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意外に知らない副業のリスク。軽く捉えると会社に大きなダメージを与えかねない「ニューリスク」とは

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2018年の「副業元年」から4年が経ち、多くの企業が副業解禁に乗り出している。働く人々にとっては喜ばしい副業も、企業側からすると事故が増加する原因となりえる。副業は、解禁はしたものの諸手を挙げて歓迎できない状況でもある。

そんな中で、副業による様々な事故を未然に防ぐクラウド型副業制度サービスを企業に提供しているのが株式会社フクスケだ。大企業が副業を解禁する際の制度設計から運用、事故からの復旧まで全ての工程をサポートしている。「副業は解禁したい。でも事故は避けたい」と考える多くの大企業から注目を集め、リリース後から問い合わせが殺到したという。現在では様々な事故や、リスク情報が集まったことで、新規事業へのリスクデータ活用まで領域を広げている。

今回は同社代表の小林大介氏に、副業におけるリスクをはじめ、「ニューリスク」と呼ばれる近年新しく生まれた課題に対して大企業が取るべき措置、そしてどのようなリスクを留意しなければいけないのか聞いた。

小林大介
株式会社フクスケ 代表取締役
ISO30414リードコンサルタント
VOYAGEGROUP(現CARTA HOLDINGS)新卒入社。新規事業子会社の立ち上げに関わる。同社で支社立ち上げ経験後、副業経由でXRベンチャーにHRマネージャーとして転職。組織急拡大の中、ニューリスクを複数経験。2019年7月に株式会社フクスケを創業。

INDEX

HRマネージャーとして見えてきた副業問題がサービス開発のきっかけに
会社のPCを使うと業務上横領?副業が抱える様々なリスク
副業も「起業」。独立するのと同じように準備を
副業リスクの知見を新規事業のリスク管理からリスク活用へ
ここがポイント

HRマネージャーとして見えてきた副業問題がサービス開発のきっかけに

――まずは小林さんの経歴を聞かせてください。

私は新卒で株式会社VOYAGE GROUP(現・株式会社CARTA HOLDINGS)に入社し、傘下の会社で新規事業の立ち上げや支社の立ち上げを経験させてもらいました。6年ほど働いた後、今で言うメタバースやWeb3.0領域で働きたいという思いからバーチャルYouTuber事業を展開する会社にHRマネージャーとして転職。急拡大期で年間に100人以上を採用していました。

拡大中にプライベートでの急変化があり独立することに。

――なぜリスク対応の領域で事業を始めたのでしょうか。

独立する前の会社で様々な新種のリスクに直面し、その課題感が今の活動に繋がっています。まずスタートアップやベンチャーが取り組む新興ビジネスでは、業界やタイミングによってとてもリスクの高い事業領域があります。先日上場した同業他社も、IRで「リスク防止の徹底が最重要」と書くほど他の業界とくらべても様々なリスクに直面しやすい事業でした。

特に私がいた会社は、当時業界トップ企業としてニュースでよく取り上げられる草分け的な企業で、在籍当時はまだ業界のルールも出来上がっていない状況でした。人気の高まりから、毎月、小さな事故がよくおこりましたが、積み重なったある日大炎上がおき、リスク管理の重要性が身にしみたのです。

SNSでの炎上のような、今まで定義できていないリスクを損害保険業界の用語でまとめて「ニューリスク」と呼ぶのですが、フクスケは最初取り組んだのは、副業での事故によるニューリスク対応です。

――リスク管理に目を向けた際、なぜ副業問題に取り組くむことにしたのですか?

HRマネージャーとして働いた時に、副業を管理する仕事もしていて、大きな課題を感じたからです。1社目では私自身も副業をしていたことがあるので、副業する側と管理する側、両方の側面から様々な課題があることを感じていました。

副業で問題を起こして炎上すれば、その火の粉は本業の会社にも影響します。過去に身近な所で副業に起因する問題が起き内部不正として処分される場面にも直面したことがあります。従業員は副業をしたいし、経営陣はリスクを抑えるために何かしらの対策がしたい、社会は副業解禁の流れがあり規制はできない

そんなジレンマを抱える状況で、お互いが誤解なく安心して副業を認める仕組みを作りたい。それがフクスケを作り始めたきっかけです。

会社のPCを使うと業務上横領?副業が抱える様々なリスク

――例えば、副業によるリスクにはどのようなものがあるのでしょうか。

例えば、会社から支給されたパソコンや法人契約しているツール、社内の人的ネットワークを副業で使用すると、会社の資産を横領したことになりますし、本業先の守秘情報としらずに副業で情報を使えば情報漏えいになります。会社は本業で使うためにパソコンやツールを用意しているのですから、それをプライベートや副業で使うことはできません

しかし、知らずにやっている人も多いですよね。例えば本業をしている最中に、副業の取引先から連絡がきたら、つい会社のパソコンを使って返信してしまうなど小さな違反はありますよね。そうした軽度の違反の積み重ねが、場合によっては、知らなかったでは済まされない事態に発展するリスクもあるんです。

――会社のパソコンを副業に使っている人は多そうですね。他にはどのようなケースが考えられますか?

他にも、副業で中古品を営利目的の事業と同様の規模で運営している場合など、古物商の届け出をする必要性などがでてきます。知らずに中古販売してはいけない物品(医薬品や中古の車のパーツなど)を販売し法律に触れる事もあります。その影響は会社にも及び「〇〇会社の従業員が無許可で中古品をしていた」と報道されることにもなりかねません。最近では、国税庁職員と大手証券会社元職員の持続化給付金の不正受給や暗号資産の詐欺など副業による事故は、もはや本人だけの問題だけではないんです。

また、最近問題になっているのが労働関連、つまりハラスメント問題です。会社に不当に副業を禁止されたり「お前は副業しているから仕事ができないんだ」と副業を理由に評価を下げられたり。挙げ句の果てには給料を下げられるケースもあります。
こうした会社優位の制度や制限に2022年の7月より厚生労働省も企業への副業制限の理由の開示を要請しはじめました。

さらに、副業先でハラスメント問題が起きても、本業の会社に影響があることも。例えば副業先で裁判になれば、必然的に本業の社名なども公表されてしまいます。このように副業におけるリスクは多岐に渡っています。

――海外ではそういうリスクをどう扱っているのでしょう。例えばアメリカなどは人材の流動性も高いですし、副業も多いように思うのですが。

アメリカでは正社員か副業か関係なく、会社に損害を与えられたら訴訟されるので、働く側もしっかりリスクを把握しているんですね。日本よりもリスクが大きいが故に、結果的に問題はそこまで表面化していません。

一方でヨーロッパの一部の国では厳しく管理されていて、副業をするときは必ず会社に届け出る必要があります。逆にアジア圏はルール事態がありません。今は多くの国で副業が当たり前になっていますが、運用の仕方や法体系は国ごとに全然違うんです。

日本は政府が急速に副業を推奨しているので、企業の対応が間に合っていません。

――なぜ日本では副業を推奨しているのですか?

1つ目は、低すぎる従業員の労働生産性の改善、2つ目に厳しすぎる解雇規制に対する、日本流の人材流動化施策です。
1つ目については、一般的な給料の上げ幅より、副業の方が稼ぎやすく所得が上がるからです。今、給料の昇給率は平均で月5,000円程度と言われている一方で、副業を開始すれば平均で月6万円の収入アップにつながります。労働生産性の低さにもつながる要因ですが、会社に要請してもすぐ給与は上げられないため、個人で自律的に副業できる環境を整備しています。

2つ目は長年の終身雇用で硬直化した人事制度や雇用規制に対する、個人の社外越境機会の整備です。より社外に出て行くことを推奨し人材の流動性を上げるためです。2022年7月に改定された副業ガイドラインでも「企業は、労働者の多様なキャリア形成を促進する観点から、職業選択に資するよう、副業・兼業を許容しているか否か、また条件付許容の場合はその条件 について、自社のホームページ等において公表することが望ましい。」と明確に記載を変更しています。

副業も「起業」。独立するのと同じように準備を

――中小企業やIT企業を中心に副業解禁が広がっていますが、大企業ではどれくらい副業解禁が広まっているのでしょうか。

実は大企業の8割はまだ副業を全面的に禁止または強い制限をしています。法律上は一律禁止できないので、グレーゾーンではありますが。多くの企業が解禁しなければいけないと思いつつ、制度改革を実行できるプレイヤーの不在や宿題を先延ばししながら副業解禁の計画を立てて恐る恐る解禁に向けて動いているんですね。

例えばシニア人材など、コンプライアンスやガバナンスについて知っている人から段階的に解禁していくなどがその例です。

――大企業が副業を解禁するにはどうすればいいのでしょう。

一つひとつの副業に関して、どんなリスクがあるのかチェックし、法務や人事が一緒になり会社のルールを決めて行くことになるでしょう。

フクスケを導入頂く場合は、最新の副業事故情報を提供し事故対策を決めていきます。私たちはこれまでの診断データから、どんな副業でどんな事故が起きているのかファクト情報を持っているので、それを基に優先度に基づいた対策をとれるため、思い込みやハラスメントにつながる制限が起きづらくなります。そこまでしても事故が起きるリスクはあるのですが、そのリスクを最小限に抑えるための準備をお手伝いしています。

――例えばどのような事故情報があるのでしょうか。

最近多いのは情報商材ですね。消費者庁が注意喚起しているような案件を、気づかずに始めてしまうんですよね。「この商材を友達に売ったら、これくらい儲かりますよ」という新型のネズミ講のようなものです。

気づかずに友達に紹介して、通報されて会社に迷惑がかかるケースも少なくありません。本人に悪気はなくても、詐欺の片棒を担いでいることになりかねず「〇〇会社の社員が詐欺で捕まりました」と報道されれば、会社の信用を毀損します。往々にして報道される場合は、本業の社名で報道されますし、大企業ならなおさらです。最近は副業禁止の公務員でもこの手の事故が発生しています。

――リスクを回避するためには、副業する側の人は何を注意すればいいか教えてください。

「副業」という言葉に引っ張られて軽く考えてしまい、お小遣い稼ぎのつもりで始める人が多いのですが、副業だったとしても事業に変わりありません。起業や新規事業を立ち上げるのと変わらないんです。自分が事業オーナーになるつもりで、リスクを理解し成果を出すためのリスクテイクする必要があります

むしろ、副業するということは本業にも迷惑をかけてはならないので、構造上独立するよりも難しいと私個人は感じます。副業を考える際、リスクを理解したうえで始められると理想的です。

いらぬリスクを避けるためには、まずは自分の本業から離れたところから始めてみるのがいいと思います。例えば本業でマーケティングをしている人は、副業でもマーケティングした方が稼ぎやすいですよね。しかし、本業と近すぎる領域で副業をしてしまうと、情報漏えいなどのリスクが格段に上がります。

まずは遠い領域で副業を始めてみて、どんなリスクがあるのか把握できるようになったら、徐々に拡大していく。そのように段階を踏んでいくのがいいと思います。

副業リスクの知見を新規事業のリスク管理からリスク活用へ

――フクスケでは、新規事業のニューリスクにも対応しているのですよね。

はい、新規事業に関するニューリスク防止のサポートもしています。新規事業はこれまでにない事業のため、既存事業に比べてリクスは高まります。一方で事業を始める以上はリスクをとらなければ価値が出ない場面も必ずあります。どんなリスクは取るべきか、どんなリスクは回避すべきなのか、リスクデータを参考に一緒にプランニングしていくんです。

よくリスク管理部門は「リスクがあるから止めましょう」と言ってきますが、そればかりでは新規事業は立ち上がりません、リスクを取るから新規事業は価値が出せるので。ですので、リスクを洗い出して、必要なリスクに関しては起こる前提で対策をしておくんです。

――実際どういうユースケースがあるのでしょうか?

3つのパターンがあって、一つは経営者の方。自社の事業の優先度の高いリスクを把握して、あえて取りに行くのか、回避するのか判断するために利用してもらっています。

2つ目は新規事業担当者。
リスク管理部門から「リスクがあるから」と承認が下りないと相談されるケースや内部スタッフ間でのリスクデータ活用の事例があります。
まだ立ち上がってもいないフェーズでデータに基づかないリスクヘッジが目的の話が拡大して、経営層やリスク部門から新規事業への取り組みが潰されてしまう事は多いです。、事業が立ち上がるまでの会社内外からの批判や否圧力から新規事業を守りプロダクトチャンピオンさせるサポートをしています。

最後はリスクを管理する部門です。単純に新規事業のリスク管理に手が回らないとか、自社では追いきれない他業界で発生している新リスクをキャッチアップしたいなど、新しい事業でリスクを把握できないと時などに相談されることが多いです。

――なぜ、フクスケでは新規事業のリスク活用もできるのでしょうか。

一つは私の独立前の経験です。インターネット業界、特にメタバースやWeb3.0など動きが激しい企業や業界でリスク管理をしていたので、その経験を他の業界でも活かせています。業界構造を理解して、どんなリスクが存在するのか察知し、対策を練る力は業界が変わっても使えるんですね。

もう一つは、毎月100件以上の副業のリスク診断をしてきたことで、様々な業界や新規事業リスクについて向き合ってきました。そのため、どの業界にどんなリスクが存在しているのか網羅する必要があり、それを新規事業にも転用できるんです。

今はどんな事業を始めるにも、ニューリスクが伴います。適切なリスクデータを活用し事業の成功確率をあげたい方はぜひ相談してください。

ここがポイント

・「フクスケ」は副業による様々な事故を未然に防ぐクラウド型副業制度サービスを企業に提供している
・SNSでの炎上のような、いままで定義できていないリスクを損害保険業界の用語でまとめて「ニューリスク」と呼ぶ
・従業員は副業をしたいし、経営陣はリスクを抑えるために何かしらの対策がしたい、社会は副業解禁の流れがあり規制はできない状況
・副業のリスクには、社用パソコンのプライベート利用や、無許可での古物の販売、ハラスメントなどさまざまなものがある
・従業員が「副業」のリスクを回避するには、自分が事業オーナーになるつもりで、リスクを理解し成果を出すためのリスクテイクする必要がある
・新規事業のリスク防止にもリスクデータの活用が可能


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:幡手龍二