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未来の解像度を高めるための考え方とツール| 未来を実装する秘訣 vol.7

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「解像度」という言葉がビジネスの界隈ではしばしば使われるようになりました。解像度が高い状態とは、顧客の状況や課題が鮮明に見えていたり、次の行うべき打ち手が細かく見えている状態のことです。私が以前書いた解像度に関するスライドでは「深さ」「広さ」「構造」の3つの軸に解像度を高めるための方法について解説しました。

一方で、最近相談されるのが「未来をどのように解像度高く描けば良いのか」というものです。

かつては未来の解像度を高めたいときといえば、未来を正確に予測し、戦略や中期計画を作るためでした。しかし最近の未来の議論は少し違うようです。正確な未来予測ではなく、魅力的な未来をどう描けば良いのか、ということが主眼になっているように見えます。

この背景には、2050年のカーボンニュートラルといったアジェンダが強くなり、どの企業も30年後を考えなければならなくなってきていること、そして昨今日本でもよく聞くようになった自社のパーパスとは何か、という議論が影響しているように感じています。パーパスを考えるときには、自社が将来どのような社会を望んでいるのかを考える必要があります。そして考えるだけではなく、そこに多くの人を巻き込んでいかなければなりません。

こうした背景から、スタートアップに限らず、未来を解像度高く見る方法を探し始めているようです。

未来の解像度が高い状態とはどのようなものでしょうか。私は2つの条件があると思っています。一つは、描いている未来のゴール地点が鮮明であること。そしてもう一つはその未来に至るまでの道筋も鮮明であることです。

まず一つ目の、ゴール地点の未来をどのように描くかから考えていきましょう。

INDEX

未来のゴールを鮮明に描く
未来に至る道筋を描く
正しい方向に向かう

未来のゴールを鮮明に描く

未来をどのように描くのでしょうか。可能性を描き出すスペキュラティブデザインの授業でも、どうやら体系的な手法などは教えられず、事例と課題が共有されるのみのようです。まだ体系的な手法などはないのかもしれません。ただいくつかの基本はあるように思えます。

まず何はともあれ、未来を考えるためにはまず今を知ることが重要です。未来は今の延長線上にあり、突然変わるわけではありません。どれだけ正確に「今」を知っているかが、まずは土台になります。

そのうえで、何が急速に変化をし始めているのかの端緒を掴むことが、未来を考える一つの機会です。スタートアップは大きな変化の前兆を目ざとく見つけ、その変化が起こることに賭けて急成長を目指します。たとえばスマートフォンの急激な普及やクラウドの躍進などがこの十年のスタートアップを牽引してきましたが、変化の初期にその変化に気付いた人たちが多くの利を得ました。そうした変化に気付けるかどうか、そしてその変化が起こった先にどのような未来になっているかを考えることが、未来を描く一つのヒントになります。

一方で未来を描くためには、変わらないものにも目を向けるべきでしょう。たとえば、アマゾンのジェフ・ベゾスも2020年の株主総会で、「変わらないもの」に目を向けるのが大事だと指摘しています。アマゾンが低価格と発送に力を入れているのは、顧客の基本的なニーズは将来も同じであり、そうそう変わらないものだからです。未来においてもそうは変わらないもの、たとえば理論なども未来を考えるうえでの基盤となってくれます。

こうした未来は一人だけで考えられるものではありません。『突破するデザイン』では、意味のイノベーションのプロセスとして、まずは一人から始めつつ、ペアになってスパーリングを行い、ラディカルサークルと呼ばれる少人数のグループで衝突と批評を行って、次第にグループを広げて専門家などにも入ってもらう、といったやり方を紹介しています。

未来を考えるときにもこうした手法は使えるでしょう。スタートアップの場合、共同創業者同士で壁打ちを始めてから、徐々にステークホルダーを増やしていきつつ、未来を考えるのも一つの手です。

未来に至る道筋を描く

素晴らしい未来を描けたとしても、そこに至る道筋に十分な説得力がなければ、単なる夢物語でしかありません。想いや信念は重要ですが、それだけではなく、そこに至る道筋の説得力こそが、他の人たちが実際に一歩未来に進む手助けをしてくれるものです。

道筋をどのように明らかにしていくのかは、描いた未来から現在を考えるバックキャスティングと、現在から未来を考えるフォアキャスティングの両者を激しく行き来しながら考え、実際に行動し、時にはその道筋を変えて徐々に進むしかないようです。

まず未来からバックキャスティングするときには、その未来の実現に必要な要素をいくつかの時間軸で分解していきます。自分たちだけでは達成できないことも挙げておきましょう。そして現在から未来に向けては、「What if?」という疑問の連続でシナリオを作っていき、その中で蓋然性が高く、最も未来に辿り着きやすいという道筋を選んでいきます。

こうしたゴールと道筋を明らかにするツールとして、ロジックモデルがあります。様々な公的機関やNPOで使われるようになったこのロジックモデルは、今日のビジネスが未来にどのようにつながっていくかを表現するためのツールとしても使えます。

ロジックモデルでは、投入する資源、活動、結果として生まれる製品やサービス、それによる成果、その成果がもたらすインパクトの因果関係を体系的に図示します。それぞれの要素が連鎖してインパクトにつながることが可視化されるため、日々の活動がどのように最終的な未来につながっていくかが図で理解できるようになります。

一般的には、以下のようにインプット/リソース、アクティビティ、アウトプット/実装、アウトカム、インパクトの五つの要素をつないだ、ツリー型で表現されます。

それぞれの要素の簡単な説明は以下の通りです。
● インプット/リソース:投入する資源(資金、人材、知財、技術、文化など)。「投入」とも呼ばれる。
● アクティビティ:プロセスや事象、行動。「活動」とも呼ばれる。
● アウトプット/実装:製品やサービスなど。「結果」とも呼ばれる。
● アウトカム:製品やサービスによる個人や環境の変化・効果。「成果」とも呼ばれる。短期的アウトカム、中期的アウトカム、長期的アウトカムなどに細分化されることも多い。
● インパクト:成果がもたらす社会的な変化や効果。組織が存在する理由。「社会経済的変化」とも呼ばれる。

インパクトには、自社のミッションやパーパスなどが位置付けられるでしょう。このロジックモデルをうまく説得的に描けていると、未来と道筋がつながり、未来の解像度が高くなっている、と言えるように思います。このロジックモデルは自分たちの未来の解像度の高さを診断するためにも使えますし、周囲を巻き込んでいくときにも使えるツールだと思います。

正しい方向に向かう

最後に、大切なのは正しい方向に向かうことです。

どんなに説得力のあるロジックモデルを作り上げられたとしても、未来の予測は難しいものです。未来の到達地点も道筋も何度も間違うでしょう。2020年以降に起こったコロナ禍について、いつかは起こるという警鐘はあったものの、2020年のタイミングで起こると予測できた人はほとんどいないはずです。間違うことは仕方がありません。

ただ進む方向が間違っていたら修正は難しくなります。最初の一歩は間違っていたとしても、正しい方向に向かってさえいれば修正は簡単です。

私たちはつい短期のトレンドを見てしまいますが、短期のトレンドほど移ろいやすいものです。しかし「地球環境に優しい」「人の寿命を延ばす」などはおそらくそう間違えない方向でしょう。そうした方向性に気を付けながら、魅力的な未来と道筋を描いてください。

そうして未来を解像度高く把握するときに、本稿が参考になれば幸いです。

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[ 馬田隆明: 東京大学 産学協創推進本部 本郷テックガレージ / FoundX ディレクター ]]