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中国のバーチャル試着リモート販売導入店で販売員一人平均1700万円/月の売上を記録。自動精密採寸・仮想試着で、アパレルの課題を解決へ

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新型コロナウイルスの感染拡大により、アパレル産業は大打撃を受けた。しかし、「打ち手はまだある」とアパテックジャパン株式会社の孫代表は語る。「海外に比べて、EC化率が非常に低い日本市場は、バーチャルビジネスに転換することで好機を得られる可能性が高い」。中国で実用化され、実店舗を無くしてEC販売率を大幅に引き上げた「CR技術(クリエイトリアリティ=自然な合成画像)」を活用したバーチャル試着(仮想試着)。この技術を推進し、withコロナ時代のアパレル産業改革を目指す、アパテックジャパンの構想とその技術について伺った。

INDEX

バーチャル上でリアルなフィッティングを実現する「CR技術」
変化する実店舗とオンライン販売の関係性
ここがポイント

孫峰
アパテックジャパン株式会社 代表取締役
1976年生まれ。2001年兵庫県立神戸商科大学卒業。2002年英国 Edinburgh Napier University 修士卒業。2005年3月京都大学大学院 経済研究科 研究生課程修了。
2005年万盟投資管理有限公司(北京)入社。IBS証券株式会社、株式会社スタッツインベストメントマネジメントを経て、2019年10月アパテックジャパン株式会社設立。

バーチャル上でリアルなフィッティングを実現する「CR技術」

――2020年春、貴社のサービスを活用したバーチャル上での新作発表会は、コロナ禍におけるファッション業界の象徴的な成功事例になりましたね。

:はい。当社の試着サービスを活用した、欧米のラグジュアリーブランドのバーチャル試着リモート販売システムを導入した店舗では、コロナ禍における自粛期間中に販売員一人平均およそ1,700万円/月の売り上げを叩き出しました。これは人口の多い中国本土における施策であること、ラグジュアリーブランドにおける成果であることを踏まえても、今後のファッション業界におけるエポックメイキングな出来事だったと思います。

――ここで活用されたバーチャル試着サービスについて詳細をお聞かせいただけますか。

:これはファッションモデルの膨大な身体データと、衣料品データをAIによってマッチングさせる「CR技術」を活用したバーチャル試着システムです。アパテックジャパンは実店舗での実験を繰り返し、店舗運営コストの効率化を実証しました。

――Web上のデモンストレーションを拝見したところ、モデルが実際に着用しているかのような再現度の高さに驚きました。

:着用時の陰影や透け感、しわのでき方やドレープの流れ方に至る細部までリアルに忠実に再現されます。また指定の角度だけではなく360°全方位から、バラエティあるポージングで、意のままに着用感を確認していただけます

――個人の消費者も同様にバーチャル上で試着が可能になるのでしょうか。

:はい、日本では今年の8月からネットでプラットフォームに順次展開をしています。

――この消費者向けのバーチャル試着のシステムについて詳しくお聞かせください。

:システムは非常にシンプルです。必要なのは、衣料品データと身体データのみ。お客様の身体データの測定は、AI機能搭載の固定カメラを組み込んだ、実店舗の試着室で撮影させていただきます。ここで重要なのは、信頼性の高いデータを取得するために撮影環境を統一すること。我々で言う、組み込みソフトの一律化、撮影する角度や距離、光の当たり方などです。類似計測サービスは3Dで多いですが、我々の提供するサービスは2.5Dの技術。ですから、このようにしてより信頼性の高い身体データを取得する必要があります。
同様の手法で衣料品も撮影し、データ化します。身体データの測定にあたっては、テーラードの精度が一番高いとされますが、それはコストがかかりますし、サイズ入力などにおけるヒューマンエラーの可能性も否めません。我々は3〜4秒の撮影だけで、信頼性の高いデータを作ることができます。

変化する実店舗とオンライン販売の関係性

――この技術によって、アパレル事業者側には大きなメリットが生まれそうですね。

:はい。まずは撮影コストの削減による、さらなる業務効率化が可能となります。アパレル事業者は、ECでパワーがかかると言われる「ささげ(撮影、採寸、原稿)」業務の商品撮影と採寸のコンパクト化が実現します。カメラマンやヘアメイク、モデルなどのスケジュール調整から実際の撮影に至るまで膨大な時間が要される労働集約型の業務ですが、我々の場合はモデルの撮影は身体データを取るための1回のみ。あとは、商品の撮影さえできれば24時間〜3日で合成した画像をオンラインにアップすることができます。以降は商品の撮影のみ。この技術を活用することで、商品サンプル完成時に着用イメージをすぐに公開することができ、事前販売や受注販売なども可能になりますし、お客さんからの意見を商品開発に活かすこともできます。
ふたつ目のメリットは、バーチャル試着を利用することでのECの売上増加、及びECの返品率を下げる効果です。
現状のECでは、写真と現物のイメージの違いや、サイズ違いでの返品が多数発生しています。バーチャル試着では、現物の衣料品データと身体データを活用により、試着イメージとサイズ感を忠実に再現できますし、様々な商品を自由に試着できます。これによって、ECでの返品率を下げることが期待できます

そうなれば、アパレル業界の大きな課題でもある廃棄ロスや、郵送でかかるCO2の削減にもつながるでしょう。まとめると、アパレル企業様には「ECサイトへの顧客誘導による販売増」「ささげ業務の撮影業務AI化によるコストダウン・効率化」を提供。社会には、年間100万トン・33億着と言われる衣料品「廃棄ロス」を軽減し、地球環境保全への貢献を実現していきます。

――顧客側のメリットはいかがでしょうか。

:その一番のメリットは家にいても好きな時間帯、好きなタイミングで自分にフィットする買い物が実現することです。このご時世ですから、なかなか店舗に行きづらいですし、実際に店舗に行って、誰が着用したかわからない服を試着するのは控えたい。そこでバーチャル上で、自分の身体サイズに合ったイメージ画像を確認できれば、実物が手元になくても安心して購入いただけるようになります。将来的には、自分の身体サイズと欲しい服のイメージを組み合せるONE TO ONE の世界が実現します。実店舗では当たり前の、試着してからの買い物をECでも体験できるようになるのです。現在のECは、実店舗に例えると商品とレジしかない状態。ここに、販売員の代わりとなる試着機能をつけることで買い物の一助となると考えています。

アパテックは試着業界最大手を目指しています。試着サイトサービスの日本スタートを皮切りに、年内にはアジア、米国、EU諸国にも進出を予定。10億人の個人ユーザー、1万店のブランドにご利用いただく状態が目標です。

試着サイト

――実店舗の立ち位置はどうなるのでしょうか。

:しばらく日本では実店舗からECへという流れが進んでいますが、いずれはECから実店舗へ、現在とは逆の流れが生じるでしょう。おそらくどちらか、だけではなくどちらも、ということになると思います。最終的には、自分の目で色味や素材感を確認したい方がやはり多いですから。

――現在の実店舗とはどの点での変化が予想されますか?

:少数の販売員による小型店舗、もしくは無人店舗の導入が考えられます。オムニチャネルを前提にすると、店舗に必要なSKUは1サイズ1カラーのみ。その分だけ省スペースになり、テナント費がミニマム化します。それだけでなく接客のあり方も変わりますから(EC購入を促進する方向に変わるため)、少人数で、身体測定のサポートをする役割に変わっていくでしょう。そういう意味で、実店舗はデジタルエンタメ的な要素を持つ場所になると思います。

――それこそがまさにニューリテールであり、孫さんのおっしゃるFaaSであると。

:はい。「FaaS」とはFashion as a Servicesという私達の生み出した造語ですが、まさにアパレル業界とテックを融合させた近未来ファッションソリューションの提供を意味します。これまでご紹介した内容を一例として、ファッション業界をより良くしていければと。そのためには地道な活動にはなりますが、より多くのお客様に身体データと衣料品データをマッチングして、プラットフォームを開拓していく必要があります。

――ITソリューションでありながら非常に地道な積み重ねになりますね。

:3年、5年、7年と地道に続けていけばいつか市場に理解してもらえると思っています。アパレルブランド1社だけではもう、伸びません。日本のアパレル事業全体でマルチブランディングしていくようなイメージで、昨今の社会情勢下でうまくトランスフォームしていくことがチャンスにつながると思います。

ここがポイント

・アパテックジャパンが提供するのは、中国で実用化され、実店舗を無くしてEC販売率を大幅に引き上げたCR技術を活用したバーチャル試着
・中国では、バーチャル試着を導入した欧米のラグジュアリーブランドのリモート販売で、コロナ禍に販売員一人平均およそ1,700万円/月の売り上げを記録
・信頼性の高い身体データを取得するために重要なのは、撮影環境を統一すること
・バーチャル試着を利用すると、商品撮影と採寸業務のコンパクト化と返品率の低減が可能。廃棄ロスや、郵送でかかるCO2の削減にもつながる
・いずれはECから実店舗へ、現在とは逆の流れが生じ、接客のあり方も変わると予測


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:小泉悠莉亜
撮影:戸谷信博