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ロボットスタートアップの1stステップ「スケールしないことをしよう」 | 未来を実装する秘訣 vol.10

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宅配便の配送や食事の配膳など、人間が行う作業を置き換えるロボットは、しばしば注目を集めます。より業界に特化して、ホテルの中や倉庫内でのロボット、清掃用ロボット、といった領域でも新しい試みが行われており、ロボットを扱うスタートアップにも期待が集まっています。

私がディレクターを務める東京大学FoundXには、ロボットを扱うスタートアップが多く参加してきました。その中で得てきた知見を、今回は紹介したいと思います。

INDEX

千差万別
ロボット開発より先に人間で価値を確かめる
まとめ

千差万別

まず注意したいのは、ロボットだけに注目をするのは危険だということです。ロボットを扱っていても、それを応用する領域によって、ビジネスの在り方は随分と異なります。

技術の面を見てみても、ハードウェアをメインに扱うところもあれば、かなりソフトウェアに寄ったところもあり、応用領域ごとに技術的にも大きく異なる部分もあるものです。それに事業を起こす困難さも、ロボットの技術的な難しさに起因する場合もあれば、そもそもの事業領域の難しさ、といった場合もあります。ただどうしても、ロボットに注目が集まるがあまり、そうした差にはあまり注意が払われない傾向にあるように思います。

個社を見ていけば千差万別です。ただし、事業を進めるためのノウハウと言う観点では、いくつかパターンはあるように思います。そのパターンを少しだけ見ていきましょう。

ロボット開発より先に人間で価値を確かめる

多くのロボットスタートアップは、「完成したロボットが行うであろう作業」をまずは人間が行ってみることを試しています。そうすることで、ロボットが最終的にきちんと動いたときに、顧客がお金を払ってくれるかどうかを検証しているのです。言い換えれば、その作業を行うことで、本当に価値が生まれるのかどうかを確認するところから始めている、ということです。

学生の皆さんからは「黒板消しロボット」というアイデアが良く出てきます。確かに面白そうな試みです。ロボットが黒板を毎回消していたら、映えそうな気もします。

しかし本当にそれに価値があるかどうかを確認するためには、ロボットを作る前に、自分たちが黒板を代わりに消してみて、先生たちがその黒板消しという作業にどれだけのお金を払うのかを確認してから作り始めたほうが良いでしょう。そうすることで、本当に顧客(この場合は先生や学校)に課題を感じているかどうかが分かります。

払ってくれないのであれば、ニーズがないということです。もし払ってくれたとしても、支払われる金額に応じて、ロボットに使えるパーツも変わってくるはずです。もしわずかな金額しか払ってくれないのであれば、高性能で高価なロボットを作っても誰も買ってはくれないでしょう。

移動可能なロボットでコーヒーを運ぶ、というのも、よく出てくる応用先です。既に人間が行っている作業のため、人間並みに行えれば需要はあるかもしれません。しかしロボットが人間並みに行えることは、まだまだ少ないのが現状です。たとえば運搬時には振動があるため、コーヒーが多少零れてしまうかもしれません。ロボットは人間に比べてゆっくりとしか運べないので、コーヒーが冷めてしまうこともあるでしょう。そうしたロボットの限界を考慮したうえで、その作業を人間でやってみるのです。もしロボットを模した作業で顧客の課題を解決できないのであれば、そのロボットを作る意味は薄くなるでしょう。
スタートアップでは「スケールしないことをしよう」と言われます。「スケールする」ためにロボットを作り、作業を自動化しますが、そうしたスケールに取り組む前に、スケールしないことを自分たちでやってみて、そこから得られた洞察を基に、どういうロボットが求められるかを知り、その要件を超えたものをコストパフォーマンス良く作っていくことが、最初の一歩として効果的なパターンです。

一見遠回りでも協力を募るために現場に入り込む
スケールしないことをするために、現場に赴いてお願いをする必要が出てきます。いくつかの現場はお願いすればすぐに見せてくれるでしょうが、そうではないときもあります。

そんなときには、プロトタイプを作って説得してみるのも一つの手です。先ほどの「スケールしないこと」とは矛盾するように見えるかもしれませんが、「このロボットを使えるものにしたいから、現場の様子を見せてほしい」とお願いするために、ロボットを作ってみるのです。

ロボットを作って持っていくことで、皆さんが単なる口先だけではなく、本当に技術力があることが相手に伝わります。そうして相手が許可を出してくれるケースを何度も見てきました。

「スケールしないこと」がやりづらい領域もあります。たとえば危険な場所での作業です。高所での窓拭き、工場や建設現場での作業などが例として挙げられます。こうした領域では、お願いするだけではなかなか現場に入り込むことは難しいでしょう。

ではどうすればよいのでしょうか。そんなときは、その現場で働くための訓練を受けたり、資格を取ったりしてみましょう。1年ぐらいその領域の専門学校に通ってから、起業をした人もいます。また危険な領域では、作業者向けの保険があることも多いため、保険にも加入してみてください。そうすれば、その領域のことを良く調べている、ということが現場の人などに伝わります。

そうして本気を見せることで、現場の人たちが協力的になってくれます。相手の懐に入るためには、こうした「本気」を見せることもとても大事です。

まとめ

現場の知見を持っている人は多数いますし、ロボットの技術を持っている人もそれなりにはいます。しかし、その両方を持っている人はかなり稀な人材です。特にロボットの技術を持っている人が現場を見るからこそ、「これならロボットで安価に解決できそうだ」という課題にも気づくことができます。

だからこそ、ロボットスタートアップを目指している方には一度、そのロボットの応用先である領域の現場で、実際に働いてみることをお勧めします。そうしたスケールしないことをして、現場で洞察を得て、そこから飛躍していったロボットスタートアップは数多くいます。

もし読者のの中に、ロボットを応用したスタートアップを検討している人がいれば、ぜひこの「スケールしないことをしよう」という言葉を胸に留めてみてください。

[ 馬田隆明: 東京大学 産学協創推進本部 本郷テックガレージ / FoundX ディレクター ]
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