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新しいイノベーションを創造し、日本の産業を活性化させたい。産学官との「協創」に取り組むラボグループの想い───Founders Night Marunouchi vol.46

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2023年1月26日、三菱地所が運営するEGGのオープンイノベーションコミュニティ「The M Cube」が主催する「Founders Night Marunouchi vol.46」を実施しました。

このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者の経験から学びを得るもの。

今回ご登壇いただいたのは、ラボグループ(一般社団法人家庭まち創り産学官協創ラボ)CEO兼代表理事の上田甲斐さん。同社は、「世の中の垣根を越えて、新たな社会インフラを協創する」をビジョンに掲げ、事業創造ラボや政策ラボなど5つのラボを通して、様々な分野での協創に取り組んでいます。

上田さんは、学生時代に中国での留学を経験。「このままでは日本の産業は衰退してしまう」といった危機感から、いつしか起業を目指すようになりました。

大学卒業後は、将来起業することを念頭に、そのためのスキルを学べる企業に入社。転職した後、現在運営するラボの原型となる事業を始め、6年後に会社を設立。これまでの経験から「日本のイノベーションの形」として一つの解を見つけたと言います。

上田さんが見つけたイノベーションの形とは。本イベントでは、起業に至るまでの苦労や、どうしたら日本の産業を成長させていけるのかについて上田さんの想いを聞きました。

モデレーターを務めたのは、The M Cube運営統括の旦部聡志と運営担当の鈴木七波です。

INDEX

「『技術がある』と言っている場合ではない」日本への危機感から起業を決意
「相手が喜ぶことは?」を考え、新たなイノベーションモデルを創っていく

「『技術がある』と言っている場合ではない」日本への危機感から起業を決意

イベント冒頭は、上田さんが起業をする原点である、中国北京市にある清華大学での交換留学の経験について語りました。同大学では、朝7時には図書館の席がびっしり埋まっていたり、「どうしたら世の中の課題を解決できるか」を学生が食事中に議論していたり。そんな様子を見て、日本の大学生活とのギャップを感じたそうです。

日本に帰国した後は、就活中にOB・OGを訪問するなかで、ある会話に違和感を感じたと言います。


ラボグループ(一般社団法人家庭まち創り産学官協創ラボ)CEO兼代表理事の上田甲斐さん

上田さん「留学の時に感じた『日本と海外の大学生の違い』をOB・OGの人たちと話していたとき、『日本の技術に追いつくまで、あと30年かかるから大丈夫だよ』と言われて、その言葉に違和感を覚えました。

たしかに、日本の技術は優れているかもしれません。でも、その技術を最大限に活用して産業が成長しているかと言われると、むしろ衰退している状態です。

日本の産業を成長させていく仕組みを、根本から変えていく必要がある。さらに日本の技術を磨く力を、より早く社会全体に広げられるようになれば、日本の産業は何か変わるのではないかと思いました」

「日本の技術の活用やその広げ方」に興味を持った上田さんは、ものづくりにおける「考え方」や「仕組み」が整っているキーエンスに2012年に新卒で入社。営業や事業戦略を担当しました。

2016年には、起業への準備として経営戦略を学ぼうと考え、戦略コンサルティングファームのドリームインキュベータに入社。大手製造業やインフラ企業の事業戦略策定をしながら、省庁の少子高齢化対策や産業デジタル化等の政策設計など、産官学の政策検討の場も作っていました。

政策の検討会を続けてきたある時、「事業化したい」と社内に持ちかけました。

上田さん「検討会を続けていると、実際に議題に上がったもののなかで、いくつかは政策に反映されることがありました。政策コンサルの一部として実施していた『政策検討会』に対して、産業を創造する場としての可能性を感じ、社内で事業化を提案したのです」

すると、いくつか進めていた政策検討会が参画。同じ目的を持って共同で活動を行う『コンソーシアム』という形で、商標登録をして、新規事業を設立することにしました。

しかし、喜ぶのも束の間、3ヶ月後には収益が見込めず撤退することに。それでも「ここまできたら自分でやるしかない」と決意した上田さんは、勉強会を自力で続け、やがて収益の目処が立ったタイミングで事業化することにしました。

2018年に、「世の中の垣根を越えて、新たな社会インフラを協創する」をビジョンに掲げるラボグループ(一般社団法人家庭まち創り産学官協創ラボ)を設立。

変化の多い時代で必要になるのは、垣根を越えて手を取り合い「協創する力」。社会と産業を生み出す基盤の協創のみならず、自らが実践の先駆けになり、社会に役立ち続けたいという思いがビジョンに込められています。

同社は、新規事業の創造をサポートする「事業創造ラボ」や、保育士などのオンライン人材育成を行う「家庭ラボ」など全部で5つのラボを展開しています。

他にも、政策ラボでは、関東圏を中心とした10社ほどの大手の食品メーカーと共に、フードロスを削減するための物流網の構築を実施したり、グローバルラボでは、国内外の大学と一緒にオンラインのシンポジウムを開催したりと企業や産学と協創しながら、日本産業を成長させるために、事業を広げています。

「相手が喜ぶことは?」を考え、新たなイノベーションモデルを創っていく

収益化できずに撤退した『政策検討会』を、ラボという形にして約2000万円の事業に成功した上田さん。どのように収益化を実現していったのでしょうか。

上田さん「まずは、政策検討会の内容の見直しよりも、無料で開催し続けることを意識しました。

平日はドリームインキュベータで働き、土日は友人と新規事業の立ち上げをテーマに勉強会をしていました。事業を立ち上げるためのステップやポイントなどについてまとめ、資料を作り続けていると、あるとき転職フェアからお声がかかり、ブースの一角で勉強会を実現できました。収益は立ちませんでしたが、次は資料を共有する代わりに、大都市のイベント会場の空きスペースを貸してもらえることになりました。

その後は、渋谷ヒカリエやパシフィコ横浜にある空きスペースを使って、大企業を誘致したイベントを開催。その際、参加していたソフトバンクグループの目にとまり、同社の会場でオープンイノベーションの勉強会を開催するように。さらに、その勉強会がメディアに取り上げられ、各社から勉強会の相談がくるようになり、収益化の見込みもでき、創業することにしました。

企業で働いた経験を活かして制作した勉強会や資料は、新規事業開発に取り組む多くの企業のサポートとして役に立ったのだと思います」

無料の勉強会から約2000万円の事業として作り上げた上田さん。これまでの経験を「本当に大変だった」と語る一方で、同時に「大きな学びも得た」と言います。

上田さん「最初は収益が発生しない小さな勉強会から始まったプロジェクトでした。継続しているうちに応援してくれる人が増え、ときには『会場費はサポートしますよ』と助けてくれる方もいました。

また、小さな勉強会から2000万円を売り上げる事業へ成長させた経験をして、それらは地続きにつながっていることを実感しました。どのフェーズにおいても、大事なのは提供する相手が何に対して喜んでくれるか、価値を感じてくれているかに向き合うことだと気がつきました」

海外では起業に失敗しても、その経験がキャリアにつながることが多かったり、ベンチャー企業への投資が盛んだったり。それに比べて日本は、起業するリスクが高いように感じられると言います。

だからこそ上田さんのように、「サラリーマンをやりながら土日に小さく事業を立ち上げてみるという形は、日本にとってのイノベーションのモデルになるのではないか。モデルになるためにも、今後は一部事業を株式会社化するなどして、ラボグループをもっと大きく成長させていきたい」と語りました。

最後に上田さんは今後の展望を語り、イベントを締めくくりました。

上田さん「まずは、ラボグループ株式会社という全体を包括する会社をつくります。今あるラボは一般社団法人や子会社として展開していく予定です。いずれは、いくつかある会社のうちの一部を上場させられればと思っています。

私たちが目指しているのは、世の中に良いインパクトを与えるための制度を整え、2040年までには日本から新しい産業が生まれること。そのために、行政のサービスや、DXで新規事業を行う企業、システム開発に関心のあるコンサルなど、様々なパートナーとともに協創し、事業を創造していければと思います」

▼当日のセッション
『世の中の叡智と資源を結集し、新たな事業を創出する』
https://youtu.be/Z7Too5IdWjE

転載元記事:https://www.the-mcube.com/journal/6194