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【新連載】ニューノーマル時代をどう突破するか|未来創造マインド vol.1 

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未来についてわかっている唯一のことは、今とは違うということだ。
マネジメントを体系化した経営学者、ピーター・ドラッカー(Peter Drucker, 1909-2005)の言葉だ。今なお危機が続く新型コロナウイルス感染症や気候変動がもたらす自然災害のリスク、まさに未来は予測不能と言える。そんな時代に、我々は何を目指し、どう生きていけば良いのか。

本コラムは、「未来創造マインド」を持って、不確実で見通しづらい未来を皆で切り拓いて行こう、というメッセージを込めて連載していく。

日本では、人口減少が進みつつあり、今後、我々の働き方も企業のあり方も変わっていく。AI(人工知能)やロボット、オンラインを本格的に取り入れて、少ない労働力でも回る社会を構築する必要がある。加えて、モノ消費が支えた経済の成長神話は終わる。モノの充足に替わる新たな豊かさを模索する時代となり、人々の価値観までも変わっていく。これまでの常識はくつがえり、パラダイム・チェンジが起きる。大きな変化の波は、なにもビジネスに限ったことではない。新たな価値観のもと、すべての組織や活動において、これまで当たり前だったことを見直して、未来から見て最適な方法に変える必要がある。これまでの延長線上ではなく、ゼロから作り上げることに近い。

こうした変革の時期は、多くのビジネスのチャンスも生まれる。チャンスをものにするには、課題を見つけ、解決策を考え、仲間を集めて実行する。前例にとらわれず新しいことにチャレンジすることが極めて重要だ。私は、この未来を新たに創造する姿勢、精神を「未来創造マインド」と呼んでいる。

INDEX

新型コロナウイルスが社会の変革を加速する
なぜ「未来創造マインド」が重要なのか

新型コロナウイルスが社会の変革を加速する

新型コロナウイルスという誰もが予想しなかった脅威に世界中が晒されている。2020年3月11日にはWHO(世界保健機関)がパンデミック(世界的な大流行)を宣言し、東京オリンピック・パラリンピックが史上はじめて延期となった。日本でも、2020年4月7日に緊急事態宣言が発出され、その後、一旦感染拡大は収まったものの、2021年1月8日に再び東京を中心に緊急事態宣言が出された。世界に目を向けると、本コラム執筆時点(2021年1月末)で新型コロナウイルス感染症による死亡者が全世界で220万人を超え、感染者総数は1億人を超えた。ワクチン接種も始まっているが、予断を許さない状況だ。

世界で年間に飛行機で移動する人は40億人。我々は、グローバルに人とモノが行き交う豊かな社会を作り上げた。皮肉なことに、ウイルスを広げているのは、まさにこの世界を動き回れるようになった人間である。この危機を凌ぐには、人と人の接触機会を減らし、しばらく自宅でじっとするしかない。世界中で経済は停滞し、各国政府は対策に追われている。人々は、リモートワークにシフトし、不要な外出を避け、感染に注意し、健康に気を付ける日々を送ることとなった。我々にとって、本当に大事なことは何なのか。仕事とは何なのか。人類は幸福になったのか。あらためて問い直す機会にもなっている

新型コロナウイルスは、図らずも未来を引き寄せるきっかけとなった。図に示すような社会の変革へとつながる。もともと、人類は、大きな変化の流れの中にいた。人口減少に向かう社会構造の変化への対応、行き過ぎた経済成長の修正、環境重視といった方向である。ウイルスはゲノム変異によって人間に感染するようになるため、地球温暖化や気候変動はリスクを高めていると言われている。人類は、自然とは戦えない。地球環境を保全して、自然と共生していくしかない。人類も地球の生態系の一員にすぎず、経済成長のために、これ以上の環境破壊は許されない。地球温暖化やプラスチックによる環境汚染など多くの課題を抱え、課題を認識しつつも大きな決断をできない人類に、新型コロナウイルスは一つの警告を発していると受け止める必要があるだろう。新たな社会モデル(ニューノーマル)への移行は、今後急速に進む。

デジタル化やオンラインが浸透すれば、大抵のことはリモートでも可能だ。AIやロボットの進化で、人間の作業をかなり置き換えることができる。オンライン予約や受付の自動化、キャッシュレスの支払いなど、現在の技術で十分可能だ。新型コロナウイルスへの対策で、社会や企業はこうした技術の早急な導入を迫られているが、時間軸を除けばもともと進むべき方向である。オンライン診療やオンライン教育、ビデオ会議など、やればできる話だ。実際、今回急速に普及している。要は、前に進める意志があれば、一気に進むということが分かった。イノベーションにとって大切なのは、それを進める人々の強い意志である。

なぜ「未来創造マインド」が重要なのか

「未来創造マインド」には、経済価値の追求だけでなく、社会価値の創出を目指す思いを込めている。具体的な未来創造の方法として、スタートアップは有効である。スタートアップは、単に起業して儲けようという話ではなく、社会に大きな変革をもたらすイノベーションを引き起こす使命を持つべきだ。そのためには、持続可能な収益モデルも必要だ。

英語の「start up」は、もともと「何かを始める」「事を起こす」という意味だ。転じて、ゼロから急成長を狙う企業体を「スタートアップ(startup)」と呼ぶ。日本では、新規の事業に取り組む企業体に対して「ベンチャー」という用語が広く使われているが、「スタートアップ」は、より挑戦的に成長を目指すというニュアンスがある。

社会の変革や課題の解決を目指して、自分の技術やアイデア、経験を活かして、ワクワクするようなプロジェクトを起こすことは楽しいし、とてもやり甲斐のあることだ。そして、自分たちが生み出した製品やサービスを誰かが喜んでくれたり、社会の役に立つことが直接的に実感できたら、これこそ自分がやるべき仕事と思えるのではないだろうか。人は、叶うかどうか分からない夢が実現したときに、達成感があるものだ。未来創造マインドは、あなたの人生を楽しくするきっかけになるかもしれない

「未来創造マインド」を持ったチャレンジとは、具体的に次のようなアクションである。

・実現したい未来をミッションとして掲げ
・具体的な目標を設定して計画をつくり
・仲間を集めて実行する

従来のやり方や物事を改善するような話ではなく、理想の未来に向けてゼロから新しいことにチャレンジすることを意味する。未来創造マインドは、これから迎える社会の大きな転換期に際して、起業家のみならず、すべての人が持つべきマインドではないだろうか。いわば、見えない未来を切り拓く突破術である。

大企業においても、既存事業にとらわれず、未来を見据えて新規事業を立ち上げることが課題となっており、未来創造マインドを持ってイノベーションを引き起こすことは、今や日本全体に共通するテーマである。自らリスクをとって立ち上がり、仲間を集めて新しいことにチャレンジする。これを既存の企業の中で行えば、新規事業や社内ベンチャーとなり、新たに起業するとなれば、スタートアップになるという訳である。

また、大学や研究所で、失敗を恐れず前例のない研究プロジェクトを立ち上げるにも、官公庁や地方自治体において、組織の枠にとらわれず新しいことに挑戦するにも未来創造マインドが必要である。100年以上続く老舗企業も例外ではない。最新テクノロジーやネットを活用すれば、新たな展開が生まれるかもしれない。有志が集まったプロジェクトというやり方もある。チャレンジする内容はさまざまだ。スタートアップが取り組みやすくなったように、未来を自ら創る姿勢やマインドは、我々の身近な話になり、敷居が下がった。

日本には、すばらしい技術もたくさんあるし、伝統的な匠の技もある。個人の能力は非常に高いし、団結力もある。そして、とてもまじめで誠実である。これに、未来創造マインドが加われば、世界を大きく動かす力になるはずだ。もちろん、チャレンジは簡単に成功する訳ではない。大成功するにはタイミングやいろいろな要素が必要になる。事業の売上や利益を大きくすることがすべてではない。自分がやって良かった、誰かの役に立ったということだけで、とてもすばらしいことである。

今の仕事に何か物足りなさを感じて、もやもやしている方も多いのではないだろうか。もっとやり甲斐のあることに挑戦してみたいという気持ちを、誰しも少しは持っているものだ。そんな一般の読者の方に、本コラムが何か新しいことに踏み出すヒントになれば幸いである。

[ 鎌田富久: TomyK代表 / 株式会社ACCESS共同創業者 / 起業家・投資家 ]
東京大学大学院理学系研究科情報科学博士課程修了。理学博士。在学中にソフトウェアのベンチャー企業ACCESS社を設立。世界初の携帯電話向けウェブブラウザを開発するなどモバイルインターネットの技術革新を牽引。2001年に東証マザーズに上場し(現在、東証一部)、グローバルに事業を展開。2011年に退任。その後、スタートアップを支援するTomyKを設立し、ロボット、AI、人間拡張、宇宙、ゲノム、医療などのテクノロジー・スタートアップを多数立ち上げ中。著書「テクノロジー・スタートアップが未来を創る-テック起業家をめざせ」(東京大学出版会)にて、起業マインドを説く。

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