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ビジネスの主戦場は「リアル×デジタル」へ。到来した大変革の突破術|未来創造マインド vol.4

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90年代からインターネットの普及でネット経済が発展し、直近の十数年はスマホの登場により、人々がいつでもどこでもネットにつながる環境が生まれ、ネット経済は一気に巨大化。この10年で、経済活動は大きくデジタルにシフトした。その象徴的な勝者が、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)という訳だ。そして現在、デジタル革命はすでに次の段階に入っている。本格的なリアルとデジタルの融合である。これにより、企業は、大きな戦略の転換期を迎えている。今回は、このデジタル化の大変革にどう取り組むべきか考えてみよう。

INDEX

DXは予選突破の規定演技
ソフトウェア・ファーストの発想
オープン戦略でイノベーションを推進

DXは予選突破の規定演技

デジタル革命第1幕は、サプライチェーンやビジネスモデルの変革が「デジタル」を主戦場に行われた。「アナログレコードからCDへ」という変化ではなく、「CD(モノ)からダウンロード配信」への変化だ。ここでは、ネットの世界だけで完結するビジネス、デジタルコンテンツの配信やソーシャルゲームなど、デジタルネイティブの企業が台頭した。第2幕の主戦場は、「リアル×デジタル」である。農業や漁業などの第一次産業、製造業やエネルギー産業、医療やヘルスケア、飲食・ショッピングを含めたあらゆる店舗サービス、影響を受けない産業はないとさえ言える。これまでのデジタルやインターネット技術に加えて、AIやロボット、ブロックチェーン、ゲノム編集、さらには量子コンピュータなど、テクノロジーはこれまで以上のスピードで進化しつつある。先端テクノロジーが、いよいよリアルの産業と深く結びつく時代になった

これから5G(第5世代移動通信システム)のサービスもはじまり、通信環境がさらに進化する。高速大容量通信によりVR(仮想現実)やAR(拡張現実)が、リアルな現場と連動して新しい体験を実現する。5Gの低遅延により遠隔医療もやりやすくなる。また、この一年で、新型コロナウイルスの脅威がオンライン化を加速させた。オンライン診療、オンライン服薬、オンライン教育などが一気に進み、さまざまなオンライン・サービスが我々の生活の中に入って来ている

デジタル革命第2幕は、リアル産業の伝統的な企業からすれば、デジタルトランスフォーメーション(DX)ということになる。設備や店舗の情報を収集し整え、リアル産業をデジタル化する。ここでのキーポイントは、多くのデータを集め、それを分析し、適切なアクションを起こすことだ。センサーを設置してデータを集めたり、装置のデータを収集する。次に、集めた大量のデータを分析して、高精度の予測やプロセスの最適化、自動化に活かす。ここで活躍するのが、AIということになる。企業は、プロセス全体を見直してコストダウンを実現し、異常の検知や予測によってリスクを軽減する。さらに、新たな知見の発見により売上アップを狙う。

DXは今や企業が生き残るための必要条件。やった方が良いというものではなく、リアル×デジタルの新時代の予選突破のための「規定演技」、クリアして当然の条件と言える。本戦の競争相手は、従来のライバル企業ばかりではない。GAFAを筆頭に、デジタルネイティブ企業が強力なライバルとなる。

他方、デジタルネイティブ企業からすれば、デジタル革命第2幕は、リアルへの進出である。テジタルネイティブ企業はソフトウェアに加え、ハードウェアも手がけて、サービスとセットで進出してくる。デジタル技術を活かし、最先端のAIも開発しているので強力だ。Google HomeやAmazon EchoなどのAIスピーカーやApple Watchなどのウェアラブルデバイス、アマゾンのドローン配送、グーグルの自動運転など、すでに大きな投資をして技術開発を加速させている状況である。そんな中で、どんな価値をユーザーに提供できるのか、「自由演技」の中身が勝負となる

ソフトウェア・ファーストの発想

日本の製造業の代表格であるトヨタ自動車は、「ソフトウェア・ファースト」を打ち出している。トヨタのライバルは、今や自動運転でもスマートシティでもグーグル(親会社のアルファベット)であり、EVのテスラのような企業だ。ソフトウェア・ファーストとは、製品のコンセプトから、製品開発のプロセス、製品のライフサイクルを、ソフトウェアを中心にゼロから見直すということだ。これは、自動車に限った話ではない、すべてのハードウェア製品に言えることだ。

伝統的な産業の企業にとって、デジタル革命第2幕を戦うには、従来製品やサービスのDXだけでなく、ソフトウェア・ファーストの新たな製品開発、ビジネス展開が必須である。ハードウェアの開発にはどうしても時間がかかる。一方でソフトウェアの進化の速度は早い。そこで、このギャップをソフトウェアの柔軟性を最大限に活かしてマネージすることがソフトウェア・ファーストの考え方のポイントとなる。ソフトウェアを設計の中心に据えることで、以下のようなことが可能になる。

・ソフトウェアのシミュレーションによる製品開発の加速
・ソフトウェアのアップデートによる機能の追加や改良
・ソフトウェアによるユーザー毎のパーソナライズ
・機器からのデータ収集

まさに、デジタル革命第1幕でPCやスマホで行われてきたことだ。実際、テスラは、ソフトウェアを中心に設計したEVを製品化し、頻繁にソフトウェアをバージョンアップして販売後のEVにリリースしている。製造業として歩んできた企業が、実際にこれを実行するのは簡単ではない。設計段階で、ハードウェアとソフトウェアの切り分けやモジュール化など、従来のハードウェア中心の発想から転換する必要がある

ハードウェア製品はソフトウェアの力によってプラットフォームとなり、新たなアプリケーションやサービスを追加できるようになる。製造業の企業は、単なるモノ売りビジネスから脱却し、新たな体験や価値を継続的にユーザーに提供することでストック型のビジネスを実現できる。また、機器から収集するデータを応用して、別のビジネスを展開することも考えられる。日本のモノづくりの強みを活かす意味でも、今後ソフトウェア・ファーストの発想が欠かせない。

オープン戦略でイノベーションを推進

ネット上のサービスで膨大なユーザーを抱えるGAFAのような企業は、ビッグデータを保持して、AIを応用できる絶好のポジションにいる。AIがもたらす成果を広告のマッチングや商品のレコメンドなど、直接的に収益化(マネタイズ)する手段を持っている。彼らは、AI技術を囲い込む必要がない。AIのモデルやアリゴリズムを真似されたところで、ビジネス上困らないので一向に構わない。むしろ、AI技術をオープンにして、世界中の優秀なエンジニアや研究者を巻き込んで、さらなる改良を進めることにメリットがある。何をオープンにして、自社の価値をどこに置くか、したたかな戦略の攻防が始まっている。

最先端のAI技術やロボットOS、自動運転のソフトウェア、ゲノム編集に至るまで、多くのテクノロジーがオープンになっており、地球規模で日々進化している。求められる技術の幅が広がったことで、大企業といえども、単独で大きな成果を上げることが難しくなり、自社内でクローズドに技術を囲い込むより、オープンにして多くの人たちを仲間にして、技術の発展を早める方が得策だ、という考え方が強くなっている。オープンテクノロジーである。オープンテクノロジーの進化はますます加速しいることもあり、オープン戦略を取り入れて、自社の強みと組み合わせる発想が必要に思える

オープン戦略は、技術に限った話ではない。自社が持つデータをオープンにする戦略もある。そのデータを活用して、新たなビジネスを生み出すアイデアを募集したり、一見離れている事業を結びつけたりできるかもしれない。多くのデータを集めて連携することによって、全体を最適化できる。高齢化社会でコストが増大している医療やヘルスケアの分野でも、データを活用した連携は重要だ。病気のリスクを予測し、早く手を打つことができる。企業にとっては、データを囲い込むよりオープンにした方が、結果的に市場が大きくなってメリットがあることも多い。新たな時代のビジネス戦略だ。

さらに、このネット時代では、単独の孤立した製品では戦えない。ネットに接続したり、スマホと連動したり、自社の他の製品や他社の製品とも連携して、より便利な価値をユーザーに提供することがユーザーに選ばれる理由になっている。したがって、商品やサービスの開発においても、他の企業とも連携して大きなソリューションを作り上げることが重要になっている。

今後、イノベーションの対象は、単独の製品やソリューションの枠を超えて、大きな社会システムに向かう。例えば、エネルギーの最適化、交通渋滞の解消や配送の効率化、自動運転のインフラ整備やドローンの航空管制システムなど、スマートシティの実現に必要な要素だ。これらは多くの企業が協力することではじめて実現する。ただし、協力にはオープンな姿勢が前提となる。自前主義からマインドセットを切り替える必要があるのだ。競争の前に、社会を良くする目的から未来を考えたい。

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[ 鎌田富久: TomyK代表 / 株式会社ACCESS共同創業者 / 起業家・投資家 ]
東京大学大学院理学系研究科情報科学博士課程修了。理学博士。在学中にソフトウェアのベンチャー企業ACCESS社を設立。世界初の携帯電話向けウェブブラウザを開発するなどモバイルインターネットの技術革新を牽引。2001年に東証マザーズに上場し(現在、東証一部)、グローバルに事業を展開。2011年に退任。その後、スタートアップを支援するTomyKを設立し、ロボット、AI、人間拡張、宇宙、ゲノム、医療などのテクノロジー・スタートアップを多数立ち上げ中。著書「テクノロジー・スタートアップが未来を創る-テック起業家をめざせ」(東京大学出版会)にて、起業マインドを説く。