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ポート整備指針により空飛ぶクルマの実装は次の段階へ。100年に一度の移動革命に向けて進む企業と国の連携

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空飛ぶクルマは実現するのだろうか。新しいモビリティが空を飛び交う街を想像するとどうしても夢物語のように感じてしまうが、その移動革命ともいわれる機会を本気でまちづくりに活用しようと動いているのが三菱地所だ。しかも2030年前後には社会に実装されるかもしれないとのこと。子どもの頃に夢見た社会の実現が目前に迫っている。

空飛ぶクルマの実現に向けて三菱地所は、日本航空株式会社(JAL)、兼松株式会社とともに実証実験の準備を進めている。同社はまちづくりのプロフェッショナルとして、離着陸場所を提供するほか三社共同プロジェクトのとりまとめを行う。空飛ぶクルマを安心安全に飛ばすだけでなく、それを用いて便利なまちづくりを進めることが肝心だというのが同社の考えだ。

不動産デベロッパーである三菱地所は、なぜ、どのように、空飛ぶクルマの社会実装を進めるのか。技術課題や法規制などの壁をどのように乗り越えようとしているのか。三菱地所の土山浩平氏に話を聞いた。

土山浩平
三菱地所 コマーシャル不動産戦略企画部ビジネス戦略・産学連携推進ユニット副主事
総合商社、テーマパーク運営会社、教育ベンチャー等を経て、2022年三菱地所入社。
商社やテーマパークでのマーケティング(戦略立案、商品開発)、ベンチャー企業での新事業開発などの経験を活かし、コマーシャル不動産戦略企画部にて、空飛ぶクルマを活用した新たなまちづくりに従事。兼業で地方都市のアドバイザーも拝命し、都市、地域問わずエリアの特徴を活かしたまちづくりに取り組んでいる。

INDEX

空飛ぶクルマが普及すれば、不動産の価値も変わるかもしれない
2030年代には、空飛ぶクルマは本当に普及するかもしれない
傍観者ではなく、国と一緒に規制を作り上げていく主体として
空飛ぶクルマの普及で、より豊かな世の中を実現する
ここがポイント

空飛ぶクルマが普及すれば、不動産の価値も変わるかもしれない

——空飛ぶクルマの社会実装が、そう遠くない未来に迫っているということに驚きました。もし実装された場合、空飛ぶクルマは社会をどのように変えていくのでしょうか?

土山:まちづくりに新しい視点を提供することになるでしょう。たとえば不動産業界の話で言えば、不動産の価値を決める要素の1つに駅からの近さがあります。駅から離れた地域もあるため、鉄道などの既存のインフラを前提とした場合には、開発しても事業性を見出せないエリアが日本には多いのです。しかし空飛ぶクルマが普及すれば、そうした場所が一等地になる可能性もありえます

ミクロな視点でいえば、建物の屋上の用途拡大も挙げられます。いま高層ビルの屋上は室外機やアンテナを置くといった用途が多いかもしれません。しかし空飛ぶクルマがあれば、たとえば屋上を入り口とすることで効率的にビル内を移動できるようになります。従来は、下層に商業フロアを設置して、上層階はオフィスとして貸し出すといった使い方が一般的でした。今後は最上階も入り口として利用する動線を作ることで今までとは違う発想でビルや事業を設計できるのではないでしょうか。

——ところで不動産デベロッパーの三菱地所が「空飛ぶクルマ」事業を手掛ける理由はどこにあるのでしょうか?

土山:建築費の高騰や脱炭素化など事業を取り巻く環境が大きく変化する中で、まちづくりの視点や方法のシフトチェンジが求められており、今回の事業はそこに対応するキーの一つになると位置付けています。空も含めたアセットの利活用、空も含めたアプローチでもって、新しく作るではなく使い方を工夫することで、街と街のつながりや街の中に新しいシーンを創っていく。不動産総合デベロッパーとして、既存の不動産開発にこだわらず、非連続な発想でまちづくりを捉えなおしていくことも必要だと考えています。

まちづくりを通してお客様の課題を解決することが、不動産デベロッパーとしての役割です。たとえば丸の内周辺でビジネスを営んでいるお客様が国外からのゲストをお迎えする際に、今までは2泊3日で巡っていたコースを1日で回れるようにしたり、空の移動を通じて、首都東京や横浜のハーバーの眺望、美しい富士山など日本の街や土地の持つ魅力をお楽しみいただいたり、今までの移動手段だけでは無意識に諦めていたビジネスシーンやライフスタイルをご提案できるのではないかと考えています。

2030年代には、空飛ぶクルマは本当に普及するかもしれない

——空飛ぶクルマの普及に向けたステップについても教えてください。具体的にはいつ頃、空飛ぶクルマは飛ぶのでしょうか?

土山:現時点では空飛ぶクルマの本格的な社会実装は、2030年以降だと予想しています。現在は世界各国の企業が機体(eVTOL)の開発を進めている状況で、日本がある程度の機体数を確保できるのは2030年前後でしょう。そこから、人口が集積し移動課題が存在する東京や大阪などの都市部、あるいは移動の課題のみならず遊覧など観光需要を捉える形で地方の中でも普及が始まっていく可能性があると考えています。

そうしたシフトチェンジの必要性や、機会を見据えて、安心安全でゼロエミッションなモビリティ・インフラを実現できる準備を2020年代に行っていきます。頭で考えるだけではなく実証を重ねることが必要で、その1つが東京都と行う実証実験です。やってみなければ分からないことも実際にはたくさんありますし、民間企業だけではなく行政や国と一緒に検討すべき法規制などの課題も多く存在します。ユースケースを積み重ねていくフェーズが2020年代だと考えています。

——2020年代には準備が着々と進んでいくということですね?

土山:その通りです。特に、2020年代の大きな節目としては2025年の大阪万博が挙げられます。大阪万博では空飛ぶクルマの飛行が予定されていると聞いています。また世界に目を向けると、2024年のパリ五輪では空飛ぶクルマが使われ、2025年にはアメリカで商用利用が開始されるかもしれないという話もあります。

こうしたユースケースが増えるにつれて、空飛ぶクルマの解像度が上がり課題も明確に見えてくるはずです。世界での動きと並行しながら、特に、高層ビルが狭い土地で林立している日本の都市部の場合、どのような課題があり、それをどのように解決していくべきなのか。こうした仮説検証を2025年、2026年あたりに行うことができれば及第点と言えるのではないでしょうか。

——先駆ける形で、2024年2月には東京都で実証実験が行われると聞いています。こちらについても教えてください。

土山:2024年2月に、臨海部と都心部を直接つなぐ航路をヘリコプターで飛行実証します。現時点では空飛ぶクルマの機体は開発中なので、ヘリコプターを空飛ぶクルマと見立てて、考えられるユースケースの1つである航路で実証します。東京都の協力のもと、日本航空、兼松、三菱地所の三社で実証を行います

——東京都での実証実験においては、三菱地所はどのような役割を果たすのでしょうか?

土山:都心部などにアセットを持っている不動産会社として、都心部における離着陸場候補地を提供します。

また、実証実験のとりまとめの役割も担います。空飛ぶクルマと離着陸場があればサービスが成立するわけではありません。どういったお客様のどの課題にサービスを当てていくのかといったドメイン策定についても取り組む必要があります。まちづくりを担う企業として、今のインフラを前提としたときに無意識に諦めている潜在的ニーズを提示できるようなコーディネーターとしての役割も当社が担っています。日本航空、兼松とも適宜話し合いをしながら進めつつ、単なる移動実験に留まらず、当社はまちづくりのプロとして、空飛ぶクルマだから実現できるまちづくりのイメージを取りまとめていきたいと考えています。

今回の実証実験では、2つのことを検証します。1つ目は、お客様にとって空の移動がそもそも本当に価値あるものかどうかを確かめることです。今回離発着する臨海部も都心のビル屋上も本来はお客様が立ち入る前提ではないため、離発着場での動線などの利用体験も含めて、どれくらい顧客満足に影響を与えるのかを検証します。もう1つが前述した技術検証です。空飛ぶクルマを都心部に実装したときの騒音や風の影響を検証します。また、フライトシュミレーターなどでは分からないパイロット目線での課題もしっかりと形にすることで、官民協議会等々にフィードバックしていきます。

傍観者ではなく、国と一緒に規制を作り上げていく主体として

——空飛ぶクルマの実装・普及に向けた課題として機体などの技術革新が挙げられることは想像がつくのですが、インフラ面での課題としてはどのようなものがあるのでしょうか?

土山:たとえば最低限のターミナル機能を備えたポートの設置が必要になる可能性があります。空飛ぶクルマは、法律上は小型飛行機やヘリコプターと同様の位置付けなので、搭乗にあたっては最低限の保安検査などが必要になると思われます。現在検討を開始しているポートには金属探知機などを設置する予定で、小さな空港をイメージしていただくと近いかもしれません。周囲の空域を監視できるよう、気象や空域監視のテクノロジーを備えることも検討しています。そのほか、ユーザーにとっての利便性、アーリーアダプターとして想定している初期顧客の方々にご満足いただけるかどうかも重要です。

万博では、機体に関するニュースは耳にしますが、離発着場やターミナルの話はまだあまり具体的には聞こえてきていません。また、多くの地方自治体で行われている実証実験も、空飛ぶクルマの機体を飛ばすことに主眼を置いたものが多い印象です。

しかし実際に商用運行するのであれば、電車に対する駅、飛行機に対する空港のように、ターミナルや離発着場の機能も含めたサービス全体の一連の流れをデザイン、検証することが必要だと考えています。東京都での実証実験を通して機体のみならず、ターミナル機能として何が求められるのか等も洗い出した上で、一連の流れとして検証を行うことを指針としています。

——1年ほど前に話を聞いた際にも、こうした課題に取り組んでいることを伺いました。その頃と比べて進捗はいかがでしょうか?

土山:大きなターニングポイントとして、2023年12月1日にポート整備の指針が国から発表されました。当社も参画する官民協議会などでの議論を経て、国土交通省から一旦のガイドラインが示された形となります。これにより、例えば当社が多くのビルを保有する丸の内エリアでも「このビルであればポートを設置できるものの、あのビルは現実的には難しそうだ」などが具体的に見えるようになってきています。離発着場を起点としてどういったビジネスシーンが描けるのかが見えやすくなってきたことから、解像度が上がってきていることを感じています。

——具体的には、どのような指針なのでしょうか?

土山:離発着場についていえば、今までヘリコプターをベースとした基準が設けられていました。実はヘリコプターという乗り物は、離発着は斜めに行うのが基本です。だから、斜めの離発着が可能な空間を確保しなければならないというのが従来のルールでした。臨海エリアや空港の近くに離発着場が設けられていたのはこうした理由です。

私たちが取り組んでいる空飛ぶクルマは、eVTOLというものに当たります。垂直離発着も可能な機体で、空間確保の観点からは都心でも使える可能性があります。

都心のビルの屋上も離発着場として用いられるよう、今までの規制からは少し緩和されつつあります。ただし、まだまだヘリコプターのような斜めに離発着する考え方に基づいた規制が残っています。従来の考え方も参考にして安心安全を確保しつつ、機体の性能や特性を確認しながら、ビルの屋上の離発着場としての利用も見据えたルール作りを関係機関とも連携しながら検討していきたいと考えています。

また、先ほど言及した2023年末の指針は、あくまで指針で法規制とは異なるものです。国としては、万博の翌年2026年目標で基準を作れるよう動いていて、今回の指針はそれに向けたガイドラインのような位置付けです。「これに基づいていたら何をしても構わない」などというものではありません。従って、私たちとしては、国と一丸となって安全を担保しながらも、日本の特徴や想定されるユースケースにあったルール作りにも取り組んでいきたいと考えています。

その第一歩として、先述の東京都実証での取り組みの中で、災害時の防災ヘリ用の緊急離着陸場を、条件付きで一時的に旅客輸送目的で使うための許可をいただきました。ここを用いて、緊急離発着場をポートとして利用する際にどのような課題があるのかを検証します。また、その離発着場の逆側には羽田空港の管制圏があります。羽田空港のように空域が密集している地域の課題の洗い出し・検証を進めるべく特別な許可をいただきました。

一般に空港からの二次交通はお客様にとっての利便性は高い一方、空域をさらに過密してしまうことで安全性とトレードオフになりかねません。そこで、空港の中ではなく空港から少しだけ離れた場所を離発着地点とすることで、お客様目線での価値を担保しつつ空域と干渉しないことで安全性を確保できる可能性もあります。今回の実証でも、空港から少し離れているものの羽田空港の管制圏内という場所を選んでいます。


Designed by Mitsubishi Jisho Design

——空飛ぶクルマの特性に合わせて規制の改善を検討することも必要なのですね。そのほかに注目している規制などありますか?

土山:建築基準法の容積率はその一例です。たとえば現在の建築基準法などに照らせば、建物の屋上に待合室を作ったり直通エレベーターを作ったりすると、新しく容積率にカウントされたり、場合によっては増築扱いになる可能性もあります。そうなる場合の検討や対応はビルの所有者にとっては非常に大きな負担増加につながるのです。

ご存知の通り、空飛ぶクルマは100年に1度の移動革命とも呼ばれている技術革新であり、期待もされています。革命レベルの新しいモビリティを実装するにあたっては、既存のルールを杓子定規に当てはめるのではなく、時には前例にとらわれない発想や視点も併せて考えていくべきではないでしょうか。実際に関係省庁とは、「この規制は確かに再考の余地はありますね」といった意見交換も始めています。もちろん大前提として、安全性とトレードオフになる規制緩和は許されませんが、国や自治体を巻き込みながらディスカッションを進めていくフェーズだと感じています。

——世の中には、法規制があるからと諦めてしまっている企業も多くあります。どのように規制や法律と向き合えば良いのでしょうか?

土山:私が特に意識しているのは、私たちのお客様や当社の利益のみ訴えないことですね。

当社も、国土交通省や経済産業省も、新しいインフラとして空を整備したいという想いは同じです。当社の利益のみ訴えていると、地域の方や街で働く多くの皆様などの理解を得るのは難しいでしょう。安心安全を確実に担保できるのか、騒音の影響はどれくらいあるのか、空飛ぶクルマやヘリコプターが起こす風はビルが林立する中でどのような吹き方をするのか、などをつまびらかにする。今回は、「そうした技術的な検証をきちんと行うのであれば国としても必要な実証だ」と考えていただき、特別な許可をいただけることになりました。

空飛ぶクルマの普及で、より豊かな世の中を実現する

——空飛ぶクルマの意義について、改めてお伺いしたいです。昨今、自動運転が話題になっていますし、そもそも日本は国土の小さな国です。インフラが3次元になれば便利になるのは想像がつくのですが、実際にはどれくらい便利になるのでしょうか?

土山:おっしゃる通り、たとえば羽田空港を例に考えると、羽田から都心は鉄道や道路がしっかり整備されていますし、そもそもタクシーでもそれほど時間はかかりません。既存のインフラで十分な場合、空飛ぶクルマをわざわざ急いで作る必要はないのかもしれません。

しかし、空飛ぶクルマが価値を発揮できるケースは多くあります。たとえば日本は世界的に見ても中山間地域が多く、島嶼部も多い国です。既存インフラだと大回りになってしまう場所や、移動が難しいからという理由で訪問を諦めてしまう場所もあります。その点、島と島を繋ぐ場合には空からアプローチする方が速いですし、移動の最中に美しい日本の景観を楽しめるメリットもあります。あるいは秘境と呼ばれる温泉宿へも行きやすくなるかもしれませんね。都市部でも慢性的な渋滞に悩まされている地域も存在します。莫大な移動時間を受け入れざるをえなかった状況も変わるかもしれません

——既存インフラをリプレイスしていくのではなく、選択の幅を広げていくことでより便利な世の中が実現するということですね?

土山:おっしゃる通りです。

そのほか、災害時の緊急対応としても注目を浴びています。たとえばビジネスの観点であれば、首都圏で大きな災害があったときのBCP対策として郊外拠点に本社機能を一時的に移設するというのはありえますよね。また災害で道路が分断したり、地上のインフラが機能不全に陥った際に、空モビリティをうまく活用できるのではないでしょうか。

また、空飛ぶクルマであるeVTOLは静粛さが売りの1つでもあります。昼間は人を運び、夜は物資を輸送するといった使い分けも可能でしょう。これまでは移動時間は文字通り移動のための時間だったのが、打ち合わせや新しい発想を得るための時間になるかもしれません。ビジネスのニューノーマルですね。こういった仮説の検証のためにも、今回と次回の実証実験を通じて、dB数や周波数を測定することで実際に空飛ぶクルマの運航でどれくらいの騒音が発生しうるのかも検証したいと考えています。こうした課題を具体的に検証し、ユースケースを広げていくことで、より便利な世の中の実現に貢献していきたいと考えています。

ここがポイント

・空飛ぶクルマが実現すると、鉄道などの既存のインフラを前提とした場合には開発しても事業性を見出せないエリアが一等地になる可能性がある
・三菱地所は、空も含めたアセットの利活用、空も含めたアプローチにより、新しく作るではなく使い方を工夫することで、街と街のつながりや街の中に新しいシーンを創っていくことを目指している
・2024年2月には、臨海部と都心部を直接つなぐ航路で、東京都の協力のもと、日本航空、兼松、三菱地所の三社でヘリコプターでの飛行実証を行う
・実際に商用運行するのであれば、電車に対する駅、飛行機に対する空港のように、ターミナルや離発着場の機能も含めたサービス全体の一連の流れをデザイン、検証することが必要
・革命レベルの新しいモビリティを実装するにあたっては、既存のルールを杓子定規に当てはめるのではなく、時には前例にとらわれない発想や視点も併せて考えていくべき
・規制や法律と向き合う際には、自社や自社の顧客の利益のみを訴えるのではなく、安全性の担保や周囲への影響など技術的な部分の検証までつまびらかにしてく必要がある


企画:阿座上陽平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:宮崎ゆう
撮影:阿部拓朗