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「スタートアップ」から「スケールアップ」へ? 爆速成長するスタートアップたち | 未来を実装する秘訣 vol.3

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海外の記事などで「スケールアップ企業 (scale-ups)」という単語を見る頻度が増えてきました。スタートアップは初期段階の企業のことを指し、スケールアップはその名の通り、急激な規模拡大をしている企業のことを指します。

なぜスケールアップという言葉が出てきたのでしょうか。その理由は、スケールアップ企業はスタートアップと大きく異なる特徴を持ち、スタートアップとは区別したほうがよいと考えられたからでしょう。

スケールアップのフェーズに入った企業は、売り上げが年ごとに倍以上に増えていきます。そしてどれだけ人を採用しても顧客からの問い合わせに対応できず、かつては年に5人だった採用人数が週に5人になり、一年ごとにオフィスを移転しないと人が入りきらない……。そんな状況になっているのがスケールアップ企業です。また次なる成長を牽引する新製品を考案したり、自社製品のプラットフォーム化などを構想したりするのもこのタイミングです。

少したとえ話をすると、スタートアップは顧客というコンパスを頼りに、プロダクトマーケットフィットに辿り着くことを目指します。道とは言えない道を歩み、獣道をかき分けながら進んでいくのがスタートアップです。

一方でスケールアップ企業は、ブレーキが利かない車で高速道路を走りながら、壁にぶつからないようになんとか運転していくようなフェーズです。少しでも判断を間違うとクラッシュしてしまい、組織崩壊などが起こります。しかし、それほどの急拡大をしなければ、ネットワーク効果や規模の経済などのメリットを享受できず、競合に敗れ去ってしまうのではないか、という危機感を持っているのもこのスケールアップ企業の特徴です。

スケールアップのフェーズに辿り着く企業はごく少数です。デロイト社の調査によれば、スタートアップのうち0.5%、つまり200社に1社しかスケールアップには辿り着かないと言われています。

スタートアップの数が増え、スタートアップへの投資資金も増えるにつれて、スケールアップの段階へと辿り着くスタートアップが日本でも増えてきたのでしょう。そうした状況を反映してか、スケールアップ企業向けに書かれた『ブリッツスケーリング』や『爆速成長マネジメント』などの書籍も日本語に翻訳されました。スケールアップ企業はスタートアップとは大きく異なりますが、大企業やそこそこの規模の中小企業とも違います。信じられないほどのスピードで成長していく組織をなんとか経営していかなければならないからです。スケールアップ企業にはスケールアップ企業特有のノウハウが必要なのでしょう。

そして『爆速成長マネジメント』や『The Great CEO within』など、スケールアップ企業向けの書籍で異口同音に言われることに「スケールアップ企業は同じ悩みを持つ」というものがあります。本稿では詳細にスケールアップ企業向けのノウハウは語りませんが、「スケールアップ企業はスタートアップとは異なる」「スケールアップ企業は同じ悩みを持つ」ということをまずは解説させていただいて、次のトピックに移りたいと思います。

大企業への示唆:スタートアップではなく、スケールアップ企業を支援するのが勝機?

 
本連載はスタートアップの方々だけではなく、大企業の方々もご覧になっているため、ここからはそうした大企業の方々向けに書いていきます。
日本においては大企業がこぞってスタートアップ支援をするという環境が整いつつあります。そんな大企業におすすめしたいのは、いわゆる「スタートアップ」の支援ではなく、「スケールアップ」のフェーズの企業を支援することです。

スタートアップはまだ製品やサービスが固まっておらず、場合によっては戦略のピボットすら可能性としてあるフェーズです。もし支援したスタートアップが戦略を大きく変更してピボットしてしまった場合、大企業は事業シナジーを見込めなくなってしまいます。またスタートアップは失敗確率もまだまだ高く、一度組んだスタートアップが失敗してしまうと、スタートアップとのオープンイノベーション自体の期待値が下がってしまい、社内でもその後の取り組みがしづらくなってしまいます。また大企業からスタートアップに提供できるものは、実はそれほど多くないという点もあります。大企業は実証実験の場は提供できるかもしれませんが、スタートアップが欲しいのは現場で実際に利用され、サービスで売上を上げることであったりします。スタートアップと大企業では、お互いの期待に食い違いが起こりがちなのです。
一方、スケールアップ企業は一定以上の製品やサービスを持っており、大きな方針転換もそこまで起こりません。さらにスケールアップ企業には大企業から提供できるものもあります。

たとえばスケールアップ企業の悩みの一つはマーケティングです。特にチャネルの確保は一つの大きなトピックです。スケールアップ企業は既存のチャネルを盤石にしたり、新たなチャネルの開拓のために他社とパートナーシップを結ぶことを検討します。そんなとき、スケールアップ企業にとって大企業とのパートナーシップは更なる顧客開拓に結びつきますし、大企業にとってもスケールアップ企業の製品紹介を皮切りに、自社の製品を売る、といったこともできるかもしれません
こうした理由から、大企業はスタートアップ向けのアクセラレーターをするよりも、スケールアップ企業の支援をする「スケーラレーター」という形で関わっていくことをおすすめしています。実際、DisneyやMicrosoftなどはこうしたスケールアップ企業向けの支援へと切り替えています。そしてスケールアップ企業の成長速度が目を見張るものであれば、自社のCVCを経由した投資や、場合によっては買収という選択肢も出てくるでしょう。

日本国内ではスケールアップのフェーズの企業に対する支援は初期のスタートアップに比べるとまだまだ手薄です。今後スタートアップが日本社会に根付いていくためには、こうしたスケールアップ企業への支援を増やしていくことが、企業戦略としても、エコシステム全体としても重要なように思います。

[ 馬田隆明: 東京大学 産学協創推進本部 本郷テックガレージ / FoundX ディレクター ]

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