TO TOP

シリコンバレー発のb8ta(ベータ)が日本進出。モノではなく体験を売る“半歩先ゆく小売店”をつくる

読了時間:約 7 分

This article can be read in 7 minutes

今や私たちの日常に欠かせなくなったオンラインショッピング。withコロナにおいては外出を控える人が増えたことで、さらに需要が増している。

近年のEコマースプラットフォームやクラウドファンディングの盛り上がりとも合わさって、ECから小売をスタートする企業も増えている。しかし、いくつかのEC特有の課題は未だに残っている。オンラインだけではリーチできない顧客は一定数存在し、直接使ってみないと購買意欲が湧かない製品もある。これらEC特有の課題をどのように解決すれば良いのか?

このニーズに応える形で、世界で店舗数を伸ばしているのがサンフランシスコ発の新しい形の小売店b8ta (ベータ)だ。同社は、仕入れや委託で商品を揃える小売モデルではなく、実店舗内に商品展示ブースを設け、メーカーに月額でブースを貸し出すモデルを採っている。店舗内にはWebカメラを設置し、来客の行動分析が可能。ブースを借りる企業はオフラインでユーザーと接する機会ができ、商品開発や販促に必要なユーザーの行動データ収集やユーザーの声のヒアリングが行える。

b8taは2020年8月1日に日本初店舗を有楽町電気ビル1階と新宿マルイ本館1階に2店舗同時オープンする予定だ。今回は同社の日本法人代表の北川卓司氏を招き、日本における事業展開について伺った。

INDEX

世界中のイノベーティブな製品を体験できる場を目指して。驚きと発見を与える「メディアのような」店舗づくり
テクノロジーと小売店の融合が、今まで収集が難しかった新たなデータを生み出す
「日本のb8taは日本の皆さんと作り上げたい」。同社が目指す新しい小売店の姿
ここがポイント

北川卓司
2004年PR会社入社後、IRコンサルティング会社、スタートアップのCEOを経て、フランスのEMLYON経営大学院でMBAを取得。 2015年ダイソンにリテールマネージャーとして入社し、世界初の旗艦店を表参道にオープン。東京統括部長を経て、2019年11月 より現職。

世界中のイノベーティブな製品を体験できる場を目指して。驚きと発見を与える「メディアのような」店舗づくり

2015年にサンフランシスコで創業したb8ta。現在は北米を中心に24店舗を運営している。年間に店舗を訪れる顧客は全世界で300万人以上。今日までに1000以上のブランドが出品し、5000万人以上の消費者と商品の関わり(エンゲージメント)を生み出した。日本のカントリーマネージャーとなる北川氏は、b8taのビジネスモデルを「オフライン上のメディア」だと捉えている。

北川:メディアとは受け手に対して最新の情報を発信し、驚きや発見を与えるものです。b8taはミッションとして「リテールを通じて人々に“新たな発見“をもたらす」を掲げています。メディアと同様に、まだ世に知られていない多種多様な商品が集まる店舗をつくり、来店者に驚きと発見を与えたいと考えています。

ブースに出品される製品はスタートアップが開発した最先端のガジェットが中心です。しかしながら、時には自動車や工芸品が出品されることもあります。商品カテゴリーにこだわらず、世界中の最もイノベーティブな製品を発見・体験・購入できる場を目指しています。

同社のサービスを言うなれば、「ここに来れば何か新しい発見がある」と期待を抱かせてくれる場所。b8taはそこにオフラインでなければ味わえない“ユーザー体験”を付け加えた。

商品には、その魅力を動画や写真だけでは説明しきれないものがある。際たる例はVRゴーグルだろう。使用経験がある方は初めてゴーグルを付けた時を思い出して欲しい。目の前に広がる360度の仮想空間に驚いたはず。あの体験はオンライン上では経験できない。ほかにも衣服やフレグランス、ボディケア用品のように触覚や嗅覚に訴える製品は、実体験が購入動機に繋がることが多い。

「オフライン上のメディア」を目指すb8taのスタンスは日本においても変わらない。オープンにあたっては、ARディスプレイ内蔵のスイミングゴーグルや、本物の絵画の筆遣いや色彩を再現できるスマートアートキャンパスなど、日本初上陸や海外で注目度の高いガジェットが出品される予定だ。

テクノロジーと小売店の融合が、今まで収集が難しかった新たなデータを生み出す

まだ流通量が少ない製品は実際に手に取って体験できる機会が少ない。それに触れられる場所は、消費者にとって大変魅力的に感じられるだろう。一方、出品者となる企業にもメリットは大きいと北川氏は話す。

北川:私たちは単なる店舗スペースのシェアリングサービスではありません。競合優位となる特徴は、来店者の詳細な行動分析ができること。全てのブースを天井に設置したWebカメラを使い、来店者がブース前を通り過ぎた回数や、立ち止まった回数を分析。また、試用を行なった回数をスタッフが専用の分析ツールで収集し、出品者はそれぞれのデータをオンライン上で確認できます。

企業様に提供するブースは1区画約60cm × 40cm。これを毎月定額で利用していただきます。料金にはショップスタッフによる接客代行や、在庫の管理、POSや物流管理費用、先ほど述べた来店者データの閲覧権が含まれます

また、ショップスタッフとチャットを行えるので、商品に対する来店者の反応を知ることも可能です。これらの機能を通して、企業様は商品開発や販促に関わる貴重なデータを得ることができます。

b8taに出品する企業には事業を始めて日が浅いスタートアップも多い。実店舗で得たユーザーの声やデータを用いれば、製品のブラッシュアップに役立つはずだ。

北川:近年はオンラインショッピングが一般化し、D2C(メーカーが自社で企画・製造した商品を、自社サイトを用いて直接消費者に販売する仕組み)を行う企業も増えました。しかし、実際に製品に触れてもらう機会を作らなければ初回購入のハードルは上がってしまいます

オンラインだけではリーチしきれないユーザーがいる一方で、実店舗を立ち上げるためには施工費やスタッフの確保、在庫管理などまとまった費用がかかってしまう。b8taはオフライン化の初期費用を抑えることができるので、プロダクトを認知させたい企業様に喜ばれています。

私たちの店舗にいらっしゃる来店者は新しいモノが好きなアーリーアダプターがほとんどです。出品者のなかにはすでに販路を開拓した大手メーカーもいらっしゃいますが、「今までPRできていなかったユーザーを獲得できる」と好意的な声をいただいています。

先述したようにb8taは現在24の実店舗を持っている。出品者はどの店舗にどの商品を展示するか選べるので、地域や国をまたいだ認知獲得や調査も可能だ。今まで製品開発のためのオフライン調査やマーケティングには多大なコストがかかっていたが、同社のサービスが普及すれば、開発・PR・流通まで、企業活動に影響を与えるだろう。

「日本のb8taは日本の皆さんと作り上げたい」。同社が目指す新しい小売店の姿

日本進出にあたって、新宿マルイ本館と、三菱地所が一部保有する有楽町電気ビルに店舗を構える同社。そこはどのような空間になるのだろうか。

北川:店舗によりターゲットは異なり、新宿はファミリー層、有楽町はビジネスパーソン向けの店舗を目指します。

オープン当初に出品される製品は100種類以上。日本初上陸となるガジェットから自転車や靴、服などの日用品、100%自然由来の原材料を使ってつくられたチョコレートまで幅広いラインナップを用意しています。

今回の進出にあたり、同社は日本独自の発展を見込んでいるという。

北川:日本に出店することを決めるまで、b8taは「最先端のガジェットが集まる」店として認知されてきました。しかし、私たちの店舗は出品される製品で色が変わります。b8taは企業様と作っていくもの。だから日本のb8taは日本の企業の皆さんと作り上げていきたい

日本進出にあたっては、和紙を活用した機能性スリッポンや、100%京都産宇治抹茶を使った抹茶ラテの素など、日本独自のマテリアルや技術で作られた製品が出品される予定です。こちらは今までのb8taとは異なるラインナップになるので、ご期待いただけたらと考えています。

日本を皮切りに、同社は他国にも店舗を出店していくはずだ。今後はどのような進化を考えているのか? 今後のブラッシュアップの計画を聞いてみよう。

北川:私たちはまだ創業5年目で発展途上の企業です。今は固定賃料モデルを採っていますが、将来的には売り上げ連動型のシステムも取り入れていきたい。他方では、店舗の行動分析システムを他業界にも提供していきたいと考えています。

これは実現するかどうか分からない構想ですが、個人的には全く接客をしない店舗づくりもしてみたい。既存のb8taの店舗では、ショップスタッフが全ての商品を理解し、通常の小売店と同様に接客をします。しかし、世の中には接客が苦手なお客様もいらっしゃいます。来店者にお声かけをせず、好きなように製品を体験するお店が有っても良いと思うんです。

消費者の意識は変わり、「どちらで買っても同じ」と購買におけるオフラインとオンラインの垣根が消えつつあります。カスタマージャーニーも消費者の意識に合わせて変化していくと思います。

小売業界はオフラインでの競争の激しさに加え、オンラインショッピングも競争が激化しレッドオーシャンになっていました。そこでの活路は、実際のユーザーのリアルな動きや声をメーカーが把握できることにあると考えています。今後は、ECで収集できるオンラインでのデータに、実店舗とテクノロジーが融合して収集出来るデータが加わることで新しい機会を生み出すはず。これからも小売業態を通して人々に価値を提供していきます。

小売店とは従来、物を購入する場所だった。しかし、消費者の意識の変化やテクノロジーの進歩に合わせ、ショールームや配送拠点を兼ねる店舗など小売店のあり方は変わってきている。
そんな中、同社は店舗を「プロダクトを体験する場所」として捉えている。世の中には自然発生した「べき論」が多いが、常識や慣習を客観視すれば、そのビジネスの本来あるべき姿が見えてくる。

ビジネスにおいて優先すべきは、ユーザーが求めているモノ・コトを優先すること。小売店の常識をアップデートしたb8taから学ぶべきことは多いのかもしれない。

ここがポイント

・b8taは、小売モデルではなく、メーカーに月額単位でブースを貸し出すモデルを採っている
・ビジネスモデルを「オフライン上のメディア」と捉え、まだ世に知られていない商品が集まる店舗をつくり、来店者に驚きと発見を与えることを目指す
・競合優位となる特徴は、来店者の詳細な行動分析ができること
・月額にはショップスタッフによる接客代行や、在庫の管理、POSや物流管理費用、先ほど述べた来店者データの閲覧権が含まれる
・ECが一般化したとはいえ、実際に製品に触れてもらう機会を作らなければ初回購入のハードルは上がる
・日本のb8taは日本の企業の皆さんと作り上げていきたい
・レッドオーシャン化した小売の活路は、実際のユーザーのリアルな動きや声をメーカーが把握できることにある


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木雅矩
撮影:戸谷信博