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「日本のコンテンツとコラボしたい」折り曲がるスマホを開発した中国発スタートアップ、Royole(ロヨル)が日本に進出した理由

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新型コロナウイルス感染症の感染対策のために、多くの人がリモートワークを余儀なくされたが、この状況で業績を伸ばしている企業もある。クラウド経由で様々なソフトウェアを利用できる「Microsoft 365」や「Slack」をはじめ、コロナ禍のなかでオンライン会議の代名詞となった「Zoom」などSaaS企業が一例だ。SaaSを含む、国内のパブリッククラウドサービス市場は2019年で前年比22.9%増の8778億円(*)。年内で1兆円を超えるとも言われている。

*出典:IDC Japan 国内パブリッククラウドサービス市場予測

当メディアでも、SaaSスタートアップに特化して投資と支援をする「ALL STAR SAAS FUND」のマネージングパートナーの前田ヒロ氏にインタビューを行い、国内外のSaaSビジネスの状況を伺った。

本記事では前田氏にZoomミーティングを申し込み、withコロナで起きたSaaSスタートアップの変化や、経営者がアフターコロナのために何をすれば良いのかをインタビューする。

INDEX

withコロナで加速するリモート化
海外の状況はまちまち、インドやインドネシアでは3〜4週の遅れも
アフターコロナの世界を予想、オフィスのあり方と消費行動が変化する
SaaSスタートアップやファンド市場は落ち着きを見せる
変化に対応するために、3年間は同じ状況が続くと想定する
マネジメントは“コミュニケーション”と“スピード”を重視する
ここがポイント

前田ヒロ
日本をはじめ、アメリカやインド、東南アジアを拠点とするスタートアップへの投資活動を行うグローバルファンド「BEENEXT」マネージングパートナー。2010年、世界進出を目的としたスタートアップの育成プログラム「Open Network Lab」をデジタルガレージ、カカクコムと共同設立。その後、BEENOSのインキュベーション本部長として、国内外のスタートアップ支援・投資事業を統括。2016年には『Forbes Asia』が選ぶ「30 Under 30」のベンチャーキャピタル部門に選出。世界中で100社を超えるスタートアップに投資を実行。投資実績は、SmartHR、Kurashiru、Qiita、WHILL、Viibar、Instacart、Slackなど。

withコロナで加速するリモート化

コロナショックはいつ収束を迎えるのか、人的・経済的被害はどれくらいの規模になるのか。まだその答えは出ていない。しかしながら、人々の行動や価値観はすでに大きく変化を見せている。前田氏はコロナショックの影響をどのように捉えているのか。

前田コロナ禍で最も変わったことは、人々の「価値観」です。「優先順位」と言い換えても良いのですが、人と人との距離が離れることで、今まで大事だと思っていたものが、それほど大事ではなくなってしまった。
たとえば、僕自身がそうなのですが、ほぼ全てのミーティングがオンラインになった方もいますよね。この変化で「物理的に対面しなくてもコミュニケーションできる」と気づいてしまった人は多いと思います。
僕もコロナ以前は直接会うことが重要だと思っていて、初めての人にはできる限り対面で会うようにしていました。しかし、オンライン会議が当たり前になると、Zoomで言いたいことは伝わるし、信頼関係の構築や高度な連携もできることに気づいてしまった。周りを見ても、そう感じている人は多いと思います。
さらに言えば、オンライン会議が当たり前になると、移動などがいらなくなることで「話すこと」に対する精神的なハードルが下がります。現に、僕もwithコロナになってからミ―ティングの時間が倍になりました。

さらに前田氏は、「業界・職種を問わずwithコロナへの対応が進んでいる」という。すでに飲食店ではデリバリー対応が進み、多くの職種でリモートワークが取り入れられているが、変化はこれだけではないのだろうか。

前田:全ての業界に共通しているのは、withコロナへのスイッチングです。事業を存続させるために、多くの企業が「何にどう対応し、切り替えるべきか」を模索しています。
飲食業界以外にも、人事・法務・カスタマーサポート・営業など、様々な業種や職種がオンライン化に取り組みはじめました。今後は、オンラインだけで採用や営業、そのほかの業務を行う企業が増え、これらの動きを支援できるサービスが伸びていくでしょう。
僕のファンドの投資先は全てSaaSですが、オンライン化を支援するSaaSはここ数ヶ月で需要が伸びています。投資先でもあるSmartHRを例を挙げると、この春にSmartHRを導入しているとあるお客様の新入社員、200名ほどのオンボーディングをオンラインで完結させました。カスタマーサクセスやセールスを支援するSaaSも成長していて、すごくカオスで、変化が激しい状況だと思います。

コロナショック以前、リモート化やDXは「やるべき」ことで、緊急度は高くなかった。しかし、コロナショック以降は緊急かつ重要度の高い事案になっている。収束時期が見えないなかで、この動きは益々加速してくだろう。

海外の状況はまちまち、インドやインドネシアでは3〜4週の遅れも

ここまで国内の状況を聞いてきたが、海外ではどのような変化が起きているのだろうか。

前田:これは国によって感染のフェーズが違いますので、その点を考慮しなければいけません。
アメリカの場合、4月20日前後が感染のピークで、ロックダウンもしていたしカオスな状態でした。そのなかで、経済ではなく医療や生存が優先順位の上位に置かれていた。現在(4/27時点)はある程度落ち着いてきたので、「これからどうやって経済を回していこうか」と切り替えのフェーズに入っています。
一方、インドやインドネシアはこれから。感染者数を見てもアメリカの3〜4週間後にピークがやってきます。今後混乱がやってくるので準備するフェーズです。
日本は独特というか、感染対策もそうですし、できる限り経済を回しつつ収束させる方針ですよね。僕の投資先のSaaS業界に限って言えば、商談件数や受注件数を見ても、思ったより減少していない場合もある
日本は欧米レベルで感染者が爆発的に増えてもいないし、減ってもいないので、政府もコロナの打撃がどれくらいなのかを見極めている最中だと思います。

今回の災禍のなかで、命と経済はトレードオフの関係にある。感染爆発の第一波は落ち着きを見せているが、今後第二、第三の感染爆発が起こる可能性も考えられる。日本政府の判断が吉と出るか凶と出るかは、まだ答えが出しづらい状況だ。

アフターコロナの世界を予想、オフィスのあり方と消費行動が変化する

前段ではwithコロナの変化を伺ったが、次は収束後の変化を聞いてみよう。アフターコロナの世界はどのように変化しているのだろうか。

前田:withコロナからアフターコロナにかけて、どのような習慣が定着する・しないかは面白い議論です。
僕はこれを機にDXが加速すると思います。オンプレミス環境の企業がクラウドを導入し、業務効率化が進んで、働き方がさらに変わっていくはず。
コロナ収束後には、リモート体制を残す企業も出てくるでしょう。僕の投資先も「リモートを残してもいいのでは」と検討しています。もちろん、対面でなければ築けない信頼関係もありますから、オフィスはなくならないと思いますが、あり方は変わるかもしれません。
オフィスの存在意義が、今までの「仕事を進める場所」から、「コラボレーションの促進」や「メンバーの団結を育む」、「情報共有を促す」などに変わっていく。目的によってオフィスの設計は変わりますから、空間設計も変化していくはずです。

前田氏は、オンライン経由の消費も定着するのではと話す。

前田:コロナ禍の影響と対応は中国が2〜3ヶ月先を進んでいて、現在はライブ配信やオンラインショッピングの需要が伸びています。オンライン消費は便利で安全なので、収束後も全世界で残るはず。
今回の件で、今まで「できない」と言い訳していたことがやらざるを得ない状況になり、できるようになってしまいました。そういう意味では、より現代らしい方向に社会が変わっていくのでは、と思いますね。

SaaSスタートアップやファンド市場は落ち着きを見せる

ここからはよりミクロな領域、すなわち前田氏の専門分野である、ファンドやSaaSスタートアップの変化を伺う。世界経済の冷え込みが予想されるなか、ファンドマネーは今後どのように動くのか。

前田:いつ設立したかで、ファンドの動きは大きく変わると思います。2年がひとつのボーダーで、設立2年以内のファンドだとまだ資金に余力があるし、新規投資をやらなければいけません
逆に設立2年以上のファンドはそんなに焦って投資する必要はないと思います、ある程度ポートフォリオが固まってきているので、投資先に自信があれば現状のままでいい。
国内では去年新しく組まれたファンドは多いので、それらのファンドは動かざるを得ないと思います。僕らも去年6月に設立したばかりなので、新しい投資先を探しています。

近年のスタートアップエコシステムは右肩上がりで、新規参入を果たしたVC・CVCは多い。前田氏は「設立2年」をボーダーにしていたので、資金調達について大きな冷え込みはなさそうだ。ではバリュエーションや市場環境はどのように変化していくのだろうか。

前田:見ている限り大きな変化はありませんが、コロナ禍が長期化すればインパクトは大きいと思います。年末のバリュエーションは大きく変化していると思いますし、例年より安めになっているかもしれません。
少なくとも、フラットラウンド(企業評価額が直近のラウンドと同じ)は多く発生すると思います。ダウンラウンド(企業評価額が直近のラウンドから下がる)も発生する可能性はありますが、経営者や従業員のモチベーションが下がり、モラルも低下するので、避けようとするVCは多いでしょう。
日本のスタートアップ市場はここ数年好調でしたが、コロナショックを機に落ち着いた評価になっていくはずです。

近年のスタートアップはバブル状態で、資金調達はしやすく、大型IPOも続出していた。コロナショックを機にその勢いは減速しそうだ。ファンドやスタートアップにはより堅実な行動が求められる。

変化に対応するために、3年間は同じ状況が続くと想定する

コロナショックが起きてから、状況の見極めや対応に奔走していた人は多いはず。ここで気になるのは、変化にどう対応するか。コロナショックの渦中にある私達にはどのような動きが求められるのだろうか。

前田:投資先には「最悪を想定してほしい」と伝えています。収束の目処が立っていないので楽観視せず、最悪3年間は同じ状況が続くことを想定した方がいいでしょう。
withコロナで事業を成功させるためには、プロダクト設計・組織運営・採用・マネジメント・セールスなど企業内のすべての職種において幅広い対応が必要です。なぜなら、事態が長期化した際にどのようなニーズが伸び、各業界で働き方がどうなるのかを考えなければ的外れなものになってしまいうからです。
組織運用の面では、フルリモートの企業はその状況がしばらく続くと考えた方が良いでしょう。現在、様々な企業が経営・マネジメント・採用・社員教育などを全てオンラインで完結させようと試みています。セールスもしかりで、対面営業がやりづらくなりました。初期提案から商談・クロージングまでオンライン対応が求められるようになっています。
しかしながら、お客さん側も同様の危機感を抱いていて協力的なので、良い結果が見え始めています。

また、前田氏は「これからのビジネスには共感力が求められる」と言う。

前田:コロナ禍の特徴は、経済への影響が平等でないことです。異なる業種・業界に対してペインを共感しなければ、適切なプロダクト設計やセールスができません。
たとえば、飲食・ホテル業は大打撃を受けていますが、食品製造・物流・eコマース・製薬業には追い風になっている。特に食品製造・物流業は人が対面しなければ進まない仕事です。内部では従業員の安全性が最優先の事項になるでしょう。withコロナのビジネスには業界・職種ごとに異なるペインやニーズへの共感が必要です。そのニーズを汲み取れるサービスは伸びていきます。
同じ業界内でも細分化はできて、たとえばコールセンターの顧客は証券・eコマース・人材などに分けられるので、異なるサポートが必要です。製造業でも、食品製造なのか、自動車製造なのかで支援内容は異なります。導入ハードルの設計やサポートなど、これまで以上に細かな気配りが求められると思います。
もし、共感力が足りない場合、顧客ニーズを捉えられずプロダクトは刺りません。コロナショックが引き起こす不景気は、顧客のコスト意識をより慎重なものに変えるでしょう。導入を検討してもらえるか否かは、共感力にかかっています。
共感力を磨くためには、異なる業種・職種の仕事をできるだけ詳細にイメージしてみましょう。「自分がもし担当者だとしたらどのような課題が発生するか」ご自身とお客さんの立場を逆転してみればニーズが見えてくるはず。

コロナショック以降、経済は冷え込み、企業の財布の紐は固くなっていくかもしれない。業務効率化などにつながるSaaS企業は不況下でも求められていくはずだが、この流れに乗れる企業と乗れない企業は分かれていくのではないだろうか。

マネジメントは“コミュニケーション”と“スピード”を重視する

インタビューのなかで前田氏はマネジメントについても言及していた。特にフルリモート体制を敷く企業にはコミュニケーション頻度の向上が求められるという。

前田マネジメントにおいては、コミュニケーションの量を2倍にすることを意識してください。月一回の月例会を2回にする、2週に一回の1on1を週一回にするなどを心がけましょう。
これは、リモートワーク下では会話の頻度が極端に低下するからです。交流と情報交換はチームワークを円滑にします。放っておいてはチーム維持に齟齬が生じてしまうので、交流頻度を高めなければいけません。
相談もしづらくなりますので、メンバーとマネージャーをはじめ、メンバー同士が相談しやすい環境を整えてください。

コミュニケーションの頻度のほかに前田氏が重視しているのが、対応の速度だ。平時からビジネスにはスピード感が求められるが、コロナ禍ではより一層の速度が必要だ。

前田: SmartHR は4月28日に「入社手続きをテレワークで」と題したCMを公開し、電車の中吊り広告も展開しています。特筆したいのはスピード感です。テレビCMは発案から20日間で出していますし、中吊り広告は10日間で公開しています
今、出社しなければいけないけれど、本当は出社したくない人は多いと思います。そうした方々にこの広告は響くし、メッセージ性も強い。将来的に「SmartHR を導入しましょう」と上司に提案する人も増えるでしょう。
このスピード感は多くの企業に真似していただきたい。伸びる企業は変化に対応するスピードが早いものです。決断が早いから先行者ポジションが取れ、マーケットで優位に立ち回れます。
SmartHR以外には、AI チャットボットでコールセンターの業務効率化を行う「KARAKURI」や、企業の法務サポートを行う「Holmes」はリモート化との相性もよく、決断も早いので今後伸びていくと思います。

進化論を唱えたダーウィンは「最も強いものが生き残るのではなく、変化に最も対応できるものが生き残る」と言った。コロナ禍という近年稀に見る変化のなかでは、対応力だけでなく、速度も重要なのだろう。

最後に、前田氏から読者に向けたメッセージを伺った。

前田コロナ禍は必ずどこかのタイミングで収束します。光は見えているので、アフターコロナに向けてどのような準備ができるかが問われます。withコロナにしか適用できないビジネスアイデアは弱いですし、アフターコロナに世界や経済がどうなっているか予想できなければ企業の成長は見込めません。
ここ1〜2ヶ月は混乱に対応することが求められました。コロナ禍の第一波は夏〜秋には落ち着いてきてくると思います。さらなる成長を望むためには今から準備が必要です。
多くの人が予想もしなかった事態ですし、苦境に立たされている人も多いと思います。しかし、希望を持って、この災禍に対応していきましょう。

ここがポイント

・コロナ禍で最も変わったことは、人々の「価値観」
・SmartHRを例にすると、SmartHRを導入しているお客様の新入社員、200名ほどのオンボーディングをオンラインで完結させている
・投資先のSaaS業界に限って言えば、商談件数や受注件数を見ても、思ったより減少していない場合もある
・アフターコロナにかけてDXが加速すると予測
・設立2年以内のファンドは、今後も新規投資を行なう
・マネジメントは“コミュニケーション”と“スピード”を重視する
・これからのビジネスには共感力が求められる


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木雅矩
撮影:小池大介(一部除く)