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素材産業のスタートアップが抱える「量産化の壁」を解決する。コンクリートの代替を目指して食品廃棄物を建材や雑貨に変える「fabula」の挑戦

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さまざまな自然資源が枯渇の危機にさらされる現代。人間が消費する資源は、地球環境が1年で生産できる資源の量をすでに上回っていると言われている。今のままの経済活動を続けてしまうと、自然資源が完全に尽きるのも時間の問題だ。

この現状の中で高い関心を寄せられているのが、新素材やマテリアルを開発する素材系スタートアップだ。10社程度しかない国内ユニコーン企業のうち2社が素材開発企業であることからも、その可能性の高さを窺い知れるだろう。

2021年に設立したfabula株式会社も、そんな素材系スタートアップのひとつ。さまざまな食品廃棄物を加工し、新素材へと作り変える事業を手がけている。今回は、代表取締役・町⽥氏にインタビューを実施。素材系スタートアップが直面しやすい問題や、その乗り越え方、fabulaの今後の展望などについて伺った。


町⽥ 紘太
fabula株式会社 代表取締役 CEO
1992年生まれ。東京大学工学部卒。幼少期をオランダで過ごし、環境問題に興味を持つ。大学時代に、生産技術研究所 酒井(雄)研究室の卒業研究で「100%食品廃棄物から作る新素材(特許技術)」を開発。その後、2021年10月に小・中学校の幼馴染と3人でfabula株式会社を設立した。「ゴミから感動をつくる」をビジョンに掲げ、食べられるセメント、床・壁・天板といった建材、皿やコースターといった雑貨など多種多様なプロダクトを生成している。

INDEX

古代ローマ時代から使われるコンクリートも、資源枯渇の危機
「100%」廃棄物から新素材を生み出すことへのこだわり
サステナブル素材の普及につきまとう、「量産化の壁」の乗り越え方
ゆくゆくは、誰もがゴミを再利用したくなる仕組みを作りたい
ここがポイント

古代ローマ時代から使われるコンクリートも、資源枯渇の危機

ーーまずは、fabulaを設立した経緯を教えてください。

町田:私はもともと東京大学の研究室で「コンクリートをいかに減らしていくか」について研究していました。コンクリートは以前から環境負荷の大きさが課題視されており、研究室でもコンクリートの画期的なリサイクル方法を編み出すか、もしくは代替材料を作ることを大きなテーマとしていたんです。その中で私が開発したのが「食品廃棄物から新素材を作る」という技術でした。この技術を活用して環境問題を解決していくべく、小学校からの幼馴染と3人でfabulaを立ち上げました。

ーーそもそも、コンクリートはなぜ環境負荷が高いのでしょうか?

町田:コンクリートは水・セメント・砂利・砂の4つからできており、非常に安価で使い勝手がいいのが特徴です。世界でも水の次に使われている材料で、その歴史は古代ローマ時代まで遡ります。何千年も前から現代まで、ずっと変わらず使い続けられているんです。しかし環境保全の観点では、コンクリートには主に3つの問題があると言われています。

まず1つ目はリサイクルの問題。コンクリートは現在96%ほどリサイクルされていると言われていますが、そのほとんどが道路の下に敷く路盤材としての再利用です。これだと実質的には「ただ埋めているだけ」という状態のため、質のいいリサイクルとは言えません。さらに、日本の道路建設の需要はピーク時の半分ほどにまで落ちているため、路盤材としての利用にも限界が来ているのが現状。新しいリサイクルの方法を見出す必要があります。

2点目は資源枯渇の問題です。セメントの主な原料である石灰岩は国内でも採掘できる鉱物資源なのですが、あと20〜40年ほどで底をつくだろうと推測されています。世界的にその傾向があるため、これまでと同じペースで消費してしまうのは危険です。また、石灰岩だけでなく砂や砂利も足りていません。「砂なんてどこでも採れるだろう」と思うかもしれませんが、コンクリートに使える砂は規格によって限られているため無限に採掘できるわけではないんです。サウジアラビアや中国では砂の輸出を禁止していたり、インドネシアでは採掘のしすぎで島がいくつか消えてしまったり、日本でも海岸線が削られて漁港が潰れそうになったり……と、各地で砂不足が深刻化しています。

3点目は作る際にCO2が発生するという問題です。セメントの製造には「石灰岩を高温で焼いて中に含まれるCO2を飛ばす」という工程が不可欠なため、どうしてもCO2が発生してしまいます。さらに、高温で焼くために大量の化石燃料も使用しなければなりません。その結果、全産業で排出されるCO2のうち、4番目[1]に高い約8%をセメント産業が占めてしまっているんです。

このようにコンクリートをとりまく課題はとても多いため、作り続けるわけにはいきません。そこで研究がスタートし、東京大学発スタートアップとしてfabulaが誕生しました。

「100%」廃棄物から新素材を生み出すことへのこだわり

ーー先ほど「石灰岩は枯渇している」と仰っていましたが、他のスタートアップなどでは石灰岩を「豊富にある資源」と位置付けて新素材を開発していますよね。矛盾が生まれているように見えるのですが、これはなぜですか?

町田:石灰岩に関する話題は、どこからアプローチするかによって論点が変わります。プラスチックの使用を減らすことを目的とし、「石油由来樹脂の代わりに石灰岩を使うことで、環境負荷は大幅に下げられる」という理論をもとに開発を進めている企業はあります。確かに、石油などの化石燃料は作られるまでに約200万年かかる一方、石灰石が形成されるスパンは約2万年と短め。枯渇リスクも石油と比べるとまだまだ低く、世界のどこでも比較的簡単に採掘ができます。そのため(石油に比べれば)豊富な資源という主張も理にかなっているんですよね。

しかし、不動産デベロッパーやゼネコンなどの建設業界側には「石灰岩は希少な資源」という共通認識があるように感じます。私も新素材を作る身として、他の自然資源で代替するのではなく「そもそも自然資源を使わない方法」を探っていきたいなと考えています。

ーー「食品廃棄物から新素材を作る」というコンセプトは非常に新しく面白いなと感じました。その発想はどこから来たのでしょうか?

町田:1番最初は、大学時代に私の指導教官だった酒井先生が「コンクリート瓦礫を使って新しいコンクリートを作る」という研究開発を行っていました。それはコンクリートを圧縮するという方法で、堆積岩に起こっていることを短時間で再現するようなやり方でした。

その次に出てきたのが、廃木材や間伐材をコンクリートに混ぜて熱圧縮した「ボタニカルコンクリート」という素材です。木材に含まれるリグニン(樹皮に多く含まれる、糊のような役割を果たす成分)を熱で溶かし、粒子の間を埋めるという新しい方法で生成されました。これが成功したことで「木材を茶葉に代えても生成できるのでは?」と試したところ、やはりうまくいったんです。それが今の技術に繋がっていきました。

廃棄物を使うことを考えたのは、私がもともと環境問題に強い関心があったからです。新素材を作るために天然資源を使うのは、問題を後世に先送りにしているのと同じこと。持続可能性って何だろう?と改めて考えた結果、廃棄物を原料にできたらいいんじゃないかという結論に至りました。食品廃棄物の課題解決をしながら、コンクリートもいずれ代替していけたらいいなと考えたんです。

ーー素材を生成する上で、技術的にどんな難しさがありますか?

町田:素材を作る際には「食品廃棄物の調達」→「乾燥」→「粉砕」→「熱圧縮成形」→「処理」という工程を踏むのですが、実は1つひとつの技術はそこまで難しくありません。今作っている新素材は、作ろうと思えばホームセンターにあるもので完成させられるくらいなんです。その一方で、それぞれの工程をうまく組み合わせるのは一筋縄ではいきません。食品廃棄物から新素材を生み出すという前例のないことをやっているため、各工程で関わる人や企業との意思疎通が難しいんです。

たとえば、熱圧縮成形を行うのは主にプラスチックや建材を加工する企業。その方に「この砕いた大根を圧縮してほしい」とお願いしても、成形業者は食品を扱ったことがないため「なぜ大根を……?」となるわけです(笑)。そのため「樹脂に例えるとこういう感覚で、こういう金型をイメージしていて……」といった説明が必要になります。また、乾燥業を手がけているのは食品業界か廃棄業界のみ。そのため「白菜を乾燥させたい」と依頼すると「食品として売るの?大腸菌の問題はクリアしている?」といった話題が出てきたりします。このような交渉や説明を同時に行っていくのは、至難の業。ビジネスとしてサプライチェーンを確立するためには、高い能力や技術が必要だと感じます。

サステナブル素材の普及につきまとう、「量産化の壁」の乗り越え方

ーー貴社の現状の課題があれば教えてください。

町田:食品由来の素材で、通常の食品とおなじ様に土に還りやすい特性を残したまま加工することもできるため、引き合いは結構あるんです。1番の課題は量産体制を作ることかなと思います。いかに良い品質のものを、安価で提供できるかという点ですね。正直、今はまだコースターを1枚作るだけでもコストがかさんでしまいます。これを他のコースターと同等の値段で作れるようになったら、相当のニーズが見込めると思うんですよね。

現状としては、ちょうど量産できるよう設備を整えている段階です。たとえば今は、これまで企業から依頼を受けて受注生産していた「ゴルフティー」を量産化しようとしているところ。一度に何十個も作れる金型を製作してコストを下げ、今秋までに自社商品として販売できることを目指しています。

ーーサステナブル製品への注目度は高いため、量産体制が整えばさらに引き合いも増えそうですね。

町田:そうなんです。fabulaの素材は、いろいろな食品を原料にできる発展性の高さが大きな強みだと考えています。実際に「この野菜のこの部分を使えませんか?」なんてお話をいただくことも多いんですよ。

つい最近では、ヴェネチアヴィエンナーレ国際建築展2023に「茶室:ベネチ庵」という建築物を三菱地所設計さん主導のもと出展しました。ジョイントをパスタ、床材をコーヒーで制作し、現地の方々からも素敵なお言葉や驚きの反応をいただきました。このような機会をきちんと次に活かせるよう、量産についての課題はスピード感をもって解決していきたいです。

また建材に関しては、法律への対応も行っていかねばなりません。たとえば壁材として使うには不燃材である必要があるため、その認可を取るなど。少し先ですが大阪万博で当社の素材を使っていただく予定があるため、万博前後をひとつの目安として進めていく予定です。

ーーやるべきことがたくさんあるんですね。建材として活用する場合、今後どのようなものを作っていきたいですか?

町田:fabulaはコンクリート研究から始まったので、将来的にはコンクリートの代替品となれたらいいなと思います。ただ今の時点では、コンクリートの代替品というよりはシンプルに「新しい建材が加わった」という感覚で、いろいろな可能性を探っていきたいです。

建材としての使用は先程お伝えした通り、いくつかハードルがあるため、段階を踏んで展開していきたいと考えているところです。まずは壁や床といった内装での使用を目指しつつ、徐々に柱や梁といった構造的な力を受け持つ部分にまで用途を広げていけたらいいですね。

ーー現状の課題を解決するために、今考えていることはありますか?

町田:やはり目下の課題は量産フェーズにあるので、これを解決できるパートナーを増やせたら嬉しいです。特に大変でコストがかかりやすいのが「乾燥」の工程なのですが、食品乾燥用の機械を持っている茶葉やドライフルーツの製造工場は、稼働する季節が決まっているそうなんです。たとえば茶葉メーカーは新茶を摘み終えた冬場が閑散期だったり、干し柿を作っている工場は秋以外あまり稼働していなかったり……など。情報は持っていてもなかなかアプローチしきれていないので、これから頑張っていきたいです。

また、プロダクト開発を一緒にできるパートナーも探しています。我々は技術はあるものの、モノづくりの発想力には限界があります。toC製品の企画・販売を行っている会社さんなどがいらっしゃれば、「こんな機能を追加しよう」「こんな形の製品があったら人気が出そう」など、たくさんのディスカッションを行いたいですね。

ゆくゆくは、誰もがゴミを再利用したくなる仕組みを作りたい

ーー今後実現していきたいビジョンはありますか?

町田「食品廃棄物の調達」→「乾燥」→「粉砕」→「熱圧縮成形」→「処理」という作業工程を、特定の地域の中で回すことができたらいいなと考えています。たとえば静岡県のお茶工場から廃棄物の茶葉を回収して、製茶会社で乾燥させてもらい、お皿やコップに成形する…など。すると食品廃棄物の輸送コストやCO2排出が削減できますし、自治体の支援も受けやすいはずです。地域内で完結させることで環境的にも、ビジネス面でも、ストーリー的にもメリットが大きいのではないかなと感じます。

ーーそれが実現できたらとても理想的ですね。

町田:今は「自社で作った製品を売る」というビジネスモデルですが、ゆくゆくは「製品を作れる機械を作って売る」なんてこともできたらと考えています。今当社に食品廃棄物を提供してくれている企業も、日々何らかの消耗品を消費しているはずですよね。それをわざわざ購入するのではなく、廃棄物から作れる機械があったとしたら、かなりビジネス的なメリットが出てくるんじゃないかと思うんです。

あとは家庭用のゴミ乾燥機に成形機械をくっつけて、そこでできた製品を有料で譲ってもらうというアイデアもあります。今世界中でSDGsが注目されているので環境問題に対する意識は高い状態ですが、2030年以降は「頑張りましょう」という思想ありきではなかなか進まなくなると思うんです。だからこそ今後は、「ゴミを再利用することにモチベーションを見出せる仕組み」が必要なのではないかなと。もっとラクに楽しく社会問題と向き合えるように、当社も尽力していきたいです。

ここがポイント

・コンクリートは安価で使い勝手がいい一方、「本質的なリサイクルができていない」「資源の枯渇」「CO2排出量が多い」など環境負荷の高さが問題視されている
・fabulaでは、持続可能な社会の実現のため、100%廃棄物から新素材を生み出すことを重視している
・素材系スタートアップがビジネス成長を遂げる鍵は、量産フェーズにある
・2030年以降は環境問題についての意識を醸成するだけでなく、ゴミを再利用したくなる仕組みを作ることが大切


企画:阿座上陽平
取材・編集:BRIGHTLOGG,INC.
文:VALUE WORKS
撮影:阿部拓朗

[1]出典:環境省 2020年度(令和2年度)温室効果ガス排出量(確報値)について
https://www.env.go.jp/content/900445398.pdf