TO TOP

丸の内をハックした大型ビジネスフェス「CHANGE to HOPE 2022」は、なぜ実現できた?街全体を巻き込んだ、大企業とスタートアップの協働

読了時間:約 10 分

This article can be read in 10 minutes

※本稿はTMIP Articleに掲載した記事を転載したものです。

丸の内をハックした大型ビジネスフェス「CHANGE to HOPE 2022」は、なぜ実現できた?街全体を巻き込んだ、大企業とスタートアップの協働

コロナ禍でオンラインイベントが普及した一方、オフラインのイベントも徐々に復活し始めています。いま、あえてリアルな場所で集まる意味が、問い直されているのではないでしょうか。

そんな中で開催された大規模なリアルイベントが、大型“ビジネスフェスティバル”と称した、NewsPicks主催の「CHANGE to HOPE 2022」です。2022年10月、丸の内エリア一帯を舞台に開催されたこのイベントは、約2,000人の参加者を集めました。

オンラインが主流になりつつある一般的なビジネスカンファレンスとは、一線を画するCHANGE to HOPE 2022。丸の内をハックするという大胆な試みが実現した背景には、NewsPicksと大手町・丸の内・有楽町(大丸有)エリアの地域活性化に取り組むNPO法人・大丸有エリアマネジメント協会(通称:リガーレ)、そして大丸有エリアで大企業とスタートアップ・官・学の連携でイノベーションの創出を支援するTMIPによるコラボレーションがありました。

本記事では、異なる強みを持つ3社が協働し、前例のない“大型ビジネスフェス”へと結実した軌跡をたどります。

株式会社ユーザベースCEO室 Connector 渥美 奈津子
大学卒業後、仙台放送に入社。政治経済担当記者として報道に携わったのち、新規事業開発に従事。その後リクルートを経て、2016年より広告事業の立ち上げ期であったニューズピックスに入社。拡大尽力の後、人材開発・組織開発・事業開発支援を行う。2023年にユーザベースへ転籍し、現職に至る。

NPO法人大丸有エリアマネジメント協会(三菱地所) 茂垣 亜矢子
2008年大学卒業後、IT専門商社へ新卒入社。営業推進としてシリコンバレーメーカーのネットワークセキュリティ製品の日本市場展開を担当。2014年から3年間カナダへ渡加。カナダ政府観光局日本支局でアウトバウンド事業に携わったのち2018年三菱地所株式会社へ入社。以降、大丸有エリアのソフト面の活用を推進する「NPO法人大丸有エリアマネジメント協会(通称:リガーレ)」で都心型エリアMICE誘致・開催支援を推進する「DMO東京丸の内」事業を担当。

TMIP事務局(三菱地所) 奥山 博之
2001年大学院修了後、エネルギー会社に入社。主にエネルギー機器の仕様策定や開発業務に従事後、2012年に三菱地所株式会社に入社。以降、オフィスビルにおける省エネルギー対策、AI・IoT・ロボティクスなどの最新技術を活用したまちづくり(エコシステム形成)に関する業務に従事。

INDEX

「絶対に丸の内だと決めていました」──NewsPicks初期からの“悲願”とは?
丸の内を創発の場所へと変えていくために
丸の内は“無機質なビジネス街”か?
開催決定時点で「残り5ヶ月」。それでも実現できた理由
「一社だけではできなかった」──コラボレーションによる相乗効果

「絶対に丸の内だと決めていました」──NewsPicks初期からの“悲願”とは?

そもそもNewsPicksはなぜ、丸の内を舞台に大規模イベントを開催することにしたのでしょうか?

その背景には2022年7月に敢行された、NewsPicksの属するユーザベースグループ本社の、六本木から丸の内への移転がありました。

このオフィス移転は「大企業」と「スタートアップ」──アメリカでたとえるとニューヨークを中心に伝統企業が集まる“東海岸”と、シリコンバレーを中心にスタートアップ企業が集まる“西海岸”──の文化を融合させるための一手だったと、ユーザベースの渥美奈津子さんは語ります。

渥美「丸の内への本社移転は、弊社メンバーにとって念願の出来事だったんです。そもそもNewsPicksが立ち上がって間もない2016年頃、私たちのサービスは『渋谷や恵比寿・六本木のスタートアップ界隈で流行っているアプリでしょ?』と言われていました。

しかし、私たちが目指していた『経済情報で世界を変える』を真に実現するためには、“西海岸”的なスタートアップの人々だけでなく、“東海岸”的な大企業の人々をも巻き込んでいく必要がある。日本の“東海岸”に相当する丸の内エリアへの本社移転は、両者を融合させようとする姿勢をさらに明確にする覚悟の表れでもあったのです」


株式会社ユーザベースCEO室 Connector 渥美 奈津子

CHANGE to HOPE 2022を丸の内で開催したのも、そうした意思表示の一端だったといいます。「東京で開催するなら、絶対に丸の内だと決めていました」。

「東海岸と西海岸の融合」の結果、良い意味で、丸の内というビジネス街“らしくない”イベントが展開されました。例えば、丸の内仲通りを「HOPE Street」と名付け、歩行者天国として開放。このエリア一体にある、近隣のビルの中にある企業オフィスなども、会場の一部として活用されました。「こんな場所でイベントが開かれるとは」という声も聞かれて、来場者に大きなインパクトをもたらした手応えがあると渥美さんは振り返ります。


(写真提供:ユーザベース)


(写真提供:ユーザベース)

丸の内を創発の場所へと変えていくために

NewsPicksの丸の内移転、そして大型ビジネスフェスの開催を裏側から支えた存在の一つが、三菱地所が事務局を担うNPO法人 大丸有エリアマネジメント協会(リガーレ)とDMO東京丸の内です。

リガーレは大丸有エリアを中心に、「街の賑わいの創出」を目指している団体。人・産業・技術が集積するこのエリアの強みを活かし、道路や公的空間といった地域資源を活用したプロジェクトの企画、ソフト面の施策を通して街の付加価値をあげ、大丸有エリアに親しみをもってもらえるような場所となるまちづくりを日々推進しています。また、そういったリガーレの活動の中で人が集まって何かを生み出していく活動を活発化させ、街の経済活性化や新たなイノベーションの創出、更なる発展に繋げていくため、2017年に発足したのが「DMO東京丸の内」です。

丸の内エリア全体を活用するというCHANGE to HOPE 2022の手法の背景には、DMO東京丸の内が提案した「都心型エリアMICE」というコンセプトがあります。リガーレの茂垣亜矢子さんによると、MICEとは企業などの「会議(Meeting)」、「報償・研修旅行(Incentive Travel)」、国際機関・団体、学会などが行う「国際会議(Convention)」、「展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)」の頭文字から生まれた言葉。「都心型エリアMICE」は、MICEをいちホール施設で完結させるのではなく、エリア内のさまざまな施設や地域資源を「面」で活用しエリア全体をひとつのカンファレンス会場としてとらえるMICEの開催スタイルだといいます。

茂垣「街のハードとソフト資源を最大限活用し、エリア一帯で連携しながら開催支援をすることで、MICEの主催者や参加者には丸の内という街を五感で感じ楽しんでもらいたい。また、街としても国内外から多様な人材が集まるMICEを受入れるメリットを街全体で享受し、経済波及やイノベーション創出、ひいては大丸有エリアという都市の競争力アップへ繫げていこうという『まちづくり』の想いも含まれています。

ですからNewsPicksさんからCHANGE to HOPE 2022開催を『超参加型ビジネスフェス』 として盛り上げたいとのご相談を受けた時、我々が目指す都心型エリアMICEと非常に相性が良いだろうと思いました」

“日本の玄関口”である東京駅と皇居に挟まれ、約28万人の就業者と4,000以上の多種多様なオフィスが居を構える、丸の内。お金を払って学びに来た参加者だけでなく、エリアのワーカー、たまたま通りかかった来街者まで……垣根なく人が集まり偶発的な出会いが活発に生まれるイベントをこのエリアで開催することは、日本における都心型エリアMICEの事例として大きな意義があると茂垣さんは語ります。

茂垣「丸の内エリアにはこれだけ大規模に企業や人材、技術が集積しているので、大きなシナジーが生まれるポテンシャルを持っていると思います。丸の内を、さまざまな業界の企業が偶然出会い、相互交流して新しいイノベーション、文化を生み出していく場所へと変える。そのためにリガーレ・DMO東京丸の内としても、ぜひNewsPicksさんに全面協力したいと考えました」


NPO法人大丸有エリアマネジメント協会(三菱地所) 茂垣 亜矢子

丸の内は“無機質なビジネス街”か?

そしてもう一つ、CHANGE to HOPE 2022の重要な背景として、2020年3月に発表された、ユーザベースと三菱地所の資本業務提携があります。

ユーザベースグループが得意とするコンテンツと、三菱地所が得意とするまちづくりをかけ合わせ、丸の内エリアをこれまで以上に魅力的で、イノベーションを生み出し続ける街とする──そんな目的で行われた提携ですが、ことの発端は、2018年にNewsPicksとTMIPが共同開催した「丸の内ビジネス酒場」というイベントだったと渥美さんは振り返ります。

渥美「三菱地所さんに誘われて、旧丸ビルの1階を区切って酒場を作り、堀江貴文さんなどNewsPicksに出演してくださっている識者のトークセッションを開催しまして。それが純粋に楽しかったんです。

丸ビルの1階というきっちりとした場所で、ラフな飲食店を開いてイベント化するからこそ、独特な面白さが生まれていると感じました。三菱地所というハードを持つ会社と、ソフトを持つNewsPicksの、協業が持つ可能性を感じた瞬間でしたね」

三菱地所がNewsPicksとの協業に踏み切った背景には、丸の内という土地に対する問題意識がありました。大丸有エリアのイノベーション・エコシステム形成に取り組んできたTMIP事務局の奥山博之は、丸の内の場作りに懸ける想いをこう語ります。

奥山「丸の内は約28万人も関係人口がいるのに、あまり交流がないので、改めて触れ合える塲をつくることが大事だと思ったんです。ソフト面ではビジネスイベントなどを開催したり、ハード面では皆で食事して和めるような場所を作ったり…そうすることで、人や会社が集積している強みを活かせるようになるのではないかと」


TMIP事務局(三菱地所) 奥山 博之

茂垣「私たちリガーレも、大丸有エリアを単なる人や企業が集積するビジネス街で良しとしていません。人々の活発なコミュニケーションや新たなイノベーション、個人レベルでも日々のビジネスやライフスタイルのヒントを得られる、生きた文化が生まれる街にすることを目指しているんです」

無機質なビジネス街ではなく、血の通ったあたたかい街としての丸の内へ──。そうした想いに突き動かされた実践の成果は、少しずつ表れはじめています。実際、丸の内に本社を移転し、さらには丸の内を舞台とした都心型エリアMICEイベントも経験した渥美さんは、この街のイメージが変わったと語ります。

渥美「もともと丸の内に対しては、『スーツのビジネスパーソンがたくさんいて、おカタイ街』といったイメージを抱いていました。でも、実際にオフィス移転をしてみると、思いのほかあたたかい街なんです。仲通りで企業対抗の綱引き大会が開催されていたり、ラジオ体操をしていたり。地域コミュニティとしての一体感があるのだと知りました」

開催決定時点で「残り5ヶ月」。それでも実現できた理由

CHANGE to HOPE 2022は、そうした丸の内という場所に、まさしく“血を通わせる”イベントでした。

しかしながら、このイベントの開催までには、約2年半もの準備期間を要したとのこと。その主な原因は、2020年の業務資本提携が完了すると同時に訪れたコロナ禍です。

多くのイベントがオンライン開催へと移行しました。しかし、そんな中でCHANGE to HOPE 2022は、リアルイベントとしての開催にこだわったと振り返ります。

渥美「オンラインでのイベントやセミナー開催が当たり前になり、誰か著名な方の話を聞きたいと思えば、すぐ聞けるような世の中に変わりました。そこで今一度、『リアルの価値とは何だろう』と考えるようになった結果、街全体を活用した今回の形に思い至りました」

そして2022年5月、コロナ禍で2度延期したこの企画は、満を持して開催が決定します。しかし、この時すでに、イベント開催まで残すところ5ヶ月だったそう。「普通ではない速度で準備しなければ、到底間に合わないと悟りました」。

茂垣「今回、かなり大人数の来場を想定して、丸の内仲通りの道路空間を中心に4ブロック計9会場が活用されました。車両通行を規制しての丸の内仲通りの活用やウェルカムムード演出のためのイベントバルーンの設置、イベントカフェとしてのキッチンカーとのコラボレーション……そのためには地権者や千代田区、警察など、関係各所への許可取りが必要になります。特に丸の内エリアは皇居と隣接していることもあり、道路活用や屋外広告に対する景観条例や規制がとても多く、行政との調整も簡単にはいかないエリア。本当に、時間との戦いでしたね」

渥美「私たちNewsPicksは、まだまだ丸の内に来たばかり。リガーレさんが積み上げてきた知見、行政やエリア関係者の方との信頼関係があったからこそ、何とかイベントが実現できたと思っています。例えば、ユーザベースだけでは、どこの警察署にどんな挨拶をすべきかすらも、すぐにはわかりません。警察や自治体との関係値を既に持っているリガーレというエリアマネジメント団体が、話を通してくれるなど全面的にバックアップしてくださったからこそ、調整を円滑に進めることができました」

「一社だけではできなかった」──コラボレーションによる相乗効果

急ピッチでの準備にもかかわらず無事に開催へとこぎ着け、大盛況に終わったCHANGE to HOPE 2022。

中でも、「特に思い出深い」と渥美さんが振り返るのが、TMIPと協力して実施した50人ほどのクローズドな“裏セッション”です。一般来場者向けのプログラム外で、ユーザベースのオフィスで実施されたこのセッションは、NewsPicksが集めたWeb3領域のスタートアップと、TMIPが運営する大企業社員中心のWeb3コミュニティが一同に会するものでした。

渥美「スタートアップ起業家と大企業の方が、その場で相談しあい、新たなビジネスの種が生まれる……そんな現場を体感することができました。これこそが、ユーザベースが思い描いていた『西海岸と東海岸の文化の融合』が実現した姿だったのではないか、感銘を受けましたね」

この発言に対して奥山さんも、「NewsPicksのおかげで、全く異なる種類の人々が集まるイベントが実現できた」と同意します。

奥山「TMIPの強みである、大企業の方々を中心とするつながりだけでは、どうしても同質性が高くなってしまいます。しかしNewsPicksさんのおかげで、スタートアップ関係者をはじめ、TMIPだけではリーチできない人々が集まってくれた。イベント参加者には大学生も少なくなく、年代や住んでいる場所を問わず、さまざまな人が集まっていたと思います。NewsPicksさんが起爆剤となり、多様な人々が集ってお互いに繋がりあう、相乗効果が生まれていたと思いますね」


(写真提供:NPO法人大丸有エリアマネジメント協会)

茂垣さんもCHANGE to HOPE 2022を通じて、今後、丸の内という街が目指すべき指針を感じ取れたと言います。

茂垣「都心型エリアMICEにおいて、リガーレやDMO東京丸の内が目指し続けていた理想像に一歩近づけたと思います。その理想像とは、言い換えれば、丸の内を世界に誇れる多様性、創造力豊かなグローバル都市にするということかもしれません。そこに足を運べば、何か新しい出会いや発見、変化に触れられる。丸の内をそんな街にしていきたいんです」

「自社だけではできなかった」──三人が口を揃えて語った言葉です。魅力的なコンテンツやスタートアップとのつながりを持つユーザベース、エリアマネジメントの専門家としての知見やネットワークを強みとするリガーレ、そして大丸有エリア内のアセットや大企業コミュニティを擁するTMIP。前例のない「大型ビジネスフェスティバル」は、スタートアップと大企業の垣根を超え、丸の内という土地の強みを最大限活かしたコラボレーションによって実現したのです。

●転載元記事:https://www.tmip.jp/ja/report/3540