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行動者が「変態」するための集い場。有楽町に誕生した会員制ワーキングコミュニティ「SAAI」とは

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2020年2月、有楽町に新たなワーキングコミュニティが生まれた。その名は「有楽町『SAAI』Wonder Working Community(通称「SAAI(サイ)」)。企業に所属する社員が企業の垣根を越えて「個」としてつながり、社会実装への第一歩を目指し、「つながり、交わり、実践する」ための会員制施設だ。ターゲットは、イントレプレナー(社内起業家)やその候補となる人々で、その中でも特に大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアのオフィスワーカーをコアターゲットとしている。2019年12月に始動した、有楽町エリア再構築に向けた先導プロジェクト「Micro STARs Dev.(*)」の活動拠点である「有楽町『micro FOOD & IDEA MARKET』」に続き、「SAAI」では多様性に富んだ人やアイディア、文化が行き交う中心地となり、ここから会員発信の新たなプロジェクトが始動することが期待されている。

*有楽町「Micro STARs Dev.」
有楽町「micro FOOD & IDEA MARKET」と有楽町「SAAI」Wonder Working Community及び有楽町の街全体を舞台に見出した、まだ価値の定まりきらない(=micro な)人・アイディア・コト・モノを cultivate(交わり・耕し・育み・磨く)し、「次の時代を担うスターが生まれる“仕組み”を有楽町で作り上げる」ことを目指すプロジェクト。2019 年 12 月 2 日(月)より始動。

では、実際にどんなことが仕掛けられるのだろうか。施設のユニークポイントや今後の大手企業とスタートアップの関係性などについて「SAAI」を運営する株式会社ゼロワンブースター代表の鈴木氏と、本施設の企画立案から関わる三菱地所の辻に話を聞いた。

INDEX

日比谷や銀座に隣接する「やわらかい」エリア・有楽町で実現する、新たなタレントコミュニティ
実践者を中心とする、“Give first and take”のあり方
これから起こる、日本企業の逆転シナリオ
ここがポイント

鈴木規文
株式会社ゼロワンブースター 代表取締役
1998年カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に入社し、コーポレート管理室長を経て、2006年アフタースクール事業「キッズベースキャンプ」を創業、取締役に就任するとともに、兼務にて株式会社エムアウト新規事業開発シニアディレクター。2008年同事業を東京急行電鉄株式会社に売却し、その後3年間における東京急行電鉄株式会社子会社でPMI業務に従事。
2012年3月株式会社ゼロワンブースター創業し、起業家支援、企業向け新規事業開発支援事業、投資事業を行っている。Global Accelerator Networkのfull member。

辻直毅
三菱地所株式会社 丸の内開発部 副主事
2011年一橋大学社会学部卒、同年三菱地所株式会社へ入社。
入社後は東京と大阪でオフィスビルの運営管理を担当、新築ビルの開業準備や売却業務を歴任。2019年4月より現所属となり、有楽町エリアのまちづくりを担当。

日比谷や銀座に隣接する「やわらかい」エリア・有楽町で実現する、新たなタレントコミュニティ

:まず、のちに「SAAI」となるアイディアは三菱地所内における「これからの有楽町のあり方」の構想に着想を得ています。大丸有の品位を保ちつつも、日比谷や銀座という日本が誇る賑わい溢れる商業・文化エリアと隣接する立地を活かしつつ、良い意味で大手町・丸の内とは異なる敷居を下げた取り組みができないか、企業に所属する一社員が垣根を越えて繋がるためにできることはなにか。そうしたことを考えていくうちに、このエリアには会社に所属しながらも課外活動できる場所、いわゆる「新しいことにチャレンジするスペース」があるようで実はない、ということから「SAAI」のような施設の潜在的な可能性が浮かんだのです。

鈴木:いわゆるインキュベーション施設と機能面で似ていますが、根本のコンセプト部分は全く異なります。その最たる違いは、僕らみたいなスタートアップコミュニティサイドに立つアクセラレーターが運営しているところでしょうか。世界のインキュベーションオフィスやアクセラレーションオフィスのほとんどの運営元は起業家です。一方で、日本でそうした座組みの施設はまずない。この一点だけを取り上げても「SAAI」はかなりユニークだと言えますし、三菱地所さんから弊社にお声がけいただいたのも、そうした側面が大きいと思っています。

:それ以外のユニークなポイントは、有楽町「Micro STARs Dev.」の推進プロデューサーの存在や、「STUDIO」というアイディアの種をプロジェクト化し、カタチにしていくシステムがあります。プロデューサーには錚々たる方々にご協力いただいておりまして、たとえば、「丸の内朝大学」や「六本木農園」など様々な地域プロデュースを手がけるumariの古田秘馬さん、雑誌『WIRED』の日本版編集長・松島倫明さん、『ソトコト』編集長・指出一正さん、東京大学生産技術研究所にて統合バイオメディカルシステム国際研究センター講師を務める松永行子さんなど、各方面でボーダレスに活躍される方々ばかりです。そうした豪華なメンバーが立案する「STUDIO」のプロジェクトに参画することを通じて、大丸有で働く人たちが普段の業務と全くかけ離れた分野・発想・価値観に触れ、刺激を得ていただければと思っています。

また、コミュニティマネージャーがしっかり機能するような体制も整えました。往々にしてコミュニティマネージャーが単なるファシリティーマネージャーになり代わるコミュニティがありますが、それを防ぐため、施設内に設けたバー「変態」のチーパパ、チーママに会員個別のパーソナリティーや強みを把握いただき、つなげていただく媒介者として働きかけていただきます

鈴木:イノベーションは多様性の中でしか生まれません。ですから、チーパパやチーママ、そしてプロデューサーといった、大丸有に勤める方々が普段あまり出会うことのない人やアイディア、プロジェクトなどを通じて、コミュニティのダイバーシティーを高めることが極めて重要なんです。

大手企業だけでイノベーションが絶対に生まれにくいように、スタートアップだけでもイノベーションは絶対に生まれにくい。ですから、お互いがアンラーン(=unlearn)し、リラーン(=relearn)する機会を作らなくてはいけない。そうしていずれ違う形態に進化していくことへの希望を込めて、バーの名前は「変態(=metamorphose)」と名付けました。ここでは、コミュニティが、人を変態させていくのです。仕組みや教育プログラムではなく、実際に社会で何かを仕掛ける実行者や実践者が中心点となり、そこに巻き込まれる形で人が変わり、コミュニティも変わる。いわゆるベンチャーキャピタルやインベスターが運営する、お金のつながりだけのコミュニティとは全く違うものなのです。

実践者を中心とする、“Give first and take”のあり方

では、実際にどのようにコミュニティメンバーを集い、運営しているのか。コミュニティマネージャーやプロデューサーらの存在があるとは言え、そうした「繋げる人」をアテにして参加するコミュニティではないように見受ける。二人は、コミュニティ内部でのコミュニケーションに言及し、その交わり方や運営側との関係性について説明してくれた。

:テレワークを目的とするのではなく、コミュニティの混ざり合いを促進するために我々が重視しているのが、「SAAI」の入会審査です。ここで何をやりたいのか。熱い想いを語っていただき、個々人の通常業務とは異なる新たな「なにか」を始めていただけそうな方にだけ入会いただいています。

鈴木:前提として、いろんなインキュベーションオフィスや大手企業社員の集まるシェアオフィスはだいたいが勉強やインプットコミュニティに留まってしまい、なかなか実際の行動が伴いづらい現状があります。なぜ、「SAAI」に「STUDIO」があるのか。その理由は、それこそが、行動のきっかけづくりであってほしいからです。一歩踏み出して、なにか行動を起こさせる仕掛けになっている。結局、世の中に価値を生んだり、社会実装したりするためには勉強だけじゃ十分ではありませんから。

僕らはアクセラレーターなので教育プログラムや事業の実装活動、投資といった実際の市場につなげるノウハウを蓄積しています。個人的な勉強だけでは、なかなかこのステップまで踏み込めません。それに大手企業出身で新規事業の立ち上げ経験がある方はそう多くはないでしょう。そこでまず、「STUDIO」で背中をすこし押してあげる。そうしたことを繰り返しながら、「SAAI」に集うそれぞれのメンバーが実行者、実践者に変態していければと思います。

:そういう意味では、我々運営側と会員という上下関係ではなく、横並びのフラットな関係を意識しているのも「SAAI」の特徴ですね。

鈴木:そうですね。ですからお金をいただいて入会いただくにも関わらず、僕らの面談では「このコミュニティに対して何を貢献してくれるのか?」をお伺いします。我々と会員がお互いに“Give first and take”でありたい。だから互いにこの関係性をどう構築していくべきか模索しながら相互貢献と実践、行動を積み重ねていくことが大事。ここには大手企業とスタートアップという上下関係も、役職の上下関係もありません。会員は、イコール「パートナー」なんです。

“Give first and take” の関係性の説明はわかりにくく、すぐに理解いただけるものではありません。これは文化や雰囲気のあり方ですから。まずは僕らが“Give first”することで、その行動や態度を徐々に浸透させていくことが文化醸成になると思っています。

シリコンバレーに行くとよくわかりますが、この考え方は起業家が活躍するコミュニティに根付くものです。こちら側から情報を先に提供したり、積極的に人をつなげたり……。そうした循環が気持ちよく回ることでこそ成立するコミュニティですからそうした輪の中に入れない、要はリターンバックができない人たちはコミュニティから自然と離れていくものです。

これから起こる、日本企業の逆転シナリオ

「SAAI」が大丸有にあることは意義深い、と鈴木氏は何度も繰り返す。その理由には、今後、大手企業とスタートアップの関係性は大きく転換し、優秀な人ほど新たな事業を立ち上げ、前人未到の道を歩くことが予想されることからだ。その転換点にどう食らいついていくか、そのヒントは「SAAI」にありそうだ。

鈴木:東大生の起業が近年増えているそうです。スタートアップ大国であるアメリカではこの動きは非常に顕著で優秀な学生ほど起業し、それ以外の人たちが大手企業に行く流れが当然のようにあります。そうした動きは今後日本でも同様に起きるでしょう。そうした時代の来訪に備え、まず手始めに社内変革する活動につながるためのヒントを「SAAI」から是非持ち帰っていただきたい。ここは日比谷や銀座など、大丸有の中心に比べて「やわらかい」エリアに隣接する辺境地でもあり、こうした片隅からムーブメントは生まれます

そして世界的に見渡すと日本は本当に危ない状態ですし、もしかしたらいわゆる先進国とは言えなくなる時期も遠くないでしょう。だからこそ、時間をかけてでもいいからいろんな価値観に触れることのできる場所に是非赴いていただきたい。大資本や権限的なリソースにリーチしやすい、優秀な大手企業の花形の方にこそできるイノベーションや、今現在は活かしきれていない能力の有意義な活用がきっとあるはずだと思っています。

:我々は、大丸有で働く約28万人のワーカーのうち99%くらいの割合を占めるであろう、本業に忙殺されて、新しいことに時間を割く余裕のない人たちを「もやもや層」と呼んでいます。そういう方々に是自分の意思次第でなにかを変えられることに気づいていただけたらと思いますので、行動を起こしたい、起こせないと二の足を踏んでいる方に是非「SAAI」にきていただきたいですね。一歩踏み出して行動する人たちのコミュニティなので必ず勇気がもらえると思います。

鈴木:色々と難しいことを言ってしまいましたが、当初のコンセプトでは「大丸有より敷居を下げた」場所にしたいということが大前提にあります。メンタリングだなんだと申し上げましたが、「こんな考えどうかな」とか気軽に雑談が生まれるような場所を作りたいと思っていますし、一見さんでもイベントにお越しいただくことができますので、是非気軽に遊びにきてください。

さまざまな新しいチャレンジが行われ、すでに100名以上の会員がいる「SAAI」。最後に会員の声を少し紹介して終わりにしたいと思います

奥村裕之さん(TREEE株式会社)
「SAAI」はひとつひとつをしっかりみてもこだわりが感じ取れますし、吸収できるものは大きいだろうなと。「ここだったら、やりたいことができる、受け入れてくれる」と感じています。今は、まずスタジオの立ち上げを考えています。
私は経営者でありエンジニア。「SAAI」ではビジネス化する前の「アイディアの種」をスタジオとして形にしてみたいと思っています。あとは、積極的に「SAAI」で開催されるイベントに参加をしたいと考えています。

萩村卓也さん、倉澤孝明さん(NRIデジタル株式会社)
「SAAI」では普通にサラリーマンをしていては出会えない多種多様な”変わり者”に出会えると感じます。また施設としてもバーカウンター、和室、キッチンなど良い意味でのカオスな雰囲気がありワクワクします。
今後は自分がもっている課題感を言語化したり共感できる課題を見つけ、それを解決する方法を自分とは違う価値観の人達と創っていきたいと考えています。

小沢勲男(株式会社ファインドスター)
「SAAI」で施設オープン前開催したイベントに参加し、本当にコミュニティ創出に力を入れているからことを実感し、入会しました。私は社会人1年目ですが、複数の会社を兼業しており、色々なことに挑戦できる場所というのが魅力でした。
今後はスタジオを自ら立ち上げつつ、興味のある分野のスタジオにも積極的に参加していきたいです!

ここがポイント

・『SAAI』は企業に所属する社員が企業の垣根を越えて「つながり、交わり、実践する」ための会員制施設
・特徴的なのはスタートアップコミュニティサイドに立つアクセラレーターが運営していること
・コミュニティマネージャーがしっかり機能するような体制をとり、チーママ、チーパパが媒介者として働きかけている
・アンラーン(=unlearn)し、リラーン(=relearn)する機会を提供する
・運営側と会員はフラットでお互いに“Give first and take”を目指す
・「大丸有より敷居を下げた」場所にし、片隅からムーブメントを生んでいきたい

企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:小泉悠莉亜
撮影:安東佳介