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2024年問題、ドライバー不足や輸送量減少問題の大幅改善へ。T2が着手する、幹線輸送トラックの完全自動運転

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2024年4月からドライバーの労働時間に上限が課されることとなり、24年以降はドライバー不足や輸送量の減少、物流事業者の売上減少などさまざまな問題が生じる可能性が高い。この深刻な課題に立ち向かうのが、自動運転技術を活用した幹線輸送サービス展開を目指す株式会社T2。幹線道路でのトラック走行を完全自動化し、長距離ドライバー不足の改善を目指している。三井物産とPreferred Networks(以下、PFN)が共同出資して立ち上がり、現在は三菱地所やKDDI、三井住友海上火災保険など名だたる大企業が株主に名を連ねる注目企業だ。

T2が手がけるサービスによって、物流の課題はどのように解決へと向かっていくのだろうか。会社設立の経緯や、事業の進捗状況、現状の課題、将来のビジョンなどについて、事業開発部門長の國年氏に伺った。


國年 賢
株式会社T2(三井物産株式会社より出向)事業開発部門長
トヨタ自動車にてキャリアをスタート。国内外における自動車生産用部品の輸送・運搬の監督や改善提案など、物流業務に長年携わる。2020年に三井物産へ転職し、物流コンサルタントとして活躍。その後、T2プロジェクト発足を機にモビリティ第一本部へ異動。現在はT2へ出向し、事業開発を推進する。

INDEX

2030年には35%の荷物が運びきれなくなる?物流業界を取り巻く課題
名だたる企業が一丸となって行う、完全自動運転の幹線輸送
2026年度にはサービス開始へ。T2の現在地
輸送量の維持、長距離ドライバーの負担軽減、女性活躍。T2が描く未来のビジョン
ここがポイント

2030年には35%の荷物が運びきれなくなる?物流業界を取り巻く課題

ーー物流業界の業界構造や、現在抱えている課題について教えてください。

國年:物流業界は、トラックドライバーの頑張りによって支えられています。たとえばメーカーなどに輸送する荷物は納入時間がかなり細かく決まっているため、希望日時にお届けできるよう輸送時間にはバッファが設けられています。そうすると、スムーズに目的地に到着した場合、どうしても待機時間が発生してしまいます。つまり各々のドライバーが待機や時間調整をうまく行うことで、顧客のニーズに応えられているという状況です。

この現状を大きく揺るがすのが、物流の2024年問題です。ドライバーの待機時間を含めた労働時間の規制が強まることで、今までのやり方では通用しなくなってしまうのです。実際に、会社をたたむ決断をした中小規模の物流会社も増えてきています。

ーー労働時間の制限によって倒産する中小企業が増えてしまうのは、なぜですか?

國年:前提として物流業界は顧客と接点を持つ部分の輸送、例えば宅配業界の場合、いわゆる「ラストワンマイル」は自社メインで担当し、拠点間の輸送は委託された中小企業が担うケースが多い構造になっています。つまり高速道路に乗るような長距離輸送は、中小企業が行うことが多いのです。

その中で労働時間に規制が入ると、これまでは1人で運べていた区間も2人体制にしなければならず、その分人件費が増えてしまいます。これまでの運賃では収益性が厳しくなり、経営が成り立たなくなるんですね。そもそも現在はドライバーが不足しているため、採用するのも一苦労です。このような理由から、倒産する中小企業が増えています。

野村総研のレポートによると、2030年には2015年比で約35%の荷物が運びきれなくなるそうです。2024年問題に加えて日本は労働人口も減少しているため、物流業界はかなり苦境に立たされていると言っていいでしょう。

ーー2024年問題に向けて各社がさまざまな対策を考えていると思うのですが、自動運転以外の取り組みも行われているのでしょうか?

國年:そうですね。「モーダルシフト」と言って、トラックで運んでいた荷物を船や鉄道での輸送に切り替える動きが出てきています。またトラックでの輸送についても、長距離ドライバー不足の一因となっている「輸送距離が長すぎて毎日家に帰れない」という問題を解消するべく、中継地点を作って輸送距離を短くする(中継地点でドライバーが交代する)取り組みが進んでいます。

名だたる企業が一丸となって行う、完全自動運転の幹線輸送

ーーT2が手がけるサービスの概要について、教えてください。

國年幹線道路での走行に特化した、10tトラックの自動運転輸送に取り組んでいます。もともと三井物産がPFNに少額出資しており、2社のシナジーを生み出せるような事業はないか?と担当者同士で話し合って出てきたのが「物流」というワードでした。そこから自動運転の話題が上がり、T2を立ち上げることになったんです。

「ラストワンマイル」と呼ばれるいわゆる一般道上の配送は想定しておらず、あくまで幹線道路上の長距離輸送を担う考えです。長距離輸送は約2兆円の市場規模があり、物流業界の中でも特に「人材が足りない」「ドライバーが家に毎日帰れない」「ドライバーの高齢化」といった深刻な課題を抱えている領域です。これらを自動運転技術で解決するのが、T2のメインミッションです。

さまざまな積載量のトラックがある中で「10tトラック」に限定している理由は、長距離輸送で最も活用されているのが10t車だからです。顧客が、これまでのオペレーションや使っていた倉庫を変えることなく、スムーズに自動運転へ対応できるようにと考えました。

ビジネスモデルは、まずは物流会社として他の委託企業と同様、大手企業から輸送依頼をいただくことを想定しています。とはいえ「中小企業と競争する」という感覚ではなく、人材不足によって運べなくなる荷物を我々が担わせていただく位置付けになれたらと思っています。他の物流会社と共存して、共に日本の物流を支えていきたいと考えています。

ーー自動運転技術に取り組む企業は他にもあると思いますが、他社との違いはどこにあるのでしょうか?

國年:国内において、幹線道路での10tトラックの自動運転に取り組んでいる企業は他にはありません。また当社は自動運転システムを売るのではなく、運送サービスまで一貫して担おうとしています。

日本で自動運転システムのみを販売しようとすると、遠隔操作や駆けつけ対応などさまざまな周辺対応が必要になります。その対応が各物流会社に分散して行うのはコスト的に非効率ですし、スケールもしにくくなってしまうもの。また何か問題が起こった際に、その原因が自動運転にあるのか、物流会社のオペレーションにあるのか……と責任の所在が曖昧になってしまいます。このような懸念点を踏まえた結果、T2でまるっと責任をもって事業展開するのが最適だという考えに行き着きました。

ーー物流サービス企業として事業展開するとなると、上流から下流までさまざまな機能が必要になりそうです。どのようなロードマップを描いていますか?

國年:2025年〜2026年度には、実際に荷物を運ぶ輸送事業者としてサービスを開始したいと考えています。そのためにはシステム開発をはじめ、車両の確保、輸送業を行うための許認可の獲得、営業所や設備の確保などを進めていかねばなりません。特に重要となるのが、幹線道路から一般道、つまり無人運転から有人運転へ切り替える場所の確保です。こちらは三菱地所さんが京都府城陽市に高速IC直結の物流拠点を作るということで、一緒に作り込みを行っています。

その他、遠隔監視の部分はKDDIさん、自動運転輸送の保険は三井住友海上火災保険さん、輸送サービスの部分は三井倉庫ロジスティクスさんや大和物流さん……と、出資いただいている企業の方々と協業しながら必要な仕組みを作り上げているところです。

ーー名だたる大手企業が株主となっていますが、どのように業務提携や資金調達を行っていったのですか?

國年「こんな座組が必要そうだ」という構想は自分たちで考え、そこからは1件1件問い合わせフォームも活用しながら連絡をしていきました。

ジョイントベンチャーとして立ち上がった後、1番最初にお声がけしたのは三菱地所さんでした。「幹線道路で自動運転を行うためには有人・無人の切り替え拠点が最も大切なので、より強固な関係を結べませんか」とお話ししましたね。他の企業にも私たちが目指すビジョンや意志を伝え、共感いただいて今のような座組となりました。

ーー「最初は2社で合弁企業として立ち上がり、その後さらに出資を募る」という流れは珍しいような気がしました。そこには何か意図があったのですか?

國年:足りないケイパビリティを獲得する必要があったというのも一つの理由ですが、何より「ジャパンチーム」でこの事業を行いたかったんです。物流インフラという規模の大きなプロジェクトを三井物産とPFNだけで進めるとなると、やはりどこかで限界が来てしまいます。そうなると日本の物流インフラを支えられなくなってしまう。日本の未来を考えると、さまざまな企業を募ってジャパンチームを構築するべきだと考えました。

2026年度にはサービス開始へ。T2の現在地

ーー現在の実証実験の進捗や課題に感じている部分について教えてください。

國年:現在は横浜町田インターから豊田東インターに向けて、走行の実証実験を行っているところです。距離としては150km以上あります。これまでは主にテストコースやシミュレーター上で走行しており、基本走行の精度はかなり高まってきました。サービスを開始する2025年度〜2026年度には実証実験を終えますが、その後もデータを活用しながら技術やサービスをさらに進化させていきたいと考えています。

最終的な目標は無人走行ですが、安全面やお客様の受容性を考えて初期は保安要員が乗っている状態での走行を行う予定です。国の法律では「保安要員に大型車の運転免許は不要」とされているのですが、やはりそれでは成り立たないので大型車の運転免許を持っている人にする必要があるかなどの論点整理を行い、国とも議論していきたいと考えています。

現時点で1番の課題は、天候です。ドライバーさんであれば、巧みな運転技術で基本的にどのような天候でも走行できますが、無人運転となるとまだまだ課題はあります。どのレベルの雨までは走れるのか、雪が降ったらどうするのか……などを検討しなければなりません。また、有人運転であれば高速を下りて一般道で走ることもできますが、無人運転だとそれは不可能です。となると「悪天候などの有事によって高速道路が封鎖された際はどうするか?」といった議論も必要になります。

ーー高速道路が封鎖された場合、解決法はあるのですか?

國年:「○○km先通行止め」といった高速道路の情報は、割と早めにキャッチできることが多いんです。情報が得られている場合は、当社に出資いただいている宇佐美鉱油さんが全国のSAにガソリンスタンドを持っているので、そこまで自動運転で移動して有人運転に切り替えるなどの連携ができると考えています。有事にも臨機応変に対応ができるよう、協業の仕方はさらに熟考していきます。

輸送量の維持、長距離ドライバーの負担軽減、女性活躍。T2が描く未来のビジョン

ーーT2がサービスを開始することで、どのような世界が訪れると考えていますか?

國年:大きく3つの問題に貢献するビジョンを描いています。まずは、2024年問題を経ても、以前と変わらない速度やクオリティでモノが届く世の中にすること。次に、長距離ドライバーの長年の常識であった「家に毎日帰れない」という生活スタイルを変えること。そして、家に帰れない現状があることで難しかった“女性ドライバーの活躍”を促すことです。

一方で、「自動運転によって物流業界の問題がすべて解決する」なんておこがましいことは思っていません。あくまで自動運転は打ち手の一つで、さまざまな解決方法と組み合わせることで問題を解決していけたらと考えています。その世界観で想像すると、自動運転は鉄道や船での輸送とも協業できそうです。

たとえば、「線路状況が悪いときに自動運転トラックで代替する」「船に積みきれなかった荷物を自動運転トラックに載せる」など。無人運転トラックは人が運転しない分、24時間365日走行できることが強みです。この柔軟性を活かして、新しい物流の形を考えていきたいですね。

5年後10年後には我々以外の競合企業も含めて、かなりの数の自動運転トラックが走行しているのではないかと想定しています。各社が競合して疲弊するのではなく、“日本の物流を支える”という大義のもとで共存していけたらなと思います。

ーー今後タッグを組んでみたい企業や、取り組んでみたいことはありますか?

國年:自動運転での走行を手がけているので、せっかくなら荷下ろしの部分まで自動化できたらいいかもしれません。工場ではそのようなロボットが稼働しているのでは?と思うので、何かソリューションをお持ちの方はぜひ声をかけていただきたいです。

物流業界には、もう1つ「積載率が低い」という課題があります。積載率を高めるには、行きも帰りも十分な積載量(荷物量)がある状態が理想です。しかし現実は、トラックの行き帰りと輸送したい荷物がうまくマッチングせず、あまり荷物を乗せずに走っているトラックも多いんですよね。そのマッチングプラットフォームを開発している会社さんがいれば、ぜひお会いしたいです。「いつでも走れる」という当社の強みとマッチングプラットフォームを掛け合わせることができれば、物流業界の課題をさらに解決することができるでしょう。

ここがポイント

・物流業界は、ラストワンマイルを大手企業が担い、拠点間の長距離輸送を委託先の中小企業が担うという構造になっている
・2024年4月より、ドライバーの労働時間が規制される。これにより起こる、輸送能力の低下や、収益性が下がることによる中小企業の倒産などの諸問題が「2024年問題」
・T2は、幹線道路を走行する10tトラックの自動運転技術を活かした輸送サービスを手がける企業。三井物産とPFNが共同出資して立ち上げ、現在は三菱地所やKDDIなど名だたる大手企業が株主に名を連ねている
・現在、T2では横浜町田インター〜豊田東インターにて走行の実証実験を実施中。2025年度〜2026年度にはサービス開始を予定している


企画:阿座上陽平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:VALUE WORKS
撮影:幡手龍二