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”周囲の巻き込み”でSDGs は広まっていく。三菱地所でのSDGs推進の秘訣は「なぜ必要か」提示し続けること

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近年、新聞やニュースで目にする機会が多くなった「SDGs」。2015年の国連サミットで決められた、国際社会共通の目標だ。貧困・環境問題・ジェンダー・働き方の向上など2030年までに達成すべき17の目標が掲げられ、各国の政府が達成に向けて動いている。

最近では企業へのESG投資が意識されるようになり、SDGsを経営計画に盛り込む組織や専任部署の立ち上げケースも増えている。今後、この動きはますます加速していくだろう。

社会的な関心が集まる一方で、飢餓や貧困、環境問題などの社会課題は、一企業ではアプローチが難しい壮大すぎるテーマだと捉えられがちだ。「SDGsを推進する部署を立ち上げることになったけれど、どこから取り組めば分からない」と悩んでいる担当者も多いはず。

企業はどのようにSDGsに取り組めば良いのか? そのヒントとして紹介したいのが三菱地所、農林中央金庫、日本経済新聞社及び日経BP等が実行委員会形式により進めるプロジェクト「大丸有 SDGs ACT5」と、その一環で開催された「大丸有SDGs映画祭2020」だ。この映画祭は三菱地所のサステナビリティ推進部等のメンバーが企画運営を担当している。

サステナビリティ推進部に所属する長井頼寛氏と、エリアマネジメント企画部の田口友子氏から、イベント発足の経緯やSDGs への取り組みについて語ってもらった。

長井頼寛
三菱地所株式会社 サステナビリティ推進部 副主事
2013年 三菱地所株式会社に入社。
住宅開発事業に従事し、用地取得から企画、販売までを経験した後、
2017年より現部署へ移動。
ESG情報開示やSDGsに関連する様々なPJ運営を経て、
2020年5月に大丸有SDGsACT5を立ち上げ、事務局長を務める。

田口友子
三菱地所株式会社 エリアマネジメント企画部 副主事
2014年、株式会社三菱総合研究所に入社。
同社の研究員として全国の都市・地域政策の策定や官民連携プロジェクトの立案に携わる。
2018年10月より同社の人材育成制度の一環で三菱地所に出向。
食農、ヘルスケア、SDGsなどの幅広いテーマで大丸有エリアのエリアマネジメント業務を担当。

INDEX

最初は情報発信から。「きっかけ」を作ることがSDGs活動に繋がる。
社内の理解を得るために。他の部署や企業をどのように周りを巻き込んだのか
「なぜSDGsに取り組まなければいけないのか?」疑問をクリアにすれば持続可能な活動になっていく
みんなでやるからSDGsは進む。ボトムアップ型の活動を目指して

最初は情報発信から。「きっかけ」を作ることがSDGs活動に繋がる。

ーーSDGsは一般的に取っ付きづらい活動だと捉えられています。一方で社会的な要請も大きく、「SDGsに取り組まなければ」と考える企業も増えてきました。SDGsに取り組むためには何からはじめたら良いのでしょうか?

長井:まずは、企業活動と親和性の高い分野や関心を抱いたテーマなど、できることから取りかかればいいと思います。当社であれば「産業と技術の基盤をつくる」「働きがいを創出する」「住み続けられるまちづくりを行う」など各企業が取り組みやすいテーマも含まれます。

ーーそんなに身近なことでも良いんですね。

長井:割となんでもありだと思っていて。というのも、ビジネスは困っている人を助け、その対価に報酬をいただくことがベースになっています。世の中のニーズに耳を傾け、価値を提供すれば、SDGsの推進に役立っていることも多いんです。その為には“今、何が起きているのか”を知ることが重要です。
実は映画祭も三菱地所の事業活動に紐づいたものです。三菱地所の事業はビルや建物を建て、誰かに借りてもらうことで成り立っています。街を劇場に見立てて、様々なテーマを発信することで、「この街で働きたい」「この街に住みたい」と思ってくれる人が増えれば、巡り巡って当社の利益に繋がる。だから私たちは積極的にイベントを開いて、街を活性化している。映画祭もその一環なんです。

ーーSDGs映画祭はどのような経緯で開催されることになったのでしょうか。

長井:映画祭は「大丸有 SDGs ACT5」という企業間パートナーシップのなかで行われています。協業したのは農林中央金庫や日本経済新聞社など大丸有エリアの8社。持続可能な都市づくりを目指して7ヶ月間に渡って啓発セミナーや情報発信イベント等を行っています。サステナビリティ推進部はACT5で三菱地所の事務局として活動していますが、大丸有エリアを活用するノウハウは持っていませんでした。だから、イベントは勿論、様々な形で街を活用、発展させてきたエリアマネジメント企画部に協力をお願いしました。

田口:ACT5では、17の目標を都心部のビジネス街ならではの活動であることを踏まえて5つのテーマに再解釈しました。今年は「サステナブルフード」「気候変動」「WELL-BEING」「ダイバーシティ」「コミュニケーション」を設定しました。映画祭はそのなかで「コミュニケーション」を担っています。

社内の理解を得るために。他の部署や企業など、どのように周りを巻き込んだのか

ーーなるほど、企業間の大きな枠組みのなかで生まれたイベントなのですね。SDGsはどれも大きな目標なので、部署や会社組織を越えて連携し、各々の強みを活かしていくことが重要だと思います。ACT5 のように周りを巻き込んでいくためにはどうすれば良いのでしょうか?

長井日頃から「この分野なら、この部署のこの人に」と巻き込めそうな人を探し、関係を作っておくと、スムーズに事が運ぶと思います。大きな企業だと大組織ならではの難しさもありますし、キーマンに動いてもらわないと話が進まないこともありえますよね。ただ、探すと意外とSDGsに近い仕事をやっている人もいると思うので、そういった人を巻き込めると良いと思います。

田口:SDGsは社会課題に根ざした活動なので、俗人的な要素も多いと思っています。「〇〇を解決したい」と熱意を持つ人は自然と周りを巻き込んでくれる。思いを持つ人に参加してもらうことで、活動が加速していくと思います。

ーーとはいえ、思いを持つ人はなかなか見つけづらいものです。その場合、どのように活動を広げていけば良いのでしょうか。

長井:そうしたら、「とりあえず一回やってみましょうよ」と強引に巻き込んでしまっても良いと思います。そこから思いを持つ人が現れ、次のアクションを起こしてくれるかもしれない。接点がなければ、課題感も生まれません。

田口:ACT5 でも、5月の立ち上げ当初は関わる人が少なかったんです。でも、徐々に周りを巻き込み、活動を報告し続けたら、6月頃から他の部署が「うちも参加したい」と声をかけてくれるようになりました。まず動き出して、地道に情報発信していけば、人のつながりが広がっていくはずです。

「なぜSDGsに取り組まなければいけないのか?」疑問をクリアにすれば持続可能な活動になっていく

ーー大丸有SDGsACT5の事務局として活動しているサステナビリティ推進部ですが、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

長井:もともと三菱地所はCSR活動として環境問題に取り組んでいて、環境・CSR推進部を中心に活動を推進していました。
その後、企業の社会貢献が世の中からより強く求められるようになり、今では企業価値をはかる基準にもなっています。環境・CSR推進部は社会課題の解決をより企業経営に組み込んでいけるよう、2019年にサステナビリティ推進部へと名前を変え、取り組みを深化させていきました。
サステナビリティ推進部は機関投資家との対話機関の側面も持っていて、全社の活動データを集約し、サステナビリティの観点から発信しています。近年では投資家が企業にESG(企業の長期的な成長や社会的影響を測定する3つの指標、「環境」「社会」「コーポレートガバナンス」の頭文字をとったもの)のデータを求めることが多くなってきました。このデータを用意するのがサステナビリティ推進部で、部として存在する意義になっています。

ーー企業のSDGs活動は短期的に収益が発生するものではないので、「なぜ部署が存在するのか」と問われがちです。しっかりと存在意義をつくることはすごく重要ですよね。

長井:営利企業が行うSDGsは、どうしても経営計画の影響を受けてしまいます。本当は社会的意義ありきで活動を続けていくべきですが、予算を確保して活動を持続していくために「なぜSDGsに関わるのか」を経営陣に理解してもらうことが重要です。
サステナビリティにかけるお金は消費者や投資家の信頼を得る手段になり、長期的に企業価値を高めてくれ、持続可能な社会の実現に寄与します。しかし、全ての部署が優先順位の上位に置いてくれるかというとそうではない。部署立ち上げの際も、立ち上げ後も、決定権を持つ人々への働きかけが必要です。

ーー色々と配慮すべきことも多いのですね。一方では、KPI など評価指標の周知や浸透に悩んでいる企業も多いと思います。

長井:各企業で悩んでいる人は多いですね。私たちもサステナビリティ指標をKPIに落とし込み、全社に浸透させるまでに準備期間を含めて約3年かかりました。活動の意義を伝えることはもちろん、「有名な企業がこんなSDGs活動をしていますよ」と先進企業の事例を伝え、他部署を巻き込んで行きました。ここは一足飛びにはいかないので、地道な活動が必要だと思います。

みんなでやるからSDGsは進む。ボトムアップ型の活動を目指して

ーーここで映画祭の話に戻りましょう。9月5日に映画祭は会期を終えました。参加者からはどのような感想が届きましたか?

長井:アンケートでは「普段触れないテーマに触れる事ができ、すごく勉強になった」「来年も映画祭に来たい」など、賛同の声が多数書き込まれていました。満席になる回も多く、このイベントを通してSDGsに関心を抱いた方も現れたと思います。

ーー関心を抱いてもらうことはSDGsの推進につながると思います。今後も様々な人に周知していきたいですね。最後に、来年以降の計画を聞かせてください。

田口:今年はサステナビリティ推進部とエリアマネジメント企画部が社内から協力者を募りましたが、今後は各部署から自発的にアイデアが出たらいいなと思っています。また、来年は大丸有エリアの企業・団体ももっと巻き込んでいきたい。企業・団体の垣根を超えてみんなで活動していけたらと思っています。

ーー中央集権型ではなく、ボトムアップ的にSDGsが行えたらすごく理想的ですよね。長井さんはどうですか?

長井:今年のACT5で多くの人が関われる受け皿を作ることができました。今後も活動に参加してくれる人は増やしていきたいですね。
僕はサステナビリティ推進部で働くなかで、「世の中を変えるためには個々人の意識を変えていかなきゃいけない」と思うようになりました。とある有識者のお話しによるとコミュニティのなかで何かに課題感を持って行動する人が3.5%を超えると、次第に大きなうねりになっていくそうです。企業や政府がSDGsを牽引するだけではなかなか広まらなくて、個々人の自発的な活動が重要です。
映画祭のように関心を持ってもらうイベントも必要ですし、仕事や生活に取り入れてもらうなど、小さなサイクルを生み出す活動も起こしたい。SDGsを広めるために、今後も地道に行動していきたいです。

SDGsは「社会の持続可能な発展」を目指して立てられた。これが実現すれば、多くの人が生きやすい世界に近づいていくはず。関心を抱きながら「どうはじめたら良いのだろう?」と考えている人は、まず一歩を踏み出してみよう。人が歩けば道はできる。後に続く人が現れて、社会を変える大きなうねりになるかもしれない。

ここがポイント

・SDGsは、企業活動と親和性の高い分野や関心を抱いたテーマなど、できることから取りかかればいい
・世の中のニーズに耳を傾け、価値を提供すれば、SDGsの推進に役立っていることも多い
・日頃から「この分野なら、この部署のこの人に」と巻き込めそうな人を探し、関係を作っておく
・思いを持つ人に参加してもらうことで、活動が加速していく
・予算を確保して活動を持続していくために「なぜSDGsに関わるのか」を経営陣に理解してもらうことが重要
・SDGsは企業や政府が牽引するだけではなかなか広まらなくて、個々人の自発的な活動が重要


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木 雅矩
撮影:小池大介