日本は、人口減少時代に突入している。日々の生活からその変化を実感することは難しいが、これまでに経験したことのない変化が訪れることは確実だ。この大きな波に飲み込まれるのではなく、新しいことにチャレンジする姿勢「未来創造マインド」で、社会の変革を先導したい。今回は、人口減少が急速に進む未来について考えてみよう。
INDEX
・日本の年齢の中央値は48.4歳
・世界に先駆けて課題に直面する日本
・完全に潮目が変わった
・AI・ロボットを使い倒す
日本の年齢の中央値は48.4歳
「48.4」という気になる数字がある。この数字は2020年における日本の全人口の年齢の中央値で、48.4歳は世界一高齢だ。これは48歳以上が、人口の半分以上ということを示している。高齢化社会とはよく言われるが、これほど年齢の中央値が高いとは衝撃的だ。国連の人口推計では、今後さらに日本の年齢中央値は上昇し、2060年には55歳を超える予測になっている。もちろん長寿は良いことだが、48歳は現在の日本社会の中ではまだまだ若造ということになる。実際、大企業や官公庁、大学や研究機関などあらゆる従来組織では、ポストは増えないし、すでにポストが空くのを待つ長い行列が続いている。その結果、若手が活躍しにくい社会になっている。
一方、中国、米国の年齢中央値は日本より10歳若く38歳、インドはさらに10歳若い28歳となっている。当然、若い世代の人口が多い国には勢いがある。新しい技術や斬新なビジネスモデルなど、未来へつながる潮流に敏感なのは若者たちだからだ。デジタルの普及のタイミングが先進国より多少遅れたとしても、アジアやアフリカの若者が多い新興国ではあっという間に広がる。実際、我々が想像する以上に、スマホが急速に普及し、キャッシュレス決済、各種ネットサービスが浸透し、スタートアップもどんどん増えている状況である。
日本にも、かつて年齢中央値が28歳の時代があった。1965年から1970年あたりである。まさに、東京オリンピック(1964年)から大阪万博(1970年)にかけて、高度経済成長時代と呼ばれた期間の真っ只中であった。現在の日本は、成熟した先進国として、高齢化社会の到来という新たな課題を抱えている。あらゆる組織の幹部、リーダーは、若者たちの意見や提案を積極的に取り入れるべきである。そうでないと、世界の進歩に取り残される危険性がある。
世界に先駆けて課題に直面する日本
少子高齢化が進み、人口減少が始まっている日本では、一人当たりの消費が増えない限り、人口が減った分単純に国内の消費が減り、経済は縮小する。これは日本に限った話ではない。国連の人口推移の予測(World Population Prospects 2019, https://population.un.org/wpp/)によれば、世界の人口は、2020年の78億人から2050年には97億人、2100年には109億人に達し、その後、増加率は減少、世界全体が高齢化社会に向かう[1]。豊かな社会で人口が自然減する。人類史上はじめてのことである。日本は、世界に先んじて、今後人類が抱える大きな共通課題に直面しているという訳である。
あらためて、日本の人口推移を見てみよう。西暦1500年から現在までの人口の推移、そして2100年までの予測である。江戸時代は、人口3,000万人強で安定していたと考えられている。明治以降の工業化、近代化で、人口は一気に右肩上がりとなる。途中、第二次世界大戦で一時的に人口が減少することはあったが、150年間ほぼ一直線に伸びている。経済の側面では、製造業を中心に生産性が向上し、人々の所得が増え、消費が拡大するという好循環になった。日本国民全体が豊かになった。結果的に、人口増加とともに、経済は大きく成長した。
日本の人口は、2008年の1億2,808万人をピークにすでに減少カーブになっており、2100年には、5,000万人を切るかもしれないという予測もある。厚生労働省の発表では、2019年の出生数は86万人となり、1899年の統計開始以来、初めて90万人を割り込んだ。出生率は1.36と下がり、政府の予想よりも少子化が加速している状況である[2]。加えて、このコロナ禍で、2020年の婚姻数、妊娠届出数は前年を大きく下回っており、2021年以降は少子化のさらなる加速が懸念される。
もちろん、少子化対策や移民の受け入れに関する政策など、今後の日本政府の施策や、我々の生活スタイルの変化によって、日本の未来の人口は変わってくる。8,000万人程度で安定化する可能性もある。テクノロジーの進化や子育て環境、我々の意識の変化など予測が難しいが、人口動態は急には変わらないので、課題を直視する必要がある。
完全に潮目が変わった
現状、日本の人口減少のスピードはかなり速い。明治維新からの150年間、人口増加も急勾配だったが、同じかそれ以上の勾配で、日本の人口は減少しつつある。このまま行けば、22世紀には、江戸時代に逆戻りということになる。単に人口が減るというだけではなく、人口構成が江戸時代とはまったく異なる。
子供が減り、高齢者が増え、生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)、いわゆる働く人の割合が、著しく減少することになるのだ。図が示すように、現在でも、働く人2人で、1人の子供もしくは高齢者を支える2対1の割合になっており、すでに高齢化社会は進んでいる状態だ。さらに2060年には、働く人の人口が全人口の約半分となり、働く人と支えられる人(子供、高齢者)の割合は1対1となる。このときの高齢化率(65歳以上の人口の比率)は、約40%にもなる。
今や65歳以上でも多くの人はまだまだ元気に働けるが、それにしても、この数字は少子高齢化の課題の大きさを端的に示している。本来働ける人が、育児や介護に時間を使うことになれば、誰も働けないことになる。極めて深刻な状況だ。人口も経済も右肩上がりに伸びていた状況から、完全に潮目は変わっている。この流れは二度と戻ることはない。
もちろん、健康で元気に長く働けるようにすることも重要なテーマだ。定年を65歳と一律で扱うのも、すでに時代遅れである。経験とノウハウを持ったシニアの方が活躍できる環境づくりもキーとなる。働き方も働く意味も、急速に変わっていく。
AI・ロボットを使い倒す
すでに労働力不足は多くの業種で深刻な問題となりつつある。農業従事者の高齢化や配送のドライバー不足、飲食やサービス業・介護分野などの人手不足といった課題が、メディアでもたびたび取り上げられている。人口の右肩下りの状況、特に働く人の割合が減少する中で、労働力不足の難題を乗り越えるには、少ない労働力で生産性を上げる必要がある。タイミング良く、AI(人工知能)やロボットの技術が進化して、実証段階から実用化に進みつつある。日本は、こうした先端テクノロジーの格好のターゲット市場ということになる。我々は、今後より一層進む労働力不足を見越して、いち早くAIやロボットをあらゆる分野で活用し、自動化、無人化、最適化を進め、生産性を桁違いにアップさせる必要がある。
AI・ロボットの徹底活用は、日本が豊かさを維持していくには必須に思える。農業などの一次産業、製造業や物流、ヘルスケアや医療・介護の現場、飲食や接客、建設やインフラ点検、警備や清掃、あらゆる分野が対象だ。AI・ロボットを本格的に導入した新しい社会を構築できれば、少ない労働力で豊かな社会を実現する未来の実装で、世界をリードできることになる。日本から少し遅れて、世界も同じ少子高齢化の課題に直面するからだ。まさに、「ピンチ」を「チャンス」に変える絶好の機会である。
そのためには、当初は多少問題があったとしても、ロボットをリアルな現場で実際に使って、産業を育てていくというマインドが重要だ。また、AI・ロボットを組み込んだ社会システムの構築には、ルール作りや法整備も必要になる。国の取り組みが後手に回らないように期待したい。日本では、時に過剰な品質の高さを要求して、新しい技術の導入に対して保守的になりがちだ。生産者と消費者、開発者とユーザー、そして行政が一体となって、製品やサービスを迅速に進化させていくプロセスが重要である。
これまで見てきたように、我々に選択の余地はない。じっくり時間をかけて検討する、という余裕もない。最新技術を積極的に取り入れ、新しいやり方で試行錯誤しながら前に進むしかない。前例がなくてもやってみる。失敗を恐れず、挑戦することが未来を切り拓いて行くことにつながる。
注1) 国連の予測よりも、もっと早く2050年には世界人口は減少に向かうという予測もある。筆者も同意見である。ダリル・ブリッカー、ジョン・イビットソン(倉田幸信 訳)「2050年 世界人口大減少」文藝春秋、2020年
注2) 平成29年(2017年)4月の国立社会保障・人口問題研究所の推計では、従来の推計よりも少しゆるやかな人口減少の予測になっているが、出生数の減少がすでに推計よりも大幅に早く進んでいるので、本コラムでは、平成27年版厚生労働省白書の図を参照することにした。
[ 鎌田富久: TomyK代表 / 株式会社ACCESS共同創業者 / 起業家・投資家 ]
東京大学大学院理学系研究科情報科学博士課程修了。理学博士。在学中にソフトウェアのベンチャー企業ACCESS社を設立。世界初の携帯電話向けウェブブラウザを開発するなどモバイルインターネットの技術革新を牽引。2001年に東証マザーズに上場し(現在、東証一部)、グローバルに事業を展開。2011年に退任。その後、スタートアップを支援するTomyKを設立し、ロボット、AI、人間拡張、宇宙、ゲノム、医療などのテクノロジー・スタートアップを多数立ち上げ中。著書「テクノロジー・スタートアップが未来を創る-テック起業家をめざせ」(東京大学出版会)にて、起業マインドを説く。