スタートアップのよくある事例として、採用数の増加にあわせて離職数も増加するケースがあります。採用目標を達成しようとするあまり、人材の見極めが甘くなり、カルチャーに合わない人やパフォーマンスが出ない人が続出してしまうのです。結果的に「40人採用したけど20人離職した」ということにもなりかねません。

さらには、創業期を支えてくれたメンバーが会社に見切りをつけて離れていってしまうケースも見られます。「ストック・オプションはもらったけど、あっちの会社の方が面白そうだ」と思われてしまう。社長が自ら組織づくりの時間を捻出できているかが一つの分かれ道だなと思う場面も多いです。
しかし、成長を続ける過程で社長が採用につきっきりでは事業の成長が鈍化する要因にもなり得ます。ここまでとは矛盾する話に聞こえるかもしれませんが、採用の権限をいかにして譲渡するか、経営の優先順位において、今は経営が採用にもコミットし続けるか、慎重に見極めなければなりません。

――人材の見極めが甘いまま採用が進んでしまうと、どうなるのでしょう。

宇尾野:「どういう人が自組織で生き生き働けるのか」の認識がズレたままで採用が加速してしまうと、昔からいたメンバーと新しく入った人たちとの間で齟齬が生まれてしまいます。ビジョンが共有されていないために、目標に対して一丸となって取り組めないチームになってしまうのです。

また、事業を成長させるためのスキルや経験を持っていないメンバーを、ポテンシャルという名のもとで採用するケースも増えるので、組織は大きくなるのに事業が全く伸びないケースも珍しくありません。結果的にチームが崩壊してしまう会社もたくさん見てきました。

組織の成長を止めないために。エージェントの“賢い”活用方法

――組織の問題を回避するには、どうすればいいのでしょうか。

宇尾野:採用要件をしっかり引き継ぐことです。社長は感覚的に「こんな人がいれば事業が成長する」というのを分かっているものですが、意外にそれが組織内で引き継がれていないケースは少なくありません。しっかりと事業の勝ちパターンや、それを実現するためにどのように人材を見極めるのか言語化し引き継ぎしてください。また、事業が成長する事にその要件も変わってくるので、定期的に見直し続けることも重要です。

また、会社のバリューやクレドのように、自分たちの組織文化を言語化していくことも大切です。どんな人たちなら会社の組織にマッチするのか、どんな人となら仕事がしやすいのか誰もが理解できる状況にしておくのが大事になってくると思います。一方で、とりあえず言語化した、言葉はあるが形骸化しているという状況も多く、非常にもったいないと感じます。

極端な話、新卒の人でも面接で候補者を見極められるくらい、自分たちのバリューが言語化できている状況が理想ですね。さらに言えば、エージェントを賢く活用するのもおすすめです。

――エージェントの活用とはどういうものでしょうか?

宇尾野:エージェントに人を紹介してもらうだけでなく、労働市場における自分たちの立ち位置について聞くことです。多くの経営者は「自分たちの事業が株式市場のどんなポジションにいるか」を気にすると思いますが、労働市場におけるポジションを気にする人は多くありません。

事業の競合と採用の競合は全く別で、自分たちの会社を受けている人が全く異業種の会社を受けていることはよくあることです。エージェントに話を聞きながら、どんな会社が自分たちの採用の競合になっているのか、競合に勝つためにどんなアプローチが必要なのか考えてみましょう

また、自分たちの会社の応募を辞退した人が、なぜ辞退したのか自分たちでは知る由もありません。エージェントからそのような情報を得ることで、より会社の採用力を高められるはずです。

――信頼できるエージェントはどのように探せばいいのでしょうか?

宇尾野:多くのエージェントに会って絞っていくしかありません。私の前職では150社ほどのエージェントと契約をしていましたが、結局密にコミュニケーションをとっていたのは5社ほどです。

大事なのは会社ではなく“人”です。優秀なエージェントに出会うには、接点数が重要なため苦労を惜しまずに多くのエージェントに会ってください。事業との相性だけでなく、人としての相性もあるはずです。先輩起業家に紹介をお願いしてもいいですが、いいエージェントを紹介するのは採用の競合を増やすことになるので、簡単には教えてくれないでしょう。投資家や我々のような外部支援家を頼ることも一つの手になります。

上場が見えてくると発生する致命的な課題

――上場が視野に入ってくると、他にはどんな問題が見えてくるのか聞かせてください。

宇尾野:経営幹部の仲に亀裂が入るケースはよく見ます。PMFが見えてくると、できるだけ計画通りに進めたい気持ちが強くなり、余計な不確実性を排除しようとする企業が多いです。そのため、経営幹部の仲が悪くても治す方法がわからずそれが状態化し放置してしまうケースがあります。

しかし、そのような状態が続くと、経営チーム内の言っていることにズレが生じ、現場が混乱してしまい計画通りにいかなくなるものです。私たちもクライアントがそのような状況になるのを防ぐため、経営陣の心のケアをする時もあります。面と向かって喧嘩できるわけでもないので間でファシリテートをしたり、個別でのお食事などを通じて不満を吐き出してもらいながら経営チームの仲を取り持つことも少なくありません。

――そのような事態を防ぐにはどうすればいいのでしょうか?

宇尾野:経営陣が本音を言える環境を意識して作っておくことです。たとえば社長が言っていることが理屈では正しくても、違和感を持っている役員がいたら「あなたはどう思う?」など意見が言えるようにするといいでしょう。しかし、実際は役員全員の表情を読み取って話すのは難しいもの。

そのような場合は私たちのような第三者を入れるのもおすすめです。「社長vs役員」「経営vs現場」という対立構造よりも、第三者を間に入れることで問題をスムーズに解決できます。「経営陣の信頼関係を構築しておきましょう」と聞くとありきたりのように感じますが、意外に実践できている会社は少ないもの。組織文化構築の成功事例は世の中にも多く出回っていますが、経営陣の不仲などセンシティブな話は表に出ないため放置されているのが現状だと思います。

――他にもPMF後に起きる問題があれば教えてください。

宇尾野:PMFを誤認して事業推進を急加速するケースも多いです。多くの企業がPMFを達成すると事業拡大にアクセルを踏み、社長は新規事業や新拠点の立ち上げなど次の目標に走りがちです。

しかし、たまたま何社かが条件にマッチしただけで、本当の意味でPMFをしていないことも少なくありません。営業リソースは割いているのに成果は上がらず、効率が悪い。本当はプロダクトを改善しなければいけないのに、さらに営業リソースを投下してしまっては泥沼にはまってしまいます。

社長が途中で気づいてプロダクトにメスを入れられるといいのですが、次の目標に向かって走っていると放置してしまうこともあります。そうならないためにも、いかに現場の声が経営に反映される環境を整えるかが重要になると思います。

いい人材がいたら“とにかく声をかけろ”

――成長し続ける組織を作るためのポイントを教えてください。

宇尾野:いつでも新会社の経営チームを作れるような状態を常に作っておくことです。会社が成長すると子会社を作るケースは多いですが、蓋を開けてみるとCEOが兼務しているケースは珍しくありません。つまり他の人にCEOを任せられる組織ができていないということです。

新しい会社を作ったらCOOにCEOを任せたり、若手を抜擢したりして、常に経営のフォーメーションを組み直せる組織が非連続に伸びる組織です。外部から経営人材を採用するだけでなく、内部でいかに幹部を輩出するかも重要になります。

近年、話題になっている事業承継と問題は似ています。創業社長はパワーがあるのですが、No.2を育てきれずにいると創業社長が引退した瞬間に企業が衰退傾向に向かっていきます。大企業でも定期的にトップが変わるケースを見ていると、いかに経営人材を育てるかが重要であり、難しいことかが分かると思います。

――変化に強い組織を作るために、何が必要なのでしょうか。

宇尾野:月並みですが、最高の仲間探しができるかがカギです。それは右腕としてのベストパートナーという意味でもそうですし、新しいものを作る時に任せられるようなパートナーという意味でもそうです。

ベストパートナーは個人だけでなく、チームという意味も含まれています。社長や経営陣に対して率直なフィードバックができる組織づくりは重要です。一方で、組織作りにはゴールがないため、うまくいっても油断せず常にベストなチームを維持し続けなければなりません

――ベストパートナーを見つけるために、明日からできることがあれば聞かせてください。

宇尾野:いい人材がいたら、とにかく声をかけることです。採用イベントでなくても、取材や商談の場にだって採用のチャンスはいくらでもあります。結婚式、子供のPTAや保護者会、趣味の集いなど、あらゆる場面に出会いの可能性があります。大事なのは、ラフに伝えるのではなく、しっかりと声をかけること。

そういう意識を持っていると、人を見る目も変わってきますし、出会いの場も生まれてくるはずです。経営者は、常に自分のパートナーを見つけるつもりで生活してみると、世界が変わってくるはずです。

ここがポイント

・人事の仕事は“味気ない”と思っている人がいるが、今後はパフォーマンスの重要度が上がり、クリエイティブなものとして価値が上がっていく
・「100人の組織」を作るために必要なことは、社長や経営者がしっかりと組織づくり、特に採用活動に関わること
・重要なのは、「事業の勝ちパターン、その実現するためにどのように人材を見極めるのか言語化する」「それを定期的に見直し続ける」「バリューやクレドのように、自分たちの組織文化を言語化する」こと
・経営陣の不仲を避けるために、本音を言える環境を意識して作っておく。ときに第三者を間にいれることを検討する
・いい人材がいたら、とにかく声をかける


企画:阿座上陽平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:鈴木光平
撮影:幡手龍二