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日常を豊かにする「コミュニケーションロボット」を目指して。新たな市場の開拓に挑む、ユカイ工学の挑戦──Founders Night Marunouchi vol.42

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2022年8月31日、三菱地所が運営するオープンイノベーションコミュニティ「東京21cクラブ」が主催する「Founders Night Marunouchi vol.42」を開催しました。(前回のイベントレポートはこちら)。

このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者の経験から学びを得るもの。

今回ご登壇いただいたのは、ユカイ工学株式会社CEOの青木俊介さん。同社は「ロボティクスで、世界をユカイに。」をビジョンに掲げ、家族をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO」や、しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo」、赤ちゃんや幼いペットの甘噛みを再現したロボット「甘噛みハムハム」など、家庭向けロボットの開発・製造を手掛けています。

今回のイベントでは、創業の経緯や、ユニークなロボットを生み出す企業文化、そして今後の展望などについて語っていただきました。モデレーターを務めたのは、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志、運営担当の鈴木七波です。

INDEX

「家庭用ロボット市場」を切り開くプロダクトを生み出す
「どんなアイデアでも検証する価値がある」。ユニークなロボットを生み出す企業文化

「家庭用ロボット市場」を切り開くプロダクトを生み出す

「子供の頃からものづくりに興味を持っていた」と言う青木さん。小学生時代には「電気自動車を作りたい」と、友人を巻き込んで挑戦し、最終的に電気自動車はつくれなかったものの坂道をのぼれる台車を作るなど、ものづくりに取り組んでいたそうです。中学生になるとWindows95の登場をとともに巻き起こったパソコンブームをきっかけにAIに興味を持ち、インターネットやコンピューターの世界をより深く学ぶために東京大学に進学。その後、Webサイト制作やプログラミングに関するアルバイトを経て、大学在学中にチームラボの創業に参画しました。

そんな青木さんはなぜロボットに着目し、ユカイ工学を起業したのでしょうか。きっかけを与えてくれたのは、2005年に開催された日本国際博覧会「愛・地球博」に出展していたスタートアップの姿だったと言います。

青木さん「大企業のみならず、スタートアップもロボットを出展しているのを見て、『スタートアップでもロボットが作れるんだ』と衝撃を受けました。そこから、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が実施している未踏プロジェクトに応募し、採択していただいたんです。そうして資金を獲得し、創業メンバーを集めたのち2007年に起業しました」


<ユカイ工学 CEO 青木俊介さん>

今でこそ、店舗での接客を始めとした様々な用途で活用されているロボットですが「創業当時は、あまり一般的なものではなかった」と青木さん。マーケットがまだ見えていない領域で起業することに不安はなかったのでしょうか。

青木さん「20年以内にマーケットが一気に拡大するタイミングがあると確信していました。そして、そのときは僕の想像よりも早くやってきた。2014年に感情認識パーソナルロボット『Pepper』が登場し、ロボットに対する世間の認識が大きく変わりました。これが大きな追い風となりましたね」

ユカイ工学が手掛けるロボットの特徴は、人の感情を動かす「コミュニケーション」に特化していること。コミュニケーションロボットに着目した理由をこう語ります。

青木さん「もともと『日常的に使われるロボットを作りたい』という想いを持っていました。任天堂のファミリーコンピューターが家庭用ゲーム機市場を作り、Appleが生み出した『Apple Ⅱ』などがパソコン市場を生み出したように、一つのプロダクトを起点にグローバルな市場が生まれるケースがある。

しかし、家庭用ロボット市場を生み出すような世界的なプロダクトはまだありませんでした。私たちが生み出すプロダクトによって、家庭用ロボットのグローバルなマーケットを生み出すチャンスがあるのではないかと思い、この領域にチャレンジすることを決めたんです」

「どんなアイデアでも検証する価値がある」。ユニークなロボットを生み出す企業文化

ユカイ工学が初めて開発・製品化したのが、コミュニケーションロボット「BOCCO」です。メッセージ送受信機能を備えるこのロボットが可能にするのは、お子様やご高齢の方など、スマートフォン操作が不得意な家族との円滑な双方向コミュニケーション。スマートフォンアプリにメッセージを入力すると、BOCCOがそれを読み上げ、メッセージを受け取った側はBOCCOに話しかけるだけでメッセージに返信することができます。

つまり、BOCCOさえあれば、離れた場所にいる家族といつでも簡単にコミュニケーションを取ることができるのです。現行モデルはメッセージ機能に加え、天気や防災機能の配信などさまざまな機能を備えていますが、初代BOCCOに実装されていたのは、メッセージ機能と、ドアの開け閉めセンサーの情報をアプリに通知を送るという2つの機能のみだったそうですが、この初代BOCCOをリリースした際、青木さんは「コミュニケーションロボットが持つ大きな可能性を感じた」と振り返ります。

青木さん「APIを公開したところ、ユーザーが毎日の天気予報をBOCCOに喋らせたり、メール受信のお知らせをリマインドさせたりと、様々な活用方法を見出してくれたんです。

実際に『運動会の練習が嫌いで学校を休みたいと言っていた子供が、BOCCOの励ましメッセージによって毎日学校に通うようになった』『人が服薬のリマインドをしても全然飲まなかったおばあちゃんが、BOCCOのリマインドで自然と飲むようになった』という声を聞き、大きな可能性を感じました」

現在ではBOCCOのみならず、クッションを撫でるとしっぽを振ってくれるしっぽクッション「Qoobo」や、赤ちゃんや幼いペットの甘噛みを体験できるロボット「甘噛みハムハム」など、人の心を癒やし、コミュニケーションを促す様々なロボットを展開。


<写真左・甘噛みハムハム、写真右・BOCCO>

モデレーターの旦部から投げかけられた「なぜこのようなユニークなロボットが生み出せるのでしょうか?」という質問に、青木さんはこう答えました。

青木さん「毎年、社内でアイデアコンペを開催しています。エンジニアやデザイナーはもちろん、営業、事務なども含めた全社員をシャッフルし、チームを結成。それぞれのチームから提出されるアイデアが、新たな製品開発につながっています。

そういった取り組みの根底にあるのは、『誰のどんなアイデアでも検証する価値がある』という考え。この考えが一つの文化として根付いているからこそ、多様でユニークな製品が生まれやすくなっていると感じています」

現在ユカイ工学では子育て中の方を対象とした、音声だけで育児記録をつけられるロボットを開発中。「今後も人の感情を動かしたり、習慣の定着を促すコミュニケーションロボットを手掛けたりしたいと考えています。もし、ロボットを活用した新規事業を生み出したい方や、コミュニケーションロボットに興味がある方がいれば、お気軽にご連絡ください」。青木さんからの呼びかけを最後に、イベントは幕を閉じました。

▼当日のセッション
『ロボティクスで、世界をユカイに。』
https://youtu.be/Coy2ud7635c