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スタートアップが地球を救う。難しい課題ほどスタートアップ向き |未来創造マインド vol.9

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100年前から比べると人類ははるかに豊かな生活を送ることができるようになった。しかし、世界中が一律に豊かになった訳ではない。さまざまな格差が存在する。また、経済成長が地球環境に及ぼす影響が大きくなり、CO2の排出や自然環境の保全といった人類が先送りにしていた課題が、退っ引きならない状況まで来ている。そして、我々は未来に向けてどんな社会を目指して行くのか。解決すべき難題が山積している。私は、難しい課題ほどスタートアップに向いていると感じている。今回は、大きな社会課題にどう取り組むかを考えてみよう。

INDEX

地球的課題に取り組もう
未来に向けてゼロから理想を描け

地球的課題に取り組もう

現在の世界人口は約79億人で、今後も少なくとも数十年間は増え続ける状況にある。国連の世界人口推計(2019年版)によれば、世界人口は2050年には97億に達すると予測されている[1]。増加する人口の半分以上は、インド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ、エチオピア、タンザニア、インドネシア、エジプト、アメリカの9ヵ国(増加人口が多い順)で生じるという。

人口が増加を続ける新興国では、食料・飲料水の不足、医療の不足、未整備のエネルギーなどのインフラ、不十分な教育といった深刻な問題がある。あらゆる分野で、格差が存在しているのが実情で、これらの課題の解決にイノベーションが望まれている。今後、未来を切り拓いて行くには、若者の新しいアイデアや斬新な発想、それを実現する情熱とスピードが必要である。

20世紀型の大量生産・大量消費による経済成長は、物質的な豊かさと引き換えに環境破壊をもたらし、地球温暖化など新たな課題を引き起こした。これまでは市場経済は概ねうまく機能してきたが、需要は永遠に増え続ける訳ではないし、資源も無限にある訳ではないことは明らかだ。行き過ぎた資本主義は、修正を迫られているとも言える。これからは、環境にやさしく持続可能な節度ある成長、必要な人に必要なモノを結びつけて無駄をなくし、社会全体で最適化して行くことが必要だ

2015年9月の国連サミットで、国際社会共通の目標として採択されたのがSDGs(Sustainable Development Goals)である。「持続可能な開発目標」のことで、17の大きな目標と、それらを達成するための具体的な169のターゲットが策定されており、現状、世界が抱える課題をまとめたものである。ここ数年、大きく注目されるようになってきた。

図にあるように、17の目標は多岐に渡っているので、解決すべき大きな3つのテーマに分類してみた。これまでに人類が積み残してきたマイナスとなっている課題、地球環境との調和、そしてこれから目指すべき新たな豊かさの創造という感じだ。

(1) マイナスをなくす

貧困や飢餓、健康や水、教育格差などの発展途上の国々の課題を解決する。人種、民族、国籍、宗教、性別、ジェンダーなどの差別をなくし、世界中のあらゆる不平等、不自由、不公正をなくす。

(2) 地球環境との調和

化石燃料から持続可能なエネルギーへの転換、気候変動への対策、海洋汚染、森林破壊などをなくし、地球環境を保全する。人類も地球の生態系の一部であり、地球環境との調和なくして、長期的な繁栄はありえない。

(3) 新たな豊かさの創造

これまでのやみくもな経済成長、利益最優先から卒業し、効率的な産業と技術革新の基盤をつくり、持続可能な社会を構築する。ワークライフバランスを重視し、新たな豊かさを創造する。  

企業は、単に利益を追求するだけでなく、こうした課題にどう取り組んでいるかが、問われる時代になって来た。むしろ、いかに社会課題を持続可能な事業として解決して行くかが重要である。投資家もESG(Environment Society Governanceの頭文字)に注目している。ESGは、企業の長期的な成長に欠かせない要素となっており、経営者は、どんな世界を実現したいのか、をミッションとして発信し、共感を醸成して行くことが必要である。

未来に向けてゼロから理想を描け

カーボンニュートラルや環境問題、原材料などの生産現場での児童労働や低賃金の問題などは既存の事業者にとっては、対応が難しい課題である。何らかの対策を進めると、単純にコストアップになってしまいそうな話であるからだ。大企業にとっては、課題は認識しつつも、急には大変革できないとなる場合が多い。大きな船が方向を変えるには時間がかかる。そこで、スタートアップの出番となる。しがらみなく、ゼロから何が理想かを考えることができるため、大企業が取り組みにくい分、スタートアップにチャンスがある

未来からあるべき理想の姿を考えることが重要だ。たとえ技術的に難しい課題があったとしても、ニーズが大きければ、技術進化は加速するため想像以上に早く解決できることが多い。挑戦しがいのあるテーマには、優秀な人材が集まりやすい。難しい課題ほど、スタートアップに向いている。さらに、スタートアップが得意な以下のような手法が、課題解決の役に立つ。

課題をデータから分析して見える化

CO2の排出量や電力消費量など、データを見える化し、課題を分析したい。具体的なデータとして扱えると、目標を設定しやすいという利点がある。トライ&エラーの評価を迅速に行うことが可能になり、早く良い解決策にたどり着ける。医療や教育、どんな問題もKPI(Key Performance Indicator)をうまく設定して、解決策を進める、スタートアップが得意なやり方だ。投資家や外部のプレーヤーにとっても、事業の進捗を理解しやすい。

世界をつないでパワーをつくる

我々が抱えている地球規模の問題の解決には、全人類の協力が必要なものが多い。多くの人が共感して同じ方向を向くことが重要だ。プラスチックゴミの問題や海洋汚染、エネルギー消費、フードロス、さまざまな差別、79億人の少しの努力がとても大きな力となる。そのためのツールとして、世界をつなぐネットを活用できる。しかし、現在のSNSでは、むしろフェイクや中傷がたびたび問題になっている。信頼のある新たなツールが望まれる。

若い世代を味方につけよう

日本のような先進国では、人口構成的[2]になかなか若者の意見が通らない。どうしても保守的な意見が強くなる。スタートアップは、未来のマジョリティを味方につけるべきだ。大きな社会課題の解決には時間がかかるが、世代はいずれ交代して行く。最初は小さな動きでも、10年、20年経過すれば、当時の若い世代が、社会の中心になる。長期的な戦略で、理想に向かって粘ることが成功のヒケツだ。

社会課題の解決に取り組む事業は、持続的である。つまり、長期的に成長が期待できる。実際、社会的インパクトを重視する投資家、ベンチャーキャピタルも増えている。革新的なテクノロジーと新たなビジネスモデルで、地球的課題に挑戦するスタートアップに大いに期待したい。

1.World Population Prospects 2019 https://population.un.org/wpp/
世界人口は、2050年には97億人に達し、2100年には109億人に達すると予測している。

2.日本の年齢の中央値は48.4歳で世界一高齢 関連記事はこちら

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[ 鎌田富久: TomyK代表 / 株式会社ACCESS共同創業者 / 起業家・投資家 ]
東京大学大学院理学系研究科情報科学博士課程修了。理学博士。在学中にソフトウェアのベンチャー企業ACCESS社を設立。世界初の携帯電話向けウェブブラウザを開発するなどモバイルインターネットの技術革新を牽引。2001年に東証マザーズに上場し(現在、東証一部)、グローバルに事業を展開。2011年に退任。その後、スタートアップを支援するTomyKを設立し、ロボット、AI、人間拡張、宇宙、ゲノム、医療などのテクノロジー・スタートアップを多数立ち上げ中。著書「テクノロジー・スタートアップが未来を創る-テック起業家をめざせ」(東京大学出版会)にて、起業マインドを説く。