2022年3月30日、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」と、イベント・コミュニティ管理サービス「Peatix」が共同開催する「Founders Night Marunouchi」を実施しました。(前回のイベントレポートはこちら)。
このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者から学びを得るもの。今回ご登壇いただいたのは、アパテックジャパン株式会社代表取締役社長の孫峰さんです。
同社は、「アパレル」と「テクノロジー」を掛け合わせた複数の事業を展開しています。中でも主力のバーチャル・フィッティング・プラットフォーム「Apatech Online Fitting」は、オンライン上でアパレル商品の試着ができるサービスです。具体的には、気になる商品と自分の体型に近いモデルの画像を選択すると、それぞれのデータがAIによって自動で合成され、試着時のイメージを確認できるというもの。店舗に訪れることなく、実際の試着でかかるような手間を省いた上で、オンラインで購入まで完結できる点が特徴だといいます。
他にも、モデルの撮影データとアパレル商品の撮影データを合成し、モデル試着画像を生成するEC向け事業や、アパレル店舗の無人化支援なども展開している同社。今回のイベントでは、孫さんがアパレル業界における事業展開に着目した背景や、立ち上げ間もない自社サービスを導入してもらう上での苦労などを伺いました。モデレーターを務めたのは、Peatix Japan 取締役 藤田祐司さん、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志です。
INDEX
・“バーチャル試着”で、廃棄ロス削減に貢献したい
・信頼できる関係を築き、事業の“第二の柱”を生み出していく
“バーチャル試着”で、廃棄ロス削減に貢献したい
孫さんがアパテックジャパンを創業したのは、2019年10月。「アパレル業界では、環境負荷にどう向き合うかが大きな課題の一つになっている」と知ったことが、業界に着目したきっかけだったと話します。
孫「アパレル産業によって排出されるCO2の量は、自動車産業と同程度と言われています。実際に、ファストファッションの商品を生産する中国の工場では、商品の売れ行きが想定よりも悪かったり、生産している間にブームが終わったりしてしまって、新品のまま商品を廃棄するケースが目立っています。環境負荷の要因である廃棄ロス問題をなんとか解決したいと思い、会社の創業に至りました」
〈アパテックジャパン株式会社代表取締役社長 孫峰さん〉
同社は創業当初、リアル店舗向けバーチャル試着サービスの開発を進めていました。衣服が掛けられたスマートハンガーに触れると、身長や体型データと衣服のデータが合成され、店内のディスプレイに試着イメージが投影されるサービスだったそうです。
しかし、新型コロナウイルスの流行などが影響し計画は白紙に。次の機会を探る中で、孫さんが目を向けたのは「ECサイト」でした。アパレル商品を簡単に購入できる一方で、「返品の多さはECが抱える課題の一つであると気づいた」と言います。
孫「主な返品理由は『サイズ違い』と『イメージとの違い』です。リアル店舗で商品を購入する際は試着が可能ですが、当時のECではそうはいきませんでした。また、一度返品された商品は再販できるとは限らない。アイロンがけや検品業務などによってコストが高くつきやすく、場合によっては廃棄に至るケースもあります。
購入後にミスマッチに気づくケースを防げれば、廃棄につながる返品を減らせるのではないか。そう考え、ECで商品を購入する前に、オンライン上で試着イメージを確認できるサービスを作ろうと決めました」
ユーザーに“より良い購入体験”を届けたい
「バーチャル試着」の技術を通し、ECでの購入体験に変革を起こしているアパテックジャパン。「消費者のみならず、サービスを導入するアパレルショップにとっても大きなメリットがある」と孫さんは言います。
孫「アパレル業界では新商品を発売するごとに、PRのためのモデル撮影を行う必要があります。しかし、私たちのサービスを活用すれば、既にあるモデルの画像データに、新商品の画像データを合成するだけで、簡単に試着イメージを生成できる。料金や手間といったコストの削減はもちろん、画像データさえあれば在庫を不要に抱えることなく販売もでき、先ほど触れた廃棄ロスの問題解決にもつながります」
イベント終盤にはモデレーターの藤田さんから「企業にサービスを導入してもらう上で、これまでにぶつかった壁や課題はありますか?」と疑問が投げかけられました。孫さんはこれまでを振り返りながら、その質問に回答します。
孫「あるECサイトに弊社のプラットフォームを導入したところ、サイトへのアクセス数は伸びたものの、反比例するように売上が下がってしまったことがありました。試着イメージを確認し『本当に自分に合った商品か』をより吟味できるようになったことで、いわゆる衝動買いをする方が減ったからではないかと考えています。
たしかに、ユーザーの商品購入プロセスにおける体験価値は、それまでよりも向上していたはずです。しかし、短期的な時間軸でみると、導入する企業にとっては売上を減少させる可能性もある。ユーザーが本当に良いと思える商品を適切に購入できるようにし、環境負荷の問題解決にまでつなげたいという私たちの考えと、導入を検討してくださっている企業が持つ期待値、それぞれをしっかりとすり合わせ、互いに納得したうえで導入を進めることが重要であると学びました」
今後の展望については「『Apatech Online Fitting』を世界最大の試着プラットフォームにまで育てたい」と話す孫さん。そのためには、より多くの店舗やECにバーチャル試着の技術を導入してもらうことで、より多様なデータを集約し活用していくことが鍵になると意気込みを語り、イベントは幕を閉じました。
▼当日のセッション
『Fashion as a Services』
https://youtu.be/sEE6MmS1Lvg