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領域が異なる3人の投資家は新しい年度でどこの領域に注目しているのか?

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4月を迎え新しい年度が始まった組織も多いはずだ。今回は年度の切り替わりに際して、3名の投資家に新年度の注目領域と理由をインタビュー。それぞれ色の違う投資家がどこの領域になぜ注目しているのかを伝えていく。

INDEX

人類の向かう先として人間拡張・宇宙開発・ディープデジタルに関心も資本も集まる[TomyK 鎌田氏]
治療用アプリの薬事承認など、医療現場を取り巻くデジタル化の流れは加速する[Beyond Next Ventures 橋爪氏]
WEB3.0、カーボンニュートラル、ライフサイエンスは三菱地所にとって成長エンジンにもなり得る領域[三菱地所 橋本氏]

人類の向かう先として人間拡張・宇宙開発・ディープデジタルに関心も資本も集まる


鎌田富久
TomyK代表 / 株式会社ACCESS共同創業者 / 起業家・投資家
東京大学大学院理学系研究科情報科学博士課程修了。理学博士。在学中にソフトウェアのベンチャー企業ACCESS社を設立。世界初の携帯電話向けウェブブラウザを開発するなどモバイルインターネットの技術革新を牽引。2001年に東証マザーズに上場し(現在、東証プライム)、グローバルに事業を展開。2012年にTomyKを設立し、ロボット、AI、人間拡張、宇宙、ゲノム、医療などのテクノロジー・スタートアップを多数立ち上げ中。東京大学大学院情報理工学系研究科 特任教授。現在、医療AIのLPIXEL代表取締役も務める。


鎌田「2022年度で注目しているのは、人間拡張・宇宙開発・ディープデジタルの3領域です。これまでも注目していたので、注目領域が変わったわけではありませんが、より注目度合いが高まりました。民間人の宇宙旅行がはじまり、メタバースといった仮想世界が出現し、ゲノム技術で短期間にコロナワクチンを実用化するなど、徐々に進展が顕在化してきています。

2020年にnoteにも書きましたが、人類の向かう先として、世の中の関心も資本もこの3分野に集中していくのが必然だと考えています。注目され資本が集まることを背景に、この分野でのテクノロジーが発展、できることがより具体化して行くでしょう。

これらの領域の起業家や研究者と、新たなテクノロジーの実現性や実用化についてあれこれ話をして、未来を想像するのはワクワクします」

治療用アプリの薬事承認など、医療現場を取り巻くデジタル化の流れは加速する

橋爪 克弥
Beyond Next Ventures株式会社 執行役員 / Venture Capitalist (Medical)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ジャフコ入社。入社後10年間、一貫して大学発ベンチャーへの出資に従事。産学連携投資グループリーダー、JST START代表事業プロモーターを歴任。自ら経営者となりバイオベンチャーの創業を率いるなど、複数の大学発ベンチャーの創出にも関与。出資先はアスタミューゼ、マイクロ波化学、リバーフィールド、Biomedical Solutions(大塚HD傘下へ売却)など。2020年にBeyond Next Venturesに入社し、医療機器、デジタルヘルス、エレクトロニクス領域などのスタートアップへの出資・事業化支援を行いながら、技術系スタートアップ経営者のナレッジシェアを目的とした「BNV Fireside Chat」を主宰。海が趣味、湘南在住。


橋爪「私は、デジタルヘルス・医療機器分野に注目しています。デジタルヘルスにおいては、特定の疾患や診療科目における予防、診断、治療、フォローアップというバーティカルな医療サービスに、医療機器においては、家庭、クリニック、ベットサイドなどで使える超小型のモビリティ医療機器、IoMT(Internet of Medical Things)に注目しています。

これらの領域は海外に比べて遅れてはいるものの、パンデミックの影響を受けて遠隔診療やインターネットを活用した医療の加速を感じ、注目し始めました。プライマリ・ケアのみならず、精神疾患・慢性疾患なども含めた治療や予防に劇的な変革をもたらすサービスが広がっていくでしょう。
実際に、2022年4月から始まるオンライン診療における診療報酬の改定や、2020年頃からCureAppをはじめとする治療用アプリが薬事承認され、保険適用が開始されるなど、医療現場を取り巻くデジタル化は加速しています。

従来は、治療、予防、通院などを病院で行うことが当たり前でしたが、スマートフォンのアプリ、スマートフォンと連携する医療機器、リキッドバイオプシーをはじめとする診断技術の進化により、医療へのアクセスが劇的に効率化されるでしょう。また、従来はアナログで管理されていた、もしくは取得できていなかった医療データが取得・活用されることで、治療そのものが個別化・高度化され、個々の人に最適化された治療が提供されていくと予測しています。

当社では、医療を始めあらゆる領域での変革を加速させるべく、既に起業をしている経営者だけでなく、起業を志す医師や経営者候補とも接点を増やしています。2021年からはビジネスパーソンとVCの共同創業プログラム「APOLLO」をスタートし、ともに関心を持てる社会課題やテーマを議論しながら、事業創出を目指しております。」

WEB3.0、カーボンニュートラル、ライフサイエンスは三菱地所にとって成長エンジンになり得る領域


橋本雄太
BRICKS FUND TOKYO 投資担当 / 三菱地所株式会社 新事業創造部 主事
新聞社、コンサルティングファーム、鉄道会社を経て三菱地所に入社。前職では、アクセラレータープログラムやインキュベーションオフィスの立ち上げ、スタートアップ投資や事業共創などオープンイノベーション戦略全般を推進。当社では、成長産業の共創を目指す新たなスタートアップ投資ファンド“BRICKS FUND TOKYO”を企画し、立ち上げをリード。5年以上のオープンイノベーション全般の経験を活かし、既存産業の変革と新産業の創出を目指す。BRICKS FUND TOKYOでは、新規投資およびファンド全体の戦略立案・運営企画を担当。


橋本「成長産業の共創を目指す三菱地所の新たなスタートアップ投資ファンド“BRICKS FUND TOKYO”を立ち上げ、運営しています。三菱地所の投資担当としては、ブロックチェーン、NFT、メタバースなどWEB3.0と呼ばれる領域や、カーボンニュートラル、ライフサイエンスなどの領域に注目しています。これまでは不動産テックなど本業に近い領域を中心にアプローチをしていましたが、パンデミックなどを経て社会の変化のスピードは年々上がっている実感があり、トレンドをいち早くキャッチアップする必要性を感じるようになりました。そこで本ファンドでは中長期的な社会インパクトをもたらすテーマにフォーカスし、投資を行っていく予定です。

WEB3.0やカーボンニュートラルなどの領域は、既存の産業構造を塗り替えたり、私たちの生き方そのものを大きく変えていく可能性があると思っています。いずれも、まちづくりを本業とする当社にとってはディスラプターにも、成長エンジンにもなりえます。ビジネスモデル革新を進めていく中で、こうした成長領域の探索を進め、中長期的にどのようなことが起こり得るのか常に検討し続ける組織能力を身に着けていく必要があります。

いずれの領域も大きなトレンドとして、VCや事業会社からの出資が一定進むと思いますが、インフラとして定着するまでにはもう少し時間は掛かるのではないかと予測しています。足元では引き続き、DXやSaaSなどの文脈に投資が集まる傾向は変わらないかと思っています。

時間軸の長いテーマにおいては、目先の協業実現や短期的な成果の創出に固執せず、まずはスタートアップの事業成長に貢献し、成長産業の創出を後押しするという姿勢が、結果的に当社にとっての戦略リターンを最大化することにも繋がります。どんな世界を創りたいのかというビジョンベースで大きな絵を描き、注目領域の起業家のパートナーとして、力を合わせて社会の変革に挑んでいきたいと考えています」


企画:阿座上陽平
編集:BrightLogg,inc.