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スタートアップはピボットをいつするのか、その後何が起こるのか| 未来を実装する秘訣 vol.8

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ピボットとは軸足を定めたうえで、方向転換をすることです。スタートアップにおいてはアイデアの特定の部分を軸足に、それ以外の部分を変更することを指します。

変更の大小の違いはありますが、恐らく半数以上のスタートアップはピボットを経験しているのではないかと思います。資金調達を何度も行っている話題のスタートアップでさえも、その多くがピボットを経験して今のアイデアに辿り着いています。さらには、アイデアを根本から変えるケースも少なくはありません。有名な例でいえば、SlackはGlitchというゲーム会社として資金調達をしたにも拘わらず、ゲーム開発中に社内で作ったチャットツールを製品化してSlackとして成功しました。

多くのスタートアップがピボットを経験するからこそ、ピボットのタイミングとピボット後にどのようなことが起こりやすいかについて知っておくことはきっと助けになります。

連載コラムの第二回でもピボットをテーマにした記事を書き、そこではピボットが必要な理由とその方法を解説しましたが、今回はピボットのタイミングとその後起こりやすいことをお話しします。

INDEX

いつピボットするのか
ピボットしてから何が起こるのか

いつピボットするのか

ピボットを経験した経営陣にピボットをするうえで決定的だったタイミングを聞くと、自分自身が事業やプロダクトを信じられなくなったタイミングだったり、自分自身がどうしようもなく疲れてしまったから、という回答が多いように思います。たとえば自社の事業について顧客と話しているときに強い違和感が出てきて、楽しく思えなくなってきたからピボットした、というのはしばしば聞く話です。

ただアイデアに初めて取り組んでいる人たちからは、そうした経験がないためか「どのようなタイミングでピボットを考えるべきか」と定量的な基準について聞かれます。

本来であれば上述のような感覚的な話ではあるのですが、もし定量的な話を求められた場合は「二ヶ月間、ターゲットを絞ったうえで十回ぐらいセールスをして、誰からもLOI(購入に関する覚書)をもらえなかったり、買ってくれなかったりすると悪い兆候ですね」と答えています。セールスはある種の仮説検証です。仮説検証の結果十回中十回ダメだったのであれば、少なくともターゲットを変更するなど、仮説を修正する必要があるでしょう。

時間にすると一か月から二ヶ月程度です。実際、フルタイムで取り組んでいるチームでも、一つのアイデアの仮説検証までに二ヶ月ぐらいかかることが多いようです。特にB2Bのアイデアの場合、ターゲットとしている顧客と話すまでにアポイントメントの調整などの時間があるため、仮に十回のセールスをするにしても、それぐらいの時間がかかります。

パートタイムで取り組んでいる場合はピボットを決めるまでに半年以上かかってしまうこともあります。単に使える時間が少ないという理由もありますが、パートタイムの場合は全力での仮説検証ではないため、様々な「仮説検証のやり方がダメであって、アイデアは良いかもしれない理由」を見つけられてしまうことや、長く時間をかけてしまうことで開発だけが進んでしまって、なかなかピボットの決断ができなくなる、という理由もあるようです。

なので、フルタイムでもパートタイムであっても、アイデアの初期は二ヶ月というタイムボックスを決めたうえで全力の仮説検証をして、ピボットするべきかどうかを判断することをおすすめしています。

ピボットしてから何が起こるのか

ピボットすることが決まったとします。そのときには二つのパターンがあります。一つはすでにピボット先となるアイデアが見つかってそちらにピボットをする場合、もう一つは改めてアイデアを探索する場合です。

アイデアに挑戦することでその領域への解像度が高まってピボットするのであれば、ピボットを決める前に新しいアイデアが見つかっていることもあります。この場合は比較的スムーズなピボットが可能です。実際、多くのピボットのきっかけは、事業領域や商流に取り組む中で気づいた新しいアイデアに乗り換える、というパターンが多いようです。

しかし新しいアイデアが見つかっておらず、改めて全く新規のアイデアを探索する場合もあります。これが起こった起業家にその期間のことを聞くと、「地獄のようだった」という答えが良く返ってきます。

一つのアイデアに取り組んでいた時は、開発やユーザー獲得という目に見える進捗がありますが、探索フェーズでは進捗がはっきりと見えなくなります。その結果、チームのモメンタムが落ち、チームメンバーのプロジェクトへの気持ちも離れていきます。一部のチームメンバーからは、「自分の興味関心と違う領域をやるならば抜ける」と言われることもあります。こうした背景からか、新規のアイデアを探索するピボットの期間には、チームが崩壊してしまうリスクも高まるようです。

メンバーが残ってくれたとしても、すぐに良いアイデアには辿り着けるわけではありません。新しいアイデア自体は数多く思い付くものの、可能性のあるアイデアに到るまでには時間がかかります。チーム内で新しいアイデア候補を出し合うたびに、新アイデア候補を頻繁に否定しあうことにもなり、険悪なムードにもなりがちです。

このフェーズに対応できる万能薬はありません。チームのモチベーションが続く限り、顧客と話し、可能性のあるアイデアに取り組むだけです。そのため創業チームの胆力や、これまで培ってきたチームワークが鍵となるでしょう。チームのリーダー的な人が、チーム全体を意識的に鼓舞してモチベーションを維持していく必要があります。

これが辛い時期なのは間違いありません。ただスタートアップの初期でなくても、いずれ会社はどこかで失速を経験します。そのタイミングが早く来ただけだと考えることも可能です。そしてこれを乗り越えたチームが、本当に良いアイデアに到ることも多いのです。

ピボットをしたときに起こることはチームによって様々ですが、共通点を抜き出すと上記のようなことが起こることが多いように思います。ただ、多くの人がこのような経験してピボットを行い、最終的に良いアイデアに辿り着きました。それを知っているだけでも、ピボットを前にその決断がしやすくなるのではないかと思います。本稿がピボットを前にした起業家の方の何かの参考になれば幸いです。

[ 馬田隆明: 東京大学 産学協創推進本部 本郷テックガレージ / FoundX ディレクター ]
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