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スタートアップにも求められるルールメイキング。既存法とのコンフリクトを解消し、法改正を果たした弁護士が語るステークホルダーの巻き込み方

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

新しい産業が立ち上がると、既存のルールとコンフリクトを起こしてしまうケースは珍しくない。「コンプライアンス(法令遵守)」という言葉が流行してルールを守ることばかりに気を使ってしまう時代だが、ルールに囚われてしまっては新しい産業を作っていくのは難しい。時には今の時代にあったルールを策定していくことも重要だ。

今回は企業の戦略法務に力を入れ、ナイトエコノミーのルールメイキングにも携わった弁護士の齋藤貴弘氏に、既存ルールとのコンフリクト解消を目指す上で重要なことが何かを伺った。新しい産業を立ち上げる際に参考になる部分もあるだろう。

INDEX

ルールメイキングで求められるのは「ルールは変えられる」というマインドセット
アジェンダを大きくし、ステークホルダーを巻き込む。法改正までの道のり
日本にも海外と同様に国や企業が規制対応を行うためのエコシステムが必要
スタートアップが取り組むべきルールメイキング
ここがポイント


齋藤 貴弘
2002年学習院大学卒業。2004年司法試験合格。2013年齋藤法律事務所設立。2016年ニューポート法律事務所設立。ロビイングを含む戦略法務にも力を入れ、ダンスやナイトエンターテインメントを規制する風営法改正をリード。

ルールメイキングで求められるのは「ルールは変えられる」というマインドセット

法律が制定される際には、法律が必要となった背景がある。しかし、時代背景が刻々と変わっていくため、法律も柔軟に変わればいいのだが現実はそうもいかない。にもかかわらず、法律と時代背景の違いによる問題が大きくならなければ、法律改正されないのが今の現状だ。

特にここ10年ほどは、新しい産業が続々と立ち上がり、既存の法律では対応できていないという議論が盛り上がっている。そのような現状に対して、国も新しい産業を支援すべく動き出してきている。ただし、ルールを変えていく際に最も大変なのは国や警察を相手にすることよりも、提案する側のマインドセットを変えることだと齋藤氏は話す。

齋藤:法律やルールメイキングの話となると、どうしても国などがボトルネックとなるイメージがありますが、実は柔軟に対応してくれる官僚は多くいると感じます。むしろ、大変なのは、提案する側の意識を変えることです。今の日本はコンプライアンスがよくない意味で理解されていて、国から与えられたフレームワークをいかに守るかばかり考えています。まずは「ルールは変えられる」というマインドセットを作っていくことが重要です。私もマインドセットを変えるために、ステークホルダーとの信頼作りに力を入れてきました

スタートアップは事業をしていく上で、既存の法律が足かせになるケースは多いのです。しかし、それに対してルールを変えようと発想できる方は多くありません。シリコンバレーや中国では企業が規制対応をしっかり行っており、サービス開発と同じくらい規制対応にリソースを割き、議論も重ねています。日本ではそこまでリソースを割いて規制対応をしているケースは少ないですね。

アジェンダを大きくし、ステークホルダーを巻き込む。法改正までの道のり

「マインドセット」と並び、もう一つ重要なのが「大きなアジェンダ」であることだ。これは齋藤氏の実体験から得られた示唆でもある。その実体験が、企業の戦略法務に力を入れる傍らで取り組んだ「ナイトエコノミー」のルールメイキングだ。法律の世界で仕事をする前は音楽活動をしていた齋藤氏。きっかけも、昔の音楽仲間からの相談だったという。

齋藤:昔の音楽仲間から、ライブハウスやナイトクラブ、ゲームセンターのような射幸心を煽るカテゴリーの店舗を規制する「風俗営業」についての相談を受けたのです。ナイトクラブなどを規制する風営法では、原則として0時以降は営業禁止で、0時前の営業も警察の許可が必要になります。その上、許可をとるには立地や建物の構造の規制がありハードルが高かったこともあり、無許可で営業する店も多くありました。

変化が起こったきっかけは2010年頃の大阪アメリカ村の状況だ。治安が乱れ、クラブ事業者と近隣の住民が衝突したりする事件が続き、警察も見逃すわけにいかず、無許可で営業していたライブハウスやナイトクラブの摘発が相次いだ。規制対象となっているクラブ事業者たちの不満はつのったが、公に声をあげることはできなかった。そこで動いたのが坂本龍一氏を始めとする文化人の方々。『音楽文化が衰退する』という懸念からSNSで署名活動などが盛り上がり、アーティストたちは団体を作って法改正を訴えた。その流れに乗じてクラブ事業者も一緒になってクラブ文化を守る動きに出た。

齋藤:「ルールは変えられる」のマインドセットを持ったアーティストや文化人、クラブ事業者たちが集まって法改正を訴えましたが、それでは国を動かすには届きませんでした。なぜならライブハウスやクラブに行く人は、国民全体が見ればごく僅かでしかなく、その声は小さなものだったからです。そのため私が行ったのは『今のクラブを守ってくれ』という陳情型の訴えではなく、もっと大義を持って訴えること

そこで私が巻き込んだのが不動産ディベロッパーやインバウンド観光の関係者、クールジャパンなどのコンテンツ分野の関係者です。風営法がメディアなどで大きく取り上げられている時も、これらの人たちにとってそれが自分たちの問題とは認識しておらず他人事だったと思います。私はこれらの人たちに『海外は夜の街をどう面白く競争しているのに、日本は規制してばかりで損をしている。夜は日本コンテンツの発信の場だし、インバウンド観光客にとっては重要な都市体験の場でもある』と話したのです。

それまで法改正に対して他人事だった異ジャンルの人たちを、文脈をつけて自分ごとにしてもらうことで巻き込んでいったのです。法改正は最終的に国を説得することが大事ですが、その前にアジェンダを大きくするために仲間づくりから始めなければなりません。国の重要な議論として位置づけてもらうために、ステークホルダーの幅を広げる必要がありました

日本にも海外と同様に国や企業が規制対応を行うためのエコシステムが必要

海外では「フレームワークコンディション」と呼ばれる、特定の産業を育てるためのインフラがしっかり整っているかのチェックを行う仕組みがある。ヨーロッパではナイトエコノミクスの増進を図る「ナイトメイヤー」の立場の人間が、フレームワークコンディションを行いサービス作りや街作りを進め、そのための費用も国が負担している。

このように、海外では国や企業が規制対応を行うためのエコシステムができているが、日本にはまだない。しかし、これからは日本でもエコシステムが作られなければいけないと齋藤氏は話し、その模範として動いている組織としてシェアリングエコノミー協会の名を挙げた。

齋藤:シェアリングエコノミーでは官僚とスタートアップ、そして弁護士などの士業の人が集まって規制対応の議論を行っています。実は国や弁護士事務所も、規制対応の窓口を作っていますが窓口に行く人は多くありません。その点シェアリングエコノミーはコミュニティごとに勉強会を開いて、行政の方などキーになる人を呼んでパイプを作っているのです。今の段階ではそのようなコミュニティ作りが必要だと思います。

またシェアリングエコノミー協会はミレニアル世代の方たちが運営していて、発想が若くて新鮮に感じます。もしもシェアリングエコノミーが民泊やライドシェアといった各論的な狭い範囲の活動であれば、競合同士が集まってうまくは行かなかったかもしれません。風営法改正の時もクラブだけに絞って法改正をしていたら、反対する方も多かったはずです。「ナイトエコノミー」という言葉で、みんなで夜の時間帯を面白くしようと呼びかけたのでみんな賛同してくれたのだと思います。

ルールメイキングには、そういったコピーライティングやPRのようなスキルも必要です。プロダクトの魅力を伝えるために、コンセプトやコピーを作るのに似ていますよね。新しいルールがなぜ必要なのか、ストーリーや文脈を作ってステークホルダーに自分から動いてもらえるようにする仕組み作りが重要だと思います。

スタートアップが取り組むべきルールメイキング

現代の日本はルールメイキングにおいて過渡期だと齋藤氏はいう。弁護士事務所も「トラブルが起きてから相談に行くところ」というイメージから脱却する若い層が生まれており、ルールメイキングの相談に柔軟に乗ってくれる事務所が増えている。スタートアップは人材採用と同じように、優秀な弁護士を探していく必要があると言うのだ。

齋藤:本来であれば顧問弁護士を雇って規制対応を行うべきですが、スタートアップとしては顧問弁護士よりもサービス開発に限られたリソースを使いたいのが本音だと思います。ただ、サービスが既存の規制に抵触しそうであれば、リサーチして対応した方がいい局面もあるとは思います。優先順位を考えて、どのようにリソースを割り振るというのも戦略として重要だと思います。

実際に法律を変えるのは極端な例で、ほとんどは法律の解釈を変えて対応できる問題だと思います。ただし、役所が実務のリスクを適切に把握できなければ法律を狭く理解しようとするかもしれません、実務側から適切なインプットと信頼関係づくりが重要になってきます。

弁護士業界も変わってきている中で、企業が「ルールを変えられる」という発想を持って動けば日本のルールメイキングはさらに加速していくだろう。ただし、ルール作りに関してまだノウハウが体系化されていないことが課題だ。

齋藤:現在はルールを変える際も、それぞれの立場の人が目の前の課題を解決するために動いています。属人的な取り組み中心で、ナレッジ化されていません。ルールメイキングがプロフェッションの仕事として認識されれば、事例数が増え、汎用的なフレームワークが確立しナレッジとしてしっかり根付いていくように思います。他方で、ルールメイキングは、通常のクライアントワークとは異なります。公益性が高いので、ビジネス面だけが強調されてしまうのもルール形成プロセスが歪められてしまいます。そのバランスが非常に難しく、でも一番重要な部分だと思います。

社会が急速に変化し、既存の法律が制定された時代では想像もしていなかったことが起き始めている。風営法に関しても制定されたのは1948年なのだから、今の時代にマッチしなくなってきたのも当たり前だ。さまざまな業界で既存の法律とのコンフリクトが起きている中、スタートアップにとってもこれからルールメイキングは必須項目になると言っていいだろう。

ここがポイント

・ルールを変えていく際重要なのは、提案する側の「ルールは変えられる」というマインドセット
・国の重要な議論として位置づけてもらうために、陳情型ではなく、大義を持ってステークホルダーの幅を広げる必要がある
・ルールメイキングには、ストーリーや文脈を作ってステークホルダーに自分から動いてもらえるようにする仕組み作りが重要
・スタートアップは人材採用と同じように、法規制に向き合う上で、弁護士を探していく必要がある

企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:土田凌

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