近年、SDGsビジネスに取り組む企業をよく耳にするようになってきました。しかし、実際に新事業を始めようとしても、どのようなビジネスモデルを構築すればいいのか、実際に事業を回していけるのか不安に思う人も少なくないでしょう。
こうした課題を抱える方の力になればと、企業間のコラボレーションの可能性や成功事例を学ぶ場を提供するコミュニティ「xTECH Lab MARUNOUCHI」では、植物・木材資源を活用したSDGsビジネスを展開している2社から話を聞くイベントを企画。
今回は、非食用の資源米などを原料としたバイオマスプラスチックを製造販売するバイオマスレジンホールディングスの代表を務める神谷雄仁氏と、木の伐採から加工、販売まで一気通貫で行うMEC Industry代表の森下喜隆氏を迎えて、植物・木材資源を活用した『SDGsビジネス』についてお話いただきました。
INDEX
・資源米やコーヒーの残渣、木、竹などをプラスチックに変える「バイオマスレジン」
・鉄やコンクリートではなく、木造の建物を建てよう。木の伐採から販売まで一気通貫で請け負う、「MEC Industry」
・自分たちの事業をわかりやすく伝えるため、分社化を決意
・信頼できる企業と一緒だから、協力し合える。MEC Industryの運営体制
・SDGsに対する社会の目線の変化と、CSRとの違い
・木材のメカニズムまで踏み込んで有効なものを目指す
・鉄やコンクリート、ガラス、木材など。適材適所で使い分けていくことが必要
・環境を切り口にSDGsの意識が拡がっていく
資源米やコーヒーの残渣、木、竹などをプラスチックに変える「バイオマスレジン」
神谷:「我々、バイオマスレジンは2017年に南魚沼で始まったのですが、現在はグループ企業として新潟に3社、それから東京、熊本、福島と計6社の企業を抱えています。これから解決していこうとしている社会課題は2つ。CO2排出による環境問題と農業問題やフードロス問題です。
その中で我々がソリューションとして提案しているのが、ライスレジンです。ライスレジンとは、資源米など食用でない米を使ってつくるプラスチックのこと。子どもが安全に使えるおもちゃや郵便局のレジ袋、クリアファイルなどを製造しています。米以外にも、コーヒーの残渣やそば殻、木や竹などの樹脂化の技術を持っています。他に小中学校への教育事業、企業さん向けのSDGsに関わるコンサル業務も行っています」
神谷:「我々は農業にも力を入れていて、耕作放棄地でライスレジン用の資源米の生産も行っています。今年は福島県浪江のほうで大規模な米作りを行う予定です。今年で東日本大震災から10年ですが、浪江町の農業復帰率はまだ1割。使われていない水田を利活用しようと、昨年9月に農業を目的とした会社を設立しました。我々の米作りは、味を追求しません。将来の耕作放棄地対策や、荒地を水田に変えることで土壌を再生することを目的にしています。
国内には約42万haの耕作放棄地があります。ついに東京2個分を超えたんですね。ここを我々の手で水田に戻していければと思っています」
神谷:「日本の政府は2030年までに197万トンのバイオマスプラスチックを使用すると宣言。我々はそのうちの5%の生産を目指していきたいと考えています。遠い未来ではなくて明日のプラスチックを変えていきたいなと。世界で100年愛される企業を目指して、頑張っている最中です」
鉄やコンクリートではなく、木造の建物を建てよう。木の伐採から販売まで一気通貫で請け負う、「MEC Industry」
森下:「我々は『CLT(*)』、つまり新しい木材、建材を建築に使うことができないかを考えることからスタートしたチームです。2016年の三菱地所の新事業提案制度に応募したメンバーで構成されています。実際に三菱地所の建物を建てる中で、林業と接点を持って最終的にはエンドユーザーまで持っていく一気通貫の会社をつくろうと考え、大企業の社内ベンチャーとして設立しました。建物に木材を使うことでコストカットや鉄やコンクリートの代替ができないかというところから研究を開始。設立当初はSDGsを強く意識したわけではありませんでしたが、現在はSDGsを意識して事業を進めていこうとしています。
※CLT・・・Cross Laminated Timberの略称。繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料
▼途中から再生する
森下:「現在、低層建物は住宅を中心に木造が多いのですが、高層建築や非住宅は木造以外の構造で造られています。それらを木造で建築できないかと提案していくことが我々の仕事です。現在は、三菱地所が進める『みやこ下地島空港』や札幌で今夏オープンするホテルを建築中です。
ビジネルモデルは2つありひとつが新建材事業として新しい使いやすい材を作っていくことで木材利用を促進するというもの。もう一つが、木プレファブ事業といって、工場のなかでCLT等を用いた建物をあらかじめ組み立てることで職人不足を補おうという事業になります」
森下:「木材業界は中小企業が多いのでそれぞれが部分最適で事業を行っていました。それを私どもの会社で全部担ってしまうというのが、今回の会社の特徴です」
自分たちの事業をわかりやすく伝えるため、分社化を決意
藤田:「神谷さんにお伺いしたのですが、御社の取組はエンドユーザーからもわかりやすい取り組みになっていると思うのですが、わかりやすくするため、どのような工夫をされたのでしょうか?」
神谷:「初めてやることは障壁が大きいので、なかなか理解していただけません。だからこそ、自分たちがやっている仕事をわかりやすく伝えることが重要かなと思っています。その結果、ホールディングカンパニーというかたちで、目的ベースの会社に分社化。ひとつの組織に収めてしまうと、話すべき内容が多くなかなか伝えきれない。そのため、事業内容を整理して伝わりやすくすることに注力しました」
藤田:「15年前に事業として始められたとのことですが、当時はまだSGDsという価値観が拡がっていない時代。周りの理解など障壁はあったのでしょうか?」
神谷:「そうですね、3年に一度くらいは心が折れていました。我々の場合、農業や工業製品などすごく保守的な業界だったんですよね。新規参入して、理解を得られるまでに時間はかかりましたね」
信頼できる企業と一緒だから、協力し合える。MEC Industryの運営体制
藤田:「森下さんに伺いたいのですが、2016年に社内の新規事業からスタートしたという話でしたが、ベースの考え方は今と基本的に同じだったのでしょうか?」
森下:「当時は本当に木を使えるかというところがありまして。デベロッパーの中でも疑問を抱く方も多かったんです。CLTがヨーロッパ中心に普及し始めたタイミングで、まだ認知も広まっていなかった。それでも、やっていくうちに課題がでてきて、自分たちでつくっていくのがいいよねと変わっていった感じですね」
藤田:「今、連合で組まれていますが、大手が連合チームをつくって、ひとつの目的に向かって走るのは、簡単じゃない気がします。大変な点はないのでしょうか?」
森下:「我々の株主さんは昔から付き合いがあるところばかり。竹中工務店さんや大豊建設さんは長い付き合いのある会社さんですし、松尾建設さんもCLT建築で本社を建てられていて意識は高い。今まで一緒にやってきた経験もあって同じゴールを見ているからこそ一緒にできるのだと思います」
SDGsに対する社会の目線の変化と、CSRとの違い
藤田:「日本では、近年、SDGsへの意識が高まってきた印象ですが、お二人は、この5年間でどのように変わってきたと思いますか?」
神谷:「我々は2017年に南魚沼に会社をつくったのですが、そのあたりからSDGsを聞くようになってきましたね。弊社も相談されるのですが、最近はSDGsに意識を持つ会社さんが増えてきています。こうした意識の高い企業とお互いウィンウインの関係を気付けるような体制を作っていきたいですね」
森下:「プロジェクトを進めるうえでは、これまでも個別に環境に配慮した取り組みを検討してきました。ただ、SDGsのどの項目に当てはまっているんだろうねと照らし合わせながら事業を進めていくようになったのは、ここ数年じゃないでしょうか。それこそ『これって、CSRじゃないよね?』と確認して進めるみたいな」
藤田:「お聞きしたいと思っていたのですが、CSRとSDGsの違いはどのような点にあるのでしょうか?」
森下:「基本的にはSDGsのなかにCSRが含まれているものですよね。わかりやすく整理したのが、SDGsであり、体系立てて説明できるようになったという話だと思います」
藤田:「木材というのは、切りどきというのでしょうかね。木が成長して、まさに木材としてフィットするタイミングがあるものなのでしょうか?」
森下:「そうですね。今切らなきゃいけない木=大径木が、どんどん増えていっている状況ですが日本の一般的な機械では処理できない。今回、私たちは新たな機械を導入して、製材できる環境を整えようと思っています。それだけでなく、木を使う者にとって森林の保全も大事な役割。伐採と植林によって森林を循環させていくことが大切なんです」
木材のメカニズムまで踏み込んで有効なものを目指す
藤田:「先ほど質問が入ってまして、『プラスチック用の稲田への農薬、化学肥料の使用状況はどうなっているのでしょうか?』とのことです。神谷さんお答えいただけますか?」
神谷:「化学肥料を使用することが、CO2の観点でプラスになることもあるので、その辺を踏まえて生産計画を練っています。食べることを前提にしない農業の中で、農薬や化学肥料をより効果的に安全に使うための方法を、専門家の先生と一緒に進めているところです」
藤田:「食用ではないからこそ、効率や安全を考えることが大事ということなんですね。木に対しての取り組みはどんな風に行っているのでしょうか?」
神谷:「木材はまだ未利用、利活用できるものある。一方でなんでもいいわけではないので、木材のメカニズムまで踏み込んで、現地で色々見させてもらって、有効的なものにしたいですね」
森下:「丸太一本から建材になるのは、5、6割で、木を切っていると大量のおが屑が出るんです。それを牛の寝床にしたいからほしいと言われて。しょっちゅう寝床を変えてあげると、牛が快適になって美味しい肉ができるらしいです。バイオマス発電のチップなどの活用方法もありますし、どんな活用方法が有効なのかはまだ検討する余地が沢山あるので、ウッドレジンの考え方などもお聞きして、考えていきたいですね」
鉄やコンクリート、ガラス、木材など。適材適所で使い分けていくことが必要
藤田:「神谷さんに伺いたいのですが、米や木、竹など原料の違いによっていろんな特徴があるのでしょうか?」
神谷:「原料によって何に使われるかは変わってきます。ライスレジンは、レジ袋やお弁当のトレイなど柔らかいものや薄いものなどに、木や竹、梅干しのタネは、建材や土木などで使われる硬いプラスチックになります」
森下:「木を自然素材としてそのまま使う方法もありますが、一方で木は天然だから朽ちていく特性をもっている。それに対して他の素材と混ぜて安定性を高めているということですよね。今後は天然材がいいところ、そうじゃないところと、使い分けができていければ良いと思っています」
藤田:「何をアウトプットしたいかで変わってくるということなんですかね?」
森下:「そうですね、今までの建材は鉄やコンクリート、ガラス、そして木材が中心でした。でも、これからは全く新しい素材が生まれる可能性もあるんじゃないかと。海外では、85mの純木造の高層ホテルの事例もあり、色んなチャレンジをしている人がいるんですよね。とはいえ、全てを高層木造建築にすればいい話でもない。木を使うことだけが重要なのではなく、適材適所で素材を使い分けていくことが大事なんだと思います」
環境を切り口にSDGsの意識が拡がっていく
藤田:「最後にお二方にお伺いしたいのですが、世界的にSDGsがどう実現いきそうですか?」
神谷:「米は、アジア共通の文化です。SDGsの概念も共有しながら各国と手を取り合って事業を進めていきたいですね。我々と一緒に事業に参加してくださる方が増えていて、そういう方のお力を借りながら、我々単独ではできないことを実現していければと。一方で、責任が日増しに増えてきている実感があります。製造業として、しっかりとしたものづくりを提供しながら、我々しかできないことに対する責任を持って進んでいきたいです」
森下:「大企業、中小企業、そして個人もSDGsに対する意識が変わってきています。もっとエンドユーザーにも浸透させていくために、最初の切り口として「環境」というテーマはわかりやすいのではないでしょうか。そこからでもスタートすれば、いずれ全部繋がっていくことになるんだと思います」
SDGsを切り口とした新たな取組。企業として環境問題と携わることで、向き合う人の数も多くなっていきます。それらが潮目となり、新たなうねりをつくりだしていくのかもしれません。
▼当日のセッション
『植物・木材資源を活用したSDGsビジネスで、サスティナブルな生活を実現する』
https://www.youtube.com/watch?v=_23nSdRDMe4&feature=youtu.be