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スタートアップは特許とどう付き合うべきか、特許評価AIシステム“AI Samurai”の創業者に聞く

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「特許」よく耳にする言葉ではあるものの、関係職に就いていない限り自分事として捉える機会は少ないかもしれない。

こと製造業やIT業界において知財管理は重要な業務である。技術の核心が外部に漏れてしまえば、容易に同様の製品を作ることができる。多大な研究開発コストをかけた技術でも、盗用されてしまえば投資回収は困難になってしまう。

昨今ではAIやテクノロジーを活用して、様々な業界で業務の効率改善が始まっている。特許出願においてソリューションを提供しているのが、株式会社AI Samuraiだ。

同社は特許評価AIシステムを開発し、データベース上の特許文献を分析することで、調査にかかるコストを最大40%削減することに成功している。同社はこの業界における課題をどう捉えているのか、スタートアップは特許とどう向き合うべきなのか、代表取締役の白坂一氏に話を伺った。

INDEX

20年変わらなかった特許調査のプロセス、AI Samuraiがもたらした革新性
特許は「自らを守る盾でなく、相手を攻撃する剣」と考える
海外で特許を出願するならば、覚えておきたいローカルルール
出願支援を通して日本の産業を底上げしたい
ここがポイント

白坂一
株式会社AI Samurai代表取締役
特許業務法人 白坂 創業者 弁理士
防衛大学校 理工学部卒業。阪神大震災をきっかけに入校、厳しい訓練を受け、軍事戦略を学び、知財戦略と軍事戦略の融合により日本の技術を守ることを志す。
その後、横浜国立大学院 環境情報学府メディア環境学専攻にて、AI技術による画像処理の研究を行い、修了。富士フイルム株式会社 知的財産本部に在籍し、知的財産の創出・取得・活用業務に従事し、東日本大震災後、すぐに白坂国際特許事務所(現特許業務法人白坂)を設立。

20年変わらなかった特許調査のプロセス、AI Samuraiがもたらした革新性

そもそも特許とはどのようなプロセスを経て登録されるのだろうか。
発明が生まれ特許の出願を考える場合、一般的に発明家や企業は弁理士に相談する。それは発明の新規性を確認し、特許を通しやすくするためだ。弁理士は出願前に既存特許の文献をあたり、「新規性が足りない」と判断すれば機能改善などのアドバイスを行う。出願された特許は特許庁で調査され、「前例がない」と判断されてから権利が付与される。この時に行われる弁理士の事前調査プロセスは20年間変化がなかったようだ。

出典:特許庁「初めてだったらここを読む~特許出願のいろは~」

白坂:既存特許はデータベース化されていますが、検索機能の発達が遅れていて、キーワードを入力しても候補文献が数百件出てしまいます。弁理士はこれをひとつずつ目視で確認していました。

AI Samuraiを使えば、データベースに10万件の特許が有ったとして、従来1週間かかっていた確認作業を10秒程度で行うことができます。さらにAI Samuraiでは、単に類似文献を提示するだけでなく、該当文献のどこに類似内容が記載されているのかも提示し、特許庁の審査官さながらの判定を出すことが出来ます。

調査にかかる時間とコストを圧縮できるなら、多くの弁理士が喜んでプロダクトを使うはずだ。しかし、リリースしてみると市場から意外な反応が返ってきた。

白坂:あまりにスピーディなので、サービス利用者となる弁理士の方々から「見落としている文献があるのでは?」という意見が出て、導入がスムーズにいかないことがありました。ITプロダクトが陥りがちな課題ですが、業界の慣例を考慮せず、革新的にやりすぎると抵抗を感じてしまう人は多いと思います。課題を解決するためには、専門家と非専門家に分けた機能のチューニングが必要です。

AI Samuraiでは、特許の取得調査結果はABCD評価(Aは最も取得しやすい。Dは最も取得しづらく、補足点が指摘される)で表示しています。感覚的には全員「A」の評価を好みそうなものですが、面白くて、発明家や企業からは「A」の評価が好まれ、専門家からは「D」の評価が好まれます。専門家は「D」が出ることで初めて、正しく調査が出来ていると捉えるのです。

マーケティングのイノベーター理論で論じられているように、イノベーターやアーリーアダプターの数は限られている。革新的なプロダクトを投入する際は抵抗が起こらないよう、受け取る側に合わせたチューニングが必要なのだろう。

特許は「自らを守る盾でなく、相手を攻撃する剣」と考える

読者諸氏の中には知財管理に課題を感じている方もいるだろう。実を言うと、白坂氏は長らく弁理士として活動し、もともと自らが創業した特許事務所も構える専門家だ。ここからは、スタートアップが特許とどのように付き合えば良いのかを伺っていく。

白坂:知財分野で中小企業やスタートアップが巻き込まれがちな被害として、「企業同士の協業の際に独自技術を真似されてしまう」「仲間割れから類似サービスの競合が生まれてしまう」などのケースが考えられます。そういう場合、特許を保有していれば不利益を避けることができます。特許は出願から権利の相続までが20年間と言われているので、その間は自身の身を守ることができるのです。

では、特許はどれくらいの粒度のものに付与されるのか。これはビジネスモデルによって結果が異なります。既存の技術ベースが存在する発明の場合は、異なるテクノロジーのエッセンスが入っていないと付与されないことが多いでしょう。たとえば、すでにサービスとして存在するチャットツールなどを他の業界・分野に流用する場合は許可されません。一方、ブルーオーシャンの分野ではコンセプトだけで付与されるケースもあります

いずれにしてもケースバイケースですが、特許とは自らを守る盾ではなく、相手を攻撃する剣だと考えて欲しい。私たち弁理士には、「特許とは独占権であり、排他権である」という共通認識があります。発明者でなくとも、特許を有していれば後発者を起訴することができます。攻撃されないためには先手を打つこと。ベースアイデアの特許を取り、護身用の武器を調達しておくことが重要です。

他者が攻撃に利用することを防ぐ意味合いで、先に特許は取得した方がいい。一方で、白坂氏は出願の数は抑えておいた方が良いとも話す。特許出願には費用がかかり、回を重ねるほど経営資源を圧迫してしまうからだ。

白坂:過去には特許出願にお金をかけすぎて財政破錠してしまう企業もありました。「スタートアップ」という言葉はある種、魔法の言葉です。実態は零細企業と変わらないのに投資を重ねてしまっては、経営資源が無くなってしまいます。第一に商標、次に特許の取得を優先して、ハンドリングはバランスよく行った方が良いでしょう。

身を守る武器は必要だが、揃えすぎてもいけない。そのバランスは素人目には判断しづらいものだ。最近ではこのような事情に対応するために「CIPO(知的財産最高責任者)」を置く企業も増えている。知的財産がビジネスの主軸に置かれている企業ならば、専門家に助力を頼んでも良いかもしれない。

海外で特許を出願するならば、覚えておきたいローカルルール

昨今のグローバル市場を鑑みると、海外市場を強く意識するスタートアップもあるだろう。海外で特許出願を考えている起業家は、何に気をつければ良いのだろうか。

白坂:特許取得の基本的な基準は同じですが、各国にはローカルルールがあります。たとえば、米国の場合は国内で特許を取得すると、初めての商品は米国内で出さなければいけません。また、インドでは特許取得後に製品の発売を報告しなければいけない。このように各国のルールを把握しなければ、トラブルに巻き込まれてしまいます。米国の訴訟社会は有名で、数百億円の賠償金が命じられることがあります。中国でも賠償金は高額になりがちなので、環境を考慮した知財戦略が必要です。

一般的に、多くの企業はまず日本で特許を出願しています。幸い、海外で1年以内に出願すれば、出願日を日本と同じにしてくれる国もありますので、国外事情に詳しい専門家に相談してみると良いでしょう。

また、ここでもコストと経営資源のバランスはしっかりと考慮したい。外国の弁理士を雇った場合、1件あたり100〜200万円、多い時は300万円程の費用が必要になることもある。トレードオフとなるので、ビジネスモデルと特許の関係性を鑑みて判断しよう。

出願支援を通して日本の産業を底上げしたい

海外と日本のルールの違いは先に述べられたが、規模で見ても大きな違いがある。現在の出願数は中国が首位となり、日本は大きく差をつけられている状態だ。

白坂:2002年には小泉首相が知的財産立国の方針を立てましたが、その時の日本は米国に次ぐ世界2位でした。近年では、日本で約32万件、米国は約60万件、中国は約150万件の特許が出願されており、日本は中国に大きく差をつけられてしまいました。特許の件数は、産業の成長と関係しています。いずれは中国の産業に日本は追い越されてしまうでしょう。

また、日本の特許出願割合を見ると、中小企業が15%、その他はエクセレントカンパニーで占められています。もし大手企業が海外に買収されると、日本の出願件数は大きく減ってしまい、日本全体の知的創造活動が衰退してしまうかもしれません。

この課題に対し、同社は特許評価AIシステムを用いて解決法を提案しようとしている。

白坂:チャットツールが登場してからレスポンスが早くなり、やりとりが活性化して、仕事の量が増えましたよね。発明も同様に、評価時間が短縮されれば壁打ちが早くなり、発明創造のスピードも上がるはず

つい最近、AI Samuraiはスタートアップ向けのスモールプロダクトをリリースし、安価に製品を使えるようにしました。また、今後は評価だけでなく、発明の提案や書類作成もサポートしていきたい。AIが発明を提案し、仮書類を作成できれば、出願者の手間やコストを削減できます。いずれはゲーム感覚で、例えば子供であっても特許を出願できるまでにしていきたいです。一連のシステムが実現すれば、アイディアのバリエーションが広がるはず。

思うに、近年では技術の革新性が落ちていると感じています。ITは大きく発達しましたが、月に気軽に行ったり、新幹線が5倍速になったりなど、飛躍的な発展は起きていません。特許がもっと出願されるようになり、技術革新が進めば、本当の意味でイノベーションが起こせるでしょう。AI Samuraiは、プロダクトを通して日本の技術力を底上げしていきます。

白坂氏が話した通り、特許は自らの身を守る護身用の剣になる。スタートアップの経営は困難の連続だが、武器があれば心強いだろう。ハプニングは思わぬところから発生するものだ、もしかしたらあなたの会社も攻撃を受けてしまうかもしれない。「もしも」に備えて特許で身を守る心構えが必要かもしれない。

ここがポイント

・特許に限らず、業界の慣例を考慮せず、革新的にやりすぎると抵抗を感じてしまう人は多いため、専門家と非専門家に分けた機能のチューニングが必要
・スタートアップが巻き込まれがちな被害は「企業同士の協業の際に独自技術を真似されてしまう」「仲間割れから類似サービスの競合が生まれてしまう」などがある
・「特許とは自らを守る盾ではなく、相手を攻撃する剣」攻撃を受けないためにベースアイデアの特許を取り、護身用の武器を調達しておくことが重要
・まずは商標、次に特許の取得を優先して、ハンドリングはバランスよく行った方が良い
・特許は国によって違い、各国のルールを把握しなければ、トラブルに巻き込まれることがある
・特許がもっと出願されるようになり、技術革新が進めば、本当の意味でイノベーションが起こせるはず


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木雅矩
撮影:戸谷信博