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IT・AIを応用する8つのビジネスアイデア。データをどう料理するかで、生まれる新しいアイデア|未来創造マインド vol.8

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情報技術、いわゆるIT・AIの活用によって、ビジネスのあらゆる場面で効率化が進められている。収集したデータを分析して無駄をなくし、AIを応用して予測の精度を高めることができる。すべての既存の事業は、データを包括的に見える化し、それを分析して効率化する変革を迫られている。製品もサービスも、IT・AIを中心にリデザインしないと戦えない。スタートアップにとっては、既存のプレーヤーに取って代わるチャンスでもある。まったく新しいアイデアも生まれやすい。今回は、IT・AIを活用したビジネスアイデアを考える際のヒケツやポイントについて考えてみたい。

INDEX

身近な課題を見つけよう
データを料理して離れている課題を解決

身近な課題を見つけよう

日々の生活で気づいた不便や不都合、仕事の中で感じる効率の悪さ、我々の周りには、さまざまな課題がある。それをITやAIを活用して解決できないか。そんな身近な課題の発見から、新規ビジネスのアイデアは生まれるものだ。特に自分が当事者で、課題の理解が深いと良いアイデアにたどり着きやすい。

IT・AIを応用して生まれるビジネスアイデアを8つに分類してみた。スタートアップのアイデアは、だいたいこの中に入る。

(1) マッチング
必要な人に必要なモノを結びつける。課題を持っている人とその課題を解決できる人を結びつける。需要と供給のマッチングは、ビジネスの原点とも言える。ネットによって、これが格段にやりやすくなった。モノのフリーマーケットや専門的な仕事のアウトソーシング、恋人探し、家事手伝い、あらゆる分野に広がっている。どうやってサービスを広めるか、サービスの質や信頼性の担保、ユニークな差別化などがポイントとなる。

(2) 中間業者をなくす
伝統的な流通の仕組みを飛び越えて、生産者(事業者)から消費者(ユーザー)に直接届ける。マッチングの一種だが、農業や漁業など、伝統的な既存の枠組みを壊す。何かに特化して、リピーターが多く、安定的に提供できるようなものからスタートすると良い。予約やサブスクリプションなど新たなビジネスモデルも応用したい。

(3) 自動化・無人化
人手不足の課題の大きい領域では、ITによる自動化や無人化はニーズが高い。導入のしやすさがポイントになることが多い。自動車の自動運転や、無人店舗などは今後確実に進む。新型コロナウイルスの感染防止でも、受付の自動化やキャッシュレス、顧客数のコントロールなどが必要になっている。ロボットの導入では、ニーズの大きい課題に対して、業務をうまく切り出して即戦力にすることが重要だ。

(4) 対面からオンライン化
新型コロナウイルスの感染防止の施策として、規制緩和されたオンライン診療やオンライン服薬、これを契機に一気に進んでほしい。学習や教育でも、オンラインサービスが増えたが、まだ発展途上である。企業は、オフィスとオンライン(リモート勤務)をうまく組み合わせて仕事を進めるハイブリット型に移行していくことになる。あらゆる分野で、ハイブリットで業務を最適化できるツールが必要になる。

(5) パーソナライズ
ユーザーの好みは多様化しており、個々の好みに合わせた製品、サービスが望まれている。ファッション、フード、フィットネス、ヘルスケアなど、ユーザーの嗜好を分析するためのデータがキーとなる。精度の高いレコメンドは有用に思えるが、一歩踏み込んでユーザーが本当にほしい機能かユーザー視点で考えたい。パーソナライズにはユーザーと事業者の間の信頼関係の構築が欠かせない。さらに、ハードウェア製品も、機能をソフト化することで、機能の追加やパーソナライズをソフト的に実現できる。

(6) モノ売りからサービスへ
ライドシェアや民泊、カーシェアやサイクルシェア、あらゆるモノをシェアするビジネスが考えられる。ネットとスマホでサービス実現の敷居が下がった。故障が少なく品質の高い製品は、本来回転率の高いシェアリングに向いており、モノの売り切りより大きな収益を生み出せる可能性がある。ユーザーと直接つながるメリットもある。無駄をなくす、社会全体の最適化、地球環境への貢献といった大きなミッションを掲げることで、ファンを引き付けたい。

(7) 古い商習慣を壊す
ハンコ文化のような書類のデジタル化が遅れている領域や、ファックスでの受付や受発注などの紙ベースの従来方式が長く踏襲されている業務、保証人を必要とする契約など、ITで効率化できる分野は多い。業務の移行や過去のアナログ資産をどうするかが課題になることが多いが、古い商習慣に縛られず、まったく新しくスタートさせる方が早い。スタートアップには、理想型をゼロから考えて効率化してほしい。

(8) 離れている事業をつなぐ
ある事業で収集したデータが、まったく別の離れている事業で役に立つことがある。さらに、データを軸にして複数のビジネスをまとめることで、より大きな課題を解決する総合的なソリューションになることもあり、アイデア次第で大化けする可能性がある。これについては、次に少し詳しく考えてみたい。

IT・AIを応用した新規事業のアイデアは、上記のような発想で考えれば、いろいろ思いつく。すでに先行プレーヤーがいても、強力な差別化要因やビジネスモデルの工夫で追い抜くこともできる。Googleは後発の検索エンジンで、Facebookも最初のソーシャルネットワークではない。解決したい課題への深い理解と本質的な原因への洞察が、成功へのキーとなる。自分が興味ある分野でアイデアを考えてみてはどうだろうか。

データを料理して離れている課題を解決

IT・AIを浸透させることで、人々の生活を豊かにする、社会を最適化することが期待されている。いわゆるDX(デジタル・トランスフォーメーション)である。企業においては、事業の運営により非常に多くのデータが蓄積している。これらのデータは、既存の事業の改善に使うだけでなく、別の課題の解決に活用することができるかもしれない。データの料理の仕方によって、他の具材も加えて、思ってもみないお美味しい料理になる可能性がある。データ活用をそんな視点で見てみよう。

例えば、電力会社やガス会社は、スマートメーターで電気やガスの使用量のデータを収集して、料金を請求している。このデータは、例えば一人暮らしのシニアの方の見守りサービスに活かすことができる。在宅しているはずなのに電気やガスを使っていないなどの異常を検知して、声かけをするなどが考えられる。離れて暮らす家族に連絡までできれば更に有難がられるだろう。実際、電力会社やガス会社は、そのようなサービスを実証実験したり、サービスを開始したりしている。

電気やガスの使用量のデータを分析すると在宅の時間帯が分かるかもしれない。他方、宅配の再配送が社会課題となっている。これらを組み合わせるとある地域の在宅の時間帯を狙って、配送の最適ルートを計算するといったことも考えられる。個人情報のデータの取り扱いには注意が必要だが、有望な応用に思える。

別の例として、自動車にドライブレコーダーを装着して、カメラ映像や走行情報を記録することが進んでいる。事故の際に様子を映像で解析できるメリットがある。自動車保険会社は、ドライブレコーダーを利用することで事故対応をスムーズに処理することができるので、ドライブレコーダーの特約サービスを提供している。さらに、別の目的でもデータを活用できる可能性がある。道路や街の映像データを衛星画像と組み合わせれば、立体的な街のデータを作成してデジタルツインのプラットフォームを構築できるかもしれない。また、曜日や時間帯の混雑具合を分析するなど、さまざまな応用が考えられる。

他には、ドライブレコーダーの走行データを分析すると、ドライバーの性格を診断できるかもしれない。黄色信号でも渡ってしまうリスクを取るタイプか、どんな時にも慎重なタイプか。さらに、ゲノム情報など性格に関わる情報と組み合わせれば、融資枠の設定ができたりしそうだ。これは、データを料理して、かなり離れた課題に応用するアイデアだが、関係ないように思える事業を結びつけることが可能になる。

データ活用の新しいアイデアを生み出すには、どうしたら良いか。社会のさまざまな課題に思いを巡らすことが重要だ。1つの事業部内で閉じた活動では、なかなか難しい。新規事業の担当者は、自部署、自社を飛び出して、広い視野で世界を俯瞰する姿勢が大事である。

[ 鎌田富久: TomyK代表 / 株式会社ACCESS共同創業者 / 起業家・投資家 ]
東京大学大学院理学系研究科情報科学博士課程修了。理学博士。在学中にソフトウェアのベンチャー企業ACCESS社を設立。世界初の携帯電話向けウェブブラウザを開発するなどモバイルインターネットの技術革新を牽引。2001年に東証マザーズに上場し(現在、東証一部)、グローバルに事業を展開。2011年に退任。その後、スタートアップを支援するTomyKを設立し、ロボット、AI、人間拡張、宇宙、ゲノム、医療などのテクノロジー・スタートアップを多数立ち上げ中。著書「テクノロジー・スタートアップが未来を創る-テック起業家をめざせ」(東京大学出版会)にて、起業マインドを説く。

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