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「リアル×テクノロジー」で、空間の価値を最大化する。民泊産業を創造するmatsuri technologiesの挑戦───Founders Night Marunouchi vol.51

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2023年8月23日、三菱地所が運営するオープンイノベーションコミュニティ「The M Cube」が主催する「Founders Night Marunouchi vol.51」を実施しました。

このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者の経験から学びを得るもの。

今回ご登壇いただいたのは、matsuri technologies株式会社代表取締役の吉田圭汰さんです。同社は、「運営/ブランド事業」「集客プラットフォーム事業」「無人管理ソフトウェア事業」を掛け合わせ、空間の価値を最大化するソリューション『StayX』など、民泊を利用する宿泊者の方や民泊を運営する事業者を対象としたさまざまなサービスを提供しています。

2016年にmatsuri technologiesを設立して以来、日本の民泊産業の創造に注力してきた吉田さん、どのような経緯で『StayX』は生まれたのでしょうか。このサービスが持つ可能性や、matsuri technologiesが目指す世界について伺いました。

モデレーターを務めたのは、The M Cube運営統括の旦部聡志です。

INDEX

「民泊×短期賃貸」で、アセットの価値を最大化する
「協業」を通して、民泊市場を盛り上げたい
『StayX』を不動産アセットの一つに
住宅のシェアリングを広め、より良い社会をつくる

「民泊×短期賃貸」で、アセットの価値を最大化する

吉田さんは、早稲田大学在学中にSPWTECH合同会社を設立。2013年に女性向けのキュレーションアプリなどの事業を立ち上げたものの、思うように成長させることができず、結果的には事業を売却することになりました。

しかしその後、吉田さんは「起業家として、事業をグローバルに展開したい」「リアルとテクノロジーをかけあわせた事業に取り組みたい」という思いをますます強くしたと言います。そして、友人が民泊の運営を始めたことを機に「民泊」市場に着目した吉田さんは、2016年8月にmatsuri technologiesを設立。民泊を支援するために最初に取り組んだのは、ソフトウェアの提供でした。


matsuri technologies株式会社 代表取締役の吉田圭汰さん

吉田さん「民泊の貸し手と借り手のメッセージ返信を代行するサービス『m2m Basic』や、民泊管理ツール『m2m Systems』を開発しました。Airbnbに登録している民泊運営者のうち約1/3が、我々の提供するソフトウェアを利用してくださっていたのですが、大きな課題がありました。

それは、民泊事業者がすぐに事業から撤退してしまうということ。その理由はさまざまですが、たとえば清掃オペレーションを回し続けることが難しいなどの理由から、民泊事業を断念してしまう人は少なくありません。どんなに我々がソフトウェアを提供してもユーザーが離れてしまい、LTVが低い状況でした」

また、「法令」という壁も吉田さんの前に立ちはだかりました。2018年6月に住宅宿泊事業法が施行され、民泊の年間営業日数は180日に制限されました。短期滞在向けのマンスリーマンションの運営など、より高い利益を見込める事業にピボットする事業者も増える中、matsuri technologiesは「二毛作民泊」という新たなモデルを提唱。

「二毛作民泊」は、物件を180日間は民泊として貸し出し、残りの185日間は短期賃貸として運用するモデルです。「民泊とマンスリーマンションをハイブリットに組み合わせて、空間を自由自在に提供できるようになれば、アセットとしての価値が高まるのではないかと思い、考案しました」と吉田さんは語ります。さらに、民泊営業の180日規制に対応した集客支援ツール『nimomin』をリリース。

時代の流れに即した民泊事業のモデルやソフトウェアサービスを提供し、状況の打開を図るも「利用者数は伸び悩んでいた」と吉田さんは振り返ります。

「協業」を通して、民泊市場を盛り上げたい

民泊事業を支援するためのさまざまなソフトウェア開発を手掛けていたmatsuri technologiesですが、自社物件を保有する「民泊事業者」ではありませんでした。つまり、会社として物件の運用経験はなかったのです。そこで吉田さんは活路を見出すべく、不動産を所有し、民泊や賃貸物件として運用している方々にヒアリングを実施。そこから見えてきたのは、さまざまな「負」だったと言います。

吉田さん「『空間の価値を上げ、より大きな利益をあげたいとは思っているものの、どうしたらよいかわからない』という意見を耳にしました。また、物件を借りたいと考えている方々にもヒアリングしたところ、『物件を借りようとしても、最低2年間から契約しなければいけない』『手続きが面倒』などといった声が上がりました。私自身、会社を設立した当時に物件を借りようとしたときに『借りられません』と言われたことも。

双方が抱える課題を我々が解決したいと思い、借りたい人のライフスタイルにあわせて1つの空間をさまざまな用途に対応させるソリューション『StayX』の提供を開始しました」

『StayX』は、「運営/ブランド事業」「集客プラットフォーム事業」「無人管理ソフトウェア事業」を掛け合わせ、ワンストップで空間の運用を代行し、その価値を最大化するソリューションです。『StayX』を導入した、物件の所有者は「2年間契約の普通賃貸」といった形に限らず、短期賃貸、民泊、シェアハウスなど、フレキシブルな空間の運用が可能になり、空室となる期間を減らすことで収益を最大化させられます。また、このソリューションは賃貸物件に限らず、ホテルやオフィスなど、さまざまな空間の運用に活用可能です。

実際に、「賃料11.1万円で貸し出していた物件が、『StayX』の導入によって民泊や短期賃貸で貸し出せるようになったことで23.8万円の売上が立つようになった」など収益アップにつながった事例も数多く生まれると吉田さん。

また、このソリューションは「短期間だけ家を借りたい」などの、さまざまなニーズを持つエンドユーザーにも大きなメリットをもたらします。

2023年8月時点で、全国11都市の1,000以上の施設が『StayX』を導入。同業他社による参入も相次ぐなか、吉田さんが目指しているのは「民泊市場の確立」です。

吉田さん「民泊支援に特化したサービスを展開して利益を出すことも重要ですが、それ以上に重要なのは『民泊』という市場を確立することだと考えています。

今後は、施設の運用オペレーションや宿泊施設を管理するソフトウェアなどさまざなソリューションを提供する企業も増えてくるでしょう。その中には、人の手による施設オペレーションに特化し、ソフトウェア開発を外注している企業もあれば、ソフトウェアの開発だけを手がけ、清掃サービスなどは展開していない企業もあると思います。

我々はオペレーション構築とソフトウェア開発の両方に熟達しており、内製開発したソリューションを垂直統合して提供していることが大きな強みです。それでも、1社で民泊支援を網羅することは難しい。だからこそ、さまざまなプレイヤーと『競合』するのではなく、お互いの強みを生かして『協業』することで民泊市場を盛り上げたいと考えています」

『StayX』を不動産アセットの一つに

日本に民泊を定着させるべく、さまざまなソリューションを提供しているmatsuri technologies。今後について、吉田さんは「『StayX』の導入が、不動産アセットの一つとして根付くことを期待しています」と語ります。

吉田さん「我々が住宅をお借りして必要な家具などを導入し、無人で貸し出しすることでホテル運営のような利回りを実現できます。つまり、普通賃貸で貸し出していた物件所有者は、『StayX』に投資をしたほうが儲かるようになる。ホテル、住宅、物流倉庫など、さまざまな不動産アセットがありますが、その一つとして『StayXを導入すること』が選ばれるようになれば嬉しいです」

ここで、モデレーターの旦部から「民泊や短期の賃貸物件に適した不動産を見極めた上で『StayX』を導入されていると思いますが、どのように勝算を見極めているのでしょうか」と質問が投げかけられました。

吉田さん「我々は、2016年からAirbnbにソフトウェアを提供しており、1,300,000件の価格データを保有しています。エリア別の賃貸相場や宿泊価格はもちろんのこと、供給が増えた時に、価格がどれだけ下落したのかといった、多様なデータが蓄積されているんです。このデータを参考にしながら、アプローチする物件を決定しているので、適切な仕入れが実現できています」

住宅のシェアリングを広め、より良い社会をつくる

民泊市場の拡大に向け、インバウンド対応にも力を入れている同社。今後は国内のみならず、海外への展開も検討しているそうです。

吉田さん「クアラルンプールやオーストラリアなど、いくつかの都市で『StayX』の展開を検証しています。実際に、無人で施設運営を可能にするソフトウェアはすでに海外で使われている事例もある。まずはアジアNo.1を目指し、海外でも『StayX』を普及させていきたいです」

最後に、matsuri technologiesが目指す社会を語り、イベントを締めくくりました。

吉田さん「シェアリングエコノミーを実現させたいと考えています。リアルな世界には空き家、車庫に入っている時間がほとんどの車、食べられずに捨てられている食べ物など、よりよい形で活用できるはずのものがたくさん眠っています。

それらをシェアできたら、社会はもっとよくなるはずです。私たちはそういった意識から、民泊事業に取り組んでいます。この産業を1兆円規模にするために、物件をお持ちの方、貸したい方などいれば、我々にお預けいただけたら嬉しいです」

転載元記事:https://www.the-mcube.com/journal/6327