日々の業務内で使用するツールは、組織や個人ごとに異なり多岐に渡る。タスク管理用、議事録用、ガントチャート用、など役割や目的に合わせて使い分けている方も多いのではないだろうか。
「Notion」はそういったメモやタスク管理などを一元化できるオールインワンアプリケーションだ。様々なメモやタスク管理ツールが存在するなか、Notionの特筆すべき点は高いカスタマイズ性。用途が限られていないアプリケーションであるため、企業・個人などの規模を問わず使用でき、課題感ごとに活用方法を変えられる。
ただ、一方で自由度の高いサービスは活用方法に悩み、効果的に使えないことも。今回は、Notionを開発するNotion Labsの日本拠点第一号社員として参画する西勝清氏に、日本企業でNotionを活用するプロセスと効果について伺った。
INDEX
・リモートワーク下で円滑に業務を行うヒントは「ツールの一元化」
・カスタマイズ性の高さを味方に付けるNotion活用法
・コミュニティと共に進めるローカリゼーション
・ここがポイント
西 勝清
Notion Head of Sales – Japan
2020年9月よりNotion日本1号社員として、ビジネスオペレーション全般を担当。大学卒業後、シスコシステムズへ入社。大手企業のグローバル展開プロジェクトに多数貢献。2012年 LinkedIn Japanに入社後、人事向け法人営業部門を統括。2019年 WeWork Japanに入社し、シニアディレクターとして戦略と組織を構築。オランダ・エラスムス大学ロッテルダム経営大学院 MBA。
リモートワーク下で円滑に業務を行うヒントは「ツールの一元化」
アメリカ・サンフランシスコに拠点を置くNotion Labsだが、実は世界のユーザーが1,000万人を超え、日本でも人気を見せている。シンプルなUI、サービスのクオリティが高いこと、細かな作り込みに長けている点などがその理由だ。
現在では、NTTコミュニケーションズやサイバーエージェントなどの大手企業も導入を開始し、すでに組織で活用するフローやテンプレートなども生まれているという。では、実際に企業はどのような導入目的でNotionを選んでいるのか。西氏はこのように話す。
西 「企業によってベストな使い方は異なるので一概には言えませんが、用途としてよくあるのは3種類です。一つは、ドキュメント管理ツールとして。仕様書や議事録など業務に必要な書類をまとめ、共有するためですね。もう一つは、タスクマネジメントツールとして。TODO管理、ロードマップなどの管理です。そして、最後にwikiツールとして。会社のミッション・ビジョン・バリュー、社内規定などの重要情報を一箇所にまとめ、社員が閲覧しやすくするなどを目的とした活用です」
多くの場合、一つの用途のみではなく、これらの使い方を網羅しながら活用しているという。用途が限られたアプリケーションではなく、カスタマイズ次第でどんな使い方も可能な点がそういった多目的な使い方を主流としている。
西 「Notionの特徴は、メモやタスク管理などを一つのアプリケーションのみで行えるオールインワンツールであること。また、カスタマイズ性も高いので、かゆいところに手が届く仕組みを実現し、どんな企業にとってもフィットするツールとしてご提供できているのだと思います」
これまでの導入実績を踏まえると、導入理由として最も挙げられるのは「情報を一元化したい」というもの。特に、リモートワークが珍しくなくなった今の時代では、個々人がアクセスしたい情報にスムーズにたどり着けることが企業の課題として挙げられるケースが多いそうだ。Notionを活用することで社員がどこにいても同じタイミングで同じ仕事にとりかかり、素早く実行することができるようになる。
西 「オフィスに出勤していた今までは、わからないことがあれば隣の席の社員に聞いて解決することが多かった。ところが、今は自分のみで解決しなければならない課題や不明点が発生することもあるはずです。用途ごとにツールが分かれていると、そういった情報の検索・シェアにも時間がかかってしまいます。これが全社員で起こると生産性はかなり落ちます。Notionにすべての情報が集約されているだけで日々の業務効率はグッと向上するように思います」
カスタマイズ性の高さを味方に付けるNotion活用法
Notionが打ち出す強みの「カスタマイズ性が高い」ことは、場合によっては弊害と捉えられることがある。なぜなら、活用方法が多いあまりに使いこなせないと感じられてしまうからだ。そこで、今回は西氏に実際の使い方をレクチャーいただいた。
西 「Notionは、チームが必要とするものを自由に作ることができるので、他のツールとは一線を画しています。Notionは、コンピュータに慣れ親しんだ新しい世代の人々のために、非常に直感的に使えるように設計されています。人々は自分のニーズに合わせてツールをカスタマイズできることを期待しています。多くの単目的ツールを使って仕事をこなすという世界は、もはや薄れつつあると考えています。例えばこれはチームWikiの例です、Notionのトップページをこのようにカスタマイズしたとします。この場合、左の列“チーム”では業務や組織に関する情報がまとまっていることがわかります。朝礼や夕礼などで話すようなニュースをまとめたり、チームの目標をまとめたり。
一方、右の列“ポリシー”では、直接的な業務には関係ないが組織の中で働く上で知っておくべき情報がWikiのようにまとまっています。福利厚生やオフィスの利用方法などは、多くの企業で属人化した知識になってしまっている場合もありますよね。このように置き場所を設けることで誰でもスムーズに情報へとアクセスできるようになるのです。これらの作業はITに詳しくない方でも自由に簡単に設定可能です」
西 「次にプロジェクト管理の例を見ていきましょう。プロジェクトが複数個、同時並行して進んでいた場合には、プロジェクトごとに進捗がわかるようタスク管理に最適なカスタマイズを施すことができます。
この例の場合は、左から順に開始前・実施中・完了とステータスが並んでいるので、タスクの進捗が一目でわかります。また、各タスク内に担当者やドキュメントを割り振ることができるので、会議の議事録や作業に必要な情報が抜け落ちることもありません。
この例ではタスク管理用の閲覧状態ですが、ガントチャートのようなビジュアルに変更も可能。プロジェクト全体の進行を確認したい場合はそういったカスタマイズがおすすめです。利用するユーザーごとに自分に最も適した閲覧形式や情報の配置を自由に設定することが可能です。もちろん他のチームメンバーの情報も閲覧可能。
すべてのデータがNotion上にあるので、アプリケーションを遷移する必要もなく、シームレスなデータ管理を実現できます。例えばこのプロジェクトの背景や目的を記した資料や議事録、仕様書など、またそれを実行する上での会社のポリシーを参照したいと思った時もすぐに見つけることができます」
西 「最後にご紹介するのは、議事録管理用にカスタマイズした場合の例です。ミーティング名・参加者・内容のタグ付けなどを行うことで、先ほどご紹介したようにタスクと紐付けて、情報をネットワーク化することもできますし、検索なども容易です。議事録情報をタグ付した参加者やタイプ情報によりいつでもフィルタリング可能です。議事録が一覧化できるのも見やすいですし管理の利便性も上がると思います」
実際にNotionを導入した企業では、情報をドキュメントに残す文化が醸成され、情報共有のハードルが下がる効果が得られている。なお、情報共有がスムーズになったことで、業務効率もより一層向上している例もあるという。
西 「日本のユーザー企業からの声としてNotion導入後に議事録などのドキュメント数が5倍になったり、これまでは60%ほどだったアウトプット率が100%になったりと、大きな成果が得られています。また、弊社の別の調査では98%のユーザーが時間の削減につながり、32%がプロジェクトをより早く完遂できた、70%以上が2つ以上のツールをNotionで置き換えることができたと答えています」
情報共有が容易になると、各人がドキュメントを理解していることを前提にミーティングでの議論を展開できるため、認識の齟齬が起きづらく、より深くまでコミュニケーションを取れるようになります。ミーティングそのものが不要になった例や状況確認のミーティングからよりアイデアを出し合う付加価値の高いミーティングに変わったという声もよく聞きます。Notionをワークスペースとして、さらに議論を深める場合はオンラインミーティングで直接会話を行う、という流れが多いようです」
コミュニティと共に進めるローカリゼーション
2021年2月現在、Notionは日本語対応を行なっておらず、英語版のみがリリースされている。英語版のみのリリースで飛躍的な成長を遂げているが、西氏は2021年中を目処に日本語対応を完了することをすでに発表。日本人のサービス活用に至るまでのハードルを極限まで下げ、快適な体験を提供することを目指している。
西 「一言で日本語対応というと、サービスを日本語翻訳するような形をイメージされるかもしれません。ところが、目指しているのはまるで日本企業のサービスかのように使っていただけるような未来。Notionの世界感を維持したまま、日本人にとって快適な使い心地を探して、言葉を置き換えたり、サポート体制を構築したいと思っています。
Notionの誕生の歴史をたどると、実は創業者2人が京都を拠点に開発していた事実に行き着きます。京都のしとやかな文化、土地の雰囲気などに影響されて現在のUI・UXが生まれました。そういった感謝の意も込めて、日本のツールとして感じていただけるサービスとしてNotionをご提供したいですね」
ローカリゼーションの鍵になるのは、日本ですでに誕生しているNotionユーザーによるコミュニティだ。現在は、仙台・新潟・東京・京都・福岡を拠点に地域コミュニティが誕生しており、ユーザー同士での活用法のシェアやイベント開催などが活発に行われている。
西 「Notionをうまく活用できるようにと日本語テンプレートも数多く誕生しているので、初めてNotionを導入する場合は、そういったテンプレートの活用から始めてみるのも良いかもしれません。
また、YouTubeやSNSでNotionの使い方を発信してくださる日本の方もいらっしゃるので、先駆者の声を元に導入してみていただけたら嬉しいです。もちろん、私たちもローカリゼーションに向けて精一杯取り組みたいと思っています」
Notion Labs 創業者のIvan Zhao(アイバン・ザオ)氏は、Notionの成長の理由は「自分たちがプロダクトを愛し、その愛がユーザーにも伝わっていること」と話している。開発者、利用者、すべてのNotionに関わる人々の手によって、今後もNotionは私たちの生活に寄り添うプロダクトとしてさらなる成長を遂げるのだろう。
ここがポイント
・Notionは議事録やタスク管理などを一元化できるオールインワンアプリケーション
・オールインワン、シンプルなUIと高いカスタマイズ性が日本人に受け、現在は世界1,000万人以上のユーザーを抱える
・使い方に決まりはないが、ドキュメント・タスク管理・wikiとしての活用が一般的
・ツールの一元化を行うことで、業務効率が向上した例もある
・今後は日本語対応をメインにローカリゼーションへと注力する構想
企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木詩乃
撮影:小池大介