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機械が顧客になる?マシン・カスタマーとフィンテックの関係| お金とテクノロジーの未来 vol.10

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近年、生成AIの発展により、人間だけでなく、ソフトウェアやロボットのようないわゆるマシンもカスタマー(顧客)として振る舞うようになってきています。これらは総称して“マシン・カスタマー(Machine Customers)”と呼ばれるようになってきました。
マシン・カスタマーとは、人間の代わりにあるいは人間と共に、製品やサービスを購入したり、契約したり、利用したりする機械やソフトウェアのことです。例えば、自動運転車やスマートホームなどのIoTデバイス、AIアシスタントやチャットボットなどのソフトウェアエージェントが、マシン・カスタマーの先駆的存在と言えます。
ガートナー社は、2026年までにインバウンド・カスタマー・サービスの接触件数の20%がマシン・カスタマーからになると予測しており、企業はこの変化を軽視してはならないと提言しています。

INDEX

マシン・カスタマーが変える顧客行動
マシン・カスタマー進化の3段階
マシン・カスタマー時代におけるフィンテックの課題
おわりに

マシン・カスタマーが変える顧客行動

マシン・カスタマーは、具体的にどのように顧客の行動を変えていくのでしょうか?例えば、人間は感情や人間関係に影響されることが多いですが、マシン・カスタマーはデータや論理に基づいて購買を行うため、より正確かつ合理的に行動します。結果として、人間である最終顧客にとって最も効果的かつ有利な結果をもたらすようになると考えられます。
行動の一貫性という点も大きな変化と言えるでしょう。必要なものを正しいタイミングで注文し、持続可能性や配送コストに配慮した適切な商品を見つけることも可能なはずです。必要に応じて事前に商品やサービスをリクエストし、最終顧客が必要なタイミングで確実に手に入れられるように仕向けたりもできます。
マシン・カスタマーを“自分のデジタルツイン”としてサイバー空間で活動するエージェント、と捉えても良いかもしれません。ガートナー社は、このマシン・カスタマーの進化は三つの段階で進化するとしています。
第一段階では、「束縛された顧客」として、顧客の代わりに限定的な機能を自動的に実行します。第二段階では、「適応性のある顧客」として、人間が設定したルールのもとでAIが選択や行動を人間に代わって最小限の介入で行います。最終段階では、「自律的な顧客」として人間に代わって高度な裁量で行動し、取引に関連するプロセスのほとんどを自分で実行するようになる、というものです。

以上のように、マシン・カスタマーは、顧客の行動をデジタル化し、自動化し、最適化することで行動を大きく変えていくと予想されます。この変化に対応するためには、企業やマーケターは、従来の人間向けのマーケティングやセールスの方法を見直し、感情を持たずロジックに忠実に動くマシン・カスタマー向けの新しい戦略や技術を開発する必要があります。生成AIの登場によってマシン・カスタマーはより高度な動きをするようになるため、この領域の研究はとても複雑なものになっていくと予想されます。

マシン・カスタマー進化の3段階

上記で説明した3つの段階に分けて事例を見てみましょう。
第一段階である「束縛された顧客」は、顧客に代わって限定された機能を自動的に実行できるロジックのことで、人間がルールを設定し、機械が特定の決められたエコシステム内でそれを実行するというものです。実際には、すでに実用化されたサービスがいくつか存在します。例えば、HP Instant Inkは、プリンターのインク残量が少なくなると、自動的に新しいインクカートリッジを注文してくれます。あるいは、テスラの自動車は、通行料や駐車料金の支払いを自動的に行います。

第二段階の「適応可能な顧客」は、特定のタスクについて、最小限の介入で人間に代わって選択し、行動することができる機械のことです。ルールを決めるのは依然として人間ですが、AIがデータとロジックに基づいて意思決定を行う点で第一段階よりも進化しています。フィンテックの世界でいえば、Betterment、Wealthfrontなどのロボアドバイザー事業者は、ユーザーの目標、リスク許容度、好みに基づいて、パーソナライズされた投資アドバイスやポートフォリオ管理を自動的に行う機能を提供します。

最終段階の「自律型顧客」は、とても興味深い進化のステップです。この段階になると人間に代わって高度な裁量で独自に行動し、取引に関連するプロセス、ステップのほとんどを行う知能を持つようになります。このような機械はまだ広く普及していませんが、近い将来登場すると予想されます。例えば、自動運転レベル5*で自律走行する自動車は、タイヤがパンクしたことを知り、最寄りの修理工場を見つけ、データを送って修理サービスを予約します。あるいは、進化したスマート冷蔵庫は、食品の在庫を監視し、食事の計画を立て、食料品を注文し、デジタル通貨を使って代金を支払うことができるようになるでしょう。
さて、本連載の主題でもあるフィンテックも、実はマシン・カスタマーととても深い関わりがあります。フィンテックは、金融サービスを提供するために、デジタル技術やデータを活用する分野です。そして多くの取引はオンラインで完結するため、マシン・カスタマーととても相性が良いのです。

前述のロボアドバイザーは第二段階ですが、フィンテックが最終段階になると、「自律型金融(autonomous finance)」に進化します。つまり、ユーザーの最終目的に向けて、AIが最短かつ最適な運用を行ってくれるようになるという考え方です。

現段階では、金融スーパーアプリを使って、ユーザーは様々な金融サービスのアイコンをタップし、それぞれのサービスを使い分ける必要があるため、ある程度の金融リテラシーがなければ使いこなせないかもしれません。自律型金融では、インターフェースはもっとシンプルになり、ユーザーは基本的な金融リテラシーさえあればAIに「お任せ」することができます。
もっとも、自律型金融が実現するためには、法規制の緩和やBaaS(Bank as a Service)の機能向上、生成AIの確実性向上といったブレークスルーが必要と考えられます。そうしたハードルがあったとしても、私は少なくとも5年以内には実用的な自律型金融サービスが出てくるのではないかと予想しています。

*自動運転レベル5・・・システムが運転のすべてを担い、人が関与しない自動運転

マシン・カスタマー時代におけるフィンテックの課題

さて、マシン・カスタマーがフィンテックに求める要件や課題についても考えてみましょう。
まず、セキュリティや信頼性についてですが、マシン・カスタマーは、人間のカスタマーよりも高いレベルのセキュリティや信頼性を求める可能性があります。なぜなら、マシン・カスタマーは、人間のカスタマーよりも多くのデータや資産を保有したり、高頻度や高額の取引や決済を行ったりすることが予想されるからです。マシン・カスタマーは、人間よりも複雑で多様なネットワークやプラットフォームと接続したり、自律的に意思決定や行動を行ったりすることもあるでしょう。そのため、マシン・カスタマーは、フィンテックのサービスやプロダクトが、サイバー攻撃や不正アクセスなどの脅威から保護されていることや、障害やエラーなどのリスクに対処できることを要求するはずです。
さらに、マシン・カスタマーは高いレベルの効率性や透明性を求めるようになるかもしれません。マシン・カスタマーは、人間よりも迅速かつ正確なレスポンスやパフォーマンスを期待したり、詳細かつ客観的な情報や証拠を要求したりすることが考えられます。また、マシン・カスタマーは、人間よりも最適化されたコストや利益を追求し、合理的かつ論理的な判断や選択を行ないます。そのため、マシン・カスタマーは、フィンテックのサービスやプロダクトが、無駄や遅延などの問題を解決していることや、プロセスや結果に関するデータや記録の開示を求めるようになるでしょう。

おわりに

以上のように、マシン・カスタマーとフィンテックの関係は、非常に深くて広いものです。マシン・カスタマーは、フィンテックの市場や産業に対して、革新的かつ効果的で有益な変化をもたらします。しかし、同時に、フィンテックのサービスやプロダクトに対して、高度で厳格で多様な要求や課題をもたらします。
今後、マシン・カスタマーはどのように進化していくでしょうか?その展望や予想は、まだ未知数です。しかし、一つ確かなことは、マシン・カスタマーは、フィンテックの未来を大きく左右する重要な存在であるということです。そのため、フィンテックの関係者は、マシン・カスタマーを理解し、対応し、活用することが必要です。そして、人間とマシンが共存し、協力し、発展することができるようにすることが必要です。

[藤井 達人:みずほフィナンシャルグループ 執行理事 デジタル企画部 部長]
1998年よりIBMにてメガバンクの基幹系開発、金融機関向けコンサル業務に従事。その後、マイクロソフトを経てMUFGのイノベーション事業に参画しDXプロジェクトをリード。おもな活動としてFintech Challenge、MUFG Digitalアクセラレータ、オープンAPI、MUFGコイン等。その後、auフィナンシャルホールディングスにて、執行役員チーフデジタルオフィサーとして金融スーパーアプリの開発等をリード。マイクロソフトに復帰し金融機関のDX推進、サステナビリティ戦略の立案等にも携わる。一般社団法人FINOVATORSを設立しフィンテック企業の支援等も行っている。2021年より日本ブロックチェーン協会理事に就任。同志社大卒、東大EMP第17期修了。

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