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早稲田大学准教授の村瀬俊朗が考える多様性を活かすチームづくりとリーダーシップ

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「多様性を活かす社会を」「ダイバーシティの推進を」。昨今、そんな言葉を耳にすることが多くなってきた。現にここ十数年で過去のロールモデルは通用しなくなり崩壊し、人々の価値観は多様化し続けている。
しかし、ひとことに「多様性を活かす」と言っても、実現のハードルは高い。異なるゴールやバックボーンを持つ人々が集まり、ひとつの価値を生み出すにはどうすれば良いのだろうか?
そこで今回は、日米で10年以上チームワークの研究に携わる早稲田大学准教授の村瀬俊朗氏に「多様性を活かすチーム形成」について伺う。今後、多様化がリーダー像や組織のあり方にどのような影響を与えるのだろうか?私たちはこれからどのように結束すれば良いのか、共に考えてみたい。

INDEX

違いに価値を、「認識も価値観も違う」がスタート地点
あなたは同質化をとるのか、多様性をとるのか
チーム同士が手を取り合うためのキーワードは「許容」
オフィス空間が及ぼすチームへの影響
リーダーもメンバーも、だれもがチームを動かせる
ここがポイント

村瀬俊朗(むらせ・としお)
早稲田大学商学部准教授。1997年に高校を卒業後、渡米。2011年、University of Central Floridaで博士号取得(産業組織心理学)。Northwestern UniversityおよびGeorgia Institute of Technologyで博士研究員(ポスドク)をつとめた後、シカゴにあるRoosevelt Universityで教鞭を執る。2017年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワーク研究。

違いに価値を、「認識も価値観も違う」がスタート地点

― このメディアは「Cross and Beyond」、つまり「異なるものものが交わることで新しい価値が生まれる」ことをコンセプトにしています。今日はチーム形成や、多様なメンバーをまとめ、イノベーションを生む秘訣について聞かせていただければ幸いです。そもそも、チーム形成に一番重要な要素ってなんでしょうか?

村瀬:それでいうと、「阿吽の呼吸」がチームの研究では重要な要素なんです。阿吽の呼吸とは、メンバー同士が思っていることを相互に理解できていること。「誰がどういう役割をして」「次にどう動くのか」を共有できていると、チームは非常に上手く回るんです。阿吽の呼吸は言い換えると「共有認知」って言うんですけど、それが上手く醸成されてくると、そんなにコミュニケーションをしなくても深い話や連携ができる。つまり、ハイパフォーマンスになることが研究で分かってきています。
日本の労働環境は、長らく男性ばかりで、同じような環境で育ってきて、教育レベルも同じ人が集まっていた。良くも悪くも1から10まで説明しなくても連携できてしまう環境だったんです。ところがアメリカみたいに、価値観も考え方もバックボーンも違う環境だと、どうやって1から10までを理解してもらうか工夫が必要なわけです。

― 最近国内では価値観も多様化しましたし、年齢も性別もバックボーンも違うことが一般的になってきましたよね。

村瀬:だから、まずは「みんな認識の仕方も価値観も違う」「違いを上手くマネジメントすると面白いことが生まれる」という前提に立たないと、コミュニケーションは上手くいきません。すり合わせはすごく労力がいる面倒な作業ですけれど、各々の背景が異なることを認識して、その先に価値が生まれることを知っていると「めんどくさい」を乗り越えやすい。

― 結果、イノベーションが生まれると。

村瀬:いかに「違い」に価値を感じるようにするかが重要で、その役割を担う大きな要素はリーダーなんです。メンバーは上の人がどのように考えているかを無意識に見ています。だから、リーダーが「すり合わせは面倒だ」と考えていると、メンバーが感じ取って「面倒だと思っていいんだ」という雰囲気が作られてしまう。リーダーは自分の価値観がメンバーに影響を与えていることを自覚してみましょう。イノベーションを生むチームを作るなら、違いは価値を生むことを言葉なり態度なりで伝えていくことが重要です。

あなたは同質化をとるのか、多様性をとるのか

― とはいえ、スタートアップのような少数精鋭のチームにおいては、「メンバーが同質化しているチームの方がスピードは速いよね」という意見も聞きます。

村瀬:その肌感覚は合っていて、同質の人が揃っている方がスピードは速いんですよ。価値観を近づけたり、コミュニケーションのスタイルを合わせたりするのってすごく面倒くさい。「ツー」と「カー」ではないですけど、前提を共有していてバックボーンも同じになると思考に深みも出てきます。一方、同質化するほど視野も狭まるので、新しいことを見つけていても、その幅が狭まるんですね。元から持ってる知識には限界があるので、新しいことを考えているつもりでも、全く違うことにはなりづらいんです。
たとえば、最終的に良いか悪いかは別として、男性同士で集まって「これが良いんだ」と言っているところに女性のアイデアが加わると、組み合わせは広がりますよね。
新しい発想を生み出す場合、いかに組み合わせるかが重要です。組み合わせる要素が同じ領域から来ていると同じ領域で新しいことが生まれますし、違う領域から来る要素が加わると化学変化が生まれる。多様性の良いところって、組み合わせの幅が広くなることなんですよ。

― 多様化もしかるべきタイミングと状況で活用すべきなのですね。

村瀬:そうですね。そうは言っても研究で分かっているのが、多様性を増やすとチーム内で摩擦が増えるし、スピードも遅くなること。多様性自体は万能ではなくて、どのようにマネジメントするかが重要な視点です。組織として多様性が必要ないのであれば、スピードを重視した方がいいかもしれません。

― それでいうと、一人のカリスマが引っ張っていくチームもありますよね? あれも適材適所ということでしょうか。

村瀬:我々はひとりの天才、ヒーローやヒロインを求めてしまいがちですけど、天才の限界は個人だってことなんです。天才が何かをやったよね、というのは目に見えて分かりやすい、けれどその人が実際に全てに注意を払うことができるかというとそうではない。個人のできることには限界があるんです。イノベーションを求める場合に重要なのは、いかに多様性を活かす連携システムを作るか、だと思うんですね。いかに今まで繋がっていなかった要素をつなげて新しい要素にするか。つまり、セレンディピティを生みだすかが重要で。
たしかに個人で動く方が圧倒的に楽で、連携は面倒だったりします。ただ、ポテンシャルを考えたときに、違う分野や発想の人と連携した方が振り幅が大きくなり、イノベーションを生む可能性が高まります。

チーム同士が手を取り合うためのキーワードは「許容」

― ここからは異なる価値観を持つチーム同士の話になるんですが、たとえばスタートアップと大手企業が協働するときに、リーダーは何を考えればいいのか、メンバーはどういうコミュニケーションを取っていけば上手にチーム形成はできるのかを聞きたいのですが。

村瀬:僕はスタートアップと大手企業の比較をそこまでしていないんですけど。チーム同士の専門性が異なる場合、ゴールが共有できているかが重要だと思います。多様性が存在すると、同じものを見たときに解釈が異なるので、リーダー間で方向性の共有ができていることが重要です。共通のゴールを設定した後にすることは、失敗を許す環境づくりでしょうか。

― 心理的安全性ですね。

村瀬:そもそも「新しいこと」をやろうとすると「失敗すること」が多いですよね。同質化しているチームは毎回80点を出しやすい。でも多様性のあるチームの場合、振り幅が良くも悪くも大きくなるんですよ。前提のすり合わせから始まるので、結果が50点以下になることもあるし、100点を大きく超える場合もある。
失敗が起きることを前提としてチームが上手く回っていくためには、心理的安全性を確保しないといけません。失敗を責めないことはもちろん、起きた失敗が共有されれば対策を講じて平均点を上げることができる。つまり、イノベーションを起こすには、いいアイデアだけでなく失敗も共有できる環境が必要なんです。このあたりの場作りを担うのもリーダーの役割だと思います。

― こうして聞いていると、チームにおいてリーダーの役割は大きいですね。一方でメンバーはどのように行動すれば良いのでしょうか? たとえばメンバー間の対立や軋轢が生まれる状況はどのように避ければ良いのでしょうか?

村瀬: メンバー同士のマウンティングの取り合いは避けたい状況ですね。人間も動物なので、マウンティングを脅威と感じて排除してしまいます。マウンティングじゃないと認識していれば、「何を学ぼうか?」「もう少し聞いてみようか」と考える。そういう前提や雰囲気がないと、深い議論もできません。
ただ、コンフリクト(対立や軋轢)は一概に悪いものとは言えないんですよ。コンフリクトは人間関係とタスク由来に分けられます。人間関係は「こいつの性格が合わない」などパーソナリティの面で、これはパフォーマンスを下げてしまう。一方タスクコンフリクトは仕事に対する「進め方」や「認知」のすり合わせです。これは、そこそこチーム内で起きた方がパフォーマンスは上がると言われています。
価値観が異なるメンバーがいるチームでは、タスク面のコンフリクトが生まれるのは当たり前です。それが生まれないということは、言いたいことが言えていない、お互いに遠慮している状態。これでは、良いアイデアも共有しづらい。メンバー同士、いろんな意見が言い合える状態が重要だと思います。

― 具体的にはどう行動すれば良いのでしょうか?

村瀬:たぶん、魔法ってないと思うんですね。すごく地道な作業の積み重ねです。そういう意味では懇親会は重要な役割を果たしていると思います。ただ、懇親会をしても知り合い同士で話してしまう傾向にあるので、知らない人と話すための仕組みづくりが必要です。
ほかには、ランチも活用できます。ご飯を食べれば血糖値が上がって気分が良くなるので、そういう身体的な変化に頼っても。お酒が飲めない人もいますが、僕はお酒が大好きなので飲ミュニケーションをしています(笑)。でも、別にお酒でなくてもいいんです。コーヒーでもなんでも。

― ちなみに、初対面の際はどのようなコミュニケーションを心がければ良いのでしょうか? 特に発信する側が気をつけるべきポイントを聞きたいです。

村瀬:我々って、無意識に人を「自分の仲間」と「それ以外」というカテゴリーに分けているんです。たとえば、服装がそうですね。カジュアルな装いとフォーマルな装いだと印象も違いますよね。「同じバックボーンを持っている」と意識してもらうために、歩み寄りが重要です。

― 相手がネクタイの有り無しを気にしている様であれば、ネクタイすればいいじゃないという話ですよね。

村瀬:僕はあまりネクタイしたくないんですけどね(笑)
喋り方も要素のひとつ。相手のことを理解しないで専門用語ばかり話していては「この人、なんか違うな」と感じるじゃないですか。相手がどういう風に喋ったら理解してくれるか、何を重要視しているかを考えて喋ると、伝えたいことが伝わりやすくなります。現に研究で、相手のことを想像して話す方が、多様性を許容しながら議論ができることが分かってきているんです。

― 服装も言動も相手に寄り添うことが重要だと。なんだか恋愛や友情にも通じそうな話ですね。

オフィス空間が及ぼすチームへの影響

― 今まではコミュニケーションにフォーカスを当ててきましたが、ハード面として、空間がチームに与える影響はあるのでしょうか?

村瀬:我々って周りの状況を認識して行動しているので、影響はあると思います。たとえば、部署ごとに机をまとめてあなたたちのグループはここです。だから、こっちは違うグループです。となると流動的な情報共有が行われなくなる可能性が高い。

― そうすると、オープンオフィスのような「開けた場づくり」が大事になってくるのでしょうか?

村瀬:一概にはこうだと言えないんですが、我々人間の性質から考えると、開けた場には2つのメリットが期待できます。
1:パターン化を避けられる
我々の行動って無意識にパターン化されるんですね。職場だったら、用事がなければ隣の部署には話しに行かないじゃないですか、仕事だと限られている時間の中で、いかにパターン化して高いパフォーマンスを出すかが求められると思います。一方、新しい知識は今まで触れていなかったものの組み合わせで起こるので、パターン化された中では難しい。
だったら、オープンスペースのようにいろんな人が来る場を作れば、偶発的な組み合わせが起こりやすい。ということで、ハード面で環境を作り出すことは可能です。ただ、同じ人が来ちゃったら毎回同じ組み合わせになっちゃうので、違う発想を持つ人が来てくれるようにマネジメントしていく必要があります。

2:異質を取り込む
もうひとつは、我々って同質化を求める傾向があるんですね。異なるバックボーンを持つ集団と話すのってすごくめんどくさいことです。大手企業の方であれば、ほかの大手企業の方と話してる方がなんとなく話しやすい場合もありますよね。なぜかというと、同じ業界、同じステージだと共感しやすいところがあるからです。開けた場はそうした同質化を打開するきっかけになりうる。

ただ、こちらも、同じ人とだけ話す状況になっていると意味がありません。いずれにしても、それひとつで全てを解決する手段はないので、複合的にシステムを回していく必要があります。めんどくさいことではあるんですけど、誰かがやらないとイノベーションは生まれません。

― 最近のトピックでいうと、リモートワークはチーム形成にどう影響するのでしょうか?

村瀬:今まさに研究しているところなんですが、流動的に情報を共有するには、スレッドにメンバーを招待するだけではダメで。我々って忙しいじゃないですか。「好き勝手に話してね」ではトピックは生まれづらい。だからコミュニケーションを促す工夫は必要だと思いますね。たとえばプロジェクトベースにするとか。そうすると話さざるを得ないので。
ただ、情報が多すぎてもいけなくて。無駄な情報に目を通す暇がないと、情報をシャットダウンしてしまう場合もあるんです。そうすると重要な情報を見忘れていた、なんてこともありえます。
流動的な情報共有は、グループをまたいで簡単にできるかというと、そもそもできないものだと思います。そこでどうするか、皆さんご苦労なさっていると思うんですけど。

リーダーもメンバーも、だれもがチームを動かせる

― 最後に読者の方にメッセージをいただけないでしょうか?

村瀬:僕はリーダーシップ研究者なので、チームにおけるリーダーの影響を研究しているんですけれど、リーダーにはシステムを変えうる力が備わっていると繰り返し伝えています。チームの雰囲気を作るのはリーダーなので、たとえ板挟みになっていても、「できない」って言ってても、やろうと思えば影響力があるのでシステムを変えられるんですよ。「あなたたちがチームのシンボルなんですよ」と伝えたい。
リーダーの悩ましい点は、既存のシステムにフィットして出世しちゃっているので、システムの変えるべき点を思いつきづらいことだと思います。そこは外部の人の力も借りつつ進めていただければ。
逆にメンバーの方に伝えたいことは、だれもがリーダーシップを発揮できること。大小に関わらず変化を起こすことがリーダーシップです。変化を起こすのはしんどいんですけど、丸投げすると結局何も変わらない。

― だれもが仕組みづくりに関われる可能性があるんですね。まとめではないですけど、お話を聞いていて思ったのは、いま多くの人が働き方改革という名の下に業務効率化をしていると思うんです。でも、めちゃくちゃ忙しい中で業務効率化をしながら、新しいことをやるって、すごく矛盾するというか違う方向性の作業なんだと思って。

村瀬:今あるものを効率よくさばいていくことと、新しいことを生み出すことは全く別のベクトルの作業ですよね。両方やれ、というのはハードだと思います。
無駄な作業を許容することは、失敗を受け入れること。そういう雰囲気をトップが作らないとイノベーションも生まれません。仕組みも重要で、チームの評価システムが効率化に比重を置いていれば、新しいことをするモチベーションが低下してしまう。解決のためにトップのサポートも必要ですし、新しいことに対するインセンティブが必要だと思います。

― 本当に魔法の杖はないんですね。地道に仕組みを構築して、回していくしかない。今日は改めてそのことに気づけました。

ここがポイント

・「違い」に価値を感じるようにするには、リーダーの認識や立ち居振る舞いが重要。
・同質化にも多様化にもメリット・デメリットの両側面があるが、多様性が活かせればイノベーションの可能性は高まる。
・価値観の違うチーム同士が協働する場合には、「共通のゴール」と「失敗を許容する環境」が必要。
・コンフリクトは「悪」ではなく、仕事の進め方や認知についてのすり合わせはパフォーマンスを向上させる。
・「開けた場」にはメリットが期待できる部分はあるが、機能させるには場のマネジメントも不可欠。
・リーダーシップとは「変化を起こすこと」で、誰もが発揮できるもの。

企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:鈴木雅矩
撮影:高澤啓資