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コロナ禍に立ち上がったコミュニティスペースが考えるオンラインとオフラインを跨ぐ場作り

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近年、事業成長のフェーズにおいて「コミュニティ化」の重要性がよく語られている。多種多様なスキルセット、思考を持った人々が集うことで、熱量高くかつ急速に事業成長を促すことができるメリットを持つからだ。

コミュニティを起点に事業をスタートしたり、事業の一環としてコミュニティ運営を行う企業など、その在り方はさまざまだが、コミュニティの存在が事業の核を作っているケースも少なくない。

ただ、“コミュニティ” といっても、“主催者がいないと成り立たない”中央集権型で、「Taker(テイカー)」が多いコミュニティや、自律分散型で互いに価値を提供する「Giver(ギバー)」メインのコミュニティなど複数の”型”が存在する。

今回は、「メンバー同士で事業相談を行う関係性も生まれ、コミュニティとしての理想の形に近づいている」と話す、ワーキングコミュニティ「有楽町『SAAI』Wonder Working Community(以後、SAAI)」を運営する、株式会社ゼロワンブースターのコミュニティディレクター、ブランスクム氏の話から、円滑なコミュニティ運営を考える。

INDEX

フェーズによって異なるコミュニティのスタンス
上質なコミュニティ運営を考えるための2つのキーワード
単一コミュニティに留まらないエコシステム形成を目指す
ここがポイント

ブランスクム 文葉
株式会社ゼロワンブースター/コミュニティディレクター/有楽町SAAI運営責任者
オリエンタルランドで店舗運営や人材教育、ディズニーシー立ち上げを経験後、カルチュア・コンビニエンス・クラブに転職。経営管理部門、CFO秘書を経て野村證券へ。ファイナンシャル・アドバイザーとして15年、コンサルティング業務を行う。2020年01Boosterに参画。ビジネス経験と人的ネットワークを活かし、起業家の育成、新規事業・新産業創出支援などを行う。グロービス経営大学院MBA。

フェーズによって異なるコミュニティのスタンス

「SAAI」が誕生したのは2020年2月のこと。大丸有(大手町・丸の内・有楽町)と呼ばれるエリアのオフィスワーカーをターゲットとしたコミュニティだったが、オープン直後から、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点によりオフラインでの活動が厳しい状況に。最初の緊急事態宣言期間中は活動自粛を余儀なくされ、苦しいスタートを切った。

宣言解除後の2020年6月以降はオフラインでの集客やイベント実施が困難だったことから、オンラインイベントに着手。認知拡大を目指して共同代表の合田氏の登壇を中心としたオンラインセミナーを実施していた。

ブランスクム「当時はオープンから4ヶ月。コミュニティとしてまだまだ規模が小さい段階だったので、とにかく多くの人に知ってもらうことが必要でした。そこで、弊社の事業である起業家支援にまつわる話をイベントとして届けていたんです。最初はとにかくイベント実施数を念頭に置いて、オンラインイベントを多数仕掛けていきました

コミュニティとしての動きを見せ続けることがコロナ禍に誕生したコミュニティが生き抜く術だったという。その後、頻繁にイベントを実施した甲斐があり、認知を得られ、開催イベントへ「登壇したい」という企業から申し出を得るなどに成功。次にぶつかった壁は、主催イベントの質の向上だった。

ブランスクム「緊急事態宣言が長引く中で、周囲でもオンラインイベントを実施する人が増えていき、可処分時間を奪い合う状況になったので、イベントの質を上げて差別化を図る必要性が出てきました。特にコミュニティ運営においては計画的偶発性の中で生まれる雑談が重要なので、スピーカーが一方的に話すインプット主体のイベントだけではなく、参加者が対話できるような双方向性のあるイベントを開催しようと考えました。そこで、参加人数に制限を設けすぎないセミナー型のイベントと、少人数で行う対話型のイベント、両軸での実施を試みました」

「SAAI」は、チャレンジする人を応援するためのスペースを作ることをひとつ目的としたコミュニティだ。そのスペースを作るべく、オンライン上で人々が繋がれる仕組みを考えた。相互理解を深めるミートアップ、事業相談イベントなど、小さな枠組みで人が集う機会を増やしたという。

ブランスクム「ただの異業種交流会ではなく、SAAIを利用してくださっている方々が継続的に交流できる場を設けたいと思ったんですね。同時に『SAAI』のアプリやFacebookなどでイベントの様子を配信し、コミュニティとしての動きを広める活動も行っていました」

実質的なコミュニティのスタートから約1年が経過した現在は、新たなフェーズに進みコミュニティとしてのさらなる成長をも遂げている。

ブランスクム「交流を意識したイベント運営を実施したおかげで、現在では顔と名前の一致するコミュニティメンバーも増えています。実際にメンバー同士で事業相談を行ったり実務を行う関係性なども生まれており、コミュニティとしての理想の形に近づいてきていますね」

上質なコミュニティ運営を考えるための2つのキーワード

「SAAI」には、ブランスクム氏を含めて3名のコミュニティマネージャーが存在する。「SAAI」で定義するコミュニティマネージャーの役割は、新しいチャレンジに向けて取り組む人々の環境構築を行うこと。適切な媒介者であることを求められているという。

そういった使命を持つコミュニティマネージャーとして、ブランスクム氏が特に意識しているのは「相互主観性」「自律分散型」のキーワードだそうだ。

ブランスクム相互主観性とは、コミュニティに所属する複数人の主観の間で共通に成り立つもの。新しい未来を作りたい、コラボレーションを行いたいと思って集まる人々が、お互いに働きかけながらアイデアを形にできる状態を作りたいので理想として掲げています」

また、コミュニティとしてイベントなどに参加できていない人を無理して誘い込みすぎないことも相互主観性を維持する上では大切な考え方だという。「参加できていない理由は、たまたま忙しいタイミングが重なっただけ、というものだったりするもの。対話を通して疲弊しない付き合い方を探す必要があります」とブランスクム氏。

ブランスクム自律分散型とは、コミュニティに所属する人々に階層を作らず、自律的に運営されている組織の在り方。たとえば、著名人がコミュニティを主催する場合などによく起こるのが“主催者がいないと成り立たない”状態。それはコミュニティの一つの在り方ではありますが、いわゆるファンコミュニティと呼ばれるもので、『SAAI』が目指している姿ではありません。私たちは、一人ひとりのメンバーが役割を持ち、主体的に行動するコミュニティを作りたいと考えています。これは私がコミュニティ運営を参考にしている“議論メシ“から学びました」

実際のところ、自律分散型を目標にコミュニティ運営に取り組む企業・組織は多いことだろう。ところが、思った以上にその実現は難しく、多くのコミュニティメンバーが“Taker”になってしまう例も珍しくない。ブランスクム氏はそういった状況を打破するために、小さな仕掛けによってメンバーが主体性を持って活動できる仕組みを作っている。

ブランスクム「まず、コミュニティに所属する人の多くは、はじめからTakerになろうと思って入ってきているわけではないと考えています。『SAAI』では、入会時にどんなスキルを持っているのか、どんなチャレンジがしたいのか、コミュニティにどう貢献できるのかなどをヒアリングしており、それに対する回答の親和性が高い場合に入会いただいています。そのため、基本的に熱量の高い人が多いのです。

そんな人でもTakerになってしまうことがあります。それは、何を・どのように“Give”するのか、方法や環境づくりに戸惑っているからこそ起こる問題です。その解決策として、私たちの場合は、メンバーとのヒアリングの際に話した内容を元に、対談をセッティングしたり、参加者を集めたりと、最初の一歩をサポートしています。“Giver”としての役割をお任せする中で、だんだんと自律的にチャレンジを始めるメンバーが増えています」

「今となっては、運営でも知らないイベントや共創などが生まれていて寂しいくらい。でもそれが理想なんですよね」と嬉しそうに漏らす。

単一コミュニティに留まらないエコシステム形成を目指す

現在、会員数は270名を突破。さらに所属メンバー同士でのコラボレーション事例も生まれており、コロナ禍においてもコミュニティとして順調に歩んでいる「SAAI」。その一つには、SAAIが開催しているビジネスプランコンテスト「01Start」で採択された事業アイデアを一段と成長させるべく、コミュニティメンバーが関わり合っている例が挙げられる。

ブランスクム「株式会社rocaの清水愛さんがプランを提案して採択された『フタリノ』というコミュニティサービスがあります。夫婦やカップルが専門家や仲間と横のつながりを作りながらふたりの関係構築に向き合えるサービスで、採択当初はブランディングやコミュニティ形成などに課題感がありました。

そこで、『SAAI』のメンバーでデザインコンサルタントをしている篠原由樹さんがブランディング面で協力し、一緒に事業を作っていきました。結果、2021年4月15日にはリリースに成功。『SAAI』メンバー同士での協業を達成した大きな事例だと思います」

スタートから1年間をかけて、コミュニティとしての形を確固たるものにしている「SAAI」。次のフェーズに向けては“横の連携”が重要だとブランスクム氏は話す。

ブランスクム「たとえば、事業を考える中でプロダクトを作りたい、実証実験を行いたいなどの要望が生まれた場合、現時点での『SAAI』のみの力では叶えられないことがあります。そういったときに大切なのが、コミュニティ同士が連携をすること。もっというと、エコシステムを生み出すことだと思うのです。

昨年、私自身さまざまなインキュベーション施設を訪問し、施設ごとに抱えている課題感を伺いました。その結果、多くの施設がコミュニティを持っていないことや、仮にあってもそのコミュニティが閉じていることなどに困っていることがわかったんです。これからは、そういった強みを持つ者同士が手を取り合って共に未来を創る環境構築に努めていきたいと思っています。

インキュベーション施設、コミュニティ、企業や事業者などがお互いに関わり合い、共創できる社会を作る。そして、そのうねりをどんどんと広げていきたいですね」

ここがポイント

・2020年2月、有楽町に会員制ワーキングコミュニティ「SAAI」が誕生した
・コロナ禍でのスタートだったため、オンラインイベントを皮切りにコミュニティの活性化に取り組んだ
・「相互主観性」「自律分散型」が保たれているのが「SAAI」の考える理想のコミュニティ
・ “Giver”を増やすためはコミュニティマネージャーによる働きかけが重要
・現在では、実際にコミュニティメンバー同士で協業を行う事例もある
・今後はコミュニティやインキュベーション施設の連携を通して、より共創しやすい社会を作ることを目標に掲げている


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木詩乃
撮影:小池大介