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研究をビジネスにつなげ、世界を変える──東大発・AIスタートアップの、順風満帆「ではない」道のり――Founders Night Marunouchi X vol.36

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022年2月22日、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」と、イベント・コミュニティ管理サービス「Peatix」が共同開催する「Founders Night Marunouchi vol.36」を実施しました。(前回のイベントレポートはこちら )。

このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者の経験から学びを得るもの。

今回登壇いただいたのは、株式会社モルフォ代表取締役社長の平賀督基さん。同社は「人間の目を拡張し、感動に満ちた世界を実現しよう」をビジョンに掲げ、画像処理およびAI(人工知能)技術の研究・製品開発をし、スマートフォンや半導体、産業IoT向けソフトウェア事業をグローバルに展開しています。

今回のイベントでは、創業の経緯やこれまでの苦悩、また今後の展望などを語っていただきました。Peatix Japan取締役の藤田祐司さん、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志がモデレーターを務めます。

INDEX

「世の中に役に立つ研究」を志し、東大出身研究者が創業
信頼できる関係を築き、事業の“第二の柱”を生み出していく

「世の中に役に立つ研究」を志し、東大出身研究者が創業

イベント冒頭、平賀さんはモルフォ創業の背景を語りました。

東京大学大学院理学系研究科情報科学博士課程を修了した平賀さん。専攻は、画像処理やコンピュータグラフィックス、コンピュータビジョンだったと言います。

2003年7月、国立大学法人法が定められ、従来文部科学省内の一機関であった各国立大学が、国立大学法人に移行。そのタイミングで東京大学発のベンチャーキャピタル、東京大学エッジキャピタル(以下、UTEC)から資金を調達し、2004年に同社を創業しました。

現在は、イメージング・テクノロジーの研究開発企業として、デジタル画像処理技術と最先端の人工知能(AI)やディープラーニングを融合した「イメージングAI」を研究・開発しています。

展開する事業について、もともと平賀さんが大学院で研究していたものだったのかというと、そうではないそうです。

平賀「大学院時代の研究内容と、起業してから開発したサービスに関連性はありません。

今の事業に影響を与えたのは、大学時の映像制作のアルバイト。当時はビジュアル・エフェクツという技術を用いて、特殊効果映像を制作するためのソフトウェアを作っていました。それらは、コンシューマーゲーム用のソフト開発や、映画作品の制作に活用されていました」


〈株式会社モルフォ代表取締役社長 平賀督基氏〉

そのアルバイトを通じて、「自分の手を動かしたものが、世の中で実際に使ってもらえる面白さを知った」平賀さん。創業のきっかけを次のように話します。

平賀「身近に起業家が多い環境だったことが、大きいですね。最も影響を受けたのは、私の出身学部の恩師、國井利泰先生。彼は東大理学部・情報科学科の創設者の一人であり、日本初のコンピュータサイエンスの専門大学である会津大学の創設に携わり、初代学長を務めた方です。

そんな彼のアントレプレナーシップが伝わっているのか、研究室には起業している先輩方がたくさんいました。私が所属していた研究室には起業家を育てる文化があったのではないかと思います」

自身のアルバイトの経験から映像制作に興味を持っていた平賀さん。しかし創業してから早々に、事業の方向転換を強いられました。

平賀「最初は映像制作系のソフトウェアなどを開発していました。ただあまりお金にならず、UTECともディスカッションし、創業したその年の下半期にもう一つ軸になる事業を立ち上げることに。映像制作向けのソフトウェアに加えて、デジタルカメラなどに組み込み、画像処理をするソフトウェアの開発を始めました」

平賀「そうして、さまざまなカメラメーカーに営業するも、なかなか関心を持ってもらえず。最後に目を付けたのが、携帯電話メーカーでした。当時携帯電話は、100万画素カメラを搭載したものが市場に登場したころ。手振れ補正の機能搭載を検討していた携帯電話メーカーに、私たちが開発していたソフトウェアが採用されました。

しかし、実際にカメラに組み込み画像処理をするソフトウェアが世に出たのは2006年で、そこまでの売り上げはゼロ。UTECは将来の成長のためにと理解してくれていたので、プレッシャーは少なかったのですが、月々の預金残高がどんどん減っていくのを見るのは辛かったですね」

信頼できる関係を築き、事業の“第二の柱”を生み出していく

2011年には東証マザーズへ上場。これまで順調に事業を伸ばしてきたのかと思いきや、創業してからこれまで、幾度もピボットを繰り返してきました。

上場当時は、ちょうど「ガラケーからスマートフォンへ」の過渡期にあたります。海外メーカーのGalaxyやiPhoneの登場で、日本のメーカーの売り上げは下降状態。事業を成長させるには、海外のメーカーと取引することが不可欠であり、海外マーケットに打って出ることを決断したと言います。

時代の変化を捉えながら新事業を立ち上げつつ、グローバル展開を進めてきた同社。現在、中国や台湾、アメリカなどに子会社を展開しています。2019年にはフィンランドのスタートアップを買収し、研究開発の拠点としています。

平賀「海外に拠点を作った理由は、お客様となるべく近い距離でコミュニケーションを取り、関係を強化するためです。また、海外マーケットに打って出たタイミングで語学が万能なスタッフを採用するなど、お客様との信頼関係を築くことを優先し、柔軟に対応してきました。

現在はコロナ禍で、なかなかお客様と直接お会いすることはできません。一方で、オンラインのミーティングが当たり前になり、離れた場所にいるお客様と、気軽にコミュニケーションがとれるようになった。そこはポジティブに捉えていきたいですね」

外部のステークホルダーとの関係強化も、同社が最も注力してきたことの一つだといいます。

これまでDENSOとは自動運転ADASの実現に向けて、6年にわたり共同開発プロジェクトを進めています。他にも、凸版印刷との共同プロジェクトも推進。明治時代以降の出版物を全てデジタル化し、検索できるようにしていると言います。2021年にはアメリカの半導体大手クアルコムとの協業も発表しました。

平賀「私たちだけでサービスを作っていくことは難しい。だからこそ自分たちの強みを活かし、他の企業と連携しながら事業を作っていく。それが大事だと思っています。

DENSOをはじめとする、これまで共同開発をしてきた会社とは、パートナーとしてフラットな関係を築いてきました。初めて出資いただいたUTECも、私たちの代弁者として、大企業と話を進めてくれました。おかげで大企業の方々とスムーズに関係性を作れました」

最後に、平賀さんは今後の展望について語り、イベントを締めくくりました。

平賀「スマートフォンは進化し続けます。人が見るためのカメラではなく、AIなどの「機械がモノを見るためのカメラ」も登場し、私たちのソフトウェアを利用する幅は広がっています。

今後の展望としては、海外ではスマートフォンやPCのライセンスビジネスを成長させていきたい。国内では、単なる受託開発で終わらせるのではなく、継続的に価値を提供するリカーリングビジネスを展開していきたいです。

時代の変化で、環境も目まぐるしく変わるなか、今後もモビリティやスマートシティ、ファクトリーオートメーションなど、柔軟にピボットしながら、次の事業の柱を見つけていければと思います」


〈この日のイベントはライブ配信も行いました〉

▼当日のセッション
『「イメージングAI」で世界を豊かにする。〜デジタル画像処理技術とAI/ディープラーニングの融合』
https://youtu.be/rO5KnvHWQg8