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【新連載】どの街に住むかが起業家の成否を決める? | 未来を実装する秘訣 vol.1

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東京大学でスタートアップ支援をしている馬田隆明と申します。普段は東京大学 FoundX という施設でスタートアップの皆さんの相談に乗ったり、Web でスライドなどの形でスタートアップに関する知識を提供しています。また、FoundX Review というスタートアップのノウハウに関するサイトを更新しています。

今回からスタートアップに関する連載を持つことになりました。スタートアップに関するトレンドや、スタートアップを始めるうえで役に立ちそうなことについて、前後の記事のテーマに沿って書いていきたいと思います。

LinkedIn の共同創業者であるリード・ホフマンは、優れた起業家になるための条件として、どこで起業するかを選ぶこと、つまり場所の選び方が重要だと指摘しました

どんな事業にもいわゆる「業界」という括りがあり、そして多くの場合、特定の業界は特定の地域に固まる傾向にあります。たとえば日本だと、ネット系の企業は渋谷に集まる傾向にありました。また精密機械工業なら長野県に集まっています。こうした特定の業界の企業が集積した場所でスタートアップとして起業することのメリットはいくつもあります。まずは人材、たとえばシリコンバレーで起業すれば、周囲にはIT系のスタートアップを経験した人が何人もいます。わずか数年で急成長を遂げたスタートアップを経験した人たちもいるでしょう。一方、メディア系で起業するならニューヨークが良いかもしれません。金融やメディア企業の多いニューヨークには、これまで金融やメディア業界で働いていた、ノウハウを持つ人が多くいます。そうした人たちに入社してもらえれば、スタートアップは一気に成長できるかもしれません。

これは「住む」ことにも当てはまります。課題の気付き方は住む街によって異なります。漁業に関係するスタートアップをするなら、山辺で始めるよりも海辺で始めたほうが良いでしょう。電動モビリティの課題に気付こうとしたら、その電動モビリティが良く走る街に住むのが一番です。SaaS のスタートアップがシリコンバレーで多いのも、SaaS を使うようなユーザーがシリコンバレーに多いから。

もちろん、場所が成否の全てを決めるわけではありません。そうした場所でなくても成功することはできます。ただ、おそらくはより困難にはなります。だから事業ドメインに適した場所を選ぶこと自体が、優れた起業家の条件の一つなのです。

ではIT系で起業する場合は、シリコンバレー、日本だと東京、特に渋谷に住むのがベストでしょうか。現状だけを見てみれば、確かにそうかもしれません。しかしスタートアップが狙うべきなのは、急成長する市場であると言われます。もしそれが住む場所にも適用できるなら、こう言えるかもしれません。「今まさに盛り上がりつつある、これからのスタートアップ・ハブとなる都市に行け」と。

そうした都市に行けば、その都市で生まれつつあるネットワークの中心にいることができるかもしれません。良い機会もめぐってくるでしょう。失敗したとしても、起業家としてのあなたの奮闘を知っている人が多ければ、救い上げてくれるはずです。

カリフォルニア州でスタートアップが集積しているベイエリアでは、かねてからの生活費の高騰と昨今のCOVID-19 の状況を受けて、多くの会社や人が流出しはじめているのはニュースになっている通り。行先としてはテキサス州オースティン、コロラド州デンバー、テネシー州ナッシュビルなどがしばしば挙げられます。こうした地域で昔から活動していた起業家や支援者は、この流れを活かして、新たなスタートアップ・ハブを形成していきつつあるのではないでしょうか。

では日本だとどのような街に行けば良いでしょう。Y Combinator の共同創業者の一人である Paul Graham はピッツバーグの変遷を見て、スタートアップ・ハブとなりうる都市の特徴を上げています(日本語訳)。その特徴は以下の通りです。

• 若者が流入していること
• 自転車や歩行者にやさしい都市であること
• 住みやすく安価であること
• 優秀な人材を集める、研究力のある大学が近くにあること
• 寛容で現実的であること
• 投資家がいること

こうした基準に合う日本の街はどこになるでしょうか? もしあなたがこれから住む場所を変えるのであれば、ぜひそこに住む人たちに、こうした条件を聞いてみてください。合致する場所であれば、将来スタートアップ・ハブになる街かもしれません。

Paul Graham は「都市と野心」というエッセイの中で、都市がクリエイターや起業家へ影響を与えることを、現在のシリコンバレーや、有名画家が一気に生まれたルネッサンスの頃のフィレンツェを例にして述べています。「どんなに決意したところで、周りの人に影響されずにいるのは難しい」とは彼の弁ですが、同様のことを大前研一氏は「一つは時間配分を変える、二番目は住む場所を変える、三番目は付き合う人を変える。この三つの要素でしか人間は変らない。もっとも無意味なのは『決意を新たにする』ことだ。」とまとめています。そして私個人としては、住む場所を変えることが、自分を変える最も良い方法だと考えています。場所を変えれば、時間配分も付き合う人も変わってくるからです。

私たちは、自分自身が思っている以上に環境に影響されます。それを自分の意志の弱さと見ることもできるでしょう。一方で、その弱さは強さにもなります。もし良い意志を持った人たちのいる環境のそばにいれば、私たちはなりたい自分になれるかもしれないのですから。

コロナ禍のさなかではありますが、春はまたやってきて、四月からは新年度が始まります。もしこのタイミングで新天地を探している方が読者の皆さんの中にいるのであれば、「自分は将来どのような人になりたいか」を考えて、そんな人たちが多く住む場所を選ぶのも一案でしょう。

街に住めばあなたはその一員となり、単に街から影響を与えてもらうだけではなく、あなた自身が街に影響を与えるようになります。あなたが良い影響を与えたくなるような街を、ぜひ見つけてみてください。

[ 馬田隆明: 東京大学 産学協創推進本部 本郷テックガレージ / FoundX ディレクター ]