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人工知能の国際コンペティションで連続優勝。創業者の2人が語る、技術ドリブンのスタートアップを成長させるポイント

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サポートデスクやチャットボット、社内FAQなどに利用できる人工知能を使った高性能な質問応答システム「QA ENGINE」を開発、提供するStudio Ousia。「QA ENGINE」は人工知能の国際コンペティションで連続優勝を果たし、人間の全米クイズ王チームにも勝利した高精度な質問応答システムだ。

今回は創業者の渡邉安弘氏と山田育矢氏に、国際コンペティションで優勝するビジネスメリットや、技術ドリブンでスタートした事業をどのように軌道に乗せたのかを伺った。全く違うバックグラウンドを持つ2人が、どのように会社をマネジメントしてきたのだろうか。

INDEX

「グローバルで通用する会社を作る」ことだけを決めて創業
自社技術をグローバルな基準で評価するたにコンペティションに応募
経営者に求められる「ビジネスと研究の割り切り」
ここがポイント


渡邉 安弘 (Yasuhiro Watanabe)
Co-founder, CEO
慶應義塾大学環境情報学部卒業。
日本合同ファイナンス(現ジャフコ)投資部にて投資活動を行う。その後、アイエヌジー生命保険(現エヌエヌ生命)を経て、2000年2月 独立系VCファンド、インキュベイトキャピタルパートナーズ(現インキュベイトファンドの前身)設立、情報通信関連のシードステージに特化した投資を行う。
自然言語処理による新しい可能性を追求し、実用化を積極的に推進すべく、2007年2月にStudio Ousiaを共同創業。


山田 育矢 (Ikuya Yamada)
Co-founder, Chief Scientist / Ph.D.
中学の頃からソフトウェアエンジニアとして活動。大学入学時に、株式会社ニューロンを起業し、Peer to Peerコンピューティングに関する技術開発を推進。同社を株式会社フラクタリストに売却し、取締役に就任。同社を退社後、株式会社Studio Ousiaを設立。 NeurIPS、ACL、NAACL、WWW等の情報科学におけるトップ国際会議で開催されたコンペティションでの4回の優勝を含む、人工知能関連のコンペティションでの多数の上位入賞経験を持つ。理化学研究所AIP客員研究員。Kaggle Master。

「グローバルで通用する会社を作る」ことだけを決めて創業

まずは創業の経緯について二人に話を聞いていく。投資家としてのバックグランドを持つ渡邉氏と、研究者としてのバックグラウンドを持つ山田氏。二人はどのようにして出会い、事業をスタートさせたのだろうか。

渡邉「私は新卒で投資会社のジャフコに入社し、4年ほど働いてからオランダの保険会社でフルコミッションの営業をしていました。2000年にITバブルが訪れた際に、ジャフコの先輩がファンドを立ち上げるというので、一緒に独立系のベンチャーファンドを立ち上げたのです。2006年には1号ファンドでの投資をほとんど回収し、新しいことを始めようと考えていたときに山田と再会しました。彼とは出身大学が同じで共通の友人を通じて知り合ったのですが、彼も自分のベンチャーを売却したタイミングであり、SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)の大学院に進むということで、大学院の中で先進的な研究会をつくったことがきっかけでした。
当時は事業テーマは決まっていませんでしたが、彼と二人で『コンピュータサイエンス系でグローバルで通用する技術の会社を作ろう』とだけ決めてスタートしました。ですので、最初からグローバルで通用しそうなテーマを洗い出して、その中から山田が興味を持つテーマに絞り込んでいきましたね。当時はWikipediaが世界的にも注目されてきたときで、自分たちもキーワードに紐付いてあらゆる関連情報を集約するサービスを企画していたのが今の研究の始まりです」

山田「私は幼少期からプログラミングや新しい技術が好きで、中学のときからオンラインソフトウェアを作って売っていました。大学に入学するのと同時にインターネットに関する技術開発を行う会社を起業して売却までしました。しかし、それからインターネットの技術に伸びしろを感じなくなりまして、新しい分野に挑戦しようと思ったときに出会ったのが渡邉です。
AI、特に人間の言葉を扱う自然言語処理の領域に興味がありました。当時はWikipediaのような大規模なデータはあっても、自然言語処理の技術とうまく融合されていなかったので、これから大規模データと自然言語処理が融合される流れになると思っていました

山田氏の高い技術力をベースに始まったStudio Ousiaだが、課題ドリブンの会社とは違い、最初から事業プランがあったわけではない。創業当初は受託開発も行いながら資金を得ていたと言う。

渡邉「闇雲に受託の案件を集めていたわけではなく、自分たちの研究テーマに近い開発案件を受託していました。例えばアドネットワークの会社に、行動ターゲティングのための言語処理や機械学習システムを開発したり、新しいタブレットで好きなテレビ番組をながら検索するためのブラウジングツールなどの開発ですね。私は個人でファンドも運営しているので、最初は自分のファンドからも出資していました」

自社技術をグローバルな基準で評価するたにコンペティションに応募

受託開発から始まったStudio Ousiaが、自分たちのビジネスをスケールさせる至ったきっかけとはなんだったのだろうか。

渡邉「今のビジネスのきっかけがあったのは2015年のことです。当時はチャットのUIが注目を集めていて、これからの情報の入り口はチャットUIになると思い、チャットボットのシステムを開発しました。これまでやってきたWikipediaを自然言語処理に応用する研究があったので、自動で質問応答する技術に活かせたのです。当時はその技術を使っていくつかコンペティションにも応募して、優勝するものもありましたね」

コンペティションに応募するようになったきっかけについて、自社技術をグローバルな基準で評価するためだったと山田氏は言う。

山田「私達の開発している技術は、ウェブサービス等のように機能をリリースして、ユーザから性能に関するフィードバックを受けられるという類のものではありません。コンペティションに出場すると、開発している技術の性能についての直接的な評価が得られるため、技術を評価するいい機会だと考えました。そこで、テーマの合うコンペティションを見つけて参加していました」

日本の企業がグローバルでのコンペティションで優勝するケースは多くないと山田氏は続ける。Studio Ousiaがグローバルでも結果を残せる要因とはいったいなんなのか。

山田「コンペティションは明確に課題が出されて、期間内で課題に対するアプローチを開発します。単純に言えば、良いアプローチが思いつけば勝てますし、思いつかなければ勝てません。私達は自分たちが得意な領域のコンペティションを選んで応募しているので、コンペティションが始まってからアプローチのトライ&エラーを行うことは少ないです。普段から研究開発を進めて、研究開発しているテーマに近く勝算のあるコンペティションを選んで応募しているのが、結果を出せている要因だと思います」

コンペティションで結果を残したことは、ビジネスにも大きなメリットがあったと渡邉氏は語ってくれた。

渡邉「世界で一番著名な人工知能の国際会議で行われたコンペティションで優勝したときは、ビジネスとしても大きな反響がありました。私達のシステムは全米のクイズチャンピオンのチームにも勝ち、『日本の企業が世界で優勝した』と大きく取り上げられ、その記事を見た企業から多くの問い合わせがありましたね。今では当たり前に使われているチャットボットも、当時はまだ日和見している企業が多い時期で、そういった企業がトライするきっかけになったと思います」

山田「影響が大きかったことの一つは採用です。私達が優勝した記事を見て、優秀なエンジニアからの応募がたくさん集まりました。インターンも優秀な学生が集まって、海外留学にいってもリモートで続けてくれる学生もいます。私達のビジネスは、人的資源にかかっていることもあり、優秀な人材が集まることは何よりもの強みになります」

経営者に求められる「ビジネスと研究の割り切り」

AIは一般の人には馴染みのない技術のため、技術のレベルの高さを判断するのは容易ではない。そのため、多くのAIベンダーがフェアな比較を行うことをせずに、自社の技術を高性能と主張する「言ったもの勝ち」の状態になっていると山田氏は話す。そのような市場環境の中で、どのように他社との差別化を図り、サービスの優位性を示しているのだろうか。

山田「お客さんはAIのプロフェッショナルではないので、技術の質の高さを判断するのは難しいです。だからこそ、コンペティションで自社技術を評価するなどの客観的な評価の機会があると良いと思っています。これまでの実績が今ではいいベンチマークになっています。
とは言え、必ずしもコンペティションに応募することだけがいいとは思いません。自分たちが研究している領域に、該当性の高いコンペティションがあるなら参加してみるのもいいと思いますが、わざわざ開発したいものを変えてまで参加するものでもないと思います」

コンペティションでの実績はビジネスに大きなメリットがあると言いながらも、ビジネスのためにわざわざコンペティションに参加する必要もないようだ。そもそもビジネスと研究は水と油のような関係だと山田氏は続ける。

山田「ミートアップなどにいくと、よく研究者の方に『経営者がすぐに目に見える形で研究の成果を求めてくる』という悩みを聞かされます。ビジネスも研究開発も両方重要ですが、近視眼的な視点で研究をしても、本質的な課題解決につながらず成果にもつながりません。技術的な専門性のない経営者が『なんの役にたつの?』『儲かるの?』と聞いてもあまり実のある議論にはなりません。勉強して技術的な勘所をつかめればベストですが、そういう時間がない場合は、研究成果が自分の認知できないところでビジネス的な価値に還元されることを理解して、意味のあることを楽しく進めてもらった方が良いと思います。日本はエンジニアが起業するケースが少ないので、技術の重要性や勘所を理解している経営者があまりいません。渡邉はそのあたりを理解して、役割分担してくれるので進めやすいです。
Googleは業務時間内の20%を『通常業務とは違う業務』に充てる『20%ルール』を敷いていますが、日本の企業はそういう姿勢を見習うべきかもしれませんね。ちなみにうちではGoogleに倣って『25%ルール』というルールがあります。」

いずれにしても、技術者が自由に研究に没頭するには経営者の理解が必要なようだ。技術系ではない渡邉氏に、エンジニアたちをどのようにマネジメントしているかも語ってもらった。

渡邉研究は研究、ビジネスはビジネスと割り切ることですね。ただし、割り切りつつも同じ会社なので、どこかで調整は必要です。それは楽なことではありませんが、大きな価値があると思っています。経営者の方はまず、技術とビジネスを両輪で回すことを決断しましょう。その上で、どうすればうまくいくのかトライ&エラーを繰り返してください。
特に技術ドリブンの会社はマーケットフィットするまで時間がかかります。その覚悟をしたら、一つのテーマにフォーカスして研究を続けてみるといいと思います。最初は大変かもしれませんが、研究を続けていれば技術は育っていきますし、いずれはグローバルでも戦えるはずです。一番はじめに、覚悟を決めることが何より大事ですね」

ここがポイント

・『コンピュータサイエンス系でグローバルで通用する技術の会社を作ろう』と決めてスタートした
・着想のきっかけは大規模データと自然言語処理が融合される流れになると思っていたこと
・コンペティションに出場すると、開発している技術の性能についての直接的な評価が得られる
・研究開発しているテーマに近く勝算のあるコンペティションを選んで応募している
・コンペティションで結果を残すことは採用にも影響を与える
・研究は研究、ビジネスはビジネスと割り切ることが重要
・何より大事なのは覚悟を決めること


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木光平
撮影:小池大介