TO TOP

ニューノーマルな新しい生活をスマートシティから創出する~三菱地所とNTTコミュニケーションズの挑戦~(後編)

読了時間:約 7 分

This article can be read in 7 minutes

※本稿は「C4BASE」の記事を転載したものです。

スマートシティというフィールドへの挑戦について三菱地所株式会社DX推進部ユニットリーダー篠原靖直氏とNTTコミュニケーションズ株式会社ビジネスソリューション本部スマートワールドビジネス部スマートシティ推進室 室長 塚本広樹氏の二名の最前線で活躍するリーダーによる対談を行った。
前編では、オフィス街である大丸有(大手町・丸の内・有楽町の3町域を合わせたエリア)で起きている変化ついてお話を伺った。
後編では、データ活用や推進のための共創の取り組みについて深ぼっていきたい。

藤元:こうした取り組みを行なっていくうちに、街の中の様々なデータが集まってきます。データの取り扱いについてはどのようにお考えでしょうか?

篠原:大丸有エリアの中では、当社は、都市インフラを整備・改善して行く機能の一端と、その都市インフラを活用しながらお客様にサービスを提供して行く機能の両方を担っており、都市インフラ側が持つべき情報と民間事業者として取得・活用する情報をどのように切り分けるかという議論を活発に行っています。また、都市インフラ側が民間事業者のサービス開発や改善に資する情報を適切に提供する必要があると思いますし、優れた都市インフラを整備する上で、その街の中でどんな属性・嗜好を持った方々がどのように活動しているかを知ることは非常に重要ですので、相互の情報連携をセキュアかつ必要十分な頻度・ボリュームで行っていくという視点も欠かせません。

藤元:そうすると、三菱地所が丸の内の人々にとって情報銀行的な存在にもなりうるのでしょうか?

篠原:情報銀行のようなサービスでマネタイズできるかは、今後議論を深めて行く必要がありますが、当社が、狭域エリア内で安心して情報を預けていただける存在になる必要があるとは思っています。

藤元:当然様々なベンチャーも自分達ではなかなか情報を集めるのが大変ですから、三菱地所からデータを提供してもらい、それを活用したいニーズはありますよね。

篠原:サービス提供事業者様をはじめとする様々なステークホルダーにどのような形で情報を提供して行くかはこれからの議論ですが、エリア内で適切に情報を共有・連携してお客様の利便性を高めて行くことは非常に重要です。
大丸有エリアには全体で約100棟のビルがありますが、その2/3は他社様がご所有になられています。
当社が取得できるデータだけで街全体の状態を可視化することはできませんし、当社グループや当社のテナント様が提供するサービスだけで就業者様・来街者様のニーズを全て満たせる訳でもありませんので、他の地権者様や外部のサービス提供事業者様と情報を共有・連携して行くことは、当社がお客様のニーズや期待にお応えする上でも必要不可欠だと考えています。また、例えば同種の顧客ベネフィットを実現する際に、同じ大丸有エリアの中でビル毎に異なるサービスベンダーやデバイスを利用していたとしても、その違いにしばられないベンダーフリー・デバイスフリーなプラットフォームを構築して、ユーザーであるお客様がその違いを意識する必要がないシームレスな顧客体験を作って行くことも、重要だと思っています。

藤元:これからは、企業間や地域間をまたいだ活用も大事になりますよね。

塚本:まさにそのニーズが顕在化しつつあります。デべロッパーの方々もビルの中のICTのためのOSは建築費用の中で捻出できますが、街の連携にはお金を出しにくいという現状があります。ビル間連携や街区連携では特に、NTTグループがプラットフォームを担う可能性が出てきていて、ふたつの方向性があると考えています。
ひとつは民間のデベロッパーとビル街区を作っていく流れ。そしてもうひとつは国が主導しているスーパーシティプロジェクトなどの枠組みで地方自治体のまちづくりを支援していく流れです。

藤元:そうすると、標準化なども大事になりますよね。

塚本:その通りです。ガラパゴスにならないよう、世界各国での利用が拡大してきている「FIWARE」などの活用を検討しています。またAPIをオープンに公開して様々なサービス事業者などとも繋げられるようにニュートラル性を作ることも意識しています。

藤元:コロナ禍でもNTTドコモの空間統計情報が活躍しています。これからのまちづくりはシミュレーションが大事になると思いますが、デジタルツインのノウハウなども貯まってきていますか?

塚本:まさに都市開発の分野ではNTTグループで連携して、デジタルツインを活かしたPoCを開始しようとしています。

藤元:デベロッパーとしても、そうしたNTTグループのノウハウを使えると嬉しいですよね。

篠原:まさにそう思います。当社でも、3D都市モデルを活用したエリア防災やロボット自動走行のシミュレーション、BIM(ビルディングインフォメーションモデリング)活用の検討等を本格的に開始しています。

藤元:ビジネスとして競争領域以外のまさに防災などの非競争領域は様々な企業が共通でやるべきことも多いと思いますが、行政の動きはどう見ていますか?

塚本:各スマートシティプレイヤーの中でも、マネタイズについては、大きな課題となっています。地方自治体でも、持続性のあるスマートシティサービスを確立していくためには、ビジネスとしても継続できるモデルが必要とされているのではないでしょうか。

藤元:そうなると、まさに公共性の高いNTTグループの腕の見せ所ではないでしょうか? デベロッパーや自治達が個別にやるよりも、ニュートラルな立ち位置のNTTグループが貢献したり、共創プログラムを主導するなど積極的に推進できると良いですよね。

塚本:まさに狙っていきたいところです。

藤元:SDGsの実際の街での活動を可視化する試みなどもありますか?

篠原:フードロスの削減などは街全体・社会全体の課題でもあり、試行錯誤を始めています。例えば、企業の出社人数と食堂での残渣量の可視化などを行うことで、就業者のフードロス削減に対する意識を向上させ、残渣を減らすことができないか、などです。可燃ゴミについても同様の取り組みができるのではないかと考えています。

藤元:それはわかりやすいのですぐにやった方がいいですね。NTTグループとしてはどうですか?

塚本:NTTグループはCO²の可視化を積極的に進めています。欧州の「GAIA-X」というデータ流通規格との相互接続も進めており、製造業のサプライチェーン全体のCO²の可視化などをできるようにしていますが、街全体まで広げていきたいと思っています。

藤元:例えばコンビニのレジ袋の施策だけで本当にマイクロプラスティック削減ができているのか見えないなあと感じています。やはり様々な施策が本当に効果を出しているのか全体をどんどん可視化して欲しいと思いますね。

大丸有には自ら積極投資したい優良企業が多いのでベンチャーにとってはとてもビジネスチャンスが大きい街だと思いますがいかがですか?

篠原:ネット系のベンチャー等に向けては、この街でお客様とのオフライン接点を構築する際に協力できると思っており、大丸有エリアをフィールドにしたオープンイノベーションにも積極的に取り組んでいます。
今年になって、「丸の内City DXパートナーズ」というニューノーマル時代の都市DXを推進するコンシーアムが立ち上がり、当社もロケーションパートナーとして、プロジェクトの実現に向けてリアルな 都市空間である実証実験の場の提供を行う立場で参画しています。

藤元:大企業同士のコラボはどうですか?

篠原:丸の内発の大企業・スタートアップ・官・学等の多様な連携による新事業創発プラットフォーム「Tokyo Marunouchi Innovation Platform」(事務局:一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会)というコンソーシアムがあり、当社も参画して、積極的にイノベーション創発の活動を行っています。
また、大丸有エリア内に留まらないエリア間の連携も重要だと感じています。
大丸有エリアは、少なくとも現時点ではオフィス街としての色彩が非常に強く、この街を行動圏とする多くの就業者の方々には、大丸有エリア以外に多くの時間を過ごされる生活圏としての居住エリアがありますので、大丸有エリアの中だけでどれだけ利便性を高めても、お客様が実感するQOLの向上には限界があります。
まだ具体的な検討が進んでいる訳ではありませんが、将来的には、沿線地域全体で居住エリアにおける価値提供に取り組んでいらっしゃる鉄道事業者様等が提供されるアプリと就業エリアで当社が提供するアプリ間で認証IDの連携やサービスの共通化等が実現すれば、お客様により高い付加価値を感じていただけるのではないかと考えています。

塚本:デべロッパーやゼネコンなどの方々とテナント料モデルからの脱却などを一緒に模索していきたいと考えています。NTTグループが進めている再開発プロジェクトなどにもデベロッパーやその他の企業にも入ってきてもらい空調におけるエネルギーを減らすためにどんな人流が効果的かなどリアルな実験ができる場を作れたらと思います。
スタートアップにもどんどん入ってきてもらいたいですね。

藤元:イノベーションを進めるためには規制緩和や特区なども必要になりますよね。

篠原:例えば、丸の内仲通りはロボット走行や自動運転車輛の走行などには非常に適していますので、様々な実証実験・社会実験に積極的に活用し、早期の社会実装に向けて取り組んで行きたいと思います。また、大丸有エリアでは、様々な先進サービスを実現する都市インフラとして、エリア内のローカル5Gやパブリック5Gの基地局整備なども進めています。

藤元:まだまだ技術はできているが実装に課題が多いサービスなども多いので街への実装における三菱地所の役割は大きいですよね。

篠原:丸の内は東京駅前という立地特性もあり、象徴的な場所だと思います。注目される場所である以上はショーケースとしても利用したいですし、様々な発信を行っていきたいと思います。

藤元:NTTがやることにより、日本社会全体で本物感を出す効果はとても大きいと思います。

塚本:実はNTTグループは日本の電力全体でも大口需要家なので電力事業も手がけていますが、SDGsへ本気で取り組まなければいけない立場としてDXをチャレンジしています。品川街区などはNTTグループで現実のフィールドとして挑戦をしていきたいと思います。

藤元:C4BASE事務局として、三菱地所さんと一緒に何か取り組みができたら面白いですよね。

中川(C4BASE事務局):そうですね。具体的に三菱地所としてどういったパートナーを求めていますか?

篠原:生体認証系でデバイスもソリューションもオープンに使える仕組みを探していますのでこの領域の優れた要素技術などをお持ちの企業様がいらっしゃればぜひお話をしてみたいですね。加えて、狭域エリア内のMaaSでマネタイズのアイデアをお持ちのプレーヤーや、セキュリティトークン・ユーティリティトークン等のユースケースを柔軟に検討されている事業者様などとも、街の新しい価値を共創して行けるのではないかと思っています。

藤元:丸の内のビルの建物の一部分を個人でネーミングライツを買えると面白いですよね。

本日は大変活発な議論ありがとうございました。日本を代表するような重厚な二社が本気で軽やかにスマートシティに取り組んでいただくことが他の企業を牽引することに繋がると信じていますので、是非大きな期待を持ちたいと思います。本日はありがとうございました。

●転載元記事:https://www.ntt.com/business/lp/mirai_biz/people/interview_23.html