2022年1月26日、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」と、イベント・コミュニティ管理サービス「Peatix」が共同開催する「Founders Night Marunouchi X vol.35」を実施しました。(前回のイベントレポートはこちら )。
今回イベントで語られたテーマは『サイクルロードレースで地方創生。「スポーツ文化」を地域と共に創り上げる』。
登壇したのは「サイクルロードレースを通じた地方創生」を理念に掲げる、株式会社ジャパンサイクルリーグ取締役の犬伏真広さんと、同社の社外監査役を務める株式会社JOIBの常務執行役員である安積正和さんの2名。
本イベントではジャパンサイクルリーグ(以下、JCL)が、サイクルビジネスという新たな事業の取り組みに乗り出した経緯、ロードレースによる地域活性の可能性、展望について語っていただきました。Peatix Japan取締役の藤田祐司さん、東京21cクラブ運営担当の旦部聡志がモデレーターを務めています。
INDEX
・「自転車競技」に将来性を感じ、サイクルリーグを立ち上げ
・「自分たちの事業の“正しさ”を信じ、想いを伝え続ける
・「ビジネスとして成立させ、新たな文化を創造したい
「自転車競技」に将来性を感じ、サイクルリーグを立ち上げ
犬伏「事業を立ち上げるまでロードバイクに乗ったことすらありませんでした。しかし今はロードレースのプロリーグであるJCLに全てをかけています」
こう語るのは、JCLの犬伏さん。これまでは証券会社、投資ファンドでM&A・資金調達や、経営コンサルティング会社の設立を経験してきました。
2020年8月には、元F1レーサーの片山右京さんとJCLを発足。現在は宇都宮、広島、大分など全国に9つのサイクルチームが存在しています。
JCL2021 シーズンエンドハイライト
ロードバイクにまったく興味のなかった犬伏さんが、サイクルビジネスに乗り出したのはその将来性の大きさに魅力を感じたからだと言います。
犬伏「ロードレースはスタジアムを必要としないため、低コストで運営できます。
たとえば、大規模マラソン大会の場合、開催にかかるコストは数億円になることもあります。しかし、同じような集客・経済効果を発揮できるサイクルレースでは、その開催コストはマラソンの約10分の1以下です。
また、海外からの集客も期待できるため、レース開催地にはインバウンド効果が生じる。ロードレースを開催することは地方創生の文脈でもメリットがあります」
<JCL投影資料:レース会場の様子>
JCLの社外監査役として、創業時から伴走する安積さん。事業の構想段階から「失敗するはずがない」と自信を持っていたそうです。
安積「どのような投資家であっても、事業に投資をする際は必ず『事業計画が失敗する確率』を考えますが、JCLに関してはその確率が限りなくゼロに近いと思いました。なぜなら、JCLを運営する方々それぞれが、明確な強みを持っているからです。
片山さんは自転車に精通しており、クリーンなイメージで世間からの好感度が高い。一方の犬伏さんは金融の知見があり、しっかりとした事業プランを立てられるだけではなく、投資家と円滑なコミュニケーションが取れます。さらに、発足後にはレース運営に知見がある方も入社しました。そんな方々が創る事業が失敗する未来は、全く見えなかったですね」
「自分たちの事業の“正しさ”を信じ、想いを伝え続ける
現在、JCLは全く異なるバックグラウンドを持つ6名によって運営されており、それぞれが強みを活かしながら、事業を推進しています。発足から約1年半が経ち、事業は順調に成長していますが、その道のりは決して順風満帆とは言えないものでした。
イベントを開催するためには、自治体や警察、住民、選手、競技場の方、審判、スポンサー、観戦者など多くのステークホルダーとのコミュニケーションが不可欠です。限られたリソースをどのように活用し、円滑にコミュニケーションを進めるか。立ち上げのフェーズにおいて、頭を悩ませた部分もあったと言います。
また、発足当初は資金調達にも苦労したそう。日本に浸透していないビジネスゆえに、なかなか投資家からの共感と信頼を獲得できず「これまで50社以上に断られてきた」と話します。
犬伏「私たちが事業の説明をした時、担当者がロードバイクに触れたことがあるか否かで、反応が180度変わります。ただ、大抵の人はロードバイクに乗ったことがなく、事業のイメージが持ちづらく、評価を下すのが難しいと言われることが多かったです。
思うように事業が進まず、精神的にかなり苦しい時期もありましたが、片山さんが常々言っていた『僕たちは正しいことをやっているのだから、絶対に大丈夫』という言葉に励まされました。世界の頂点を極めた人がそう言うのだから間違いないのだろうと思えましたし、その言葉があったから諦めずに続けることができたと思います」
<左下:JOIB常務執行役員 安積正和さん、右下:JCL取締役 犬伏真広さん>
努力の末、2020年に発足してからサイクルリーグの規模は順調に拡大。2022年に開催を予定しているレースの数は、前年の倍近くだと言います。JCLの想いが、より多くの人からの共感を呼んでいることが伺えます。
犬伏「初めてお話をする地方行政の担当者の方からも、前向きな反応をいただくことが多くなってきました。万単位もの観客がその街を訪れ、大きな需要をもたらす可能性に魅力を感じていただいています。
また、マラソンなどのイベントに比べ開催コストも低いため、『少ない投資で、大きな経済効果が期待できる』と前向きに検討を進めていただけることが多く、確かな手応えを感じています」
「ビジネスとして成立させ、新たな文化を創造したい
JCLに寄せられる自治体からの期待の声は大きくなる一方ですが、犬伏さんは「現状に甘んじず、事業の自立性を高めていかなければならない」と顔を引き締めます。
犬伏「イベントを開催する際、主催費といった名目で自治体から補助金をいただくことがあります。それ自体は有難いことですが、自治体からの支援に頼っていては永続性のないビジネスになってしまう。長く続けるには、より自立したビジネスモデルを確立しなければなりません。
『世の中からロードレースがどのように見られているのか』『社会から何を求められているのか』。そういったことを考えながら、ただの娯楽としてではなく、独立性のある事業として成り立たせていかなければなりません」
2016年には国が「自転車活用推進法」を策定。人々の健康や環境保全のため、積極的に自転車の活用を推進しています。 安積さんはそんな世の中の動きを踏まえ、JCLの今後に期待を膨らませます。
安積「最近は世の中の変化のスピードが非常に速く、例えばESGは、これまで注目されていなかった言葉でしたが、2021年の一年間で一気にトレンドになりました。このことも踏まえると、国からの後押しもあり、5年あれば確実に自転車は『文化』として定着すると思います」
最後に、犬伏さんがJCLの今後の展望について語り、イベントは締めくくられました。
犬伏「世界に目を向けると『ツール・ド・フランス』が三大スポーツイベントとして定着しています。日本でも自転車が『文化』として根付いてほしい。それを目指し、JCLは今年も日本全国を駆け巡ります。今後はプロのレースだけではなく、より幅広い層に自転車を活用してもらえるよう、観光などと組み合わせたサイクルツーリズムイベントなども開催していきたいですね」
<今回のFounders Night Marunouchiは、オンラインのみの開催で行われました>
▼当日のセッション
『サイクルロードレースで地方創生。「スポーツ文化」を地域と共に創りあげる。』
https://youtu.be/P93qqr0B_z8