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日本初、学民連携で生まれた大学キャンパス。横浜市立大学、山中竹春が語るシチズンデータサイエンティストの可能性

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総務省が毎年発行する「情報白書」にて「ビッグデータ」という単語が初出したのは、平成24年(2012年)のこと。以来、取得データの戦略的活用と、その担い手となるデータサイエンティストに注目が集まったが、実際のところその該当人材は未だ多くはない。しかし今後、第四次産業革命の流れを受けてますます需要が高まるこの領域で活躍できる人材を輩出するべく、横浜市立大学は新たなサテライトキャンパスを民間協業で横浜・みなとみらいに創設。「データサイエンス研究科」をはじめとする大学院の授業を行っている。そこで得られる学びや民間との提携によるメリット、今後のデータサイエンス活用における手引きを同大学データサイエンス研究科長の山中竹春教授に伺った。

INDEX

学問における「モード1」と「モード2」を結ぶデータサイエンス
日本初、民間とアカデミア協業によるサテライトオフィス設計
シチズンデータサイエンティストに準ずる、データに対する勘所の育成が課題
ここがポイント

山中竹春
横浜市立大学 学長補佐
データサイエンス研究科長
医学部臨床統計学教授
米国国立衛生研究所、国立がん研究センター等を経て、2014年より横浜市立大学医学部教授。現在は横浜市立大学大学院データサイエンス研究科長として、データサイエンスティストの育成にあたる。内閣府「数理・データサイエンス・AI教育の認定制度検討会議」や文部科学省「数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアム・モデルカリキュラムの全国展開に関する特別委員会」のメンバーとして、AI・データサイエンス人材育成の制度設計に参画。

学問における「モード1」と「モード2」を結ぶデータサイエンス

――日常生活で取得可能なデータが価値認識されて久しいですが、あらためて学問としての「データサイエンス」とはどのような学びなのでしょうか。

山中:『モード論(マイケル・ギボンス著)』を参考にお話しすると、いわゆる伝統的な学問体系は「モード1」と定義されます。これは従来の大学教育の主流である基礎理論の研究に相当するもので、つまり新たな理論を発見したり、証明したりすることを指します。その研究成果を評価するのは該当分野の専門家集団。客観的科学に基づく内容に依拠していますから、解はひとつ以外に存在しません

一方で「モード2」と定義される学問は、具体的な社会課題の解決ありきで研究テーマが設定されます。ここで学問に期待されることは、社会の期待に応えられるかどうか。一部の専門家に限らず、社会全体によって評価されますし、社会課題の解決ですから、課題に対する解は状況に応じて変わり、必ずしもひとつではありません

以上を踏まえ、データサイエンスは「モード1」を「モード2」へと接続する役割をもつ、新たな可能性を孕んでいると思っています。様々なデータに「どのように語らせられるか」でしょうか。たとえば、政治であれば選挙報道のあり方をデータから読み取ることができるでしょうし、法律では過去の判例を読み込ませたAIが裁判することも考えられるでしょう。医療業界では、患者のデータを集め解析することで診療にフィードバックする流れが盛んになってきました。

「モード2」学問の目的は、人間社会を良くするためであり、自然と生まれるデータを使って社会との接点を考える。既存の学問体系をやってきた人達の中で「モード2」学問が評価されるかどうかはわかりませんが、今後はきっとそうならざるを得ないんじゃないかなと思います。我々が生きているのは第四次産業革命の中ですから。

――ここで大事なのは「モード1」、「モード2」どちらも重要だということですね。

山中:そうです。どちらか一方だけが重要なのではありません。これからの学問である「モード2」は日本では未成熟な状態。その重要性がまだ浸透していないので強調していますが、実際には「モード1」と相互補完的なことがあるべき理想です。

日本初、民間とアカデミア協業によるサテライトオフィス設計

――今回、みなとみらいに新設されたサテライトキャンパスでデータサイエンスに取り組む目的を教えてください。

山中:データは社会から生まれるものです。人々の経済活動は莫大なデータを生み出し続けています。データがあってのデータサイエンスですから、データを媒介にして企業や人をつなげて、世の中をよくしたい。そういう意味では、課題を抱える企業の方々とコラボレーションして社会価値を創造しやすい場所と体制が成立したと思っています。

――実利的な社会貢献を念頭におくアカデミアの出現は、民間企業とアカデミアの境界を曖昧にしていくこととも考えられますね。

山中:実際のところ企業さんとの共同研究契約や協定が進んでおり、寄附講座の開催や、データサイエンスのインターンシップにご協力いただき、データが生まれる生の現場へ学生を立ち合わせやすくなりました。いずれは、学民連携型のスタートアップなんかも生まれるでしょう。

――二者の結びつきが一層強くなる中、お互いにどのような意識でコミュニケーションするべきなのでしょう。

山中両者の考え方、プロジェクトの進め方が全く違うことを理解し合うことでしょうか。まず、アカデミアサイドは、企業の本音がなにか知るべきですね。企業の建前と本音をうまく汲み取ることは必要だと言えます。本音がつかめたら、そこに向かって動けばいい。もっともこの点は、企業対企業でもうまくいかないことが多いですから、アカデミアは努力しなければいけない。また、企業には営利という出口がありますから、その前提に立ってどこかで折衷案を見つけなければいけないという通常の学問活動にはないことも発生します。

――ピュアな学問と、社会実装される学問は別物だと。

山中:そうですね。いわゆるモード1とモード2の学問の違いにも通じるのですが、両社は異なることを把握しなくてはいけません。

――アカデミアの土壌にいるからこそ見える課題もありそうです。

山中:こんなことを言ったら怒られるかもしれませんが、営利を目的とする企業に対して、アカデミアや役所の場合は研究者自身の目的がはっきりしていないこともあるので、時にプロジェクトが効率化しないこともあるでしょうし、自分たちでできそうにないことにも手を伸ばしたりする。そういった部分は見直すべきでしょう。また、社会がどれだけ複雑か、アカデミアがもっと社会を理解していくことも大事です。

シチズンデータサイエンティストに準ずる、データに対する勘所の育成が課題

――一方で、企業側にも意識すべきがあると思いますがいかがでしょうか。

山中:データサイエンティストは魔法使いじゃありませんから、現場の方々のお力添えが必要です。しかし、自社のデータがどこに保管されているのか、そのデータはどんなものなのかを把握されてないことが良くあります。社員教育の一環として「そのデータを使って何がしたいのか、何が課題なのか、どんなデータが必要なのか」というところまで「考える」思考実験の習慣を身につけられるようにしてもらっていると良いと思います。やはり現場の知識がないと、データは集められないですし、活用もできないんですよ。特に課題をどう設定すべきかという入口、データ分析の結果をどう解釈しどう現場に反映されるかという出口の部分は、特に現場の知識が必要です。その観点から、僕らがよく言ってるのは、我々のような本チャンのデータサイエンティストと現場の最前線に立つ人々の間をつなぐ「シチズンデータサイエンティスト」の社内における必要性。問題の発生する現場に身を置き、データに対する勘所もある存在が今後さらに求められてくるでしょう。そういう人材の配置の動きを見せている企業が増えてきています。

ここがポイント

・横浜市立大学は新たなサテライトキャンパスを民間協業で横浜・みなとみらいに創設
・データサイエンスは「モード1」を「モード2」へと接続する役割をもつ、新たな可能性を孕んでいる
・「モード2」の学問は「モード1」と相互補完的なことがあるべき理想
・新設されたサテライトキャンパスを活用し、データを媒介にして企業や人をつなげて、世の中をよくしたい
・民間企業とアカデミアが協働する場合には、両者の考え方、プロジェクトの進め方が全く違うことを理解し合うことが重要
・今後は、データサイエンティストと現場の最前線に立つ人々の間をつなぐ「シチズンデータサイエンティスト」の社内における必要性が高まる


企画:阿座上陽平
取材・編集:BrightLogg,inc.
文:小泉悠莉亜
撮影:河合信幸