新型コロナウイルス感染症によって、あらためて見直され始めた住む場所。都会に住み続けるのか、それとも田舎に住むのか、はたまた多拠点生活を選ぶのか。今回はSAAIプロデューサーであり、観光客と移住者の中間となる“関係人口”の提唱者のひとりでもある雑誌『ソトコト』編集長の指出一正さんをゲストスピーカーとしてお招きし、これからの都市と地域の関係や、人の動きの変化などについてお伺いしました。
本記事では動画対談にて話題に挙がったキーワードと、それにまつわるお二人の視点を切り出しダイジェスト版にしています。興味を持たれた方、詳細は動画にてぜひご覧ください。
これからの都市と地域を紐解くキーワード01
「関係人口」
東日本大震災以降に現れたアノニマスな言葉。「観光以上移住未満層」を指し、地域が好き/地域内に仲間がいる/その地域の未来づくりに関わりたい想いを持つ該当地域以外に在住する層、いわゆる第3の人口のことを指す。また、首都圏への人口流入に歯止めがかからず、移住定住以外の政策の柱を立てる必要から内閣府地方創生推進事務局の第一次総合戦略のひとつにも据えられている。
指出:「関係人口」の面白さは、社会気分が言語化されたというところ。言葉ありきの概念ではないんですね。いわゆる観光コースを巡るだけでは飽きたらない人たちがもともといっぱいいらっしゃって。その層が自分の成長につながる地域との接点を作るために動き出し、それが一つのレイヤーになった結果だと言えます。
古田:主催する「丸の内朝大学」の島唄クラスでは、東京で全授業履修し島唄について学んだ後に奄美の集落でおばあたちと一緒に歌うカリキュラムを組んでいます。今までであれば、ただ観光客として地域に入っていく。ところが、朝大学のカリキュラムでは島唄の意味を学ぶなどそれ以前の関係構築から始まる。そうなると行く側も迎える側も心持ちが変わるんですよね。お互い理解があると言うか、感動が深いと言うか。従来の観光、地域との関係が変わりつつあることが見えるキーワードが「関係人口」だと思います。そして、その「関係人口」すらもコロナで変わっていくかもしれないと思っています。「田舎暮らし」と「都市暮らし」のような、どちらかではなく「どちらにも属さない」も選べる時代になるのかなと。
指出:コロナに対しては、ウイルスとはなだめすかして共存していくものだと考えています。古田さんがおっしゃるように「0」か「100」ではなく、全てが間(あわい)だと思っていて。新型コロナウイルスによって、多拠点をやりたい、働き方も家庭も教育も大事のような、「曖昧さを社会の中でどう活かすか?」という問いに答えを出すことを迫られている。SDGsのように17のゴールがあって、みんなが達成されると良いと思っていても、これまで重い腰が上がらなかった。そんな色々なことが良くも悪くもコロナによって重い腰を上げたと思っています。
これからの都市と地域を紐解くキーワード02
「都市に対するローカルの立ち位置」
今までの地方は大都市に対する「ローカル」をどこかで演じていた。都市がある限り、経済や観光面で都市に依存する、いわば従属関係的な地域モデルが成立するためだ。それがパンデミック、災害、人災などを理由に関係が一気に変わる可能性がある。言い換えれば、地域にとって都市こそがリスクだと言える。他方、都市に依存せずに自らリスクを負い、チャレンジする地域はチャンスが広がる。これは各地域の都市化を指すのではなく、今後新しい都市像が生まれる可能性を孕んでいるということ。
古田:コミュニティ圏内で経済圏含めエネルギー、食、教育などをある程度プロットできるコロニーみたいなものができるんじゃないかと踏んでいます。今までのコミュニティの核にあたるものは「資本=お金」でしたが、これからはお金ではない次の新しい社会概念が生まれ、そこで何を交換するのかっていうのがすごく重要なポイントになるんじゃないかなと。
指出:独自の経済/自然資本を持った自律分散型の地域が、その他地域ともイーブンな関係で連携していくことが理想的ですよね。仮にどこかが機能しなくても他がバックアップできるような。いわゆる東京や大阪の二極集中、名古屋や福岡を含めた四極集中ではないかたち。ある意味では今回のコロナはそうした地域循環共生圏を作る、チャンスのように思います。
古田:そこで地域ごとの思想というか、名産品や景観の良さなどではないものが重視されてくるんじゃないかなと。たとえばある価値思想に基づいて教育観を重視しているとか。
指出:岡山県の真庭市のように自分たちのところでエネルギーをつくって残渣をちゃんと農産物に還元するようなアップサイクル、サーキュラーエコノミーを独自路線で行ったり、平田オリザさんが移住された兵庫の豊岡市のように演劇や教育を真ん中に置いて、子供や移住者の方々とともに生涯教育を考えたりって地域もありますからね。どれも通底しているのはウェルビーイングだと思いますが、要はその街自体が健康であることが大事で、その健康度を図るものがエネルギーなのか教育なのか、それぞれの町の特性で選べばいいんじゃないかなと思います。
モデレーター
古田秘馬
プロジェクトデザイナー。株式会社umari代表。東京都生まれ。慶應義塾大学中退。
東京・丸の内「丸の内朝大学」などの数多くの地域プロデュース・企業ブランディングなどを手がける。農業経験レストラン「六本木農園」や和食を世界に繋げる「Peace Kitchenプロジェクト」、讃岐うどん文化を伝える宿「UDON HOUSE」など都市と地域、日本と海外を繋ぐ仕組みづくりを行う。現在は地域や社会的変革の起業に投資をしたり、レストランバスなどを手掛ける高速バスWILLER株式会社やクラウドファンディングサービスCAMPFIRE、再生エネルギーの自然電力株式会社・顧問医療法人の理事などを兼任。
ゲストスピーカー
指出 一正
上智大学法学部国際関係法学科卒業。雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長を経て、現職。島根県「しまコトアカデミー」メイン講師、静岡県「『地域のお店』デザイン表彰」審査委員長、和歌山県田辺市「たなコトアカデミー」メイン講師、秋田県湯沢市「ゆざわローカルアカデミー」メイン講師、岡山県真庭市政策アドバイザー、富山県「くらしたい国、富山」推進本部本部員、上毛新聞「オピニオン21」委員をはじめ、地域のプロジェクトに多く携わる。内閣官房「ふるさと活性化支援チーム」委員。内閣官房「水循環の推進に関する有識者会議」委員。環境省「SDGs人材育成研修事業検討委員会」委員。国土交通省「ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会」委員。総務省「過疎地域自立活性化優良事例表彰委員会」委員。農林水産省「新しい農村政策の在り方検討会」委員。UR都市機構URまちづくり支援専門家。BS朝日「バトンタッチ SDGsはじめてます」監修。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。趣味はフライフィッシング。
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